第49話 亜龍と息吹
とりあえず店の側の用事も片付いたので、パンでも買ってデシバトレに帰還することにする。
何事もなければ20日ほどは放っておいても利益が減ったりはしないだろう。
従業員を大増員して生産量を一気に増やす、とかなら話は別だが、別に市場を不必要に荒らすつもりはないのだ。
大量生産して大幅値下げ、潰れた周りの肉屋の従業員を雇って更に増産、いい感じに周りの肉屋が壊滅したところで元の値段に戻す、などという某スーパーマーケットみたいな手法で荒稼ぎできる可能性も高いが、恨みを買いすぎる上、そこまでする必要もない。
一都市レベルの商売ではなく、新しい市場を作るレベルの話になればまた別だろうが。
製鉄とか。
帰りも亜音速飛行だ。
MPは多少食うが、所詮は1時間やそこらだし爆撃を2回行うのに支障が出るほどではないと思う。
INTの増量分でカバー出来る程度だ、多分。
昼過ぎにデシバトレに到着したが、飯を食ってからギルドに行ってみると今日の大規模伐採は休みだという。
大規模伐採により流出した魔物へ対策できるほどの人数を集めていないからだ。
俺無しで伐採を進めようにもコストばかりかかって成果が小さいため、俺がいない時には現状維持のみするとのことだ。
まあ、常時全力で防衛せずとも現状維持ができるようになっただけでも、だいぶましになったといえる。
森と街の距離が開いた影響は随分と大きいようだ。
距離といえば、フォトレン付近では畑を殆ど見ないし、街と街の距離も随分あると思うのだが、食料はどうしているのだろう。
肉ばかり食っているのか?
まあ何か理由があるのだろう。
街と街の距離なんて、俺が考えても仕方のないことだ。
食料品店でパンを渡して肉を受け取ってから、再度魔物狩りに出かける。
森に潜っていくが、普段より魔物がやや少なく感じる。
爆破伐採をしていない影響か?
しかし爆破伐採は昨日行っているし、今日の爆破伐採の影響が出るような時間でもないはずだ。
まあ、たまたまだろう。
魔物だってたまには休みたいだろうし。
森の奥に入り、やはりやや少ない魔物を作業的に斬ってはアイテムボックスに投入する。
無差別というわけではなく、ガルデンを重点的に探してだが。
討伐報酬より、商品だからな。
金額はもともと大したことはないが、店の評判や規模というのはそれはそれで財産だ。
多少魔物を倒して手に入る程度の金よりは価値がある、と思う。
俺の願いに答えてか、今日は魔物の数の割にガルデンが多かった。
というか、普段とガルデン自体の数は変わらずに他の魔物が減った感じだ。
特にブラックウルフなど一度も見かけていない。
今日はブラックウルフの休業日か。
ブラックウルフは味も微妙らしいし、別にいなくてもそうは困らないな。
そのまま適当に魔物を殺して回って、ギルドへ報告にいく。
「すみません、報告に来たのですが」
「……相変わらずすさまじい数だな」
デシバトレギルドは相変わらずの対応だ。
流石デシバトレギルドは格が違った。
「ええ、でも今日はなんかブラックウルフの数が少なかった気がしたんですが、気のせいでしょうか」
というか、いなかった気もする。
「確かにそういう報告が上がっていたな。 まあ魔物の種類が変わるなんてことは時々あることだ。 特に大規模に環境を変える時とかはな」
「そういうものなんですか」
「そうだ。 まあ亜龍だとかが出る前にも似たようなことがあったって話はあるが、伐採の影響の可能性が高い、おかげで防衛が楽だって話してたところだぜ」
「亜龍!? 大丈夫なんですか!?」
亜龍とか、俺が聞いた中でドラゴンの次くらいにヤバい魔物だ。
出てきたら都市が危ないんじゃなかろうか。
「一応今の戦力なら、被害は大きいだろうが倒せないこともないと思うぞ。 一応前線都市だけあって、戦力は集まってるからな。 まあ亜龍なんてめったに出るもんじゃないから心配すんな」
