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第76話 クラーケンと起爆実験

「魔物と衝突! 恐らくハーデスクラーケンだと思われます! 立て直し用意!」


そんな声が後ろのほうから聞こえてくる。

こんな状況で爆撃を許すわけにも行かないので俺はまだ空を見て新しい鳥を撃ち落としているが、船の傾きは元に戻る様子もなく、むしろ大きくなってきている気がする。

いつまでたっても戻らない傾きに俺が圧力魔法でも使うべきかと思い始めた頃、ようやく準備が整ったのか、次の声が聞こえた。


「姿勢制御装置、全機限界稼働、開始します!」


声が聞こえてまもなく、船の姿勢が戻り出す。

それと同時に『キィィィィン、バキッ』などという作動音も聞こえ始めた。

……バキッ?

なんだか嫌な予感がする。

予算が無いとか言っていたが、まさかメンテナンスを怠ったりしていないよな?


「第三制御装置、過負荷により故障! 航行に問題はありませんがこれ以上の衝突は危険です!」


「ハーデスクラーケンを確認、こちらへ向かってきます! 再衝突まで推定約20秒!」


「旋回中の側面への衝突は避けてください、三機ではもちません!」


「無理だ、今旋回をやめれば座礁する!」



完全に嫌な予感が的中していた。

メンテナンスの予算がどうとかは俺がデシバトレで活動を開始する以前の話だろうから、以前から予算をケチっていたに違いない。

あるいは元々旋回中に水中からの攻撃を受けることは想定していなかったかだ。

いずれにしろ、このままでは転覆してしまいそうなことに違いはない。

正直船を傷つけない自信があまりないので出来ればやりたくないのだが、ここは魔法で支えてみるしかないだろう。



「厳しそうなら俺が魔法でなんとかしてみます、空には気をつけてください!」


「カエデさん! 流石にこの規模の船を個人の魔法では……」


「回数は分かりませんが、多分四分の一くらいなら何とかなるはずです!」


船を動かすほどでかい水中にいる敵相手だと剣も魔法も通りにくいため、倒すのも間に合わないということで、防御を選択する。

亜龍程度に首が細ければ切り落とせるかもしれないが、クラーケンにそれは望めない。

圧力魔法や爆発魔法といったストックしていても邪魔にならないタイプの魔法は限界までストックしているので、防御ならそれらを使えば数回はなんとかなるだろう。

一度目の衝突には(四機ある姿勢制御装置のうち一機と引き替えに)耐えていたのだ。

本来は船長などへの連絡が必要なのかもしれないが、その時間はない。

一応近くの人に確認を取っておく。


「……わかりました! 空は誰か代わりを用意しますのでカエデさんは船を!」


案内の人も一度艦内への入り口のほうを見て走り出そうとしたが、俺と同じく時間が無いと判断したのだろう。

俺の提案にすぐに了承してくれた。


「了解!」


あとは魔法をうまく使ってなんとかするだけだ。

用意してある魔法は大規模な魔法は、結界魔法、圧力魔法、爆発魔法、魔法装甲の4つ。

魔法装甲は自ら海に飛び込んでデコイ代わりになる場合くらいしか恐らく使えない、結界も旋回中に使えば船にぶつかってしまうだろう。

爆発魔法は論外なので、自動的に使う魔法は圧力魔法になる。

傾いてきた船を押し返し、傾きを相殺するのだ。



まずは状況確認だ。

海中は触板でうまく探査できないため直接船から身をのりだして海を見下ろすと、水面を通して白く巨大な影が見える。

まだ船までは15メートルほどの距離があるが、相対速度からいって衝突まで3秒といったところだろう。

鯨ほどの大きさがある物体が猛然とこちらに突進してきているのだ。

これが旋回中に側面に激突したのなら、制御装置が限界を超えても無理はないかもしれない。

ただ、船の装甲板は見たところメタルリザードメタルなので突き破られることはないだろう。

なんとも金のかかっていることだ。

