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第63話 撃破と復活

 周りで魔法を使っている様子はないが、いざというときに使う魔法さえ温存していれば穴掘りに魔法を使っても問題ないだろう。

 さっさと穴掘りを終わらせるべく、とりあえず地中に圧力魔法を展開して発動してみる。

 盗賊相手などにも使用した、使用魔力0.5ほどの基本とも言える強度の魔法だ。

 予定通り、地下30cmほどの位置に展開された魔法が『バスッ』という音をたてる。

 それから少し遅れて土が盛り上がり、吹き飛……ばなかった。

 よく考えてみれば当然だ、たった一瞬の魔法で、そう簡単に土の塊を吹き飛ばせるはずがない。

 ズナナ草を除去する時に土砂を吹き飛ばした爆発魔法は、平方キロ単位で硬い木々を吹き飛ばせるだけの魔力を消費するような代物なのだ。

 かといってあの燃費の悪い魔法を使ってもそうそう効率は上がらないだろうし、何より危険だ。

 よし、ここは久々に魔法を開発してみるか。


 そもそも俺が使っている外部から物に干渉する魔法は、魔力をいったん圧力なり爆発なりに変換しているのが扱いにくさの原因なのではないだろうか。

 攻撃したいのではなく物を動かしたいだけならば、そのように魔法を使えばいいのだ。

 ということで、使う魔法は対象とする範囲全体に重力や、磁力のようなものを作用させる感じで行く。

 いわば内部の物体全てに干渉する『場』を作るようなものだ。

 イメージはそう難しくない。

 重力場はともかく、電磁場などは人間でも簡単に作れることは、地球であれば普通の高校生でも知っている。


 さっき魔法で持ち上げようとした範囲にその魔法を使用し、堀の外、2枚目の壁の建造予定地にに運ぶことを試みる。

 すると、対象となった土があたかも上に向かって地すべりするかのように素早く目標地点に動いた。

 更に少し移動し、もう一度同じことをやると、やはり同じ現象が起きる。

 調子に乗ってその場で10秒ほど魔力を溜めて発動した魔法は、一発で俺のいた地点に深さ4m、半径5mほどの壁が切り立った穴を掘り、同じだけの大きさの土塊を壁の側に積み上げる。

 ……なんだか大型重機みたいな魔法が出来てしまった、距離制限どこいった。

 というか、俺自身が重機だ。

 これがダメなら、水圧で地面を砕いてアイテムボックスを使って移動させるなどの荒業も考えていたのだが、無駄になってしまった。


「おいおい、こりゃ何が起きたんだ?」


 少し離れた場所で穴をほっていた冒険者が、明らかに掘り始めてからの時間より大きい穴、というかそこから掘り出された土を見てこちらに声をかけてくる。

 話すために仕事をサボったりする気はないようで、付近の土を掘る作業を続けながらだが。


「穴掘りに時間がかかるとのことなので、短縮のため魔法を使おうと思って。 今成功したところです」


 この魔法……見た目の印象通り”逆さ地すべり”とでも呼ぼうか。

 対複数の足止めにも使えるかもしれない……普通に倒したほうが早いが。


「土掘りに魔法? やめとけやめとけ」


「なんでですか?」


 以前に失敗例があったりするのだろうか。


「魔力は魔法使いの生命線、いくら多くともいざという時のため温存するのが基本だ。 時間短縮のために死んだりしたら本末転倒だからな」


 ああ、魔力の心配か。

 魔力を全力使用しようともMPが上限から動かない俺にとっては無用の心配だ。

 もはや俺にとって魔法使用の枷となるものは単位時間当たりの魔力使用量のみなのだ。

 それにしたって昔と比べて大幅に増えたわけだが。


「大丈夫ですよ、いくら使っても魔力なんてほとんど減りませんので。 回復の方が早いです」


「おいおい、そりゃいくらなんでも……」


「じゃなきゃ、ここまで偵察のためだけにあんな高さを飛び続けたりはしませんよ」


「む……それもそう、なのか? なんかおかしい気がするが」


「おかしいことなんてありませんよ。 ともかくこの魔法、魔力さえ賄えるならガンガン使ってしまって構いませんか?」

 勝手に穴だらけにした後で『ただ掘るだけダメだぞ』等と言われても困る。


「あー…… 使うなら一応、そこの台にいるアーテムの許可を取ってくれ」


 冒険者さんが指さした方を見ると、小さめの弓を手に持った冒険者が、3mほどの高さで土が積まれた台の上にいるのが見える。

 どうやらこちらを見ていたらしく、目が合った。

 許可を取るべく俺はそちらに手を振り、魔法で飛んで近付く。


「あの、掘るのに魔法使っていいですか? あんな感じで掘ることになるんですが」


「ああ、何かやっているようだったからね、見ていたよ。 あんな魔法を見るのは初めてだけど、どこで習ったんだい?」


「習ってませんよ。 さっき作りました」


「魔法を……作った? どういうことだい?」


「え? いや、ただ魔力を使って、イメージするだけですよ。 ほら」


 適当に思いついた魔法を即興で作って発動させてみる。

 火の周りに、水を浮かせてボヤッとした明かりを作る魔法だ。

 何の意味もない。


「……見たことない魔法だ」


「今作りましたから。 魔法を作るのって珍しいんですか?」


「珍しいも何も、現代で魔法を作る人がいるだなんて聞いたこともないよ。 まあその辺の話はやるとしても後回しだ、これでも戦闘中だからね。 魔法はもちろん使って構わないよ、でも指示が出たら攻撃に参加してくれよ?」


