第72話 森林と蹂躙
ごく近くにいる敵だけ魔法でさっさと吹き飛ばし、重傷らしき人から順に冒険者たちの手当に入ることにする。
薬はできるだけ節約したいので、治療は魔法による手作業だ。
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ…… ありがとう。ところで君は何者だ?」
「フォトレンギルドから来た援軍で、名前はカエデです」
「フォトレン…… もしかして、デシバトレで戦っていた冒険者か?」
「そうです。治療は終わりましたので門の防衛を頼めますか? 俺は魔物を倒してきます」
さっきの戦いを見る限り、ここにいる冒険者たちと一緒に戦っても戦力の足しにはならないだろう。
魔物の種類なども考えると、きっと強い冒険者は自分に合った仕事を求めて他の街に行ってしまったのかもしれない。
「俺達も参加する、と言いたいところだが俺達じゃ足手まといになるだけだな。悪いが頼んだ」
そのことは冒険者たちも理解したようで、外のことは俺に任せてくれた。
「了解」
冒険者たちが動き出すのを見届けた俺は適当な高さまで飛び上がり、魔物との戦闘を開始する。
とは言っても戦闘自体は至極簡単なものだ。
まず魔物が弱く、デシバトレ付近では牽制にするか、下手すれば牽制にすらならないレベルの攻撃であっさり敵が死んでいく。
やっかいな物といえば数くらいだが、それにしたって多いところでもデシバトレの平時程度。
これでは戦闘とすら呼べない、もはやただの作業だ。
案の定、街中やに溜まった魔物の掃討作業は誤射にだけ気をつけて小さな岩の槍をばらまくだけで30分とかからずにあらかた終わってしまった。
街の外に関しても、塀のあたりを一回りしつつ岩槍の雨を降らせておく。
これだけ減らせば当面は冒険者たちでも対処が可能だろう。
一応、森から魔物が出てきているのが気になるためギルドで対応を聞くことにする。
「外に集まってたのは大体潰したので、引き続き防衛お願いして大丈夫ですか? キリがないのでギルドで対応を聞いてきます」
結果的に元々町を守っていた冒険者たちはいてもいなくてもそんなに変わらないような状況になってしまっていたが、こればかりは仕方がない。
街の中にも魔物がいるような状況で普通の冒険者たちに合わせてペースを落とすわけにも行かない。
それに襲撃はこの街だけではなかったようなので、早く終わるなら早く終わらせなければならないのだ。
ギルドに入ると、さっきの受付嬢が相変わらずいたのでその人に報告しておく。
「街中の魔物は大体、外の魔物もここの戦力で当面は防衛できそうなくらいには倒してきました。しかし森からまだ魔物が出てきているようなんですが、どうしたらいいでしょうか」
「えっ、もうですか!? ……ちょっと私には判断できませんので、支部長に聞いてきます」
受付嬢はそう言って奥に引っ込んでしまった。
程なくして受付嬢がおっさんを連れて出てくる。
話の流れからして支部長なのだろうが、他のギルドと違って戦えそうな感じが全くしない。
いい人そうではあるが。
「あー、私がフォルチーマギルドの支部長だ。街は大丈夫そうかな?」
「今のところは大丈夫かと。ただ魔物が森から新しく出てきていますので、この街の戦力だと……」
「君なしでは厳しいかな?」
「はい」
回復薬を置いていくくらいでどうにかなるレベルでもないだろう。
「そうはいってもいつまでもここに君を引き留めておく訳にもいかん。他の街との兼ね合いでな」
「まとまって襲撃があったみたいですからね……」
「森をつぶせればいいんだが、それも今の状況、しかも短期間ではまず無理だな。他の街からDランク以上の冒険者でも呼べることを祈るしかないか、多分無理だが」
「森って潰しちゃっていいんですか? 火をつけるとかすれば簡単そうですが」
「それができるならとっくにそうしておるよ。だが木は伐採してからしばらく放っておかなければ燃えないからな」
「そうなんですか」
「薪を使えば火がつかないこともないが、延焼はまず期待できんから切った方がまだましだな」
そうだったのか。
どうやら火魔法を使うときに山火事を気にする必要はなかったらしい。
「森って消しちゃって大丈夫なんですかね?」
森があるから魔物が出てくる、これは割と常識だ。
エレーラの山を見た限り、魔物の領域と違って伐採もそう難しくはないはず。
にもかかわらず今まで残されているということは、何らかの理由で森を残しておく必要があることになる。
「来年以降の農作物の収穫に影響が出るだろうな。だが今すぐに街ごと滅ぶよりはましだ、できればの話だがな」
「やろうと思えば俺が魔法でつぶせますが、そんなに急がないでも他の援軍が来るまで俺が滞在するのでもいいんじゃないですか?」
「……それは無理だ。付近の街のギルドにも冒険者を回す余裕などないはずだからな」
「フォトレンからの援軍はどうですか? 多分俺以外が来るまでには数日かかりますけど」
フォトレンからは俺以外にも援軍を沢山出しているようだった。
時間はかかるだろうがこの街に来てもおかしくはない。
「それまで君を引き留めては周辺の他の街が落ちる可能性がある。私も自分のいる街を優先したいがCランクの君は最大戦力だ、この街だけにいつまでも置いておくわけにはいかんのだ」
Cランクで最大戦力なのか。
フォトレン付近との格差を感じるな。
「じゃあ、やっぱり森は魔法で消滅させた方がいいですかね」
「できるなら頼む。魔力は大丈夫か?」
