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第45話 下草と薬草

「じゃあな、がんばれよ」


「はい」


 メルシアとカトリーヌに今後の方針を伝え、金を渡してフォトレンを出た。

 基本方針は主に3つだ。


 第一に、メイプル・カトリーヌ魔道具店はメイプル商会の傘下に入るということ。

 メルシアに聞いたところカトリーヌの腕はかなりいい、というかヘタするとフォトレンでもトップクラスらしいので、店番をさせてしまうのはもったいないという判断だ。


 次に俺がいなくても、黒字か、赤字であっても少額に留める、そのためにとりあえずは資金に余裕があっても、規模はあまり拡大しないということだ。

 せいぜい5,6人を雇う程度、それで安定して黒字が出るようになったら規模を拡大といった感じだ。

 もちろん、他の店も稼ぐために真剣に勝負をしているのだから、すでに基盤を確保している他店に簡単に勝てるわけもない。

 そこで俺の出番だ。 商品の中の一部でも、他店よりはるかに安く、ヘタすれば仕入れることができれば、その分は丸儲けできるのだから、これは大きいアドバンテージだ。

 もちろん、俺が安く運んできた物を売ったからといって他の商品の利益率が上がるわけではないのだが、店がある限りかかる固定コストを薄めることはできる。

 それに、俺が運んできたものをメイプル商会で加工して売れば、そこでもまた有利になる。


 例えば干し肉を作るとして、通常は冒険者→ギルド→干し肉加工業者→食料品店と、食料品店に並ぶ前に2回も中抜されるのに対し、俺の場合は冒険者→デシバトレの食料屋→俺=商会と、中抜きを省くことができる。

 その上、デシバトレでの仕入れ値はフォトレンの10分の1程度、有利にならないわけがない。

 ちなみに、デシバトレでとれた肉はそのままでは食えないが、干し肉にすれば毒らしきものが抜け、安全になるらしい。

 フォトレンでとれた肉も、デシバトレほどではないものの、デシバトレのものと同種の症状が出る可能性があるとのことで、干し肉にされている。

 症状が出る肉は、毒らしきものが抜けるまでは極めて劣化が遅くなるらしいので、それで判別できる

 それでも、干し肉にするために環境を整えないと毒が抜けるまでに腐ってしまうらしいが。

 デシバトレでは運ぶ、またはデシバトレで加工する手間に見合わないから運ばれていないだけで、デシバトレでとれる魔物の肉はむしろ良質で、こちらでは比較的高級な部類になる物も多い。

 簡単に運べるのであれば宝の山なのだ。


 しかし、安易に規模を大きくしてしまうと、そのメリットを自分から薄めることになりかねない。

 様子を見ながら、少しづつ大きくするか決めるべきだろう。


 最後に、業種だ。

 とりあえずは食料品と、場合によっては魔物の素材にする。

 当然、肉に関しては干し肉に加工してからの販売となるため、その設備や人員も必要だが。

 これはもちろん、俺のアドバンテージを最大限に生かす目的だ。

 デシバトレ産の魔物素材や肉を売るのに、家具屋などをやっていては何のための商会かわからない。

 その上、食料品店ならば持ってきた食料を加工だけして、デシバトレに持って行くことさえできる。

 魔物の素材は言うまでもないが、こちらは小売というよりは周囲の鍛冶屋や防具屋などに売ることになるとのことだ。

 こちらは加工設備などはいらないので、コストは特にかからない。

 俺が持って行ったら売るだけで、なくても困らないのだ。


 とまあ、当面はこんな感じでやっていくことになった。

 メルシアに4000万渡して人員、設備の確保も全部メルシア任せだ。

 基本方針やアイデアは出しても、実際の経営に口を出すことはないだろう。

 こっちは素人なのだ、あとめんどくさい。


 そのまま適当にパンを10kgほど買ってデシバトレに帰ることにした。

 パンは軽いがかさばるからな、デシバトレではあまり手に入らないのだ。

 備蓄ならともかく、魔物と交換するためにデシバトレに持って行くならそういったもののほうがいいはずだ。


 帰りもほぼ音速で飛んで帰るが、行きとは違い音速よりやや下を維持していく。

 物理的に風景が吹き飛ぶのが面白くて続けていたが、耳に悪い気がするのだ。

 環境にもよくないし。


 まあ何事も無く、デシバトレに到着した。

 もう夕方になっている。 やはり1日確保できるうちにフォトレンで用事を済ませのは正解だったようだ。

 食料品店に寄って魔物集めの進捗を聞く。


「魔物集めの調子はどうでしょうか?」


「結構集まったよ、フォトレン価格で100万テル分くらいはあるかな」


 それは多いのか?

