第48話 店舗と倉庫
魔物を受け取ったり報酬を受け取ったりし、眠りについた翌朝。
普通にいつもどおりの時間に目が覚めた。
今まで魔物のせいで寝ている時に起こされたことはないが、街の中心付近の宿であること以外に、俺が前線を上げたのもあるのかもしれない。
そういえばどうなっているだろう、と思ってステータスを確認してみると、スキルに爆発魔法5と、結界魔法5が追加されていた。
レベルは爆破前27だったものが30になり、INTは元の値は覚えていないが、280になっている。
ここまでステータスは大体等差数列的に上がってきたので、おそらく1.1倍ほどになっていると思われる。
10レベルごとに大きく上がった気もするから、もうちょっと上がっているかもしれない。
その分爆破範囲を増やせるわけだ。
そんなことを考えながら朝食のグリーンウルフ定食を食う。
朝食らしい朝食など、こちらに来てから一度も食っていない気がする。
まあその分、尋常ではないカロリーを消費しているのだろうが。
と言うかむしろ餓死しないか心配になるほどだ。
そろそろ魔物も結構たまったので、一度フォトレンに行っておきたいな。
仮に従業員が10人いたとして、全員ニートで店は休業していたとしても1年は暮らせるほどの初期資金があるから心配は多分必要ないのだが、規模は大きくしていきたい。
今や俺は戦術級の魔法で魔物を殲滅し、素材や食料を持ち帰ることができるわけだし、そればかりかしばらくしたらコークス関連の収入さえ入るのだ。
コークスやら使うような場所には関わっていないから状況はわからないのだが、あの反応からして収入がないということもないだろう。
何ヶ月、あるいは何年とかかるかもしれないが、設備投資が一段落すれば収入が入るだろう。
いっそ俺自身がまとめて投資してしまうというのもありかもしれない、今の俺の飛行ならエレーラまで半日で往復できそうだ。
などと考えながら、デシバトレ外周の壁を超える。
今日の午前中は魔力を節約して普通に魔物狩りだ。
無限に近い魔力を持っているはずなのに、魔力を節約するというのも変な話だが。
魔剣のように、秒速10の枠外の魔力を使えるような道具がもっとあったら便利だな。
まあどうせフォトレンに行くなら時間をある程度確保していきたい。
町長に言って、明日の伐採を休むことにしようか。
飛んでいって爆破するだけなら30分かからないし、魔力が2日分キープできるならまとめて2日分、翌日にでも森に叩き込めばいい。
うん、そうしよう。
とか計画しながら、風魔法でちょっと加速して黒っぽくて大きいガルゴンみたいのに魔剣を叩き込む。
ギルドカードを見る限り、こいつはガルデンというらしい。
まあ知ったこっちゃない、たかが考え事をしながら片手間に殺される程度の魔物だ。
俺にとっては魔物というよりは、食料であり資源だ。
今の俺なら、メタルリザードが出てきたところで同じ括りに入れてしまいそうだが。
亜龍でも何でも出てこいや。
あっ、やっぱやめて。
今出てこられてもフォトレン行きに差し障る。
出てくるなら明後日まとめて爆撃するときにして、できれば巻き込まれて死んでくれ。
そんな下らないことを考えながら魔物は殲滅し、ところどころ切り残されている木を伐採しながらアイテムボックスに収納していく。
魔力をフルに使った戦闘と比べて速度も遅すぎ、敵も弱すぎで、考え事でもしていなければやっていられないのだ。
魔法装甲が攻撃をまず通さないのも緊張感の欠如に拍車をかけているし、前線付近は木が壊滅しているせいで見通しが良いためなおさら警戒する気がなくなる。
戦闘というより、ただの作業だ。
薬草摘みと何ら変わらない。
そんな感じで魔物を狩って周り、昼に集合、森を爆破して夕方まで伐採。
特に変わったこともない、平和なデシバトレの日常だ。
伐採(爆砕?)の報告のついでに、明日のことを聞いてみる。
