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第66話 エラタナとザナコカ

 予定していた人の移動とズナナ草の運搬を済ませた俺は、早速ザナコカ(ヌメサを食い荒らしていた草食の小魚の名前だ)の駆除のため、準備を開始した。

 メルシアなどに言って許可を取り、現場に向かう。

 作業現場は……湖だ。

 それも、島ではなく内陸の。

 目的は魚の捕獲だ。


「このへんでいいか」


「大丈夫だぜ。 ところで生け捕りって、どうやるんでえ?」


 案内人兼監視役は普段湖で魚を獲っている漁師さんだ。


「魔法で掬い上げます。 行きますよ……てい」


 魔法で網的なものを作り、魚をまとめて確保する。

 魚を持ち上げるのは簡単だが、水だけを下に落とす仕組みを考えるのには少し苦労した。


「おぉ…… すげえ。 魔法ってのは便利なもんだ」


 網を引き上げると、100匹ほどの魚――エラタナが上がってきた。

 死んでもらっては困るので、内部には水をある程度残しているが。

 それを俺は、魚が火傷をしないように魔法で水温ほどまで冷やしたで捕まえ……あっ。

 どうしよう。

 魚を生きたまま運ぶ手段のことをすっかり忘れていた。

 食料みたいにアイテムボックスに入れてハイ終わりというわけにはいかないのだ。


「水槽とかってありますか? 魚を運びたいのですが」


「すいそう? 何だそりゃ。 そんなものはねえ」


 かくなる上は……


「船に水を入れれば……移動する生け簀代わりに!」


「無茶言うでねえ」


「デスヨネー」


 ダメだった。

 なんでだ、船なんて無くとも水の上でくらい移動できるだろう。

 船ごとかついで島まで移動して、使った後には干せばいいのだ。

 ……納得してもらえるとは思っていない、なので説得もしない。


「他に何か生きた魚を運搬する手段は…… アイテムボックスは無理だろうし」


 適当に濡れた布にでもくるんで運んだ上でダサい名前の回復薬でも垂らすか……?

 魚にも効くんだろうか、あの薬。

 そう思いながらダメ元でアイテムボックスに魚を収納しようとしてみる。


「どうしよ……ん?」


 気付くと、魚が手の中から消えていた。

 アイテムウィンドウを見ると、そこにはエラタナの姿が。

 生きてるのかこいつ?


「おお、生きてる……」


 取り出してみた。

 魚はバッチリ生きていた。

 魔法で作られた大きな生け簀の中を元気に泳ぎ回っている。

 生物も収納できたのか。


 よく考えてみると、俺がいつも収納しているようなものにも細菌などの目に見えない生き物はついているはずだ。

 それを収納できるということは、生物が収納できてもおかしくはない。

 倒せない魔物がいたらやってみるかな。

 ……亜龍でぶっつけ本番とかは遠慮したい、適当な魔物でテストしておくべきか。


「手段は見つかりました。 ちょっと捕ってきます」



「では俺はこれで」


「おう。 毎度あり」


 アイテムボックスと共に5分ほど生け簀の中を走り回り、50匹の魚を確保した。

 もらった許可は魚50匹分なのだ。

 それを持って島に戻ってきた。


 さて、今こそ魚を使用する時だ。

 魚の使い道といえばもちろん。


「いけっ、エラタナ!」


「おおっ」


 放流。

 これしかない。

 というのもこのエラタナと言う魚、昔食べた魚なのだが、外見がブラックバスそのものなのだ。

 水草に被害を与えずに邪魔な小魚を駆除するのにこれ以上向いたものがあろうか、いやない。


 日本では放流さえ禁止され、場所によっては釣ったものを逃がすことさえも禁止された、まさに《禁じられし対魚類最終兵器》とでも呼ぶべき魚、ブラックバス。


 その活躍は予想通りのものだった。

 水に放たれてすぐに『ヒャッハー! 新鮮な魚肉だー!』とでも叫びそうな勢いでザナコカを食い荒らしてくれたのだ。

 アイテムボックスから出した時、ちょっと元気がなかったのであの名前の長い薬を使ったのが功を奏したのかもしれない。

 使った直後からものすごい勢いで暴れだしたし。


 ……1時間ほど後にザナコカを食い尽くしたエラタナが共食いを始めた時には流石に一同ドン引きしたが。

 食欲旺盛なのは狙い通りなのだが、流石に共食いは……ねぇ。

 アイテムボックスで運んだ上、薬の効果で元気になりすぎたのかな。

 さすがに普段からこんなに食っていることはないと思うが……


「予想以上ですねぇ…… エラタナにこんな使い道があったとは」


 地球人の科学知識をあまりなめない方がいい……

 まあ、日本ではでは禁止された使い方のうえ、日本では制御に失敗しているわけなんだが。


「まあ強いのがいくらか残ったみたいだし、再発してもこいつらが何とかしてくれるんじゃないか。 ヌメサのいい用心棒だ」


「用心棒同士で戦ってどうするんですか……」


 なんだか微妙にイメージと違う結果になったが、構うまい。

 卵とか残っていてもこいつらが片っ端から食い尽くしてくれるだろう。


「そういえばメルシア、お前までここに来てて大丈夫なのか? 魔道具販売や、|エターナルパワード超スーパーなんとか回復薬なんかダサくてややこしいなまえのくすりの販売はどんな調子だ」