 計算してみる。

 干し肉にして単純計算で3333キロ程度、肉だけならかなり多いといえるだろう。

 牛一頭600キロとして、5頭分以上ある。


「それって食料メインですか? それとも魔物素材メインですか?」


「食料がほとんどだね、武器として使える部分は普通に持って帰っても採算が合うし、防具になる物もここで使われるような装備の材料になるほどのものなら持って帰るからね、大したものは残らないのさ」


 大したことないから残るんだもんな、仕方ない。


「どこにあるんですか?」


「そこに積んであるよ。 食えない魔物は簡単には傷まないからな」


 店の人が店の外を指差す。

 そちらを見ると、魔物がうず高く…… というほどでもないが、積まれていた。


「フォトレン価格の10分の1ってことで、全部で10万ってことでいいですか?」


「ああ、ジャイアントスパイダークラブの分の借りは残り90万だな」


「ええ。 ところでフォトレンからパンを10kgくらい買ってきたのですが、買いますか?」


 そのために買ってきたのだ。

 自分で食う分は定食とかがある。

 わざわざ特にうまくもないパンを食う必要もないのだ。


「1キロ、3000テルでどうだ? 10キロは売り切る前にカビちまう」


 カビ、あるのか。見たことなかったぞ。

 便利過ぎるアイテムボックスのせいだろうが。

 まあペニシリンが手に入る可能性があるってことで、いい方向に見ておこうか。

 回復魔法が抗生物質代わりになるかはわからないし。


「ええ、じゃあ90万に追加しといてください」


「了解」


 パンを渡し、魔物をアイテムボックスに収納して店を後にする。

 やることもないのでそのまま宿に帰って飯食って就寝。 健康的な生活だ。

 健康的すぎるのではないかとも感じるが、どうせ戦闘やら伐採やらは明日やるのだ。

 わざわざ視界が悪い夜にやる必要もない。 索敵だって目に頼る部分は相変わらず多いのだし。


 翌日、いつもどおりの時間に目が覚める。

 時間を示すものはないが、時間の感覚は逆に正確になっている気がするのだ。

 伐採は昼からとのことなので、ギルドには昼前くらいに行くとしてちょっとあたりを下見に行ってみる。

 前回は適当に空から突っ込んで、高速で飛びつつ伐採しまくっただけだから地上の様子はほとんど見ていないし。

 魔物さえも、俺に危害を加えられそうなのがいなかったから、適当に斬りながら巻き込んだだけなのだ。


 とりあえず空、それも割りと高い高度から観察。

 全体像を把握することは大切だ。

 長細い陸地がデシバトレを境に森と草原に分かれている。

 一部、夏のスキー場みたいな感じで木がない部分があるが、これは俺が切ったものだろう。


 後は地面に降りて観察、しようと思ったのだが、地面に降りた時点ですでに周囲を魔物に囲まれていた。

 前に2匹、後ろに1匹、両サイドに2匹。

 ガルゴンを赤っぽくしたような魔物だ、サイズはガルゴンより一回り大きいが。

 ……体重、500キロはまず下らないだろうな、干し肉の原料によさそうだ。

 魔剣を構える。 肉にするのだから、魔法で潰したりしてしまうより切れ味のいい剣で切ったほうがいいだろう。

 俺が目の前にいた魔物に向かって一歩踏み出すと、後ろの魔物が突っ込んできた。

 振り向き、そいつに剣で切りつける。

 振り向いた時、後ろから魔物が迫ってくるのを触板で感じた。

 少し遅れて両サイド、対応を間に合わなくさせる作戦か。

 良い連携だ、感動的だな。

 ――だが無意味だ。


 俺は前の魔物を横にスライスすると、そのままの勢いで1回転、勢いのままに3匹をスライスする。

 当然、タイミングがずれているサイドの魔物は素通りなのだが、ボスでもない魔物ごときが魔法装甲を貫けるはずもなく。

 弾かれた魔物を魔剣で切り裂いて終わり。

