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第55話 砂糖と気圧

 さて、次はメイプル商会だ。

 勝手に船を発注してしまったが、そもそも船は俺が砂糖を入手するためだけではなく、商会の仕事としてやるためなのだ。

 商会の基盤を俺に頼ることになると、俺が自由に動けなくなってしまうしな。


 というわけでメイプル商会にやってきた。

 こちらはカトリーヌ魔道具店と違い、街にある普通の店っぽい感じだ。

 店はもう完成したようで、普通に客も入っている。

 まあ、まだ俺が持ってきた材料を使った干し肉は完成していないだろうから、味は特に関係ないだろうが。


「メルシアいる?」


 観察するよりは直接聞いたほうが早いので、さっさと店員に話しかける。

 店員は見覚えがあるし、俺の顔を覚えていてもおかしくはない。

 一応オーナーだし。


「あ、はい。 店長は倉庫のほうにいるかと思います」


「ああ、じゃあ行ってみるよ」


 倉庫の場所は覚えている。

 この間と同じルートをたどって、ばっちり迷わずたどり着くことができた。

 エインでは方向音痴っぷりを発揮したが、一度行った場所への行き方を間違えるほど俺は方向音痴ではない、多分。

 倉庫の中では従業員(男二人、女一人)がガルデンを解体しており、それをメルシアが見ている。

 監督しているのだろうか。


「ようメルシア、店の調子はどうだ?」


「はい、お客さんの入りも悪くはありませんし、想定していた通りくらいです」


 メルシアが振り向き、返事を返す。

 急に視界の外から話しかけられて正確に返事できるとは、実は俺が来ていたのに気づいていたとかじゃなかろうか。


「良くもないのか?」


「店としては今のところは若干の赤字かと。 他の店でも買える程度のものを普通の値段で買って、販売しているだけなのですから、前からここで商売をしているお店に競争で勝てるわけがありません」


 そりゃあ勝てないな。


「俺が持ってきた肉の販売を始めてからが勝負か」


「はい。 今は販売による利益は小さいですが、せっかく用意した従業員を遊ばせておくのは勿体無いですし、店員としての教育も兼ねて仕入れた物を売っています」


 うん、極めて常識的な店舗運営だといえるだろう。

 うちは仕入れなどの点でアドバンテージがあるのだから、他の点で変な勝負に出る必要はない。

 商売など誰でも生活をかけてやっているのだから、奇策を弄したくらいでどうこうなるものでもないしな。

 大安売りで他の店を潰した上で値上げして儲けるなどという戦術は成功例があるが、それも安価な調達ルートとすさまじい規模あってのことだ。

 俺のところでもできなくはないかもしれないが恨みも買うだろうし、普通にやるのが一番だ。

 魔物の領域から肉が強制的に供給されている以上、やるにしても成功する可能性は低いだろうが。


「予定としては順調ってとこか。 ところでこの間ちょっと立ち寄った島でサトウキビを見つけたから栽培しようと思うんだけど、詳しい人とかいるか?」


「サトウキビの栽培ですか? まず許可がおりないと思いますけど、許可はとってるんですか?」


 許可がおりない?

 今まで砂糖が見当たらなかったのって、農地がないせいじゃなくて禁止されてるせいだったとか?


「サトウキビ栽培に許可が必要? どういうことだ?」


「サトウキビは魔物を発生させこそしないものの、付近の魔物の領域からの魔物の発生を増やすということで一般的に栽培に許可は降りていません」


「島で栽培しようと思ってるんだが、それならなんとかなるか?」


「島でですか? それなら可能性はあるかもしれませんが、ちょうどいい農地がある島なんてありませんよ?」


「それは今から作る。 魔物の領域の、平らな森がある島の木を魔法で全滅させれば、魔物が発生しない肥沃な島の完成だ」


 空を飛ぶ魔物はデシバトレでも稀だとのことだし、シェルターでも作ればより安全だな。


「魔物の領域の島にたどり着ける船と港は?」


「人を運ぶ船はもう造船所に発注した。 港はないが代わりに空飛ぶ小型船を使う。 あと物資は俺が運ぶ」


 俺の言葉を聞いて、メルシアは少し考えこむ見せた後、小さく頷いた。


「それならなんとかなるかもしれません。 しかしそれだと随分初期コストが必要になりますし、失敗したら大赤字ですよ? リスクを抑えるため小規模な商会のままいくのではなかったのですか?」


「それは今までもここの重要な産業だった肉に関しての話だ。 金はあるし、許可が下りれば責任は俺が持つから、やれるだけやってみてくれ」


「わかりました! では申請に今から行きますか?」


 随分と気が早いな、心なしか目がキラキラと輝いている気がする。

 そういえばメルシアは、商売がやりたくてうちに来たんだったっけ。

 そこにいきなり大きく、面白そうな案件が持ち込まれれば、こんな反応にもなるかもしれないな。


「干し肉はいいのか?」


「もともと私がいなくてもなんとかなる仕事ですが、一応知っておくべきだろうとのことで見ていただけです。 任せておける経験者もいますし」

「店長って案外ヒマなのか?」


「普通のお店なら店長が店員なども兼任しますので、私の仕事は少ないです。 しかし今後のことを考えると、ある程度教育が済んだ従業員を確保しておきたいので目一杯雇っています」


