表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/114

第77話 ドラゴンと古文書

見た目はさほど強そうに見えないドラゴンだが、油断してはいけない。

実際にそのブレスは一撃で、少なくとも俺から見える範囲にある陸地全てを焼き尽くしたのだ。

小さくはあるが全く友好的な印象は受けないので、とりあえず首を落とすべく近寄ってみる。

ドラゴンが気付かないうちに背後に周り、剣が届く距離に入ったと同時に剣を振り抜く。

首の太さは10センチもない、多少堅かろうともこの細さなら、一太刀で切り落とせることだろう。

案外あっけなかったな、ドラゴン。


そう思った次の瞬間、ドラゴンが振り向いた。

的が動いたことにより剣は当初の狙いと違い、頭に傷をつける。

そこで俺は嫌な予感を感じ、とっさに剣を引いた。


別に大した攻撃が来たわけでもない上、堅さはむしろ亜龍より柔らかい。

攻撃もしっかり通っているのに、なぜ俺は剣を引いてしまったのだろう。

その答えは、俺が手元の魔剣を確認したときに分かった。

ドラゴンを斬った側の刃がボロボロになり、先端など今にも折れそうになっている。

恐らく、亜龍が剣を黒くして切れ味を鈍らせるように、ドラゴンの体は剣を破壊するのだろう。

あのまま振り抜いていたら、きっと折れていたことだろう、昔は魔法で倒していたと言うのもうなずける話だ。

もっとも、折れることは回避したものの刃の片方は完全にダメになっているため、使えるのはあと一回といったところだろう。


武器が折れては勝ち目がない、予備の魔剣など持ってきてはいないのだ。

そこまで考えたところで、魔凍(らしき魔道具)の存在を思い出した。

あれを持ってきたのはまさにこういう場合のためなのだ。

距離も十分近い、今なら行けるはずだ。

そう思い、少し距離を取ってアイテムボックスから魔凍を取りだそうとする。

そこに、今回はじめての龍による物理攻撃が来た。


速い。

小さいドラゴンは一瞬でそこらの亜龍のトップスピード近くまで加速し、その勢いを保ったままこちらに噛みついてくる。

魔法装甲があったため大した被害はなかったが、フルに魔力をこめていた魔法装甲を二割ほど持って行かれた感触だ。

ブレスでさえないただの噛みつきで二割も持って行かれるとは。

その上、普段より装甲の修復が遅い感じがする。

俺は追撃を警戒して使い捨てにするつもりで盾を構えるが、ドラゴンのほうはあまり戦闘する気がないのかその場で浮いているだけだ。

何をしているのかはよく分からないが、追撃がこないのはありがたい。

もっともこちらを見ながらのことなので、不意打ちはさせてくれそうにないが。


不意打ちは無理にしろ、今はチャンスだ。

小さい結界魔法を発動し、その上に乗せたウィスプコア付き魔道具を発動させて即座に離脱する。

警戒して逃げられたらまずいと思ったが、それは杞憂に終わったようだ。

ドラゴンはその場を動かず、魔道具の効果が効果を発揮する。

空気が吸い込まれるような音と共に、ドラゴンは白い煙に包まれた。

恐らく、気温が一気に下がった影響で水蒸気が一斉に氷になったのだろう。

ドラゴンの姿を見ることはできないが、声や音などは聞こえない。


「……やったか?」


思わずそう声に出してから、やってないフラグを立ててしまったことに気付く。

立ててしまった物は仕方が無い、せめてやってなかった場合の犠牲者になることを避けるべく、いつブレスが来てもいいように念のため回避行動を取っておく。

ブレスが飛んできたのはその数秒後だった。

速度が出ていたおかげか間一髪で回避に成功し、ブレスは空に消えていく。

フラグに気付かなければ、今頃消し炭になっていたかもしれない。


ブレス一発でほぼ視界が晴れたが、ドラゴンは全く被害を受けた様子がない。

魔道具の威力は高かったが、やっぱり魔凍は別物だったのだろうか。

いずれにしろ、こうなればもう魔剣が折れる前に一太刀で首を落として終わらせる以外方法はないだろう。


生きているほうの刃を使えるように剣を持ち替え、ドラゴンに向かって加速しようとしたとき、竜の動きがまた変わった。


「クァァァ……」


一声小さく鳴き、それから周りに黒い魔力のような物を集めはじめた。

