第53話 宴会と空爆
肉はうまいが、一人だけ食いながらというのもなんか居心地が悪い。
「食べますか? 食料はいっぱいあるので」
「……ワイバーンを食うとか普通の、いやお前以外の人間にとっては自殺行為だからな?」
「ああ、違いますよ。 普通のもあります、ジャイアントスパイダークラブとか」
「おお、それは食いてえな、いくらだ?」
「金とったら押し売りみたいじゃないですか。 タダでいいですよ」
ただ単に、何となく一緒に飯でも食おうかと思っただけなのだ。
なんだかんだ俺、この世界に来てから割とぼっちだからな。
別にぼっちでも楽しいし、友達をいっぱい作る必要は感じないが。
「高い食材だが、いいのか?」
「ええ、どうせ大量にありますから。 となるとこの石よりマシな調理器具のある場所とかあったら嬉しいんですけど、持ってたりしませんか?」
今までは食材だけあって、調理器具は同行者が持っていたものに頼っていた。
俺だけならこの石でも構わないが、3人分となると少々狭い。
「あるぞ、金払えば調理までやってくれると思うがどうする? その分の金は俺達が出すぞ」
「おお、そんな場所が。 どんなとこですか?」
「ロクな酒はないが、酒場みたいなもんだ。 こっちだぞ」
酒場!
ゲームとかでの情報収集場所の定番だ。
エインにはあったが、こっちにもあったのか。
「どんな酒があるんですか?」
「どうにかしてキツくした酒を運んできて水で薄めた大してうまくないくせに高い酒と、麦とかを運んできてこっちで作ったうまくないくせにそこそこ高い酒だ」
輸送の問題化……。そこまでして酒が飲みたいのだろうか。
「酒場で料理もしてるんですか? デシバトレってまともな食材があんまりなさそうなイメージですけど」
「この間、多分カエデが運んだのが入ってきてたが、基本はそうだな。 まあ古いが設備はあるし腕は確かだ、頼めばやってくれるだろ」
そんな話をしながらついていくと、程なくして酒場のような場所に到着する。
確かに古い酒場のような雰囲気があるが、大量に後付けされたと思しきドアがそれを台無しにしている。
冒険者さん――そういえば名前聞いてなかった――は、その中で一番作りのましなドアから中に入る。
店内に客はおらず、がらんとしていた。
「おうマスター、料理頼めるか?」
「食材はなんだ?」
店主をマスターと呼ぶのか。
酒場、というかバー的な感じかな。
そう思い、どこからか姿を表したマスターに目をやる。
……うん、やっぱりここはデシバトレだな。
マスターは、マスター(物理)って感じの筋骨隆々のおっさんだった。
まあ腕は確かそうだ。
料理ではなく、戦闘の腕だが。
冒険者ではなく料理なんてやっている理由は、多分膝に矢を受けてしまったとかだろう。
「ジャイアントスパイダークラブだ、そっちのカエデが持ってる。 金は俺が払う」
「調理方法は?」
「あー……カエデ、どうする?」
「どんなのがあるんですか?」
「焼いてもいいし、ゆでてもうまい。 他の料理は…… 材料がないな」
俺の手持ちにも他の材料は肉以外ロクなのがなかったはずだ。
後はこの辺りではまるで雑草のような扱いを受けているズナナ草か。
「おすすめは?」
「ゆでたほうが値は張るが、味は多分うまいな。 どうする?」
悩む、というか選びにくい回答だな……
金を出してもらうのに高い方を選ぶというのもどうかと思うし、かと言っておすすめを無視するというのもどうなんだ。
よし、投げよう。
「俺はどっちでもいいです。 材料ならすごくいっぱいあるので、なんなら両方でも」
そう言ってジャイアントスパイダークラブの脚を2本取り出す。
1本一体何キロあるのかわからないが、多分余裕で2桁だろう。
「そんなに食いきれるわけないだろ。 宴会でもやるつもりか?」
宴会か。
悪いアイデアじゃないかもしれない。
「人集めて宴会ってのもいいかもしれません。 調理費は会費集めるとかして」
「名案だな! 肉を大量に使っていいなら人集めてくるがどうする!」
冒険者さんたちも賛成してくれている。
街の人々と親睦を深めるいい機会だろう。
「大丈夫です。 材料はこれで足りますか?」
「おうよ! じゃあ始めるぞ」
そう言ってマスターが料理を始める。
殻を剥いて豪快にぶつ切り、見た目通りのワイルドな調理だ。
「じゃあ暇そうな奴ら呼んでくるぜ!」
まあこんなかんじで始まった宴会なのだが、予想外に多くの人が集まった。
総勢30人ほどの冒険者たちが酒場に集合し、料理を待っている。
まともな料理に飢えていたのか、随分と礼を言われた。
少しして料理が完成し、宴会が始まる。
「乾杯!」
こちらにも乾杯の文化があるらしい。
グラスをを上に上げる代わりに、一旦下に下ろす形式のものだが。
「おお! うめえな!」
「新鮮さが違う、さすがアイテムボックスだな」