 つまり、ヒマなんだな。

 別にサボっているというわけではなさそうだが。


「じゃあ、申請いくか」


「はい」


 まあ、そういうことで商業ギルドに申請に行ったのだが。

 どうやら商業ギルドの人だけで決めるわけには行かないことらしく、デシバトレの町長などに聞くため時間がかかるとのことだ。

 正確には商業ギルドの権限で許可は出せなくもないが、問題が起こるのを避けるため他の場所に聞く、ということらしいが、結果は変わらない。


「許可、降りるでしょうか」


 メルシアが心配そうな声でつぶやく。


「俺が町長に直接頼んでみるから多分大丈夫だ、申請が通る前提で人、その他必要なものの確保を進めてくれ」


「通らなかったら?」


「多少の損害は出るかもしれないが、伐採でずいぶん金があるからな。 一応商業ギルド経由で1億ほど渡しておくから、その範囲にとどめてくれ」


「分かりました。 労働者は奴隷で?」


「それが一番だな、普通の労働者はいろいろめんどくさそうだ」


 サトウキビといえば奴隷だ。

 ブラック企業にするつもりはないが、せっかく島に運んだのに帰りたい等と言われても困るしな。

 もう許可がすっかり通った気でいるが、通る気がするのだから仕方ない。


「では本日最後の課題、サトウキビから砂糖を作ることだ」


 そう言ってサトウキビを取り出してみせる。


「それは大切ですね、製糖できるかどうかわからないのに準備をするのはよくありませんし」


「その通りだ。 製糖に関して、何か道具とかあるか?」


「分かりません。 さすがにそこまでは専門外ですし、製糖がほとんどされなくなってから100年ほどは経っているでしょうから……」


「あったとして、現存はしていないか。 ……ん? ほとんど?」


「ええ。 ごく少ない上、遠い国ではありますが、メルクレンでは貴族向けなどに砂糖が作られているとのことです」


 遠くの国か……

 流石にブロケン攻略を控えたこの時期に遠くの国へ行くわけにもいかない。

 外壁の建造なども考えるとしばらくはある程度ここに近い場所にいる必要があるだろう。


「製糖ができるってことがわかっただけで十分だ。 後はいろいろ試してみるぞ。 でかい鍋あるか?」


「干し肉の材料を茹でるのに使うのが倉庫にあります」


「では倉庫に戻るぞ!」


 倉庫に戻り、製糖を開始する。

 まずはサトウキビを砕くなりなんなりして、汁を取り出すところからだ。

 メルシアが見守る中、直径60cm程もある寸胴鍋にメルシアがどこからか持ってきた布を張り、その上に5本ほどのサトウキビを細かく切って投入する。

 それから、適当にサトウキビが浸かるように魔法で水を入れ、加熱することにする。

 布は後でサトウキビを取り出すためだ。


「うまくいくでしょうか……」


「まあ、ダメなら他の方法をためすさ」


 そんな話をしながら、温度が上がるのを待つ。

 魔石を使ったコンロのようなものを使っての加熱、火力は低く無いのだが、水の量が多いため加熱には時間がかかる。

 20分ほどたって、ようやく熱いお湯になった。

 次は魔法で汁を絞る。


「よし、いくぞ」


「はい」


 鍋の内部に圧力魔法を2つ向かい合わせに発生させて、間にあるサトウキビを挟み込むのだ。

 鍋は割としっかりと固定されているので、圧力魔法で内部の水が動いた程度なら倒れたりはしない。

 中をのぞいてみると、サトウキビはバッチリ砕けている。


「よし、これで多分砂糖を含む汁は取り出せた。 引き上げるぞ」


「はい!」


 布の端っこを持って、絞りながらサトウキビを取り出す。

 なんとなくノリで素手で持ってしまったが、火傷はしなかったのでそのままいく。

 絞ったサトウキビは鍋の蓋に置き、後はひたすら煮詰めるだけだ。

 しかし。


「長いですね……」


 その通りだ。

 直径60cmほど、高さはそれ以上ある寸胴鍋の水を全て蒸発させるとか、やってられないレベルの長さだ。

 いっそ魔法で一気に加熱するか?

 しかしそれだと砂糖が焦げたりしてしまう可能性がある、あと下手すれば鍋が壊れる。

 いや、水を速く蒸発させる方法はもうひとつあったな。


「よし、気圧を下げよう」


 沸点を下げてしまえばいいのだ。


「きあつ…… なんですかそれ?」


「大気の圧力のことだ。 まあ見ているといい」


 そう言って鍋の内側に結界魔法を張り、その内部から空気を引っ張り出すイメージで魔法を使う。

 すると、みるみるうちに水が減っていく。


「すごいですね! これがきあつの力ですか!」


「まあそんな感じだ、さあ仕上げだ、火止めてくれ」


「はい!」


 火が止まったのを確認し、更に気圧を落とすと、遂に鍋から液体がなくなり、後には黒い塊が残った。

 取り出し、細かく砕いて口に入れてみる。


「おお! 甘いぞ、食ってみろ」


「……ええ! 甘いですね!」


 製糖は成功したようだ。

 これだけの量を煮詰めてできた砂糖は300グラムにも満たない上、白いものではないが、一応成功だ。

 さて、砂糖も一区切りついたし、デシバトレで残った爆破でも終わらせに行くことにしようか。

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