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第46話 伐採と報酬

 ギルドに到着した。

 ギルドにいる人間は、普段よりはやや多いが、この街で見た冒険者の数には程遠い。

 10人やそこらといったところだ。

 まあ、制圧範囲を広げるための作戦前の集合中に、自分たちの住む場所を制圧されてしまっては笑い話にもならないから当然といえば当然だ。

 ここに来ているのは、おそらく連絡係か何かだろう。


 今まで受けた、ギルドから直接の特殊な依頼の時とは違い、作戦会議などはないようだ。

 それもそうだ、俺は木を切るだけだし、作戦会議をするなら防衛する冒険者や、そのパーティー内でやるのが効率的だ。

 かわりに町長が宣言する。


「では、これより1時間以内に伐採を開始する、各自割り当てられた配置につけ。 爆発とともに伐採は終了するが、魔物はその後も襲来するから気を抜くな」


 冒険者たちは開け放たれたドアから、返事もせずに次々に出て行く。

 軍のように大声で返事をしたりはしないようだ。

 ちなみに、爆発というのは爆発の魔道具と結界の魔道具のセットでの運用によるものだそうだ。

 比較的小型の魔石を使った爆発の魔道具を、更に小さい魔石を使った魔道具の結界内部に閉じ込めた上で起爆。

 結界を使うことによって、音が大きくなるため、比較的安価での連絡が可能とのことだ。

 あくまでデシバトレ基準で、だが。

 国防とは、どこの世界でも金がかかるものだ。

 ……最近は、その予算を木こりが一人で食い尽くそうと企んでいるという話もあるようだが。


「ええと、もうきりはじめちゃっていいんですか?」


 残った町長に一応確認を取る。

 俺の役目は他の人達とは違うからな。


「4分の1時間ほど待ってから出発してくれ、他の冒険者たちとは速度差があるからな、一応、連絡係たちも合流して万全の体制になってからにしたい、初回だし、何が起きるかわからん。 それから、爆発音がして伐採をやめた後は、切った範囲の魔物の討伐に参加してくれ」