 名前忘れた。

 ネーミングセンスの欠片もない研究者共が改良するたびに適当に付け足すからこうなるんだ。


「確かエターナルパワーハイパー究極エクストリーム回復薬じゃなかったでしたっけ」


 横から従業員による訂正が入る。

 合っているかどうかは俺には判断がつかないが。


「”エターナルエナジー極限ハイパーエンハンスド回復薬”です。 ……名前はどうでもいいとして、抽出液も作っただけ持って来いとのことですし、売上は上々のようです。 カトリーヌの魔道具のほうはより利益が見込める魔法鎧の方に生産を移行しました。 今のところ順調です」


「順調だな。 食料品店のほうは? あと魔法鎧ってのはどんなモンだ」


 まるでおまけのような扱いだ。

 本来は商会のメインを担う予定だった部門なのに。


「肉屋は一応、順調です。 他のビジネスに比べるとあまりに規模が小さすぎ、半ば人材を確保しておいて教育する場所と化していますが……」


「ああ、うん。 仕方ないね」


「魔法鎧のほうは、魔道具にするような加工を鎧全体に細かく施した鎧です。 剣士が使わない魔力を使って軽い装備で防御力を上げたりできるので重宝されます。 制作が極めて難しいのですが……」


「カトリーヌは作れるのか」


「普通の魔法が使えないことと関係があるのか、細かい作業は異常なまでに得意なようですから。 本人は『最近わずかに1日の当たりの作業ペースが落ちた』などと言っていましたが、破格の魔力と製作速度で恐ろしいまでの収益をたたき出しています」


「1日にどのくらいだ?」


「1日当たりですと…… 10万テル程度の仕事になるでしょうか。 同業者の50倍は稼いでいますね」


 日本円にして……日収100万円クラスか。

 化け物だ、というかもはやなにか間違っている気がしないでもない。

 同業者からしたらズルだ反則だなどと文句をつけたくなるレベルだ。


「放っておいても全く何の問題もなさそうだな…… 倉庫のほうの食料保管庫もそろそろ完成するんだったか?」


「明日には出来上がると思います」


 干し肉にする前の大量の魔物を腐らずに保管するためには、そういった設備も必要なのだ。

 干し肉屋はでかい設備や人員ばかり要求する。

 使えない子だ。


「微妙な商売の割に地味に面倒くさいよな」


「利益は微妙でもそれ以外の面で役立ちますから…… とりあえず人員を確保して慣れさせるですとか」


 メルシアまで研修施設扱い……。

 黒字が出るだけマシだが。


「店じゃなくていいよなそれ…… まあそれはともかく、魔物を置きに来なくていいなら多少外に行っても問題ないよな。 一度他の前線都市を見に行ってみたかったんだ」


「他の前線都市? 何か面白いものがあるのですか?」


「いや、そうじゃないんだがな。 俺は前線都市をブロケンやデシバトレくらいしか知らないし、どうせなら他も見てみようと思うんだ。 王都も面白そうだと思ったんだが、魔物やらがいない場所に行ってもすぐ退屈しそうだしな」


 王都、色々常識とかが違って面倒くさそうだし。

 その点前線都市なら、ある程度自由に動けるだろう。

 他のギルドの様子や、魔物の種類も見てみたいし。


「つまり観光ですか? 放置されてしまうと店の方が大変なことになるのですが……」


 輸送とかは俺に頼ってるもんな……


「まあ観光みたいなもんだ。 短期間で帰ってくる予定だし、輸送も食料庫ができればある程度の期間は多分なんとかなる! ってことでお薦めの前線都市ってあるか?」


「それならなんとか…… まあ、魔物の珍しさという点ではミナトニアでしょうか。 行ったことはありませんが、水棲型の魔物と戦う場所は珍しいので」


「水棲型の魔物と戦っている前線都市があるのか? ほっとけばいい気がするが。 水棲魔物が陸に攻め込んできたりはしないだろ」


「……それが、するみたいなんですよ。 魚やエビが陸に攻め込んでくるらしいです」


 何だそれ……


「わけわからんが、面白そうだな。 どうやって行けばいい?」


「ええとですね…… ここをこう……」



 翌日。

 魔物の肉やらズナナ草やら、当面俺がいなくても商会が回るように素早く準備を済ませた俺は商会の面々に見送られ、街を旅立とうとしていた。


「いいですか? アンカーの反応が消えたら帰ってきていただけると嬉しいです。 あとできれば10日以内に帰ってきていただけるととてもありがたいです。 それから何か商売によさ気なものとかあったらなおいいですね」


 心優しい雇われ社長のメルシアが親切な言葉とともに送り出してくれる。

 俺なしでもなんとかなるように、輸送船でも作ろうかな。


 ともあれ、こうして俺はフォトレンを出発し、ミナトニアへの旅路についた。

 上空100mほどを、音速に近い速度で、鳥をかわし山にぶつかりそうになりながらの優雅な旅である。

 これはこれで、景色がよく見えていいものだ。

ブラックバスの放流、現実では絶対に真似してはいけません。

リアルに捕まります……

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