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第5話 迷子と鍛冶屋

 迷ってしまった。

 どこかに人がいれば道を聞けるのだが人など見あたらないし気配もしない。まあ気配とかがわかるわけじゃないんだけど。

 しかしここは街の中である以上は塀の中のはずだ。つまりまっすぐ進めばどこかで塀のあたりに突き当たるかもしれない。

 等と考え、道をひたすらまっすぐ行く。


 突き当たってしまった。T字路だ。街の外壁ではなく廃墟のような建物だ。

 いつの間にか打ち棄てられたスラム街のような雰囲気の場所に来てしまったようだ。正直長居はしたくない。

 しかし引き返してもまた迷うのを継続するだけなので、さっき歩いてきた方向に進める道がいないかと思い、右折する。

 数分間歩くと、店らしきものを発見する。ドアには”鍛冶屋”とだけ書かれている。

 人がいるなら道を聞けるかもしれないと思い、ドアを開けて中に入ろうとする。


「誰の紹介で来た?」


 唐突に声をかけられ飛び上がる。声が下方向を見ると背が低く、長いひげとがっちりとした体格を持った男がこちらを見てみる。

 ドワーフというやつだろうか。


「いえ。紹介されたのではなく道に迷って……。」


 正直に答える。嘘をついてもすぐにばれるだろうし。


「ふん。なんでこんなとこに迷い込んだのかは知らんがここは武器屋だ。武器に興味がないならさっさと帰れ。」


 愛想もへったくれもない。それに帰り方がわかれば苦労はしない。


「いえ、私は冒険者でして武器がほしいと思っていたところなのです。見て行ってもいいですか?」


「別に構わねえが金はいくら持ってる?」


「1350テルです」


「それじゃナイフも買えねえな。お前動きからして武芸の才能でも持ってそうだが何でそれしか持ってねえんだ?」


 やっぱり武器は安くないようだ。地球にあったナイフは高い物でなければ13500円もしなかったと思うが鉱業も工業も未発達なのだろう。

 武芸の才能は動きでわかってしまうものなのか。やはり隠蔽していなくてよかった。


「記憶喪失で気付いたら無一文で森の中にいました。何とか宿代とギルドの登録料は入手したので冒険者として働こうと思って」


「そうか。お前ならそこそこ強くはなるだろう、死ななきゃだがな。体格からして片手剣と盾を持つのがいいだろうな。片手剣は1万、盾は5000で作ってやる。金がたまっていい装備がほしくなったら来な。」

 周りに置かれている武器を見てみる。確かになんとなくいい装備っぽい雰囲気というか風格のようなものがある。


「あとこの店のことは許可なく人に教えんなよ。ロクに使いこなせない人間にうちの装備を売る気はない。お前が武芸の才能を持ってなかったら最初から無理矢理追い出してるとこだ。普通はギルドに実力を認められたらギルドが紹介するんだ」


 最初に帰れって言ったくせに……。

 ともかくよさそうな武器屋を知ることができた。隠れた名店ってやつだろうか。思わぬ幸運だ。


「わかりました。金がたまったらまた来ます」


「おう。さっさと金稼いで来い。死ぬなよ」


 ドワーフさんなりの優しさだろうか。俺はさわやかな気持ちでドアを開け、外に出た。


 そしてもう一度ドアを開け、店内に戻ってくる。


「すみません、ギルドってどっちですか?」


 台無しだった。


 それから10分後、俺はギルドの前にいた。鍛冶屋とギルドは案外と近かったが、場所はわかりにくかった。ドワーフさんに道を聞かなければわからなかっただろう。あ、そういえばドワーフさんの名前を聞くのを忘れていたし鑑定する余裕もなかった。まあ店の場所は覚えているから今度行くことがあれば聞けばいいだろう。