 まあそれに備えるためにこんなやり方をしているのだから、当然だな。

 普段通りの体制でいいのであれば、そもそも今日まで待つ必要はなかったのだ。


 武器のチェックを、特に必要もないのにしながら15分ほど待機し、出発。

 空から見て、最もデシバトレ側に近い方に降下。

 右手に魔剣をかまえ、木の左側とかすめて時速40キロほどで飛ぶ。

 再度やってみて分かったが、これはついでに薬草など狩っている余裕はない。

 魔法の制御などの問題ではなく、もっと単純な、剣の刃渡りの問題だ。

 剣の刃渡りは60cm程度、対して木の直径は高さ1mほどの部分で30cm程度。

 ブロケンが陥落した後、まだ50年ほどしかたっていないおかげでこの程度の太さで済んでいるのかもしれないが、それでも余裕は30cmしかない。

 もちろんわずかに残ったところで倒れてくれれば問題ないのでやや余裕は増すが、薬草を切る余裕などない。


 そんなことを考えながら飛んでいると、1列切り終わったらしく木々が途切れ、砂浜に出る。

 所々、木の密度が違うせいで切り残しが出てしまっているが、それはあとで纏めて切れば問題ないだろう。

 他にも一部、切れたのにうまく倒れなかった木もあるようだが、まあとりあえずは出来る限り木の数を減らすことだ。


 反転し、更に伐採。

 この程度の速度であれば、もう制御は楽勝だ。

 余裕が出てきたので、薬草をどうにかできないか再度考える。

 まず薬草狩りの問題点といえば、伐採する高さと薬草の高さの差だ。

 薬草の頭だけちぎっても仕方がなので、地面すれすれをカットしなければならない薬草。

 高さがないと剣の長さが足りないので、高さがある程度必要な伐採。


 一応さっきから薬草を引っ張る魔法の板 ――引板とでも呼ぼうか、を使って薬草を引っ張ることを試みてはいるが、芳しくはない。

 やはり、資源を有効利用するにはこの両者の刈り取りを両立させる必要がある。

 とりあえず、アクロバティック飛行。

 右手を上げて魔剣を左に出し、左手は目一杯下に伸ばした後、左に向かって刃杖を突き出し、高度をやや落とす。

 一瞬、わずかに刃杖がズナナ草を切り裂いたが、その後がダメだ。


 まず、魔剣。 いくらなんでも剣を逆手に持ち、上に持ち上げて水平を保つなんて芸当をしながら木のすれすれを飛ぶなんてさすがの俺にも不可能。

 次に刃杖。

 確かに刃の部分はある程度ズナナ草を切り裂くが、根本の部分まで刃にはなっていないのでその部分の下草が手に当たる。

 また、本当に地面すれすれを使おうとすると地面の石ころが手にぶつかるので、地面から15cmほどはなしているのだが、当然収量は落ちる。

 どうせ薬にするのだから、根本がなくても問題はないかもしれないが、先の部分だけをちょっと回収するためにこれはない。

 ちなみに、回収自体はできた。魔法で手に飛んできたのがそのままぶつかったところで収納されるのだ。

 しかしこんな量では意味が無い。


 文句なし、いや、むしろ文句しか無いレベルのボツだ。

 やはり魔法か。

 切断する魔法……

 風魔法的な何かか? それともはっぱカ○ターとかか?

 はっ○カッターはとりあえずおいておこう、正直切れる気がしない、ほかがダメならダメ元で試してみるか。


 じゃあ風魔法だ。

 RPGなんかでは風でモンスターなんかを切断するのを見るが、理屈がわからん。

 かまいたちはあかぎれの一種だって話だし、植物は多分あかぎれしない。

 部分的に凍らせて解凍するか折り取る? 難しいし二度手間だ、そもそも氷の魔法なんて発動したこともないし、射出しないので射程もない。

 まあ正統派な感じのRPGにならって、風のカッター的な何かで切断するイメージでいくか。


 近くのズナナ草めがけて撃ってみるが、発動さえしなかった。

 そもそもロクにイメージさえできていないのだ、発動したら奇跡だ。


 仕方ない、他の方法を探すか。

 もうちょっとイメージがしやすいもので、切断が可能で、魔法として射出しやすそうなもの。

 ……そもそも、射出するもので切断する道具ってすごく数が限られる気がする。

 ヒトラーの電動のこぎりは切断する道具には入らないだろう、あれは銃だ。

 あとは…… ウォーターカッターか?

 水を放つ魔法ならすでにあるし、あれを高速化すれば切れる可能性はなくもないかもしれない。

 ものは試しだ、水の魔法を細くして放出、細さは3mmほどだ。

 水は10mほど先のズナナ草に見事命中し、ズナナ草を揺らした。

 揺らしただけだ。


 根本に当たったにもかかわらず、大きく揺れはしたものの、切断には程遠い。

 水の速度は足りているはずだ、何が足りないのか。


 あっ、そういえば魔法の速度と威力って関係なかったな。

 忘れていた。

 ということは、細さそのままMP消費を増やせばいいんだ。

 試してみると、魔力消費を10倍ほどにしたところでズナナ草が切れた。

 しかし、あまり貫通力はないようで、イメージしていたように水が草をズバズバ貫通しながら切るというよりは、あたった部分をちょっと切るだけで、裏にある草が切れるのには時間がかかるようだ。