どうも気まぐれというか、何をやろうとしているのかよく分からない竜ではあるが、火力はやたらと高いため無視して突っ込むのは危険だ。

出方を決めるため様子を見ていると、20秒ほどで周りに集まった魔力は炎に変わり、ドラゴンの周りを回り始めた。

数が数え切れないほどあるため、当たらずに竜へと近付くことはまず不可能だと思われる。


もしや火力が低いのではないかと思いアイテムボックスから適当な岩の塊を取り出し投げつけてみるが、それも一瞬にして蒸発し、後には何も残らなかった。

向こうから能動的に攻撃してこないのをいいことにしばらく様子を見るが、火の玉は周囲に集めた魔力で維持しているらしく消える様子はない。

おまけにさっきから時々火の玉がドラゴンを離れ、周囲に飛び散っている。

よほど運が悪くなければ当たらないほどの数だが、ふと船のほうが心配になって後ろを見ると、ちょうど火の玉が船に飛んでいくところだった。

慌てて岩塊を投げつけて相殺する。

火の玉の速度が遅くて助かった。


見たところすでに船は逃げるのをやめ、ドラゴンから500メートルほどの距離をとりながら一番大きい筒に弾を装填をしているところのようだった。

聞いた話では確か、材料の関係で一発しか作られていない(つぎ込めるリソースを材料一発に投じたかららしい)、対亜龍用の最終兵器だったはずだ。

弾の本体は蒼い金属製で、その後ろには使った後で回収するためのチェーンがついている。


あれならこの火の玉フィールドの突破口になり得るかもしれないと思いつつ船を守っているうちに、轟音と共に弾が発射される。

俺の目で追える程度の早さでしかない砲弾に当然火の玉が襲いかかるが、それらは鎖を焼き切ることはできても砲弾にダメージを与えることはなかった。

そして偶然か実力なのかは分からないが、ドラゴンの頭のあたりに命中した。


「キィアアアァァァァ……」


ドラゴンが叫び声を上げる。

流石に自分より大きく、ドラゴンとはいかないまでも対亜龍用の特殊な弾を食らったのはこたえたのだろうか。

やや遅れてドラゴンのまわりにあった火の玉フィールドが乱れ、消滅する。


「クァァァァ……」


ドラゴンは火の玉フィールドを作り直すべく、再度魔力のような物を集めはじめる。

だが、初回と同じく生成には時間がかかるはずだ。

その上、発動させるまでドラゴンは動きを止めていたのだ。


千載一遇のチャンスだ。

俺は魔法で一気に加速し、ドラゴンの首を落としにかかる。

そして未完成の火の玉フィールドの中ほどにさしかかった時、不思議なことが起こった。

魔法による加速が唐突に切れたのだ。


原因はわからないが、そんな物を調べているヒマはない。

俺はまっすぐドラゴンに向かうコースを取っていたので、当然加速が切れては届かないのだ。

それどころか海に落下し、動きが鈍ってはドラゴンの的でしかない。

船のほうも弾の鎖が切れてしまったので、二発目は撃てないだろう。

圧力魔法や爆発魔法も試してみたが、発動しない。

どうしようもないのか。


そう思ったとき、視界の下のほうに白い塊が映っているのに気付いた。

恐らく魔凍を発動させた時、海水が巻き込まれた結果できた氷がたまたま火の玉などを逃れて残っていたのだろう。

あれを足場として使えば、火の玉がうまれるまでに届くかもしれない。

今の落下速度と距離を考えると、少しばかり飛距離が足りない。

しかし、他に手はない。

なんとしても届かせると決意し、アイテムボックスから岩を後ろに投げて反作用を稼いだり、浮力を稼げそうな姿勢を取ってみたり。

恐らく魔法全てが使えないという制約の中で魂の限界まで工夫した結果、ギリギリで足が届いた。

すかさず足下の氷を踏み砕きながら全力で飛び上がり、ドラゴンの首に向かって剣を振る。


剣はドラゴンの首を切り裂き、剣はドラゴンを斬った部分から砕けていく。

そうして俺が腕を振り切った時、魔剣の刃は完全に壊れ、柄以外には小さい金属の欠片がかろうじてくっついているばかりとなっていた。

それから少しの後、ドラゴンの首がポロリと落ち、黒い霧となって消滅する。

わずかに遅れて本体も消滅し、後にはウィスプコアのような黒い魔石だけが残った。

自分たちの勝利を知り、船のほうから歓声が上がる。

