第7話 奴隷と群れ
鐘の音で目を覚ます。なんだかこの世界に来てからすごく健康的な生活をしている気がする。午前6時起床で日が暮れて少ししたら寝るとかおじいさんかよ。
鍛冶屋には明日以降来いと言われているので今日も薬草を探しに行くことにする。手持ち金額は宿代2日分ほどしかないしまだ安心できる額ではない。
その前に飯だ。
昨日と同じく飯屋に行き、鍵を見せる。
「へいらっしゃい!」
相変わらずテンションが高い……。たまたまテンションが高い日とかだったらよかったのに……。
まあおかげさまで目が覚める。メ○シャキを超える眠気覚まし力だ!
昨日の事を覚えていてくれたのか力強くメニューが差し出される。
「今日はどれだ!?」
そんなに語尾に!をつけてしゃべらないでほしい。だが飯はうまいのでその代償だと思うことにする。
「オーク定食でお願いします」
銅貨を2枚差し出しながら言う。オーク定食は80テルだ。
相変わらずの安直なネーミングセンスだ。まあオシャレにして何が書いてあるのかわからなくなるよりはましだ。
「ミレリーゲ・アラ・パンナ・コン・イ・ブロッコリ」とか言われてもブロッコリーが入ってそうだなということくらいしかわからん。
俺が知っているオークは人型だがそんなことは気にしていないようだ。まあ魔物は魔物なのだろう。
「おう!」
タレ付きの焼き肉とこの前と同じパンが出てくる。
俺は「もうできたのか!」「はやい!」「きた!料理きた!」と歓迎状態。どうやって調理しているのだろうか。地球と異世界のLS信頼度は違い過ぎた。
俺は無言で一気に飯を平らげる。地球にいたころから「いただきます」を言う習慣はなかった。食事は基本一人だったし……。
やはりうまい。ガルゴン肉に比べると淡泊だがその分量が多い。おそらく10テルの差はここにあるのだろう。
食い終わったので今日の昼の弁当を買おうと思うがアイテムボックスの存在を思い出し、まとめ買いすることにした。
「昼食用のパンを10個ほど買いたいのですが大丈夫ですか?」
「アイテムボックスか!そんなに用意してねえから明日でいいか!?少し遅くなっていいなら今からでも作るがどうする!?」
「では明日10個お願いします、今日は1つで。金は今まとめて払っておきます」
そう言って銀貨を差し出す。
「おう!まかせろ!」
パンを1個と銅貨45枚を受け取ってアイテムボックスに入れ、俺は店を出る。
今日はギルドには行かずにまっすぐ森へ行ってフルに薬草を採取することにしようと思う。
朝の街は夕方とはまた違った活気がある。さまざまな店が開店準備をしている。
店の種類としては特に特殊な物は見当たらない。飲食店、八百屋、肉屋、服屋などだ。
八百屋は特に変わったところは見当たらなかったが肉屋ではモンスターの肉が多い。ギルドから仕入れたりしているのだろうか。反面普通の肉は見当たらない。グリーンウルフ、オーク、ガルゴン、ゴブリンなどだ。
えっ、ゴブリン食うの!?まあオークも人型だがゴブリンは不潔そうなイメージがある……。
もしかしたら地球でのゴブリンのイメージとは違うものかもしれない。
ゴブリン肉は1番安いがそこまで特別に安いというわけでもなくグリーンウルフ肉より2割安いくらいだ。
オークとガルゴンはグリーンウルフの倍近い値段だ。依頼のランクも高かったので供給が少ないのかもしれない。
アイテムボックスにはグリーンウルフの焼死体が入っているが食えるのだろうか……。あまり食う気はしないし売れそうな気もしないので放っておくことにする。できれば食う日が来なければありがたい。
服屋は日本とそこまで変わらない。服自体の違いは機械による縫製が手作業になったことくらいだ。
ただし売っている服は古着が多く、新品の服はオーダーメイドのものしかないようだ。この世界、不思議なことに服をいくら使っても普通に使う範囲では汚れず、泥だらけになったとしても水に漬けるだけで簡単にきれいになってしまうようだ。そのため1着の服をずっと着ている人も多いし、古着の再利用も盛んだ。
