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第52話 島と肉

 朝が来た。

 本当は今日のうちにサトウキビをどうにかしたいのだが、今日はギルドの方に話を通していないので、伐採を休むのはよくないだろう。

 今からギルドに行って『今日休みます』などと言ってもギルドには止める手段はないだろうが、それとこれとは話が別だ。


 いっそここで製糖してしまうか?

 確か砂糖は、サトウキビを砕いて絞って作られていたはずだ。

 それで出てきたしぼり汁を煮詰めて濃縮……


 砕くのは、まあなんとでもなるだろう。

 砕く際に出る汁を無駄にしないためには液体の受け皿が必要だが、それさえあれば刃杖か何かで適当に叩き潰せばいい。

 魔剣を使ったら容器ごと叩き斬りかねないので刃杖だ。

 メタルリザードメタルを利用し、耐久性にも優れた安全設計だ。


 絞るのは…… 道具を作ってもらえばなんとかなるだろう。

 圧力魔法も、時間をかけてゆっくり圧縮するような物が作れれば有望だ。

 煮詰めるのは考えるまでもなく余裕だが、砂糖がこげてしまわないよう気をつけなければならない。


 しかし、道具がないのでここでは無理だ。

 サトウキビは有限なのだ。

 仕方ない、製糖は保留だ。

 じゃあ、もう一つの砂糖入手の重要な要素、農地確保に向かおうか。

 ちょうどいい感じの島を探すのだ。

 島丸々一つ焼き払わなければ魔物に襲われる可能性が出てくるし、かと言ってあの島はサトウキビがあることを考えると焼き払うのはもったいない。

 あの近くに島が結構あったから、手頃なのを見繕っておこう。

 栽培するなら当然労働者も必要だろうから、食料はアイテムボックスで輸送するとして、水もあったほうがいいな。

 まあ人間が使う程度の水なら魔道具で何とかなりそうだし、この世界のサトウキビの性質次第ではあまり優先事項とはいえないか。

 しかし、木が生えてきそうであれば魔物が沸く大きさになる前に引っこ抜ける程度に管理できるレベルの大きさの島でなければならない。

 まあ、探してみるのが一番だろう。


 昨日と同じルートをたどってワイバーンのいた島を訪れる。

 ルートはうろ覚えだったが、運が良かったのか、ワイバーンの島はすぐ見つかった。

 高度を1キロ近くまで上げると、随分とたくさんの島が見える。

 というか、松島を島ごと拡大したらこうなるんじゃないかというくらい、島だらけだ。

 なんでこんな地形になっているのかは分からないが、島は平坦だし火山がないだけホットスポットよりは使いやすそうだな。

 ワイバーンのいた島から島2つ分、距離にして10キロくらい先にある半径1キロほどの島が、大きさ的にはちょうど良さそうだ。


 その島に降り立ってみた。

 着地地点付近にガルデンがいたので、これ幸いとばかりに首を刎ねてアイテムボックスに突っ込んでおく。

 適当にちょっと浮いて一周してみたが、特に貴重そうな植物も見当たらない。

 水は見当たらないが、魔道具に頼ればいいかな。

 あとは港が必要……あっ。

 そういえば港作ろうにも、魔物の領域近海にはボートキラーがいる。

 ナイスボートされてしまう。


 メタルリザードメタルやらをふんだんに使えば、多分撃沈されずに済むがさすがにどうかと思う。

 俺の個人的趣味が大きいとはいえ、砂糖は商会の方でやるのだから、あまり採算度外視はよくない。

 ボートキラーの強さ次第でどの程度のものを使う必要があるのかが決まるな。

 この世界が木造船ばかりだったりしたら、分厚い鉄の船で何とかなりそうだが。

 無理そうなら飛行魔法で人間を載せたカゴでも俺が持ち上げて運ぶしかないか?