概ね好評のようだ。
というか、肉に関してはすさまじい好評っぷりだ。
途中で足りなくなったため、更に追加してくらいだ。
ただひとつ問題があるとすれば。
「これで飲んでるのが酒だったらさらに最高なんだがな」
「昼からが本番なんだから、仕方ないな」
言われている通り、乾杯が、酒ではなく水による乾杯であることだろうか。
これから俺達は戦闘なのだから、流石に酒はまずいとの判断だ。
街に、呼んだだけでこんなに人が集まる程の人数が残っていたのも、昼からの爆撃のための待機といったもので、別に観光しに来たわけではない。
仕事なのだ。
やっぱり、宴会は夜にやるのが一番だね、ちょっと失敗したかもしれない。
まあ、好評だからいいか。
酒の入らない宴会は昼前ほどまで続き、森林破壊の時間だということで解散になった。
俺も上空から爆破箇所に向かう。
今日から爆撃が大規模化するということで連絡は入れてある。
後方で冒険者が守っているのを確認し次第、俺のタイミングで始めていいとのことだ。
鬱蒼としていたデシバトレ付近の森はすでに随分切り開かれ、見晴らしが良くなっている。
これなら多分、多少魔物が流入しても何とかなるだろう。
見晴らしがいいということは、やろうと思えば人数分の火力を集中させやすいということだからな。
全体としての火力がそれほど上がるわけではないが、対応力が上がる。
まあ、今回俺の仕事は爆破することだけだ。
今までとは違い、20平方キロ分もの魔力をふんだんに使用し、森をこんがり焼き上げる。
ここの幅は3キロほどなので、ささっと7キロほど先まで飛んでいって、1回目の爆発魔法を発動。
急降下して結界魔法を展開する。
おお、急降下がやりやすくなってる。
使える魔力が増えたせいか、飛行の軌道を急に変化させるのが楽だ。
また亜龍とか、出てこないかな。
そんなことを考えながら、いつも通りよりややスムーズに離脱、爆発現場を眺める。
やはり轟音とともに木々が吹き飛び、土煙が上がる。
いつもどおりの光景……ではない。
木々の飛距離が明らかに上がっている。
戦闘に気を取られていたせいで気が付かなかっただけで、レベルアップしていたようだ。
同程度の魔力消費でも、魔法の火力が明らかに違う。
これは、少しケチっても十分な火力が出そうだ。
近くの木を適当に爆破しての検証の結果、以前の8割くらいの魔力で同程度の火力が出ることがわかった。
爆発範囲2.5割増だ。
以前と比べて魔力で20倍なので、単純計算で25倍。
25平方キロ……
今までに切った範囲は5平方キロを下らないだろう。
ブロケンまでに必要な伐採範囲は30平方キロ。
あれ、ブロケン超えた。
ちょっと様子見に、前に進んでみる。
海岸線は俺がいた位置から一気にくびれた感じで狭まり、1キロやそこら進んだところで、幅1キロほどになっていた。
このくびれがブロケンのあった場所だな。
そこから長さ2キロほどにわたってその程度の太さが続き、その先でまたやや広がって4キロほどの幅を維持したまま10キロ程度の帯状の陸地がつながっている。
その帯状の陸地の先はもはや幅などわからないほどまで一気に広がり、大陸のような感じになっている。
デシバトレやブロケンがある場所は、半島がつながったようなものだったらしい。
超大規模な陸繋島という可能性もなくはないが、魔物大陸がどうとか聞いたし、あちらは大陸なのだろう。
なんでこんな地形になったのかは分からないが、そもそも潮が満引きしていなさそうな世界でそんなことを考える事自体にあまり意味がない。
夜空などのんびり眺めてはいないが、もしかしたら月がなかったりするかもしれない。
今日の夜にでも見てみようか。
まあ、とっととブロケンの手前まで爆破してしまおう。
ブロケン自体は爆破していいのかわからないので、とりあえず放っておく。
ブロケン手前から、今までと同じ程度のまで火力を抑えた爆破魔法と結界魔法で、デシバトレに向かって爆破していく。
20平方キロもの範囲を、これだけの威力で絨毯爆撃できるというのは、やはりすさまじいな。
おまけに垂直離着陸できて、気軽に爆破できるなど、某空母から発艦できる戦略爆撃機も真っ青だ。
デシバトレの見張り台からは、少しの間隔をおいて轟音とともに土煙に沈む木々は見えていることだろう。
爆破が速すぎるため死体が回収できそうにないのはやや勿体無いが、必要なら普通に魔物の領域に殴り込めばいいのだ。
資源を保全するには及ばない。
保全するといっても、人間には有害なものだからな。
そんなことを考えているうちに予定していた範囲の爆破が終わった。
見渡す限り、土煙と倒木の惨状だ。
生い茂っていた森も、随分と見晴らしが良くなったものだ。
半年とかかけて伐採する予定だった範囲を1日で終わらせてしまったのだから当然といえば当然だが。
さて、回収始めますかね。