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第42話 砂塵と伐採

 2発撃てば良い話なのだが、スペースが足りないのだ。1発撃ってから次を用意するにしても、向こうの2発目が飛んできてしまう。

 かといって回避速度からしてこれ以上範囲を狭くすると回避されるだろう。タンデム弾頭的な感じで1発目の直後に、とまではいかなくとも向こうの連射よりは速く撃たなければならない。


 あ。

 タンデム弾頭って前の方の爆薬が小さいよな? もちろんこれは爆発反応装甲を起爆させるだけの威力があれば十分だからだ。

 で、魔法を起爆させるのに必要な威力ってどのくらいだ?

 今までに、何かがぶつかって物理現象化しなかった魔法など見たこともない。

 この「何か」と言うものの基準は分からないが、とりあえず魔法同士がぶつかった際には起爆した。

 どんなに小さくても、魔法は魔法であって空気とは違うのだから、極小の魔法でも敵の魔法を起爆できる可能性はある。

 試してみよう。まず魔法を小さくできないことには話にならない。

 とりあえず、砂粒くらいのをイメージして岩の槍――もはや岩の粒だが――を用意。大量に上空の鳥に向かって放ってみる。

 俺の頭上、30mほどですぐに爆発。どうやらすぐ近くまで飛んできていたらしいが、成功のようだ。

 これならデカい散弾を用意しながらでも打てる。

 攻撃を防ぐため、砂粒を放ちながらだが、ほとんど散弾生成の速度が落ちている感じはしない。

 これ、もしかしてかなりヤバい魔法なんじゃないか? 基本的に有弾魔法、全部無効だぞ。

 散弾が完成したのでそのまま発射。飛んで行く槍を見ていると――


 あっ、自爆した。

 砂粒が飛んできているのにこちらに向かって爆発を打とうとしたらしく、そのまま口の前で爆発を食らったらしい。

 更に散弾の追い打ちがかかる。


 ……やったか!?

 などと無駄にやってないフラグを立ててみたが、鳥はそのまま地面にまっすぐ落下してきた。

 まっすぐ、とはいっても俺から見てまっすぐ下に落ちてくるように見えるというだけで実際には斜めに落ちているのだろうが。


「おお! マジで走りながらイクスプロンドル落としやがった!」


「結構なんとかなるもんですね」


 と、鳥をキャッチアンド収納しながら答える。

 ぶっちゃけ楽勝だが。

 飛んで近づいてもいいし、やりようは他にいくらでもあったと思う。

 いきなり護衛対象に飛び立たれてしまったら護衛の人たちが困るだろうからやらなかっただけで。

 その結果あんな魔法ができたのだから、結果オーライだ。


「戦士並みの体力で移動もできる対空魔法使いか! パーティーに一人ほしいな! うちに来ないか!」


 面子は元々パーティーだったりするのだろうか。たしかによく連携がとれている気がするが。


「いえ、私はソロが好みですので」


 しかしお断りする。何が悲しくてこんなむさ苦しいパーティーで戦い続けなければならないのか。

 戦力的にも一人で十分なのだ、速度も俺より速い奴はいないらしいし、臨時ならともかく常時パーティーに所属する理由が見当たらない。


「そうか、ところでさっきイクスプロンドルが自爆した気がしたんだが、何かしたのか?」


 バレてたか。

 しかしこれは他と違ってバラす訳にはいかないな。

 この魔法は魔法使いにとって最大の弱点たりえる魔法だ。

 俺だって使われれば火力の低下は避けられないだろう。

 対策する手段を見つけでもしない限り、公表するつもりはない。

 まあ一応名前はつけておこう。

『魔法暴発』名前はとかでいいだろう。

 実態とは合っていないが、実態と合っていないくらいのほうがいいのだ。

 間違って言ってしまった場合などでも、この名前なら原理を推測するのは難しいだろうからな。


「さあ、たまたまじゃないですか?」


 まあとりあえず今回の件はごまかしておいた。

 追求はされなかったので、どうやらうまくいったようだ。

 その後は目立った事件もなく、淡々とまっすぐ走り続けて、デシバトレらしき場所に到着した。


「到着だ」


 どうやらここがデシバトレらしい。

 どうやら、というのは単純に、ここが街には見えないからだ。今までの街とは似ても似つかない。

 まず今までの街には立派な壁があるのは基本だったが、ここにそんなものはない。

 塀の残骸らしきものが3つほど同心円状にあり、その間に堀がある。水などは入っていないが、幅5m、深さ3mほどはありそうな立派な堀だ。

 それを飛び越えて進むと、塀らしき何かがある。しかし今までの街のものとは全く違った外見で、土のようなものを練り固めて作ったような高さ3mほどの壁から、ところどころ魔物の甲殻か何かが飛び出している。

 鉄筋コンクリートの、鉄筋のかわりにでもしているつもりか?