しかしさすがに破れたり繊維に傷がついたりなどという場合には自動修復されたりはしないようで、長く使うとある程度は消耗するしほつれたりもする。そうなった服は服屋が買い取って修復し、より安い古着として売られるか荷物を入れるための袋などの材料として使われるようだ。
今のところ俺のアイテムボックスの容量は底が見えていないが (ほとんど使っていないし)初期MPと容量が関係するとしたら俺のアイテムボックスの容量は極めて大きいことになる。そうだとすれば俺が荷物袋の世話になることはないだろう。
歩きながら、何気なくそこそこ規模が大きい肉屋の店番を鑑定してみたところ、新たな事実が発覚した。
名前:ミニエ
年齢/種族/性別 : 15/人族 (奴隷)/女
レベル:5
HP:27/27
MP:8/8
STR:7
INT:4
AGI:7
DEX:8
スキル:生活魔法
奴隷だ。夕方に道行く人を鑑定した時にはかなりの人数を鑑定したつもりだったのに一人も見かけなかった。栄養状態はそんなに悪くなさそうだし、首輪をしているなどというコトもなかったので一見奴隷には見えない。
しかしこの世界には奴隷がいたのか。まあ俺は今のところ別に奴隷など買う気もないし買う金もないだろう。奴隷がいくらするのかはわからないが小さい店の店番は普通の人だったしそんなに安いものでもないだろう。人間だし維持費もかかる。犬の餌のようなものを食わせて休みなく働かせるようなことをすれば維持費は安くつくのかもしれないがもし奴隷を使うとしてもそんなことはするつもりはないし、もしそんなことをしたとしても中、長期的には奴隷が体調を崩したりして逆にコストがかかるかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていたが門についたので思考を打ち切って気を引き締め、外に出る。今日は昨日薬草採りを開始した時間よりはやくついたし、成果には期待できるだろう。
昨日は歩き回って薬草(ズナナ草)を採取していたが、今日は小走りで採取する。目指せ400本!
ズナナ草の▼マークがある個所まで小走りで近づいて素早くかがみ、根本からズナナ草を折ると立ち上がりながらズナナ草をアイテムボックスに収納し、再び走りだす。この間わずか3秒!
俺は無駄な機敏さを発揮しズナナ草を回収していく。昼に飯を食った以外は休憩も取っていないが疲れた様子一つ見せずにひたすら薬草を集め続ける。すさまじい集中力をもって一心不乱に薬草を集める。
そして日が落ちて暗くなってからやっと気づく。随分森の奥に入ってきてしまった。暗くなると危ないし急いで帰ろう。
夕暮れの森は昼とはちがいかなり不気味だ。木々のせいで余計に暗くなっているし視界もよくない。変な場所から魔物が飛び出してきそうな印象を受ける。長居はしたくない。というか早く帰りたい。
俺は念のため盾を装備すると急いで緩い勾配の坂を上に向けて走りはじめる。武芸の素質か何かのせいなのかこれまでの疲れを全く感じさせない走りだ。
しかしそんな俺に緑犬の群れの魔の手が襲い掛かる!
「グルルルル……」「ガルルルル……」「グルルルルゥゥ……」
数は5匹。数が多いせいなのか夜のせいなのか、前回緑犬と遭遇した時とは違い一匹が即座に飛びかかってくるが、レベルとともにAGIが上がった俺はこれを間一髪でかわす。
そのまま残った4匹の中心付近に向かって火の玉が飛んでいくのをイメージする。火の玉は命中時の威力はそこまで高くはないが緑犬相手では毛皮が燃えるせいで高い火力を発揮する。
2匹はかわすことに成功したようだが、残りの2匹はそれぞれ前足、後ろ足にやけどを負う。後ろ足にやけどを負った方はそのまま全身に炎が延焼した。
残り4匹。
「ガウ!」
2匹が同時に飛びかかってくるが1匹はかわし、もう1匹は盾で受ける。武芸の才能のおかげかかなりよく動けていると思う。
攻撃が途切れたところで手負いの1匹の近くにもう1発火の玉を放つ。運よく手負いの緑犬とさっき飛びかかってきた緑犬が赤犬になる。狼だが。
\テッテレー/ 残り2匹だ。肉もほしいしこいつらは石槍で倒そう。またレベルが上がったようだ。
正面にいる緑犬に向かって岩の槍を飛ばす、0.5秒ほどかかったがうまく当たったようだ。もう1匹の緑犬は俺の左の方に…あれ?いない。どこいった?