「えぇ……」
そんなことで大丈夫なのだろうか。
「亜龍なんてのは大地震みたいなもんだ。 一応の対策はできるが来るときには来るし、警戒し続けるわけにもいかないからな」
「……分かりました。 まあ、めったに来ないなら大丈夫ですね」
「ああ。 もし亜龍でも出てくれば大手柄のチャンスだな。 魔力がすごく多くて風魔法が使える魔法使いなんて、亜龍退治のためにいるんじゃないかって感じだ」
風魔法が亜龍に効くのか。
いや、しかし風の攻撃魔法など知らない。
メタルリザードの時のように、空を飛ぶのに使うのかもしれない。
まあ、出会わないに越したことはないな。
「出番が来ないことを祈っておきます」
そう言ってギルドを出る。
ほぼ丸一日爆発魔法と結界魔法を貯めたが、特に問題は起きていないことを確認してから就寝した。
翌朝、いつも通り、昼前までの魔物狩りに出かける。
しかし、一番手前はともかく、森に少し入ると魔物の数が急に減る。
昨日より少ない。
魔物がいる場所を探すために高度を上げながら前進する。
と、100mほど上がり、数キロ飛んだところだろうか。
なんだか嫌な予感がしたので、高度を上げるペースを落とす。
やや遠くに、見覚えのない、赤い塊のようなものが見える。
距離は1キロやそこらだろうか。
こちらに向かってきているような気もする。
鑑定魔法でウィンドウを表示し、すぐさま高度を落とす。
もしあれが敵だとしたら、メタルリザードの時のように見つかってしまっては元も子もない。
塊が見えなくなったところで鑑定結果を確認する。
イグニス・ワイバーン
RANK:A
HP 2578213/2578213
MP 5792889899/5792889899
STR:563
INT:2792
AGI:450
DEX:252
スキル:ワイバーンブレス、飛翔
ワイバーン……
57億とかいうふざけたMPに、ブレス攻撃っぽい名前のスキル、満遍なく高いステータスに、もはやバグっているんじゃないかと思うほどのINT。
……亜龍?
魔物が少なかったのもこいつのせいか?
いや、明後日来いとは言ったけどさ、本当に来なくてもいいんだぜ?
テストを翌日に控えた学生が『あー明日台風で学校吹き飛ばないかな―』等と言っているのを真に受けて学校を吹き飛ばす台風なんかが現れたら困るだろう?
というわけでお帰り願おう。
しかしお帰り願う手段がないな。
爆撃してみるか?
いや、勝手にやるのはまずいだろう。
一旦ギルドに報告して、判断を仰ぐべきだ。
そうと決まれば撤退だ。
見つからないように高度を落とし、デシバトレに向けて速度を上げ……ようとしたところで、地響きが耳に入る。
恐る恐る振り向いてみると、さっきの塊――というか見た目は普通にドラゴンだ――がこちらに向けて速度をあげていた。
パッと見でも時速60キロほどは速度がある。
10m以上の大きさがあるドラゴンが木を倒しながら進んでいくのは圧巻だが、眺めている訳にはいかない。
撤退もダメだな、街に出る被害が大きすぎる。
ここから街まで5キロもないのだ。さっきまでの速度ならともかく、今の速度では報告が終わった頃には街に到着してしまうだろう。
……仕方ない、とりあえず気を引くか。
まあ、魔法装甲もあるしなんとかなるだろう、多分。
報告したところでどっちにしろ戦うことになるのだろうし。
ということで、とりあえず爆発魔法を打ち込む。
近付いている時間はないので、結界は使わずに爆発魔法を打ち込む。
通常は1キロ四方の、木と魔物をまとめて吹き飛ばすための魔力を一点に集中させてだ。
ワイバーンはそれに気付いた様子も見せずに走り続け、魔法はワイバーンの右前方3mほどに着弾。
直後、轟音とともにワイバーンの周囲の木々が千切れ飛び、土煙が上がる。
そのままのペースで走っていたとしたら煙から抜ける程度の時間が経過しても、ワイバーンは姿を表さなかった。
やったか!?