「余裕ですよ。じゃあ早速行ってきましょうか」
魔力なんて、減るものでもあるまいし。
「ああ、無理をしない程度に急いでくれ」
「わかりました。行ってきます」
ギルドを出てから高度を上げると森が見えてきた。
人がいたりしたら困るので一応近付いて見てみるが、あちこち魔物だらけで人がいそうな感じはしない。
何かあったときに使えるように、爆破魔法は魔法装甲とともにいつでもスタンバイしているので、それを使うだけだ、時間は必要無い。
とはいえ普通の森では試したことがない。
出力の調整が必要だが、まあデシバトレの木は頑丈だったし普通のなら半分くらいでいいだろう。
ということで試しにデシバトレの時の半分ほどの密度で放ってみたのだが。
着弾した一瞬後、魔法は爆音とともに木々を吹き飛ばし、木片や木の幹を空高く吹き飛ばした。
明らかにオーバーキルだ。
……そもそも魔剣を持ち出さなければまともな速度では伐採できないような木とそこらに生えている普通の木を同列に扱うのが間違いだったのだ。
反省を生かし、デシバトレの10分の一ほどに威力を落とし、再度チャレンジしてみる。
音は相変わらずだが、木々も少し飛び跳ねる程度で住んでいる。
切り残しもない、うまくいったようだ。
やや強すぎるかもしれないが、切り残しが出るよりはましだと考えこれでいく。
街から森の奥に向かってまっすぐ進みながら爆発魔法をばらまいていくと、少し進んだあたりで森が途切れる。
森はここで終わりのようだ。
簡単すぎて拍子抜けしてしまうレベルだが、早く終わるに越したことはない。
ギルドに戻ると、支部長は相変わらず窓口の近くにいたので直接報告する。
街中の安全までは確認できていないらしく、避難してきた人たちはそのままギルド内にとどまっているようだ。
「近くにあった森はあらかた爆破してきましたよ。多分森からはこれ以上出てこないと思います」
「……もうか? 早すぎないかな?」
「こんなもんですよ。デシバトレに比べたら格段に柔らかい木ですし、面積もそう大きくないので」
「いくらデシバトレから来た魔法使いといってもさすがにおかしい気がするが……」
「技術は進歩するものなんですよ。おかげで戦線をブロケンまで押し返すことができました」
実際にはほとんど魔力とINTのごり押しだが。
「……私には想像のつかない世界の話だな。まあデシバトレなんかの話は私もあまり知らないから、そこから来た君がそう言うならそうなんだろう」
「そうなんですよ。ところで俺は次に何をしたらいいんでしょうか」
他の街への移動?
「この街が大丈夫なら……状況が分かっていないから確実とはいえないがフォルテーマが一番危ないだろう。明日はそこに行ってくれ、今日の宿はこちらで用意しよう」
「今って他の街も緊急事態ですよね? 寝てていいんですか?」
「今はもう夜だ、移動するには無理があるだろう。それに冒険者とはいえ休息は必要だ」
おかしいな……
俺が知っている普通の冒険者は緊急事態となれば少なくとも数日は寝たりせずに戦い続けるはずだ。
一般人の歩きで半日の距離なら二時間ほどで走破するし、夜の森の中だって当然のごとく突っ切る。
それが冒険者だ。
デシバトレ基準だが。
「いえ、大丈夫です。ここらの夜なんてデシバトレの昼よりよっぽど安全ですし、まだ寝る必要があるほど疲れてもいません」
「若いとは言ってもデシバトレの冒険者、やはり化け物か……では魔力が大丈夫なら今から移動をお願いしたい」
化け物とは失礼な。
地球にいた頃の俺が今の俺を見たら多分同じような感想を抱いただろうが。
「分かりました。どっちに行けばいいですかね?」
「ギルドから出てまっすぐ左に行くと門がある。扉は閉まっているが……誰かに鍵を持って案内させようかね?」
「いえ、門くらいなら飛び越えますので大丈夫です。その門を出てまっすぐですか?」
「ああ、その道をまっすぐ行って一番最初にたどり着くのがフォルテーマだ」
「そうですか、では行ってきます」
またギルドから出て、今度は門から外に出る。
やたら忙しいが、ゆっくりしている間にも街は滅ぶのだ。
流石に休む気にはなれない。
そのまま道に沿って飛んだのだが、徒歩で半日という距離は予想以上に近かった。
10分もかからなかったように思う。
フォルテーマの町並みもフォルチーマと似たような物だ。
あたりをざっと見回してみるが……状況はフォルチーマとあまり変わらないようだ。
魔物も街中に進入しているらしいが、人々が立てこもっている場所は恐らく無事だろう。
俺が最初にフォルチーマに派遣されたのは緊急性が高い場所から、ということなのだろうが、俺が寝ていたら危なかったかもしれない。
ギルドに行くとフォルテーマと同じようなことを頼まれたので、適当に処理していく。
冒険者の質はフォルチーマと大して変わらず、魔物も似たようなものだ。
結局最後にはやはり森を爆破することになって、魔力の心配をされた。
宿を勧められるのと化け物扱いまでセットでフォルチーマと同じだ、マニュアルでもあるのだろうか。
ここでの仕事も二時間半ほどで終わり、俺は次の街へと飛び立った。
このペースでいくと俺は一日に10個近い街を救うことになってしまいそうだ。
ちなみに次の街はフォルテートというらしい。
紛らわしい。
更新が遅れてすみません。
OSを再インストールする羽目になったり、変換ソフトが荒ぶったり、予定してた展開に酷い穴が見つかったりしまして。
PCのほうの問題は解決したので、直ちにエタることはないと思います。