その金で姿勢制御装置を増やせばいいのに。


と、ここまで確認して今度は甲板を魔法で飛び越し、イカとは反対側の舷側付近の海上に浮かんで衝撃を待つ。

直後、前回聞いた音とともに船がこちらに向かって傾いてくる。

その船に手を伸ばしながら俺は船体後方に向かって飛び、できる限り広範囲での圧力魔法を発動させていく。

一度にやらないのは勢い余って反対側に船を転覆させてしまわないためというのもあるが、装甲板をぶち抜いてしまわないためというのが大きい。

装甲板は分厚いメタルリザードメタルが使われているようだが、俺が一撃で船を押し返すべく全力で圧力魔法を発動させたりしたら貫通してしまうことは確定的に明らかだ。


慎重に、しかし素早く連続で魔法を発動させながら少し飛ぶと、船の姿勢が元に戻った。

押し返す必要だった距離は船のほぼ最前方から中央付近まで、消費した圧力魔法はストックの十分の一といったところか。

圧力魔法による船に対する被害もないようだ。

よく見ると装甲板の一部が少しだけ平らになっている気がしないでもないが、きっとはじめからだろう。

たとえその平らな部分が魔法の効果範囲とほぼ同じ大きさの円形だったとしても、はじめからなのだ。

……はじめからではあるが、次は威力をもう少し落としておこうか。

念のために。


今のうちに攻撃しようとクラーケンの真上まで飛んだが、やはりクラーケンは未だ水の中にいた。

試しに爆裂砲弾を数発入れてみるが、効果はいまいちのようだ。

砲弾の外殻部分はその場で作るしかないため、用意していた爆発魔法を十分に生かせないせいだろうか。

加速魔法も水中では効きがイマイチなので、剣での攻撃は厳しいと見るべきだろう。


他の魔法を考えても、水中に対する手軽で有効な攻撃方法は思いつかなかった。

ちなみに一瞬魔凍のことを思い出したが、これで海を凍らせては船が座礁するのと変わらないためすぐにあきらめた。

それ以外で思いついた中で一番マシな方法は、結界魔法で船を守りながら爆発魔法で仕留めるというものだ。


船で休んでいるだけで報酬がもらえるはずだったのに、どうしてこうなった。


そうと決まれば今すぐにでも実行に移したいところだが、この作戦を実行するには操船側の協力が不可欠なのだ。

もちろん俺は船長がどこにいるかなど知らない上、次の衝突の際にも船を支えなくてはならないので連絡に走るヒマもない。


たまたま甲板にいたりしないかと船の上を見てみると、魔法使いの人と目が合った。

多分最初の頃にMPが大丈夫か確認しにきた人だ。

状況確認のためなのか、船から身をのりだしてこちらを見ている。

ベテランっぽかったので、船長の場所くらい知っているかもしれない。


「すみません、これは回数に限界があるのでクラーケンのほうを何とかしようと思います! 他に手がないなら少しの間でいいです、船を直進させてほしいのですが!」


「わかりました、伝えてきます!」


俺が大声出て連絡を頼むと、魔法使いの人は魔法を使い、文字通り飛んでいった。

こちらはこちらで減ってしまった圧力魔法を補充しながら飛び始めた位置に戻り、次回の衝突に備える。

しかし補充速度は亜龍退治により大分上がっているとはいえ、やはり消費には全く追いつきそうにない。

耐えられる回数がせいぜい一回増える程度だろう。



時々襲ってくる衝撃を最小限の魔法で押し返しながら船を観察するが、船はなかなか直進するそぶりを見せない。

右に向かって全力で旋回を続けながら島をよけている最中だ。

運の悪いことに、今いるのはその中でもトップクラスに特に余裕のなさそうな海域だ。

仕方ないのだろうが、早くしてもらえないものかと思ってしまう。


そして何度目かの衝突に耐えて残りの魔法がおよそ衝突三回分程度になり、もしかして連絡伝わってないんじゃないかと心配になり始めたころ。

ようやく待ちに待った連絡が入る。


「一分ほど後から約7秒間直進できるそうです、それが限界だそうですが何とかなりますか!」


