第54話 船と魔道具
適当に死体を回収した俺が、本数にして102万本余りにも及ぶ大爆破の成果を報告してからのギルドの仕事は速かった。
あっという間に町長や、冒険者のパーティーリーダー、それに店主たちが集まり、ブロケン奪還作戦について会議をすることになった。
もちろん伐採の報酬は直ちに書き込まれ、デシバトレカードには52億テルほどの額が記されている。
当然というべきか、会議は町長が議長的なポジションで進められることになった。
本来、こういった魔物の領域に対する大規模な進攻作戦では補給がネックになって進撃が鈍るのだが、今回はそれを力ずくで解決する手段がある。
もちろんその手段というのは俺のことなのだが、さすがにない食料を運ぶ事はできないので、フォトレン付近から食料を集めるようだ。
調達自体は俺の仕事ではないので、俺は運ぶだけだが。
第2の課題として、資材を簡単に運べない場所で魔物と戦いながら砦を作る必要があることだが、これも俺の力で無理やり解決してしまおうということになった。
資材を簡単に運べない場所のはずだが、俺ならば運べてしまうのだ。
さすがにそれを使う人員自体は俺が運ぶのは厳しいので、全部解決というわけではないが。
ついでに、運んでいない時には砦建設地の前方に時々爆発魔法をばらまき、戦闘も支援することになった。
俺ばかりやたらと仕事をすることになるが、俺にしかできないのだから仕方がない。
結構キツイかもしれないが、まあ無理というレベルではないだろう。
『無理』というのは、嘘つきの言葉なのだとか、どこかで聞いたし。
その他にも細々とした方針はあったが、まあそんなに重要なことはなかった。
せいぜい、まず少数精鋭で小さな壁と堀だけ作って、ある程度使える状態になり次第あまり強くない連中を連れて行って加速するということくらいだ。
序盤を何とかすればあとは雪だるま式に砦が完成する、序盤が大事だ。
切った木の焼却、食料等の準備の関係上、作戦開始は1週間後になるそうだ。
「それではカエデ、頼んだぞ」
「はい、ではまた」
解散した時には日が暮れていた。
夜中になってから寝るのは割と久しぶりな気がする。
夜には特にやることもないからな。
明日はフォトレンで船をつくる準備とをして、夕方辺りに建設予定地近くを吹き飛ばそう。
もともとブロケンがあったあたりもまとめて吹き飛ばしてしまっていいとのことなので、明日は気兼ねなく吹っ飛ばせる。
翌日、俺はフォトレンにある評判のいい造船所のあたりに来ていた。
造船所というよりは船大工だが。
目的はもちろん、ボートキラーにも耐える船を入手することだ。
造船所のとなりにある『船大工 ビオネス』という看板のついた店のような場所にいた男の人に話しかける。
「すみません、船を注文したいのですが、どうしたらいいですか?」
「話をお聞きしましょう、奥の部屋へどうぞ」
案内された部屋の、やや大きめのテーブルを挟んで向かい合わせに置かれている椅子に座って商談を開始する。
「どのような船をお求めでしょうか」
素人があれこれ考えるよりは、さっさと目的を言った方がいいと思い、最終目的から言う。
「ボートキラーの攻撃に耐えて、真正面から魔物の領域に突っ込めるような船と、それに載せるための小型の、空を飛ぶ船です」
空をとぶ船のほうは、揚陸の際に使うものだ。
「……ご予算は、いくらほどで?」
「一応、手持ちにはこのくらいありますが、できれば手持ちの素材を使うとかで節約したいところです」
そう言ってデシバトレカードを見せる。
日本円でいって500億くらいの感覚の額を見せても無理なら、そんなものは作れないということになる。
「えっ…… 流石にここまではいりませんが、本物ですかこれ?」
「偽装したカードを見せびらかしたりするなど、処刑してくださいと言っているようなものでは?」
まあ、仮にそうだとして俺を処刑できるかはまた別の話だが。
「……ええ、そうですね。 商談成立の際には確認を取らせていただくことになりますが。 それで、素材というのは?」
「ワイバーンの死体1匹分とか、メタルリザードメタルとかです」
「何者ですかあなた…… メタルリザードメタルは船には向きませんが、ワイバーンの骨はすごく優秀な船の材料です、大きさはどの程度で?」
「ワイバーン自体は頭から尻尾までで15m、ってとこでしょうか。 武器に使える部分はとっときたいんですけど」
「ワイバーンの素材で武器として優秀なのは爪や牙なので、そんなでもありませんよ。 柄としては強いことは強いですが、わざわざというほどのものではありません」
「そうですか。 じゃあ使っちゃって構いません。 大きさと、金額はどのくらいになりますか?」
「背骨を竜骨にするとして、30人ほどが乗れる規模です。 金額は素材によりますね」
30人か、そう悪くない規模だな。
デシバトレあたりで使われていないのが不思議になるくらいだ。
いや、あれはあれで道が試験として機能してるからありなのか?
「素材ですか。 強度重視で、おすすめはありますか?」
「魔物の領域となると、水中装甲はミスリルがいいかと。 軽くて丈夫ですし骨との相性も抜群、最近はちょっと安くなってきてますし」
ミスリルって安売りされるような金属なのか?