 戦車相手に徒手空拳で、どんなに素晴らしい連携を仕掛けたとしても傷ひとつつけることはできない。


 それどころか最悪の場合爆発反応装甲で吹き飛ばされるのがオチ。

 つまりそういうことだ。

 新鮮なうちにアイテムボックスに収納し、偵察を継続。

 木は3メートル間隔といったところで、日本の森に比べるとかなり多いように感じる。

 ただ、下草の背が随分と低いため、視界はそこまで悪くはない。


 下草は…… ズナナ草だ。

 今まで気付かなかったが、一面のズナナ草だ。

 鑑定してみても、やっぱりズナナ草だ。

 しかも未熟なものが存在しないときた。


 なにこれこわい。

 たまたまここが群生地なのか? しかし他の場所だって下草は低いのだ、ここと同じでもおかしくはない。

 伐採の時に確認しているから間違いない。

 これもしかしてすごく儲かるんじゃなかろうか。

 1本30テル、1秒に3本ほど刈り取れるとしよう。

 1時間で3600本、324000テルだ。


 あれ、微妙だ。

 魔物と闘いながらでは割に合わないとさえ言える。

 加工のためにフォトレンに運ぶ手間を考えたらもっと割に合わないかも。

 木は別格にしても、さっきの魔物たちだけで体重2500kg超、干し肉にしたらどのくらい減るかは分からないが、まず10万テルは下るまい。

 その三倍程度、さほど時間はかからないはずだ。

 それに1時間。

 うん、微妙だ。


 しかし、それは秒間3本程度とした場合の話だ。

 芝刈り機でズナナ草を3本刈るのに、1秒はかからないだろう。

 木を切るときに、地面すれすれを切るだけでもズナナ草はまとめて切れてくれる。

 問題はどうやって集めるかだな。

 さほど重くないものを集めるといったら掃除機のように空気を使うのが一番だが、まだ風魔法らしい、風を使った風魔法は使ったことがないのだ。


 とりあえず試してみる。

 魔剣でズナナ草の根本を切り、それを魔法で引っ張るイメージ。

 おお、うまく引っ張られてきた。

 しかし、風って感じはしない、糸で引っ張ってる感じだ。

 速度は時速30キロくらいか? まあまあだ。

 ステータスを見てみても、魔法のスキルの種類は増えていないので、今まで持っているどれかに分類されるのだろう。

 音速飛行した時に追加された『風魔法5』の範囲かもしれない。

 周りのズナナ草を適当に刈って引っ張っていると、この魔法は直線上にある物体を引っ張るということがわかった。

 なんか見覚えのある挙動だ。


 そうか、触板を作る前に試していたあれか。

 ならば、触板みたいに板を作れるんじゃないかと思い試してみると、成功する。

 周囲のズナナ草がまとめて引っ張られてくる。

 木の後ろにあるズナナ草は引っ張られていないから、壁越しには引っ張れない可能性が高いが。


 魔力消費は、あまりに魔力回復が速すぎるせいで見えないのだが、余った魔力で槍を撃ちながら引っ張ってみた感じでは多くはない。

 秒間1行くかいかないかといったところだ。

 しかし、木を斬りながらやる場合は時速40キロ以上で飛びながらなのだ。

 少し遅いと思い、魔力消費を増やしてみると時速50キロ程度まで上がった。

 魔力消費は秒間2.5くらい、時速40キロ程度で飛びながらだったら余裕で使えるレベルの魔力だ。

 そういえば魔剣も魔力を食っているはずなのだが、魔剣を持っていても使える魔力が減った感じはしない。

 魔剣は持ち主の意志に関係なく魔力を使うらしいから、そのへんに関係しているのだろうか。


 さて、魔法研究に意外と時間がかかってしまった。

 今まで最初以外の魔物と出会わなかったのが不思議なくらいだ。


 そろそろ昼前だし、伐採に行こうか。

 疾風の木こり、出撃だ。

登場二話目のメルシアのセリフ、2文字。

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