「ギリギリですが何とかします、大規模な爆発を使うので、乗組員の皆さんはできるだけ船の中に逃げ込んでおいてください!」


正直かなり短いが、二度目を待っている時間はない。

残り少ない圧力魔法で船を支えながら船の速度を確認し、甲板の人たちが船の中に逃げ込むのを見守る。

魔法使いの皆さんは鳥から船を守るため上に残り、結界の魔道具を用意しているようだ。

そうして準備が整ったころ、人がいなくなってやや静かになった甲板に大声が響いた。


「三秒前!」


それを聞いて気を引き締め、いつでも結界魔法を発動できるように用意する。

ジャスト三秒後、船が角度を戻し、直進を開始する。

俺はそれを確認すると同時に船を針路をまとめて被う結界魔法で船を保護し、すかさずクラーケンの真上に飛び込む。

それからすぐに爆発魔法を発動させた。

ケチっていて倒せなければ話にならないので、ほぼ全力だ。


その直後、視界が真っ赤に染まり、触板は衝撃のあまり使い物にならなくなった。

待避する時間などないのだ。

しかし、相変わらず無駄に頑丈な魔法装甲は耐えてくれる。

亜龍のブレスなどの特殊な攻撃を除けば無敵といっていいだろう。

結界魔法が耐えてくれていることを祈りながら、視界が晴れるのを待つ。


何秒後だろうか、ようやく空高く吹き上がった水しぶきやその他もろもろが晴れ、視界が確保できた。

結果はほぼ最良といっていい。

結界魔法は船をほぼ完全に守りきってくれたらしく、旋回を再開している。

クラーケンも腹(?)を見せて浮いており、ピクリともしなかったのを触ってみたら、アイテムボックスに収納できた。

それを見て魔法使い達がまたなにやら騒いでいたが、今更だ。




その後は特に大した事件もなく、順調に目的地にたどり着くことができた。

魔物の領域奥にあるにもかかわらず、魔物のほとんどいない陸地だ。

ウィスプコアの準備も滞りなく行われ、カウントダウンが開始される。

乗組員はほとんど艦内に待避するか結界内に待避し、それを見守っている。

俺は警戒をかねて上空からだ。


「3、2、1、起爆!」


声と同時に設置されたウィスプコアは砕け散り、通常の魔法による爆発とは明らかに質が異なるどす黒い爆発を起こす。

俺はそこからドラゴンが出てきたりしないか真剣に見守るが、それらしい影はない。

問題なかったかと安堵しかけるが、様子がおかしいことに気付く。

爆発後にあった黒いもやがなかなか晴れないのだ。

船もあわてたように待避しはじめている。

予定ではもう少しここにとどまる予定だったのだが、どうやら想定外の何かが起こったらしい。


視界を広く取るために上空に上がりすぎたため、状況がよくわからない。

何が起こっているのかを確かめるため高度を落とし始めた直後、それは起こった。

もやの中心付近で何かが光ったと思った次の瞬間、視界にあった陸地全てにその光が広がったのだ。

木々が生い茂る巨大な森は跡形もなく、後に残ったのは地平線まで続く蒼っぽい地面がむき出しの荒野だった。

とんでもない化け物が出てきたものだ。


鑑定してみると、ドラゴンだということが分かった。

MPはもはや桁を数える気にすらならないほどで、今の炎を見れば馬鹿馬鹿しいほどの攻撃力を誇っていること容易にわかる。

なにやら黒いもやを纏っているが、もやだけでもそこらの亜龍本体に匹敵するほどの魔力を誇っているのだろう。

しかしそれでも俺は、そのドラゴンに対して微妙に危機感を感じることが出来ずにいた。

それはなぜか。


小さいのだ。

ようやく俺の視界に入ったドラゴンは、全長およそ50cmほどしかなかった。

それもなんだか体を動かすのに慣れていないようで、羽のあたりはプルプルしている。

え、古代文明を滅ぼしたとかいういかにもラスボスっぽい感じのドラゴンが、こんなのか。

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