第70話 発展と拡大
「ただいま。ブロケンの方は俺がついた頃には終わってたよ」
「ギルドに招集をかけろと言われたので連絡したのですが、終わっていましたか。すみません」
「いや、別にメルシアが謝ることじゃないと思うけど」
ブロケンに到着してから、2時間ほどたったころ。
まだ夕方にさえなっていない上呼び出しの原因と思しきものも聞き、宴会も終了したので報告も兼ねて商会に戻ってきていた。
宴会とはいってもそう長いものでもないし、完全に娯楽だけというわけでもなかった。
大人数の冒険者が集まる場合は、まともに会議をやるよりこうした形にしてしまったほうが集まりがよかったりする。
情報交換が行われるし、一応前線都市であるから誰も潰れるほどは飲まないのだ。
今日主に話されていたのは、ブロケン魔物の出現パターンが変わってきたこと、今日の報酬の分配についてなどだ。
もちろん真面目な話だけだというわけでもなく、魔力管理をミスった魔法使い達を笑ったり、報酬で何買うかを話したりなどというものもあった。
本来笑い事ではないのだが、すっかり超回復薬に慣れた冒険者達にとっては即死以外は怪我のうちに入らないような認識になってしまっている。
まあ、そんな感じで話していって、その後は料理がなくなったところで各自解散。
これが安全な都市なら飲み比べやらが行われ下手すれば日をまたぐのだが、前線都市での宴会などその程度のものだ。
「休暇中なのに、無駄に呼び出してしまって……」
「ちょうど向こうでやることも終わったところだし、問題ない。今回は余裕だったみたいだけど、いつもそうとは限らんしな。商会の方は問題ないか?」
「ズナナ草の運搬がさすがに船だけではやや遅く、今回の騒ぎで在庫が危なくなってきましたがそれくらいですね、相変わらず薬師ギルドはいっぱい持ってこいとうるさいですが。向こうの島に設備を作って、液体にしてから持ってくるというのはどうでしょう、そうすればあの船でも十分に運搬可能だと思います」
「じゃあそれで行こうか。船のほうも向こうでリバイアサン倒してきたからアレ素材にして追加しようか」
「リバ……また亜龍を倒したんですか!?」
「ああ。漁やってたら網に引っかかってな。長いから適当な長さに切って竜骨にしようかなと」
「亜龍をそこらの魚みたいに言わないでください…… 本来なら一生に1匹、出てきたという話を聞くかどうかってものなんですよ?それと船はそんなにはいりません」
そういえば亜龍、レアなんだよな。
なんだか割と見かけるせいで中ボスみたいなイメージになってしまっているが。
……おっと、こういうことを言っていると大ボスが出てきてしまう、自重しようか。
ドラゴンとかに出てきてもらっても困る。
「船、いらないのか?輸送ペースが足りないとか」
「蒸留設備を向こうに作るのはコスト的にも悪くないので、どうせやろうと思っていたんですよ。そうすると今の船で十分ですし」
「そうか、じゃあいらんな」
素材がまるまる余ってしまう、仕方ないから戦艦でも作るか。
いや、無理だが。
「ええ、いりません。それで蒸留設備は」
「今あるのを向こうに運ぶんでいいか?」
「それでお願いします、デシバトレ酒は酒屋さんから高濃縮のものを買えることになりましたので。あと従業員も追加したいのですが」
「そんなに規模を大きくして大丈夫なのか?」
「むしろ足りないくらいです。値上げもしましたしこの街に限れば不足はしていませんが、他の街での消費量を考えればむしろこれから薬が出まわってからが本番なので」
「なら問題ない、薬が余らない程度にガンガン増やしてしまえ。他の島も開拓するか?」
「今は収穫が追いつかない感じですのでいりませんが、いずれは必要になると思います」
「じゃあ暇な時にでもやっとくよ」
木を魔法で破壊し尽くしたところでその下のズナナ草は翌日あたりに生えてくるので従業員が用意出来てからでも問題ないのだが、まあ収穫地は作っておいても損はないだろう。
「あと、向こうで魚をいっぱい獲ってきたんだけど店に出すか? ここの肉と違ってそのままでも食えるみたいだぞ」
「ここは海のそばにある割には魚がないので、いい感じに売れると思います。どんな魚ですか?」
「これとかこれとか……」
アイテムボックスから適当に魚を取り出していく。
サンプル的な意味で1種類1匹だ。
「ちょっと待ってください、それは食べられません」
5匹ほどの魚を取り出したところでメルシアがストップをかけた。
種類とか見ずに取り出していたので気付かなかったが、その魚は外見がちょっと独特だ。
何やら空気を飲み込んで膨らんでいるし、ヒレは小さく腹のあたりにはごく小さなトゲトゲが付いている。
有り体に言えばフグだ。
名前はフトグラと言うらしい。
「毒があるらしいが、捌き方次第では食えるもんじゃないのか? 魔法で解毒したり」
「そこまでして食べてどうするんですか」
フグ、うまいんだけどな……
この世界の人間は日本人ほど食い意地が張っていないようだ。
外国人も日本人がフグを食うのを見てドン引きするらしいが……
あとで鑑定でも使って捌いてみようか。
「まあ、フトグラのことは後で考えるとして。他はいい感じじゃないか?」