唐突なドラゴン登場だったが、勝利だ。

半分くらい運で勝てた気がしないでもないが。


ちなみに、焼け跡に残った青っぽい岩も珍しいので海に落ちた魔道具や砲弾と一緒にいくらか回収しておいた。

鑑定によるとミスリル鉱石らしい。




そんなこんなで凱旋した俺を待っていたのは、魔物の襲撃も亜龍もドラゴンもない平穏な生活……

ではなく、一言一句聞き漏らすまいと目を血走らせた学者共に囲まれてのエンドレス音読タイムだった。

隣の部屋では俺の話と元の文書を合わせて翻訳のやり方を検討しているらしく、学者たちがああでもないでもないと騒ぐのが聞こえる。

俺はその中で、死んだ目をしながら古文書のページをめくり、そのまま音読する。

何が書いてあるのかなどろくに把握していない。

内容をまともに覚えるのは、音読時間が30時間に達したあたりであきらめた。


どうしてこうなったかというと。

今回の件でドラゴンが現実の物だと分かり、急遽対策を考えることになったのだ。

それについて話しているうちに国が読めないまま死蔵していた古文書を俺が読めることが分かってしまったのだ。

今までに読んだ部分に『ドラゴンを一度倒せばそれからドラゴンはおろか亜龍も出てこず、魔物も沈静化する』などという文章があったため急ぐ必要もなくなったのだが、その文章も学者を止めるには至らなかった。


他の本によれば俺が倒したのは古文書の時代でも二度くらいしか見られなかったドラゴンのできそこないで、たまたまタイミングがいいとああなるらしい。

もっとも、記録によると出来損ないでも倒せばしばらく安全になるという点は変わらないらしく、まさしくラッキーといったところだ。

ちなみに出来損ないではない本物のドラゴンのスペックはこんな感じらしい。


まず、出来損ないと本物に共通で、基本的には周囲の魔力を集める性質がある。

俺が魔法を使えなくなったのも、これによる魔力の枯渇が原因だろう。

長期戦となればやっかいだ。

それから全長がおよそ50mほどある。

リバイアサンなどに比べれば短いが、やはり大きい。

最後に一番重大な問題だが、出来損ないでないドラゴンはある程度のダメージを受けると魔力収集モードから戦闘モードに移行し、急激に戦闘能力が上がるとのこと。

その効果が。

・目が赤く光る

・速度が魔力収集モードのおよそ3倍に、力が約50倍になる

・ブレスで海の表面まで燃え上がる(陸地に着弾すれば大陸が滅ぶ、っていうか滅んだ)

・全方位に亜龍のブレス並の火力がある火の玉を大量にまき散らすことができるようになる


わかっているだけで大体こんな感じらしい。

インチキ効果もいい加減にしろ!

つくづく、本物が出てこなくてよかったと思う。


ちなみにその本を作った国は戦闘モードの攻撃を受けた後に滅んだみたいなので、情報が正確かどうかはわからないが。

本当だとしたら、よく古文書が燃えずに残っていたものだ。

できれば間違いであってほしい。



しかし、そうした興味をそそられる内容の古文書はごく一部であり、ほとんどは数学の教科書並みにつまらないものだ。

それでも必要だから読めと言われれば読むしかない。

どうしてこうなったんだろう、あと何冊あるのかな。

などと考えながら古文書(自由魔素が魚の繁殖に与える影響どうたらこうたらとかいう内容で、5ページくらいで俺は理解を放棄した)をまた一冊読み終え、次の物にとりかかろうとしたころ、扉の外から聞こえるドタバタという足音と共に俺はようやくこの音読から解放されることになった。


「冒険者ギルドから連絡、亜龍が見つかったそうです。しかも二匹!」


え、出てこないんじゃなかったの。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍5巻が、7月29日に発売します!

前巻までと同じく、全編書き下ろしです!

それと、新作『失格紋の最強賢者』、2巻まで発売しました!

もちろん、書き下ろしありです!

是非読んでください!

下のバナーから、各作品の公式サイトに飛べます!

★チート魔法剣士特設サイト★

★失格紋2巻公式ページ★

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