距離を詰めながら、不意打ち成功に喜ぶ。
煙は中々晴れず、爆破地点から50mほどの距離にまで近づいたところで、ようやくワイバーンの姿が見えた。
ワイバーンは生きていた。
っていうかこっち向いてる。
ワイバーンが口を開けるのが見えた。
ブレスか!?
嫌な予感を感じ、慌てて横に方向転換する。
しかし俺は今の時点で速度がかなり出ているせいか、方向転換がにぶい。
しかも速度が出ているのは、ワイバーンに向かう方向だ。
距離を取ることもできない。
ワイバーンが息を吸うのが見えた。
よけきれないと判断し、魔法装甲の強化に魔力を費やす。
今の時点で千を超える魔力が使われているであろう魔法装甲だが、やらないよりはましだ。
0.5秒ほどの後、ブレスが発射された。
視界が赤く染まるが、とりあえず装甲は耐えてくれている。
いや、割れていないことは割れていないが、今までの耐え方とは違う。
ブレスに装甲を削り取られて、いや分解されている感じがする。
装甲が薄くなっていっているのを感じながら、装甲にさらに魔力を注ぎ込み耐えること、どのくらいがたったか。
ブレスが止んだ。
1秒は経っていない気がする。
しかし装甲の被害は小さくなかった。
体感で魔法装甲の8割ほどを失っただろうか。
低く見積もって元々の装甲が1000程度の魔力を使ったものだとしても、800だ。
補充には他に魔力を一切使わずとも、80秒を要することになる。
その間に2発目が飛んできたら無事ではすまないだろう。
現に俺自身に火傷こそないが、手などの装甲が薄めの部分に熱さを感じる。
これはヤバい。
スキルからして飛べるのだろうし、空中に逃げるのも無理だ。
音速で街と逆方向に逃げようにも、加速している間に追いつかれる可能性が高い。
空を飛ぶ、しかもワイバーンなんて生き物が遅いわけがないのだ。
AGIからしても、かなり速いであろうことは間違いない。
距離を取ろうにも、ブレスの速度と射程からして、見てから回避余裕でしたとはいかないだろう。
やっぱり、懐に潜り込むしかないか。
懐に潜り込んでしまいさえすれば、ブレスは簡単には届かないし、移動距離が小さくても、ワイバーンから角度的には大きく避けることができる。
その他のステータスからして物理攻撃のほうは、まだ魔法装甲で何とかなりそうだ。
どうして爆撃を食らってダメージがないのかは気になるが、他に手がないなら仕方がない。
俺は覚悟を決め、ワイバーンの足元に突っ込んだ。
現地点での主人公のステータス
名前:スズミヤ カエデ
年齢/種族/性別 : 21/人族/男
レベル:30
HP:1091/1091
MP:94528637/94528637 (9400万くらい)
STR:190
INT:280
AGI:209
DEX:214
スキル:情報操作解析 (隠蔽)、異世界言語完全習得 (隠蔽)、魔法の素質、武芸の素質、異界者 (隠蔽)、全属性親和 (隠蔽)、火魔法3 土魔法3 水魔法3 圧力魔法1 風魔法5 知覚魔法4 回復魔法2 剣術2 結界魔法5 爆発魔法5 魔素適応unknown
亜龍のステータス(遭遇時)
イグニス・ワイバーン
RANK:A
HP 2578213/2578213
MP 5792889899/5792889899 (58億くらい)
STR:563
INT:2792
AGI:450
DEX:252
スキル:ワイバーンブレス、飛翔