「考えないでください。他の魚は問題ありませんね。処理などはされていないようですがアイテムボックス内なら劣化しませんし、出す分だけ捌いてしまいましょう。煮るか焼くかしてから売ってもいいかもしれません」
「これも加熱するのか?」
ボートキラーとはまた別の、マグロっぽい魚を指さして言う。
焼くこともなくはないが、マグロは生で食ってこそだろう。
「魚は生では食べないでしょう」
「それもそう……なのか?」
確かにこちらではあまり刺身とかも見ない気がする。
食文化の違いを感じるな。
「その件も置いておこう。まあとりあえずそんな感じで店に置いておいてくれ。俺は蒸留装置とズナナ草運ぶついでに新しいズナナ草畑を開拓してくる」
「わかりました。お願いします」
さて、さっさと仕事を終わらせてしまうか。
とりあえず、蒸留装置を周辺の関連機材(主に燃料みたいな役割の魔石)ごとアイテムボックスに放り込む。
「これ持ってくぞ」
「分かりましたー。薬屋の人達がいい加減うるさかったので正直助かりますー、あとそこの魔石も蒸留のです」
「これもか」
薬師ギルドの連中、どれだけ濃縮液欲しがってるんだよ。
ここでは足りているとはいっても他に都市はいっぱいあるから欲しいのはわかるが、こちらの都合も少しは考えてもらいたいものだ。
市場の規模がわからず、どの程度の生産量にしたらいいかがまだよく分かっていないのだから。
倉庫から飛び立ち、ズナナ草の島(確か第一ズナナ島)を目指す。
しばらく飛ぶと、ズナナ島が見えてきた。
それといっしょに、周囲のよさ気な大きさの島が見える。
爆破魔法は用意してあるし、ついでに農地を確保しておくかな。
一応驚かさないように、設備を渡すついでに話を通しておこうか。
ということで島にある社屋(俺が設置した物以外に煙突付きの小さい1軒を含め3軒ほど増えていた。薬草を採取している従業員も増えているし、ズナナ島も順調に発展しているようだ)の付近にいた髭の生えた従業員に声をかける。
「よう。蒸留設備を持ってきたが、どこに置けばいい?」
「えっ、オーナー。どこから、いつのまに」
「今、空から来たとこだ。場所あるか?」
「え、ええ。そのための小屋はもう用意してあります。こっちです」
案内されたのは増えた社屋のうち最も小さい一軒だった。
一軒だけ煙突らしき物があったのはこのためか。
持ってきた蒸留設備を言われた位置に設置するとやや隙間はあるがしっかりと収まった。
「結構良く出来てるな」
「大工を呼んだみたいです、凄く儲かってるみたいですからね。無駄に売れるってんで一気に数十倍値上げしても売上が衰えないとかで」
値上げしたとは聞いてたが、そんなことしてたのかよ。
順調に生産を拡大していたら、気付いたら財閥的な何かができていたなどということが起きかねない価格だ。
そうでもしないと需要と供給がかみ合わないのか、これはメルシアに聞いて従業員を一気に増やしていいかもしれない。
「この島をフル活用するとしたら、あと何人くらい入れることになる?」
「今この島には8人いますが、蒸留係を除いてあと2倍、16人くらい欲しいですな。採取係が合計で24人いれば大体島をフル回転できると思います」
「そんなもんか」
生産ペースも恐らく3倍とかだろう。
話を聞く限り、3倍では足りなさそうな気がする、やはり開拓は必要か。
「よし、じゃあ他の島を開拓して帰るわ。ズナナ草の在庫も蒸留よろしく」
「俺たちも参加ですかね?」
「いらん。ちょっと大きい音がするからそのことだけ伝えといてくれ」
「多少の音で驚いたりはしないんで大丈夫です」
「結構大きい音がするが」
「まあ、大丈夫でしょうな」
「じゃあ行ってくる」
上空に上がり、隣にある2つほどの島に目星をつける。
まずは右手に見える方の島だ。
いつもの爆破魔法と結界を発動すると、爆音と共に上部にある木々や凹凸がまとめて吹き飛ぶ。
後には農地候補の焼け野原が残った。
ここも明日にはズナナ草に侵食される運命だが。
似たような調子でもう一つの島も吹き飛ばしてから第一ズナナ草の方を見ると、やはりこちらを騒ぎになっていたようだ。
ズナナ草を収穫していた従業員たちがこちらを指さして何やら話している。
俺は面倒臭いので島には戻らないが。
説明頑張れ、名前も知らない髭の従業員よ。
フォトレンに帰ってくると、時刻はまだ夕方くらいだった。
必要な仕事はあらかた終わったし、暇になってしまった。
どうせ暇な上、フグはともかくいい感じのマグロに切れ味のいい包丁――魔剣とも言う――もあるのだからだから日本の食文化でも広めてみるか。
刺身を食うには醤油がほしいところだが、通は素材の味を生かす塩だ、塩こそ最高の調味料だ。
以前に食った限りではこちらの魚は中々美味いようだし、それで十分行けるはずだ、素材の味だ。
外国でも人気だという日本食の力を見せてやろうじゃないか。
ちなみにリバイアサンも在庫があるのだが、こちらは普通の人には厳しいようなので保留とする。
完結までのペースとか考えてたらなんか進みが妙に遅くなってしまった気がします。
流石に二週連続更新延期はちょっとどうかと思うので今話はとりあえずこれで投稿します。
次話からはペースアップしたいと思います。