ちなみに今日切ったのは50032本、ついに5万の大台に乗った。
「明日、朝からちょっとフォトレンに行きたいんですけど、大丈夫ですか?」
「前にも言ったが、冒険者ギルドは冒険者を縛ることはできない。 もちろん問題ないが、一応帰ってくる日の予定が決まっているなら聞いておきたい」
「明日の昼から夕方くらいの予定です、何もなければですが」
「朝からとは、時間が足りないのではないか? ここに来るときは15時間ほどかかったと聞いている」
ああ、護衛されていた時か。
途中で爆撃を受けてから、どっちが護衛されているのかわからない感じになっていたが。
「あれは護衛の方々がいたからです。 一人なら片道1時間もかかりませんよ」
「護衛さえいらんというのか…… 確かにあの魔法では、護衛の側が足手まといになってしまいそうだがな……」
「初めて来た時は道がわからないので助かりましたが、これからは一人で移動します」
「分かった、行ってくるといい」
フォトレンに行く理由は特に聞かれなかったが、食料もついでに輸送したほうがいいかな。
それは向こうのギルドで聞くか。
「はい、ではこれで」
普通に許可が降りたようだ。
明後日に備え結界魔法と爆発魔法を用意しつつ、寝ることにする。
この伐採が終わったら、実体がないタイプの魔法をチャージして常備しておくのもいいかもしれないな。
強力な魔物の前で魔法を準備するのは非効率だ。
翌日、俺は魔力節約、いや生態系保護のために音速よりやや低めの速度でフォトレンに移動し、メイプルカトリーヌ魔道具店を訪れる。
メイプル商会自体がある場所を俺は知らないからな。
店に入ると、見慣れない女性がいた。
カウンターっぽいテーブルに付いているところを見ると、店番だろうか。
「すみません、メイプル商会ってどこにあるかわかりますか?」
メイプルカトリーヌの店番ということは、俺が雇用主、いや店のオーナー的立場になるはずだが、つい敬語になってしまう。
この世界の敬語がどんなものかは分からないが。
「ええと、ここから通りに出て、4件ほど左に行くとあると思いますけど、まだ開店準備中ですよ」
「そうですか、ありがとうございます」
考えてみればまだ開店に向けて動き出してから2,3日といったところだ。
今日の時点で店の場所が決まっているというのはかなり速い気がする。
まあ店を見てからでないとなんとも言えない。
魔物を置いていける段階に達していればいいのだが。
言われた場所に行ってみると、2階建ての店らしき建物があった。
門が開いていたので覗いてみると、なかなか広い。
一階の面積はコンビニの倍ほどだろうか。
10人ほどで経営するとなると、この程度の大きさが普通なのか?
この世界には労働基準法などないだろうし、奴隷などなら下手すれば週休0日制などというものもあるかもしれない。
それが10人となると、単一の店舗としては随分大きい気がするな。
店の大きさについて考えているとメルシアが見えたので進捗を聞いてみる。
「店はどんな感じだ?」
「従業員と場所は確保出来ました、ギルドへの届け出も終わったので後は商品を仕入れて、建物を店として使えるようにするだけです」
おお、ちょうどいいタイミングだったかもしれない。
「魔物を持ってきたんだが、干し肉にする設備はあるか?」
「はい、そちらはもう可能な状態です、とはいっても大した設備は必要ないので、倉庫を流用する形になりますが」
この建物の他に倉庫もあるのか。
「従業員とこの建物に加え、倉庫まで用意したのか。 いくら位かかった?」
賃貸と言う可能性もあるが、何となくこの世界で、店舗を借りて営業するのがイメージできない。
「この建物で1000万テル、倉庫で300万、従業員として奴隷を3人で760万で買いました。 あと5人ほど追加で雇うつもりです」
みんな奴隷か。
まあ秘密保持やら、信用できるかやらを考えると、昔から付き合いがある人がいるのでもなければ奴隷のほうが効率がいいのだろう。
