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第6話 盾と尻尾

門で身分証を見せ、街に入る。今は夕方とはいえあまり暗くなってはいないせいなのか、街には結構活気がある。

東京などの大都市ほどの人口密度はないが地方にあるちょっとした商店街くらいの人通りだ。

大体は普通の人間だが1割くらい耳や尻尾がついた人たちがいるが猫耳、犬耳が大部分だ。鑑定してみると猫族、犬族などと出る。

勝手に知らない人を鑑定するのは気が引けるが俺にはこの世界の情報が足りない。不審がられずに情報を集める手段は貴重だし人が多いうちにガンガン鑑定してみる。

調査の結果、この道にいる人は全員が人族、猫族、犬族、兎族のどれかだということがわかった。人数比は人:猫:犬:兎=90:4:4:2といったところだろうか。

ステータスは平均で10と言ったところだ。INTは7くらいだろうか。冒険者らしき人はAGI、STRの平均がもう少し高かったが30くらい、DEXには結構個人差がある。

魔法使いっぽい人はINTが30くらいあったが他のステータスはあまり変わらないらしい。

HPは多くの人が30程度だがMPは8程度しかない人が多い。レベルは5~10程度だ。

冒険者らしき人のHPは3ケタが多いが最大でも183だった。レベルの差なのか体格の差なのか。両方という可能性もある。弓を持っている人はDEXが高い傾向があるな。レベルのせいなのかMPもやや高めで20程度だ。

魔法使いらしい人の場合HPは60程度、AGI、STR、DEXは一般人並だがINTが30近い。MPは冒険者と同じく20~30程度だが使い物になるのだろうか。まあ杖を持っているし魔法使いである以上はやりようはあるのだろう。石の槍でも30本ほど撃てれば十分戦力になる気もする。


スキルもそんなに高くはない。魔法の素質、武芸の素質を持っている人は一人もいなかったし冒険者が剣術1~2、または魔法の1~2を持っている程度で普通の人は生活魔法以外にはスキルを持っていない。生活魔法はほぼすべての人が持っているようだった。俺は持ってないけど。それに魔法の2を持っている人は二人しか見当たらなかった。魔法使いもほとんどは属性を1個持っているだけの人で、2つ属性を持っている人はレベル2の魔法ほどではないが少なかった。

これから使う属性を増やしたりしたら目立ちそうだが魔法の素質を持っているのはバレているので今更だ。別に隠したりはすまい。

スキルやステータスについて考えているとギルドに到着する。さあ依頼の初報告だ。

まあ受注の必要なしの依頼なんだけどね。


「こんにちはサリーさん。ズナナ草を集めてきたのですが」


「はい、ここに出してください」


サリーさんが対応してくれる。満面の笑顔だ。やはりギルドの受付嬢の接客態度は素晴らしいもののようだ。


「はい、これですね」


200本ほどのズナナ草をまとめて取り出し、カウンターに置く。


「ずいぶんたくさんありますがドクズナナまで持ってきてしまったんですか?」


「いえ。鑑定してみましたが全てズナナ草だと思いますよ」


「えっ……。ちょっと待ってくださいね。」


サリーさんは奥の方から箱を持ってくると、その中にズナナ草の束を投入する。


「……! 全てズナナ草のようです!203本も!どうやってこんなに集めたんですか!買ってきたとかじゃないですよね!?そもそも鑑定したって言ってましたがあなたのスキルに鑑定なんてありませんよね!?魔導具でも持ってるんですか!?」


サリーさんがこちらに身を乗り出し、早口でまくしたてる。


「私にはちょっとした能力があってそれでズナナ草を遠くから見ただけでも判別できるんですよ」


「それってすごいことですよ!ズナナ草だけで生活できますよ!?あと鑑定はなんなんですか!?」


「落ち着いてください。鑑定はその……なぜかステータスに表示されていないんですよ、もしかしたら薬草さがしもそういったものかもしれません」


「すみません、取り乱してしまいました。とりあえず清算ですね。ズナナ草が203本で6090テルになります」


そう言って銀貨を6枚、銅貨を9枚差し出してくる。それを受け取ってアイテムボックスに放り込み、変な詮索をされる前にお礼を言って早足で立ち去る。


「ありがとうございます。それではこれで」


「はい。またのお越しをお待ちしております        ……顔もいいし態度も丁寧、優良物件ね……。」


ギルドを出るときサリーさんが何かを言っていた気がしたが、よく聞こえなかった。

まあ大事なことなら大声で呼びかけてくれるだろうしきっと大したことではないのだろう。


たった1日で6090テルも儲けてしまった。持っていた分と合わせて7440テルだ。宿代を払っても盾が買えるな。盾だけあっても仕方ない気もするがアイテムボックスに入れておけば荷物にならないしあって損はないだろう。それに盾で攻撃を防げさえすればその間に魔法で攻撃ができる。魔法を使うのにはイメージするだけで特に精神統一などは必要ないし盾で戦いながらでもいけるだろう

とりあえず宿に行って2日分の宿代を払っておく。元が安いだけあって割引などはないようだ。

前回鍛冶屋に行った時のルートなど覚えていないので、いったんギルドに戻ってそこから鍛冶屋を目指す。考え事などしていなかったし、迷いもしなかった。


ドアを開け、鍛冶屋に入る。前回は店主は店番をしていたが、今はいないようだ。かわりに奥からカンカンと音が聞こえる。


「すみませーん!」


「うるせえ!聞こえてるからちょっと待ちやがれ!」


鍛冶屋に接客のマニュアルなどというものは存在しないようだ。まあ前回も酷いものだったが。ドワーフさんを鑑定してみたところ、STRとDEXとHPが高いことがわかった。名前はドヴェラーグというようだ。暇なのでドヴェラーグさんの鍛冶の様子を観察してみる。炉を使って鍛造で作っているようだが、打ち終わって形ができたと思ったらそのまま水に突っ込んで冷やしてしまう。