 効率は相変わらず微妙。

 まあ太さが普段の、魔力を3秒につき1消費するものの10分の1程度になっているので、魔力消費を10倍にしたところで計算上の魔力消費は30秒で1、ゴミでしかない。

 距離が近いせいで手のあたりから出す必要もないので、足の下の地面すれすれの位置から左右に放水。

 それも一本でなく、両サイドに15本づつ使う、これである程度は刈れるし、貫通力がないおかげで冒険者達を巻き添えにする心配もない。

 右手で伐採、左手で薬草回収、足元の魔法で草刈り。


 こうして、木こり兼芝刈り機となった俺が、加速度的に自然を破壊しはじめて5時間ほどたったころ、『パーン』という音が聞こえた。

 伐採終了の合図だ。


 俺は伐採を切り上げ、街の方向に戻る。

 途中で見かけた魔物は魔剣で切断し、アイテムボックスに収納しながら街へと戻る。

 その途中で冒険者たちが目に入る。

 まだ戦闘中ではあるようだが、前線は街から随分と上がってきている。

 調子はいいようだ。

 冒険者から少し離れて魔物を狩り、少しして手が空いたらしきところで話しかけてみる。


「戦況はどんな感じですか?」


「見りゃわかるだろ、順調だ。 魔法使いの魔力が切れてきてるからこれ以上長引いたら少しきついがな」


 その辺を考えての伐採終了か。

 まあ、後1,2時間もすれば暗くなってくるだろうしちょうどいい頃合いだ。


「わかりました、ありがとうございます」


 そう言ってその冒険者たちから離れて魔物狩りを継続する。

 魔物を1パーティーで殲滅できる戦力が2つ固まっていても意味は無い。

 倒した魔物の扱いも面倒くさいし、やはりソロが一番だ。


 30分ほど狩りをして、魔物討伐は終わった。

 木を切った時には気づかなかった、こんなにたくさん魔物がいたのか。

 前回にも一度伐採しているから、切られないように退避していたのかもしれない。

 メタルリザードが死ぬなり撤退するような生き物だ、そのくらいの頭はあってもおかしくはない。

 まあ、獲物が多いのは大歓迎だが。


 ギルドに帰り、精算する。

 総伐採本数2431本、魔物の討伐を合わせて総額1億2354万4000テルの収入になった。

 国防予算が心配になるレベルだ。

 押し切られるよりは金がかかったほうがましなのだろうし、最前線なんてたくさんはないだろうから大丈夫そうな気もするが。

 しかしさすがにいつまでも木こりの仕事があるわけではないだろう。


 財源について心配していたら、町長に呼び出された。

 作戦会議か、報酬引き下げの相談か。

 まあ聞いてみれば分かる話だろう。


「おお、来てくれたか」


「はい、俺が行った範囲では順調のようでしたが、大丈夫でしょうか」


 4m四方につき1本の木があったとしても、100m×500mくらいは切れているはずだ

 確かブロケン跡地まで約10キロで、横幅は3キロほどだ。

 600日ほどで切り終える計算になる。

 ……随分と長いな、総費用は600億テルを超えるだろう。

 どこの国家予算だよ。


「ああ、順調だ。 明日からも今日みたいなスケジュールでなら何とかなりそうなんだが、一つ相談がある」


「何でしょうか」


「今まで位なら使えずに余っていた予算があるから大丈夫だが、ブロケンまで押し返すとなると流石に予算が足りん。 悪いが報酬を1本5000テルくらいにしてもらえんか」


 やはりか。

 10分の1でも60億テル、十分な収入だ。

 使えなかったというのは、使おうにも冒険者が足りずに、そのせいで戦況が悪化していたとかだろう。

 日本なんかでは予算を余らせると次の年から減らされてしまったりするようだが、異世界では別に年末の道路工事などはないらしい。


「わかりました。 そのかわり、時々休みをもらえませんか? あとできれば殲滅した後ほっとかれている魔物の死体もほしいです」


「恩に着る。 魔物に関しては構わん、放置されている魔物の死体に関しては冒険者たちに連絡しておこう、別に冒険者達にも不利益はないから大丈夫だろう。 休みにかんしてはそもそもギルドは冒険者を縛る立場にない。 報酬を下げた上で強制などもってのほかだ」


 俺以外の冒険者もそこそこの報酬をもらうんだよな。

 どれだけ予算があるのだろうか。

 一国の国防予算を全てこの都市に突っ込んでいるレベルなのだろうか。

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