「倉庫がずいぶん安い気がするが、小さいのか?」
「いえ、ここよリ大きいですよ。 ここは街の中心部ですので、こちらが高いんです」
土地代か。
建物自体はあまり高くないのかもしれない。
「分かった、順調そうだな。 魔物は倉庫とやらに置けばいいか?」
「そうしていただけると助かります。 案内しますのでちょっと待ってていただけますか?」
「ああ」
メルシアは2階に上がり、何やら指示を出してから戻ってきた。
「じゃあ行くか」
「はい」
倉庫は店から500mほど離れた場所にあった。
店は表通にあるのだが、倉庫はその通りを400mほど行って左折し、100mほど行ったあたりだ。
建物自体は1階建てだが、広さが店とは大きく違う。
店の1階の5倍はあるだろう。
「広いな、魔物はどのくらい置いていけばいい?」
「どのくらいあるんですか?」
「ある程度数があるのだと…… ブラックウルフ4023匹、ガルデン1327匹、レッドガルゴン2256匹、ハミクラブ6257匹と、こんなもんか。 ジャイアントスパイダークラブもあるが、どうする?」
レッドガルゴンというのは、その名の通り赤いガルゴンだ。
ガルゴンより一回り大きい。
「えっ…… 一体どうやったらそんなに集まるんですか……」
「森をちょっと爆破したりしてな、対魔物戦線の副産物だ」
まあ、魔物の素材のためにやってる行動も多いので、副産物ばかりというわけではないが。
「ああ、デシバトレで今大規模な反撃が行われていると聞きましたし、そこで倒される魔物をみんな集めればそうなるかもしれませんね…… まあ、とりあえずその中だとガルデンが一番味がいいと思います。 ジャイアントスパイダークラブは干し肉にするのはもったいないですね」
「そうか、何匹くらい置いていけばいい?」
「そうですね…… ちょっと状態を見せていただけますか?」
「あー、血とか抜かずにそのままアイテムボックスに放り込んでるんだけど、床とか大丈夫か?」
「はい、この倉庫はその対策として使える溝が掘ってありますし、元々肉などを扱うことを想定して作られたものかと」
よく見てみると、倉庫の地面には等間隔で溝が掘られていて、そちらに向かってゆるやかな傾斜が付けられている。
至れり尽くせりだな。
「じゃあ置くぞ」
そう言って割と状態がいいガルデンを地面に置く。
首が切れているもので、血が流れ出してはいるが。
「これは割と状態がいいものだ。 多分半分以上は足が吹っ飛んでるだろうな」
「確かに、状態はいいですね。 腐りそうな感じが全くしないのはさすがデシバトレといったところでしょうか。 このレベルであれば50匹くらいは腐る前に加工できそうです」
「そうか、じゃあ50匹ほど置いていくことにしよう。 追加で仕入れは必要か?」
「はい、干し肉にするにも時間がかかるのでそれまでは買うことになるかと。 保存用でないものなら10日もあれば毒が抜けますので、売り始められるかと」
そんな簡単に仕入れられるのか?
「買うアテはあるのか?」
「はい、以前からある店よりは弱いので黒字は厳しいと思いますが、買っている間もわずかに赤字が出るかどうか、と言う程度に留められると思います」
「資金は足りるな。 次はいつ頃持ってくればいい」
「価格設定によるかと。 材料がいくらでもあるなら、簡単に価格を下げられますから」
そうだな……
「同業他社を片っ端から潰してしまうのもまずいだろう、他店よりやや安め程度にして、適度に売ってくれ」
「分かりました、ではとりあえず売り始めてから10日くらいで在庫が切れるように調整します」
1日に5匹か。
牛ほどの大きさのを5匹と聞くとまあまあ大規模な気がするが、まあこちらと日本を比べても仕方がないだろう。
地球ではわざわざ育てているが、こちらでは放っておいても湧いてくるのだ。
「よし、そんな感じで頼む」
まあ、なんにせよ順調そうだな。