「終わったぞ。随分と来るのが早いがもう金は集まったのか?」


「盾代だけですが手に入ったので盾を用意しようと思って。私は魔法使いですので盾だけでもそれなりに役に立ちますし」


「魔法使いのくせに剣や盾を使うのか?集中が乱れて魔法が使えなくなったり片手が杖でふさがって戦いにくかったりとロクなことはないと思うが」


魔法剣士みたいなのは一般的ではないのか。まあいずればれることだし正直に話してしまおう。正直が1番だ。


「私は元々魔法の速度が速いみたいで杖を使わないでも実用的な速度の魔法が使えるんです。それに動き回りながらでも魔法を使えます」


「お前実は有名な魔法使いとかだったんじゃねえのか?お前みたいな若造ができるような真似じゃねえし杖なしの魔法がそんな速い奴とか聞いたこともねえ」


熟練の魔法使いならできるような真似ってことかな?魔法の速さは元の世界が関係しているのかもしれない、異界者ランク10だし。


「実際そうなんですから仕方ありません。以前何をしていたのかは覚えていませんが……」


「そうか。まあ強えならそれに越したことはねえが慢心するなよ、それで死んだ奴がいっぱいいる」


やっぱり微妙に優しい。


「それで盾だな。お前の体格だと小さ目の円盾がいいだろ。ちょっと持ってみろ」


直径50㎝ほどの円形の盾だ。腕に付ける固定具がついている。装備して腕を動かしてみるがなんかしっくりこない。


「ちょっと重そうだな。これはどうだ」


今度は直径45cmほどの盾をつけさせられる。前の物よりはしっくりくるがなんかちょっとガタガタ動く感じがある。


「多分重さはこんなもんだな。お前の腕に合わせて調整するから待ってやがれ」


ドヴェラーグさんは金具を取り外してガンガン叩いてから再度装着する。外すこともできるのか。

盾を付けてみると今度はしっくりきた。


「こんなもんだろ。金はもってきてるか?」


「はい。ありがとうございます。それで剣のことなのですが」


銀貨を5枚渡しながら言う。ドヴェラーグさんは銀貨を受け取ると無造作にポケットに放り込む。


「ん?なんか要望があんのか?お前ならこのくらいの片手剣がいいと思ったんだが」


ドヴェラーグさんが手を広げ、1mほどの長さを表現する。


「いえ。焼き入れとかはしないのかなと思って」


「焼き入れ?なんだそりゃ?火なら打つ前に使うぞ」


この世界に焼き入れは存在しないようだ。


「いえ。打った後に加熱して急に冷やすと金属が硬くなるんですよ」


「は?バカ言うな、打った後に加熱したりしたらむしろ柔らかくなるだろ。だから打った後は加熱しねえんだ。下手な打ち方すると変な折れ方をすることも多いからそこが腕の見せ所だ。まあ成功するのは3本に1本くらいだがな」


ドヴェラーグさんは誇らしそうだ。加工時にできたひずみのせいで硬くなるのを利用してるのかな?

いや、もう言ってしまったがもしこの世界では本当に焼き入れの効果がなかったりしたらどうしよう。ナズナの効果も地球とはちょっと違うし……。

炭素量がちょうどよくない可能性もある。まあすでに言ってしまったしもし成功すれば強い武器が手に入るんだ。突撃!


「ええ。それは打った時にできる金属のゆがみがとれてしまうからです。でも冷やす前の温度次第では硬くなるんですよ。」


「ふん。そんなに言うならさっき失敗したので試してみるか、どうせ変わらんと思うがな」


そう言いながらドヴェラーグさんは剣の刃を火につっこみ、しばらくして取り出し、水に突っ込む。


「どの程度の温度か知らんがとりあえずこれでいく」


ドヴェラーグさんが剣を自ら取り出す。剣は形が変わって右に向かって反ってしまっていた。


「形が歪んじまったよ、って硬え!」


そう言いながらドヴェラーグさんは剣を指ではじき、表情を変える。


「硬えぞ!マジか!こいつはすげえ!」


「あの……」


ドヴェラーグさんは一通りはしゃぎおわったあと、もう1本剣の刃を火に放り込み焼き入れする。俺の話なんて聞いちゃいない。

2本目の剣もゆがんでしまった。だがやはり硬いようだ。少ししてドヴェラーグさんが我に返る。


「ああ、焼き入れとやらで鉄が硬くなるのはわかった。歪みも打ち方次第でなんとかなるだろ。だがこれじゃ硬すぎて折れちまいそうだな」


「それはもう一度比較的低い温度でしばらく加熱してゆっくり冷やせば若干軟らかくなります」


「そうか。ゆっくり冷やすなら調べるのには時間がかかりそうだな。俺は焼き入れとやらのやり方を研究するから明後日以降またきやがれ。この方法でいい武器が作れるようなら剣1本くらいタダでやるよ。今日は店じまいだ」


そう言って店から追い出されてしまう。焼き入れの仕方を教えたというのにあんまりな扱いだとは思うがただで武器がもらえるなら納得しようか。これもドヴェラーグさんなりの優しさだと思おう。

俺は盾をアイテムボックスに入れ、家路につく。まあ家路ではなく宿路だが。宿の隣で飯を食ってから宿に入る。今日は10テル追加してガルゴン定食を頼んだ。相変わらずうまかった。

なぜかはわからないが体を洗ったりしなくても体も服も汚れないようだ。異世界補正だろうか、ありがたいことはありがたいのだがなんだか気になる。風呂があったらいいな。

そんなことを考えながら俺は眠りについた。

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