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第61話 ギルドと薬

 新型ポーションの人体実験を終え、ズナナ草抽出液の有用性を確認した俺は、その量産化に向けて動くことにした。

 いくら効力が高いとはいえ、俺が精製するのでは商売として成立しているとはいえない。

 放っておいても金が入ってくるシステムを構築してこそ、真に有能な商売人といえるのだ。

 ……もはや商売人ではなく、投資家、起業家などという呼び方のほうが正しいかもしれないが。


「というわけで効率的に抽出液を量産できる装置を作る」


「しかし、量産しても売れるようになるには許可が必要ですよ? 許可が簡単に降りるとは思えません」


 そうなのだ。

 個人間で融通するくらいならともかく、薬屋として大々的にポーションを販売するとなると薬師ギルドの許可が必要になる。

 下手すれば既存の薬師を駆逐してしまいかねない効力と生産力を持った商会の参入に許可が降りる可能性は極めて低い。

 というわけで、だ。


「薬じゃなくて、素材として売ろうと思っている」


「素材、ですか……?」


「ああ、抽出液は薬ではない、販売に許可は必要ないだろう」


「しかし、その抽出液を使った薬の販売には許可が必要です。 買う薬師がいるでしょうか」


「混ぜるだけで十分な効果が出るから冒険者に他の素材とセットで売ってもいいんだけどな、それはせずに許可をなんとかもらおうと思っている」


 そんな手を使っても、抜け穴を塞がれるだけな可能性が高いしな。


「……素材のまま薬師ギルドにでも販売し、加工の利権を提供する代わりに新薬の販売許可をもらう、などということですか?」


「そうだ、抽出液を高く売ればこっちも利益が出るし、薬師も駆逐されずに済むだろう」


 薄めれば大量に使用できる既存薬の出来上がりなので、需要も拡大する可能性が高い。

 これによって限りある需要(パイ)を奪い合う場合には成立し得ない、WIN-WINの構図を作る事ができる。

 冒険者も安心して以前より危険で儲かる敵に挑めて、みんな幸せだ。

 ついでにちょっと怪我をするなり魔力を使うなりして薬を消費してくれれば言うことはない。


「それなら行けるかもしれません。 早速薬師ギルドに行きますか?」


「いや、俺がいてもどうせ結果は変わらないからな、そっちは任せた。 ブロケン攻略戦まであまり時間が無いんだ」


 2日間でやるだけやるとなると時間は惜しい。


「はぁ…… では、カエデさんはどちらに?」


「俺はちょっとエレーラに行ってくる。 装置制作ならやっぱりドワーフさん達だからな。 アテもあるし」


「分かりました、では私は薬師ギルドへ行ってきます。 効果を証明するためにさっきの薬を持って行ってもいいですか?」


「ああ、これも持って行ったほうがいいな」


 他の材料と混ぜる前の抽出液も渡しておく。

 それらを持ってメルシアは薬師ギルドに旅立っていった。


 俺はそのままエレーラに出発した。

 エレーラには2時間ほどで到着した、やはり地味に遠い。

 まあ普通は二週間とか掛けて移動する距離なのだから、これで遠いなどと言ったら行商人に怒られそうだが。


「こんにちはガインタさん、今日はコークスもミスリルも関係ない道具を調達したくてきたのですが、大丈夫ですか?」


「……出来る限りの協力はするが、炭鉱会は鍛冶屋ではない。 炭鉱会で手に入るものなのか?」


「どうでしょう…… 蒸留に使う道具の一種なのですが、おすすめの店とかありますか?」


「酒用の蒸留装置でいいなら、ギルドの裏手にある鍛冶屋がやっている」


「ありがとうございます、行ってみます」


 考えてみれば、炭鉱に蒸留装置を求めるのは間違ってるよな。

 コークスの時、あまりに早く試作装置が完成したから忘れていた。


 そして早速注文しようとその店に行ってみたのだが。

 注文するまでもなく目当ての物らしき装置が店内に置いてあった。

 それも、ミスリル製の。


「あ、すみません…… これは蒸留装置ですか?」


 とりあえず店主らしきドワーフに訪ねる。

 蒸留装置だと思って買ったのが実は洗濯機だったりしたら目も当てられない。


「ん? ああそうだ、酒を蒸留するのに使うやつだ」


 店主はドワーフにしては随分と愛想のいい感じで答えてくれる。


「これ、買えますか?」


「予約とかは入ってないから金があれば買えるぞ。1台530万テルだから個人で簡単に買えるようなもんじゃないが」


「……そんな高いものを作りおきするんですか?」


「作るのには時間がかかるからな。 資金に余裕があれば作っといた方がいい」


「買いたいのですが、使い方を教えて頂いても?」


「金、あるのか?」


 店主が訝しげな目をこちらに向ける。

 冒険者らしき若者が、家が建つほどの装置を買いたいなどと言い出したら誰だってそうするだろう。

 こういう時には証明するのが一番だ。


「はい。 求める性能があるようなら、今すぐにでも購入できます」


 そう言って、予め引き出しておいた大金貨をアイテムボックスから53枚取り出す。


「確認してもいいか?」


「ええ」


 そう言って金貨を渡す。


「驚いたな。 貴族や大商会の家の坊っちゃんか?」


 店主は大金貨をざっと確認すると、俺に返す。

 細かい確認は必要ない。

 そうしなければわからないようなものを作れば、貨幣偽造で即刻盗賊化だからだ。