「分かりました。 やってきます」


 あっさり許可は降りた。

 アーテムさんからは俺が掘る場所を開けるように指示が飛び、俺が掘る場所が開けられる。

 そこに俺が入り、逆さ地すべりを連続で使っていく。

 俺が掘った場所を担当していた冒険者達は、魔法により大雑把な出来となった堀を使えるように整備している。

 当初の予定より大幅に繰り上げて作業が行われ、堀と壁が半分ほど完成したところでアーテムさんから次の指示が入る。


「交代だ! A班は防衛、C班は堀制作、B班は休憩に入れ!」


 シフト交代の時間が来たようだ。

 1週間単位の長丁場(の、予定)であるブロケン攻略戦では、さすがに全員が働き続ける訳にはいかない。

 当然睡眠時間も確保される…… 3交代制(但し労働時間は3分の1ではなく3分の2、当然安心して眠ることも出来ない)などという、ブラック企業も真っ青の労働時間だが、無理というほどでもない。

『無理』というのは、嘘つきの言葉なのだという説もある。

 支持は得られていないようだが。


 俺が瓦礫を運んできたのも、その際の安全性を少しでも高めるためという意味が大きい。

 こちらにいる冒険者たちは、半数ほどが1枚目の壁と2枚目の壁の間に各々6人程度のグループを作って就寝し、残りの半数は俺が作った方の壁に向かっていく。

 A班が壁にたどり着いて少しするとC班が堀の方に移動し、シフト交代が完了する。


 しかし俺の仕事は変わらない。

 今のところ必要になっていはいないが俺の能力は特殊で代用が効かないため、『カエデ班』なる一つの班として扱われているのだ。

 立ち位置は、指示が聞こえる場所はどこでもよしという、極めて自由な仕事だ。

 特殊な状況でない限り、寝る時間や食事の時間も自由だ。

 一応、寝るときに魔法で防御しておく場合には冒険者がたたき起こせる程度のものにしろなどと言われているが、そもそも俺の防御力はそこまでは高くはないし、感覚も別に鈍くはない。

 この指示を出した町長は、俺をなんだと思っているのだろうか。


 ともかく、俺は相も変わらずひたすら堀を拡充する作業を続ける。

 指示を受けた冒険者たちはその周囲を慌ただしく移動し、堀と壁を固めていく。

 その作業は8割ほど終わった頃。

 爆発魔法――爆撃要請の際に使うことになっていたごく小型のものだ――の音が耳に入る。

 防衛ラインに何かあったようだ。

 前方から聞こえる声によると、魔物の大きい群れらしい。


 俺は大急ぎで高度を上げ、目標を探す。

 すると壁から50~100m程度離れた場所を先頭に、全長4mほどの真っ黒いトカゲのような魔物の群れが壁に向かって突撃しているのが見えた。

 速やかに味方を巻き込まない範囲ギリギリを見極めて魔法で爆撃を行う。

 先頭付近を巻き込めないのは仕方がない、他の冒険者任せだ。


 魔物が何なのかはよくわからないが、魔法の威力は安定的だ。

 轟音とともにトカゲ共が千切れ飛び、また千切れ飛ばないトカゲは吹き飛んで動かなくなる。

 一匹ずつ鑑定して確かめた訳でではないが、放っておけば死ぬのは確定的に明らかだ。

 200匹ほどいたであろう魔物の群れを吹き飛ばし終わった俺が足元を見ると、こちらでも俺が討ち漏らしたトカゲ共――鑑定によればブラックリザードらしい、見た目のままだ――がほぼ全滅し、最後の3匹となっていた。


 剣を持った冒険者がそのうち1匹に斬りつけ、ブラックリザードの反撃を後に跳んでかわすのが見える。

 さすがは高ランク冒険者、バックステップで5mほども引っ込むなど、地球の人間では有り得ない動きだ。

 着地地点付近にいたもう一匹のブラックリザードの攻撃もバランスを崩すことなくかわし、距離を取る。


 しかしこの冒険者、回避の腕はともかく致命的に運が悪かったようだ。

 着地地点に、ちょうどバランスを崩したブラックリザードの、苦し紛れの蹴りがマグレの、クリーンヒットを決める。

 冒険者は背中から腰のあたりを打ち付けられ、10m近くも吹き飛ぶ。

 後に向かって飛ばされたため追撃はないが、いくら自力で5m以上跳躍するような強靭な肉体を持つ冒険者とはいえ、あれはまずい。

 よくても腰の骨くらいは折れている可能性が高い、最悪致命傷だ。

 回復魔法をかければなんとかなるかもしれないと思い、冒険者を攻撃したトカゲが袋叩きにされるのを見ながら降下する。


 俺が地上に降り立ち、その冒険者に声をかけようとする。

 が、様子がおかしい。


「……よし」


 そう言って冒険者がその場で、何事もなかったかのように立ち上がり、持ち場に戻る。

 冒険者の手には、封が切られたあのダサい名前の薬の容器が握られている。

 地球ではゲーム内でしか起こらないような謎回復が、さも当然のごとく現実で起こっていた。

 戻ってきた冒険者に声をかける仲間たちも特に気にしていないようだ。

 ……あの薬が開発されてから2日も経たずにこれとは、この世界の冒険者は随分と適応性が高いらしい。


 結局この後は俺が数回爆撃し、数回冒険者が超回復した以外は何事も無く、大工や俺達以外の冒険者を守る事ができる程度の壁と堀が完成した。

 拍子抜けなくらい簡単に山場が終わってしまった。

 広範囲にわたって敵を吹き飛ばす魔法、死んでいなければ即復活の回復薬、重機じみた魔法と、これだけ揃えば当然の結果かもしれないが。

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