そう思った直後、左腕に大きい衝撃を感じる。運よく緑犬は盾に激突してくれたようだ。
俺はバランスを崩すがすぐに立て直し、もう1本槍を緑犬にぶち込む。首に当たって緑犬は動かなくなった。
危なかった。運よく盾に当たってくれたからいいがそうでなければ怪我をしていただろう。緑犬は動きは単調だがSTRはそこそこ高いし噛まれる場所によっては命が危ない。町も遠いし。これから一人で冒険者をやっていくなら複数をまとめて相手にする手段をどうにかしないといけないな。
俺は緑犬をまとめてアイテムボックスに放り込むと再度走って街を目指す。随分深くまで入っていたのか30分ほども走って町の外壁が見え始めた。ようやく帰ってきたと気が抜けた時のことだった。
「ガウッ」
「アイエエエ!?オオカミ!? オオカミナンデ!?」
急に緑犬が飛びかかってきた。俺が走っていたせいで緑犬は俺の背後を通り抜けて着地したが驚いて叫んでしまった。
幸い単体だったのですぐに岩の槍で処理する。グリーンウルフ殺すべし。慈悲はない。
死体をアイテムボックスにしまって今度は油断をせずに街へと戻る。
どうやら索敵も考えなければならないようだ。
身分証を見せ、門をくぐってようやく気を緩める。何とか無事に帰ってこれたようだ。
とりあえずギルドでズナナ草と緑犬を売却することにする。黒焦げの緑犬も売れればうれしいが多分無理だろうな。
「こんにちはサリーさん。ズナナ草の買取をお願いしたいのですが」
「こんにちはカエデさん、今日も大量のズナナ草を持ってきたのですか?」
ギルドに入るといつも通りサリーさんが笑顔で対応してくれる。この人たちはいつ休んでいるのだろうか。
「ええ。遅くまでズナナ草採りに夢中になっていたせいで帰りは暗くなってしまって。グリーンウルフの群れに襲われちゃいましたよ」
「えっ、大丈夫だったんですか!?怪我とかありませんか!?」
一冒険者を随分と心配してくれる。いい人や。
「ええ。5匹の群れでしたが火魔法とか土魔法で何とかしました。あとはこの盾のおかげですね」
ドヴェラーグさんの店で買った盾を見せる。緑犬の攻撃を何度か受けたはずだが鉄の盾には傷一つついていない。
「あれ、その盾ってもしかしてあのドヴェ……いや、なんでもありません。いい盾ですね」
やはりいい盾みたいだ。ギルドの人だけあってドヴェラーグさんの鍛冶屋のことを知っていたから多分こんな反応なんだろう。
「ええ。でも複数まとめて相手にするにはまだちょっと火力もほしいですし撃つのにも時間がかかりますね」
「いや魔法使い一人でこの戦果はすごいですよ!少なくともGランクやFランクの戦果ではありません。そもそも魔法使いは長い杖を持って後衛で火力を供給したり回復魔法を使ったりするのが仕事であって一人で盾を持って魔物の集団を相手にするような役目ではありません。いったいどうやって戦っているのですか?」
どうやら魔法使いのソロというのはおかしいらしい。パーティーを増強すべきだろうか。でも新しくパーティーメンバーを探すにしてもその人が信用できるかもわからないし俺が持っている才能からして他の冒険者とパーティーを組んだところですぐに置いて行ってしまう可能性が高い。
俺はまだレベル3なのにすでに今までで見た冒険者たちのほとんどよりステータスが高いのだ。この町はBランク以上の依頼がなかったくらいだしあまりランクの高い冒険者はいないだろうがそれでもこの町の中でパーティーを組む以上はそういう人たちと組むことになる。パーティーは一旦保留にしておくか。
「えと……普通にかわしたり盾で魔物をはじいたりしながら火の玉なり石の槍なりでこう、グサッと」
「それは普通とは言いません。そもそも魔法を使う時には最低3秒くらいは意識を集中しなければいけないはずです。盾で魔物をはじいたりしながらついでに発動するようなものではありません」
あ、そういえばそんなことをドヴェラーグさんが言ってたっけ。