「安いんですか、ミスリル?」
「最近急に安くなりまして。 なんでも新しい燃料でミスリル精錬に向いてるのがあって、大増産されてるとか。 まあそれでも相変わらず、そこそこ高いんですけどね」
ミスリル、普通に燃料で精錬するのか。
夢のない話だが、向いてる燃料が魔法的なのだったら少しは魔法金属っぽい雰囲気が出るかもしれない。
「じゃあそれで、いくらかかります?」
「1億3000万テルから、1億7000万テル位になると思います」
結構余裕があるな。
あとは揚陸艇のほうだ。
「空飛ぶ船のほうは、どうですか?」
「船体に関してはうちで制作できなくもありませんが、飛ばすのは魔道具屋さんに頼まないといけませんね。 燃費がすごく悪いでしょうが、何に使うんですか?」
「メインの船で運んだ人や物を陸に上げるのに使うためのものなんで、燃費は多少悪くても大丈夫ですが、大きい方の船に積めるようにしてください」
「……その発想はありませんでした。 飛ばすとなると軽いものになるので、ある程度強度は犠牲になりますが」
「大丈夫です、垂直に浮かせた上で移動させるつもりなんで」
ボートキラーの射程外に逃げてしまえばこっちのものだ。
島自体は俺が焼き払った後だし。
「すごく不思議な船になりそうですが…… そちらはミスリルの船が完成してからで大丈夫ですか?」
「はい、どうせ揃わないとまともに運用できないんで」
「わかりました。 今から契約しても?」
「はい」
まあこんな感じで、船に関しての商談がまとまった。
商業ギルドで金を先払いして、造船所の隣の倉庫のような建物でワイバーンを解体した上で骨を渡し、造船所を出た。
今回の船はそこまで大きくもないし材料も加工しやすいとのことだが、完成まで2週間やそこらはかかるようだ。
ついでなので店にも寄っていくことにしたのだが、メイプルカトリーヌ魔道具店に行くと、以前と随分様子が変わっていた。
以前と比べて、置いてある魔道具の数が全然違うのだ。
前はせいぜい10個とかしかなかったのだが、今は50個近くある。
追加で金を出したわけではないし、売れ残っているというわけではなく、多分売れた金で魔石を仕入れた結果だろう。
質も随分と高い。
鑑定してすらいないが、疑う気も起きなかった。
慧眼……というのだろうか? デシバトレなどである程度魔石を見ていると、色や輝きなどである程度魔石の質がわかってしまうのだ。
間違いなくこれは満足できるレベルの魔石だ。
実際には無意識のうちに鑑定と似たようなことをしているのかもしれないが。
俺が使っている鑑定は厳密には鑑定魔法ではなかったはずだし。
少し下に目を移してみると、値札が目に入る。
1番安いもので20万テルなどというふざけた値札がついていた。
魔石のサイズからして、魔石の原価は1万テルといったところだろう。
これで売れるなら荒稼ぎだ。
様子を聞こうと思い、店員に仲介してもらう。
店員さんも以前のような女性ではなく、別にムキムキでもないが、戦おうと思えば戦えそうな男性に変わっていた。
「カトリーヌいます?」
「どちら様でしょうか。 いきなり店長と会わせろ等と言われても困るのですが」
よく考えてみると、俺の顔を知っているわけがないよな、写真なんてないんだし。
微妙に警戒されてしまったようだ。
「ああ、俺のこと知らないか。 俺はカエデ、一応これでもこの店のオーナーだ」
そう言ってギルドカードを見せる。
相変わらずランクは変わっていないが、今回のブロケン奪還の件で多分上がるだろう。
というか、もうランクが上がるのは確定していた気がする。
デシバトレでは、少なくとも俺に関してはそれほどランクが重視されていないので、その辺は後回しなのかもしれない。
俺も別にランク上げを急ぐ必要はないかなと思っているし。
「し…… 失礼しました! 店長は奥の部屋にいらっしゃいますが、私は店番をしなければならないので……」
「ああ、自分で行けるから大丈夫だよ」
職務に忠実なことだ。
店番兼警備員的な感じだな。
盗賊対策システムも完全に完璧とは行かないのだろう。
入ってみると、カトリーヌはちょうど作業を終えて一休みに入ったところのようだった。
「よう。 調子はどうだ、店を見る限り随分儲かってそうだけど」
「ええ、それはもう大儲けです。 今まででもう100万テル以上も売り上げました」
すげえ。
カトリーヌの懐に入るのは一部とはいえ、年収いくらになるんだ。
「……魔道具屋って、普通そんなに儲かるのか?」
「まさか。 私の腕……、というか、特性がすごく魔道具職人に向いてるみたいなんです」
「そうなのか?」
「はい、速度は遅すぎて魔法使いとしては使い物になりませんが、量が多くて精密な作業ができるので、実際には速く、高品質な魔道具が作れます」
魔法が使えなかった理由、というかスキルにあった不活性魔力というのが原因だろうか。
不活性魔力の人を探してきてウィスプコアで練習させたら、エリート魔道具職人が量産できるかもしれない。
考えておこうか。
まあ、儲かってるなら問題ないな。
「そりゃすごいな、儲けは店への投資に回してしまっていいから、まあ頑張ってくれ」
「はい。 ちょっと作ってみたい鎧があるのですが、それも作っていいですか?」
「魔道具屋が鎧? どんなのだ?」
「持ち主の魔力を使って防御する、軽くて防御性能の高い鎧があるのですが、それを真似てみようと思いまして」
おお、よさ気だな。
しかし特許とか危なそうだが大丈夫なのだろうか。
「特許とかないのか?」
「大丈夫です。 作るのが難しいだけで、技術としてはメジャーなものなので」
「よし、じゃあ好きにやれ。 いろいろ試すのはいいことだ」
「はい!」
この短い期間で100万テルを稼ぐとは、俺ほどではないとはいえカトリーヌも順調に一般人から離れていっているようだ。
やはりカトリーヌもメイプル商会の人間ということか。
メルシアは比較的常識人っぽかったが、まあ商会長くらいは普通の人でないとその下で働く人達が大変だろうしな。
適材適所だ。