「使い方、説明していただけますか?」


「ああ、任せとけ」



 使い方はそれほど難しいものではなかった。

 要するに火を焚いて、中に蒸留対象を入れれば勝手にやってくれるらしい。

 どこで蒸留をやめるかは人間が見極めなければならないそうだが。

 ちなみにミスリルで出来ているのは特に意味はなく、安くて頑丈だかららしい。

 なんだか地球で鉄が確保していた地位を、ミスリルが占めようとしている気がする。

 ミスリル筋コンクリートの時代が来てもおかしくはないくらいの侵蝕ぶりだ。


「わかりました、これ買います」


 そう宣言し、大金貨を手渡す。


「まいどあり。 運ぶのに分解することになるが、いつ運び出す?」


「ああ、自分で運ぶのでいいです。 アイテムボックスあるんで」


「これは無理だと思うぞ。 いくらミスリルが軽いと言っても金属の塊だ」


「いえ、行けます。 試してみても?」


「もうお前さんのもんだから構わねえが……」


 許可は得た。

 俺は蒸留装置に手を触れ、アイテムボックスへの収納を試みる。

 そして、案の定成功。


「ほら、入りました」


「……アイテムボックスってそんな便利な代物だったのか?」


「そうですよ。 便利ですね」


 昼ごはんを温かいまま保管することもできれば、トン単位の鉄鉱石を簡単に運ぶこともできる、便利能力だ。

 物によっては上空から落とすだけでも戦闘できる。


「では俺はこれで。 まだ用事があるので」


「あ、ああ…… また必要になったらうちに来るといい」


 案外簡単に手に入ってしまった。

 明日は丸一日フリーになるな。

 まあ、抽出液の量産などやることはいくらでもあるのだが。

 ブロケン攻略戦で大量に消費する可能性もあるし、アイテムボックスの中にあるズナナ草はトン単位だ。

 船の完成を待たずに制作を開始するにしても十分な量だ。



 フォトレンに帰還したところ、すでにメルシアは店に帰ってきていた。


「こっちは明日にでも開始できそうだ。 メルシアのほうはどうだ?」


「流石に今日明日中に、とは行きませんが今週中にまとまりそうです。 効果はもう向こうの方でも確かめて頂きましたし」


「そうか。 俺は明後日からしばらく来ないから値段設定や交渉は全面的に任せることになる」


「分かりました。 明日にでも開始できそうというのは、もう道具が揃ったということですか?」


「そうだ。 ……置く場所あるか?」


「製造設備ですよね? でしたら倉庫の方がいいかと」


「わかった」



 それから俺達は倉庫に蒸留装置を置き、ひたすらズナナ草抽出液の生産に勤しんだ。

 時間あたりの効率を上げることは出来ないので店員も動員し、昼夜を問わず交代で作業を行った。


 翌日の昼になり、抽出液が5リットルほども溜まったころ、倉庫に研究者っぽい男の人が押しかけてきた。

 寝不足なのか、不健康そうな顔に満面の笑みを浮かべてメルシアを呼んでいる。

 誰だこいつ。

 質問する間もなく、その男が薄気味悪い笑顔のまま口を開く。


「メルシア氏! あなたが持ってきたあの薬は酷い粗悪品だ! 今すぐ製造をやめてください、抽出液の無駄です」


 誰だよテメーは。

 いきなり現れて好き勝手言ってんじゃねーぞ。


「メルシア、こいつ誰だ?」


「……薬師ギルドの研究者、ディメックさんです。 ところで粗悪品とは?」


 研究者か。

 まあ鍛冶一筋のドワーフと似たようなものだと思えばいいかな。


「これです。 昨日の抽出液からこちらでも薬を制作したのですが、この短時間で同じ程度の量の抽出液を使い4倍近い効果を出せました。 あの薬の構成はそれほどお粗末なものです」


 そう言ってディメックさんとやらは薬を取り出す。

 鑑定したところ、確かにHPを350ほど回復するなどと書いてある。

 死んでなきゃ助かるって点では俺達が作ったものとほとんど変わらない気もするが。


「心配しなくてもまだ抽出液しか作ってませんよ」


「それは良かった。 あんなものにするくらいならこちらに売っていただきたい。 倍の効果にして返して差し上げます」


 半分持っていくのか。

 ともかく、これはブロケンで使うために作っているものだ。

 プロが薬にしてくれるなら断る理由はない、そのように頼むことにする。


「俺はオーナーのカエデだ。 明日の朝、ブロケンに向けて出発するんだがそれまでに作れるだけ薬にして欲しいんだが行けるか?」


「あなたがカエデさんですか。 もちろん可能です、ポーション学に革命が起こるんです。 このディメック、2徹してでも最適な配合を見つけて見せましょう」


 異常なテンションの高さに若干気圧される。

 このテンションはすでに一徹していたせいか。

 お前が薬飲んだほうがいいんじゃないのか。


「お、おう。 じゃあ頼んだ」



 こんな感じでポーションの生産計画が固まり。

 翌朝には150回分のポーション(1回あたりHP400回復)が完成した(今回は量を確保するため、加工費用は現金で払うことになった)。

 ディメックは俺に完成品のポーションを手渡すなり倒れてしまったが、寝ているだけのようだったので店員たちに運ばせておいた。


 さて、いよいよブロケン攻略戦のためギルドに行く時間だ。

 大量の全回復薬を持ち込み、膝に矢を当てられても戦い続ける冒険者の恐ろしさ、魔物共に見せつけてやろうじゃないか。

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