 俺がいない間に何かあったら困るし、できればそれは避けたい。


 頑丈な船をつくるとして、港はほしいな。

 この島の周囲は砂浜っぽい感じだから、港作りには向かない。

 魔法で地形を改変するという手はあるが、なかなか難しそうだ。

 船の喫水にもよるが、海底まで掘るレベルの大工事が必要になる。

 他の島を探すか。


 再度飛行して、今度は海岸線あたりを重点的に見てみる。

 探すのは、水深が深い場所と隣合わせの場所だ。

 上空1キロ程から見ただけでも、数えきれないほどの島があったのだから、まず見つからないことはないだろう。

 そう思い、100mほどの高度を保ちつつちょうどいい島を探す。

 海の深さは色を見ればだいたい分かる。

 水色と青と緑が混ざったような色の海だが、深い場所は青が濃く、浅い場所は水色寄りだからな。

 まあ、手頃な島がすぐに見つかるだろう。


 ――約50分後。

 なかった。

 一つたりとも、深い海とちょうどいい大きさを持った島などなかった。

 それどころか大きさを気にしないでも、深い海がある島はない。

 どうやら喫水が深い船を使うのは無理のようだな。

 となると、重い金属を使った船は厳しいか。

 しかし大型でないと防御力が確保できない。

 揚陸艦のように沖に船を置いて小型ボートで移動しようものならたちまち魔物のエサだろう。


 む。

 揚陸艦か。

 別に揚陸艦が使うのは、小型ボートには限らなかったな。

 ホバークラフトやら、ヘリコプターやらといったものを使えば、魔物を避けつつ揚陸できるのではなかろうか。

 船自体は重装甲の、ボートキラーの攻撃に耐え切る者を使えばいい。

 重装甲強襲揚陸艦じみた商船、これだ。

 もはや何のための船かわからないが、乗っけるものを増やせば大規模な人員輸送が可能だろう。

 すさまじい初期投資が必要になりそうだから、大きさは考える必要があるが、選択肢には入る。


 そうとなったらとりあえず――島、爆破するか。

 燃やすまでに3日くらい必要だからな、予め爆破……

 駄目だろ、誰の土地かもわからないのにそんなことしたら。

 明日あたり商業ギルドにでも行って、使っていいかどうか聞いてみよう。

 駄目なら説得してみるしかないが。

 黄金色の菓子折りでも持っていくべきだろうか。


 まあ、そのへんは状況を見て、といったところか。

 俺の分の砂糖を用意するだけならこのへんから刈ってくればいいんだし、悪事を働いてまで増産を急ぐのもどうかと思うし。とりあえず、帰るか。

 ワイバーンの素材についても考えなければならない。

 遊ばせておくには惜しい素材だ。


 とりあえず用途を聞くところからだ。

 あとでメルシアにも聞いてみるが、ギルドにも聞いておいて損はない。

 食料品店の人も聞いたら答えてくれそうだが、あれでも商売人だ。

 どのような使い方でもそこまで利益に関わらないであろう場所のほうが、的確なアドバイスが期待できる。


「すみません、この間のワイバーンの素材なんですけど、何かおすすめの使い道とかありますか?」


「ワイバーンでしたら、フォトレンあたりに持っていけば買い手はいくらでもいると思います」


 今日の受付の人は丁寧な感じだ、俺がワイバーンを倒したことは伝わっているのか、特に変な反応はない。

 しかし売るのはちょっともったいないな。

 金にはそんなに困っていないのだ。

 船を作るのによほど予算が必要なら売却も必要になるかもしれないが、そもそもそこまで金をかけて船を作ってしまったら、商売として本末転倒な気がする。


「いえ、販売するんじゃなくて、自分で使う場合に良い使い道があるかなと」


「ワイバーンともなると特殊ですし専門外なのですが…… やはり武器とか、固い骨を防具にしたりとかだと思います」


 やはり武具か。

 硬い骨を防具にするというのも、今のものと比べたら多少軽くなる程度のメリットしかないかな。

 まあ一応聞いてみるか。


「メタルリザードメタルの装備より強いんですか?」


「頑丈さではメタルリザードメタルのほうが少し上といったところですが、骨は金属よりは軽いですし、武器なら魔力を使って火を出したりできますから、総合的にはワイバーンのほうが上ですね」


 うーん、やや微妙だ。


「魔力を使って、ってのは持ち主の魔力を使うってことですか?」


「はい、剣士の方は魔力を使わない場合が多いので、それを有効活用できるみたいです。 集中いらずで、振れば炎が出てくれるらしいですし」


 おお。

 つまりは、魔力を勝手に吸ってくれるタイプか?

 行き過ぎた魔剣と違って出力が小さい分、それでもなんとかなるのかもしれない。

 それか限界を超えて魔力を吸い尽くすほど吸引力がないとかか。

 いずれにしろ、魔力使用の枠外で魔法を使える武器というのは、悪くない。

 ワイバーン討伐の際に増えたとはいえ、やはり時間あたりに使える魔力は有限なのだ。


 まあ、魔剣に比べるとだいぶ劣る気がするので、とりあえず保留だ。

 魔法が効く相手なら魔法で戦ったほうが速いし、効かない相手には魔剣が圧倒的すぎるからな。

 後は肉か。


「ワイバーンの肉は、食えるんですか?」


 いや、他に用途が合ったりするのかもしれない、この聞き方でよかったのだろうか。


「条件がいい場所に1年くらい干して食べたら美味かったと言う話は聞いたことがありますが、基本的には魔物の領域にいる魔物の肉をさらに悪化させたようなものなので、まともに食うようなものじゃないですね」


「魔力過多ってやつですか?」


「はい、食うのはおすすめは出来ませんね」


「わかりました、ありがとうございます」


 魔力過多か、鑑定では魔素過多とかなってたっけ。。

 うまいのか。

 ……ちょっとだけ食ってみようかな、洞窟の時も大丈夫だったし。

 下手すればMPが増えるかもしれない。

 駄目でも致死量にならないように、ちょっとづつ食って様子見をしてみよう。


 昼飯にはちょっと早いかもしれないが、ちょっと適当に外に出て、開いているところで5cm角くらいにカットした上で薄切りにした肉を焼いてみることにする。

 肉を焼く道具など持っていないので、そのへんにあった石を魔剣で平らに切って、水で洗って鉄板代わりにする。

 後は適当に魔法で上から加熱するだけだ。

 火魔法の、威力を抑えて継続時間を伸ばした感じのものを使えば、別に熱を通しやすい板がなくともなんとかなる。

 ほどなくして、いい感じの香りがしてきた。


「おう坊主、何焼いてるんだ?」


 近くを通った冒険者2人組に唐突に話しかけられた。


「ワイバーンです」


「……お前がカエデか、化け物だとは聞いているがそれはやめたほうがいいぞ、おとなしく普通の食ったほうが身のためだ」


「試してみなければわかりません、俺は魔力がすごく多いので、多少増えたところで変わりません」


 いい感じに肉が焼けた。

 念のため、厚さ1cmほどの肉を、さらに1cm角にカットして口に放り込む。

 素晴らしい味だ、日本の高い肉を、やや味を濃くして硬さを増した感じだ。

 その硬さも、噛みきれない感じの硬さではなく、純粋に歯ごたえがある、というようなものだ。

 体調の悪化も特に見られない。


「あーあ、食っちまったよ…… 大丈夫か?」


「うまいですよ! これはいけます!」


「お、おう……」


 引かれてしまった。

冒険者、普通にいい人達です。


主人公に絡むクソ冒険者は、自然な流れで出せなかったのであきらめました。

出したかったのですが……

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