 ともあれ寄り道はしたもののギルドについた。おそらく飯屋を出てから1時間は経過していないだろう。

 ギルドに入り、Gランクの依頼を見る。Gランクには討伐系の依頼は見当たらない。昨日の薬草採取の依頼のほかには、畑の土を耕す仕事、荷物運び、材木運びなどがある。

 Gランクの依頼は冒険者っぽくないな、力にあまり自信はないのでやはり薬草採取の依頼をやることにする。依頼を受注する必要はないがズナナ草がどんな草なのか聞いてみなければならない。


 昨日の金髪の受付嬢がいるので、話しかけてみる。面識があるというほどではないが全く話したことがないよりはましだ。

 近付いていくと向こうの方からにこやかに話しかけてくる。


「こんにちはカエデさん。今日は何のご用でしょうか」


 名前を覚えてくれていたようだ。ギルドの受付嬢は来た人の名前と顔をみんな覚えるくらいでないと務まらないのかもしれない。


「こんにちは、えーと……」


「サリスです。サリーって呼んでください」


「こんにちは、サリーさん。ズナナ草がどんなものなのか知りたくて」


 サリーさんの名前を呼んだとき、微妙に背中のあたりに寒気を感じた気がしたが気にしないでおく。異世界に来たばかりだし体が慣れていないのだろう。


「はい、ズナナ草ですね。森のほうに生えている草で、1本ずつ散らばって生えています。葉の形が特徴的で、このような形をした小さい葉が茎から生えた小さい枝1本につき1つついています」


 この町は、俺が来た側は森に、反対側は草原になっている。草原側には行ったことがないが。


「煎じて煮詰めたりと加工すると止血効果が出ますし、そのまま潰したものを他の薬の材料と混ぜると効果が出やすくなったりする万能な薬草ですが、まとまって生えない上なぜか魔物などがいる森の中にしか生えない、その上森に入る冒険者は魔物を狩ったほうが実入りがいいため、そこまで収入の多くないE~Fランク程度の冒険者が見つけたらついでに採ってくる程度で供給は少なく、あるだけほしいというのが現状です。なので常時依頼になっています。」


 そう言って依頼板を大きくしたようなものに木か何かでできた棒の先端に小さくて青いビー玉のようなもので絵を描いて見せてくれる。ハートのような形だ。ぺんぺん草か何かだろうか。

 しかし冒険者とはいっても一般人の僕でも簡単になれる職業だ。ズナナ草を集めて生活する安全志向の冒険者がいてもよさそうなものだが。


「ズナナ草を集めるだけで魔物と戦わずに暮らせそうですがそういうことをしている人はいないのですか?」


「ズナナ草は乱獲されてもすぐに生えてくるようなのですが、散らばっているうえパッと見ズナナ草に見える物の9割はドクズナナなので数を集めるのが大変で、その割には単価が低いので宿代などで赤字になってしまうため冒険者がズナナ草だけで暮らすのは難しいです。その上森に入るので1日や2日ならともかく長期的に集めるとなると魔物と出会う事もありますし、その場合に対処できるのであれば魔物を狩ったほうがいい収入になりますし、魔物を倒すには実力が足りない冒険者の場合死ななかったとしても怪我をしてしまえばポーション代でそこそこの額が飛んでしまい結局赤字になってしまうことが多いです。そういったランクの方々がやる荷物運びなどの依頼は収入はある程度安定しますし怪我もしにくいです。なのでズナナ草は人気がありません」


 簡単そうな依頼の割には人気がないのはそういう理由だったようだ。専業でやるようなものではないらしいが、情報操作解析でどうにかならないだろうか。

 ソナーやレーダーのような使い方ができたりしたら便利そうだ。


「ありがとうございます。何とかなりそうな気がするので行ってきます!」


「はい。行ってらっしゃいませ。」


 サリーさんににこやかな笑顔で送り出される。サリーさんがこちらに笑顔を向けた時また寒気がしたような気がした。体調に問題とかが起きなければいいが……。

 ギルドから外に出ると寒気はなくなる。ギルドの空気が合わなかったのだろうか。


 街の外に出る。出るときには身分証の提示やステータスの開示は必要ないようだ。街中で犯罪をやって盗賊になった人が外に逃げ出すのを許すことになりそうだが、ただの街にこんな外壁があるくらいなのだからどこの街にも入れないとなると生きてはいけないのだろう。盗賊団とか作れば何とかなりそうな気はしないでもないが。しかしこのまま森に入ったら道に迷いそうだ。何かいい魔法はないだろうか。

 地図や方位磁石を思い浮かべてみるが何も発動しない。来たときには気付かなかったが森のほうを見てみるとこの森は若干傾斜がついていて街は丘のような場所の頂上にある。

 帰るときには坂を上るように進めば帰れるだろう。


 ズナナ草は散らばって生えているらしい。情報操作解析で何とかならないだろうか。

 レーダーっぽいのをイメージしてみるが成功しない。そもそもイメージしようにも本物のズナナ草を見たことがないのでイメージしようがない。

 とりあえず地道に探すことにする。森の中でも街の近いところなせいなのか、初めてこの世界に来た時の森よりはだいぶ木の間隔が広いように感じるが、相変わらず広葉樹林だ。

 下草は緑の良くわからない草がいっぱい生えているが、ところどころタンポポみたいなのが生えている。

 こんなすぐ近くに分かりやすくいっぱい生えているのに摘まれていないといことは恐らく利用価値は低いのだろう。

 5分ほど歩くとぺんぺん草が見つかったので、根本から摘んで鑑定してみる。茎は少し力を入れると簡単に折れた。長さは25cmほどで茎は四角い。

 ドクズナナ

 説明:毒草。経口摂取すると下痢や腹痛を起こす。ズナナ草に似ているが茎が四角いため判別が可能。


 はずれだ。毒草でもトリカブトくらい強ければ戦闘に使えそうなものだが下剤ごときではその役にすら立たない。まあアイテムボックスには余裕があるから一応保管しておこう。

 インベントリは5/1012になっている。アイテムボックスのドクズナナの説明では毒草とだけ書かれている。


 とりあえずドクズナナがぺんぺん草だということはわかった。似ているというくらいなのだからズナナ草もぺんぺん草なのだろう。

 ぺんぺん草を探して片っ端から摘むことにする。別に毒草を無駄に採ってしまったところで問題はないだろうし。

 体感で1時間ほどたったころだろうか。ドクズナナを8本採取した俺はようやく1本目のズナナ草を発見した!

 ズナナ草もぺんぺん草だ。茎が丸い以外はドクズナナと大差ない。ともあれこれでイメージが可能だ。ズナナ草をアイテムボックスにしまい、もう一度ズナナ草をイメージしてみる。

 反応はない。レーダ―のように使うことはできないようだ。そう残念に思いながら顔を上げると草地の中に ▼ こんな感じの赤い逆三角形のマークがあるのが見える。

 近付いてその下を見てみるとぺんぺん草が生えている。鑑定してみるとズナナ草だ。

 レーダーのようなまねはできないらしいが視界の中に入っていればわかるのだろうか。ここから見える範囲でも3つほどの▼マークが見える。全て採取してみるがズナナ草ばかりだ。

 これを使えばズナナ草だけで生活できるかもしれない。でもやっぱり魔物と戦う方がロマンがあるよな。

 そんなことを考えながら森の中を歩き回ってひたすら▼を回収する。依頼書には15㎝以上のものを持ってこいと書いてあったがそれより小さいものは見当たらなかった。

 乱獲しても生えてくるようなのに小さいものを採取しない理由が何かあるのだろうか。今度聞いてみよう。


 途中でパンを食べたりしながらだが夕方まで森の中を歩きまわった結果、200本ほどのズナナ草が集まった。6000テル、6万円だ。これだけで余裕で生活できるな。薬草の数が減らなければだが。

 これだけ大量に集めても15㎝以下の物は見当たらなかった。ズナナ草は最初から15cm以上の状態で地面からニョキッと生えてきたりするのだろうか。

 それならば乱獲してもいくらでも生えてくるのもうなずける。

 とりあえず日が暮れてきたので街に戻ることにした。道に迷うことはなかった。

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