 その壁にたどり着くと、さも当然のように先頭がその壁に飛び乗る。

 門など作って防御力を落とす余裕はないということか?


 街の中の様子も全く違った。

 2階建て以上の建物は見当たらないし、その建物もまばらだ。

 家は木造のものが多く、ドアや窓がいっぱいある。全ての部屋にドアを付けて回っているんじゃないかというくらいドアだらけだ。

 遠くで騒ぎが起こったような場所を見てみると、魔物らしきものと人間が戦っていた。

 ドアは魔物の急襲に備えるためのものらしい。デシバトレ人に平穏はないのか。


 そんなものを観察している間にギルドについた。どうやら街の中心付近にあるらしい。

 中心付近は建物の密度が上がってきているし、店があるのも見えるが、やはり中心でも安心はできないらしくギルドもドアだらけだ。

 まあこの街は見たところ直径1キロあるかないかといったところなので、魔物が途中で討伐されなければあっというまに到達されてしまうだろうから仕方ないが。


「輸送依頼の報告に来たのですが」


 そう言ってギルドカードと輸送者カードを見せる。


「ああ、昨日連絡があったパーティーか、品物はアイテムボックスかな?」


「はい、どこに置けばいいですかね?」


「今から案内するよ、護衛の方はここで依頼完了だから、そっちで手続きをしてくれ」


 そう言って歩いて行くギルドの人についていくと、地面に穴を掘って作られた食料保存庫のような場所に案内される。

 まあ地下にあるだけで、小型の倉庫みたいなものだ。

 普通の倉庫よりはかなり頑丈そうではあるが。


「ここに入るだけ入れてくれ」


 入るだけ入れたが、まだアイテムボックスには大量に食料が余っている。


「次はこっちだ」


 そう言ってギルドの人はギルドから外に出る。分散させているのか。

 と、思いきや、行き先はギルドの隣にある食料店だった。


「ここにも入るだけ頼む」


 そう言われて差されたのは、ギルドのものよりやや大きい食料庫だった。

 そこにも荷物を投入する。

 そのまま数軒を回って、ようやく荷物が尽きた。


「素晴らしい容量だね、これで依頼は達成だ、報酬はカードかな?」


「はい、それでお願いします」


 フォトレンでもらっておいたカードを渡すと、ギルドの人は箱のようなものにカードを入れてなにやらいじり、俺に返してくれた。

 カードには「18950000」と書かれている。2000万近い収入だ。


「これからも頼むよ、輸送に随分と戦力を圧迫されてたんだ、これでしばらくは戦いに集中できる」


「はい、そうします。こちらにもメリットは大きいですし」


 これは儲かるな。ギルドに頼らない運送会社でも起こそうか。

 ……1割程度持って行かれても、そのためにここに販売拠点を作るよりは安上がりっぽいな。

 店員も一般人というわけにも行かないだろうしコストも高くなるだろう、おとなしくここで手に入れたものを持って帰るだけにするか。


 まあとりあえず、依頼を見ていくことにする。

 貿易だけしかやらないで帰るのはなんかもったいない気がするし。


 依頼は他の都市と違い、討伐依頼ばかりだった。それもランク不問の。

 ブラックウルフその他、魔物たちの討伐依頼の中に一つ、おかしな依頼があるのを発見する。


 討伐依頼

 ランク:問わず

 依頼内容:デシバトレ周辺の木の伐採

 報酬:1本5万テル

 数量:いくらでも

 備考:硬いので注意すること。特殊素材製の武器、または斧の使用を推奨


 木……? 木なのに討伐?

 そのくせ価格は5万テルと、

 木を切ってどうするんだ。薪にでもするのか?

 それなら討伐依頼じゃなくて木の調達が依頼されるだろう。

 ギルドの人に聞いてみることにする。


「すみません、この木の討伐依頼って普通の木を切るだけなんですか?」


「ああ、そうだよ。魔物の領域が広がるのは伐採が滞るから、逆に伐採がうまく進めば押し返せる可能性もなくはない…… まあ今じゃ夢のまた夢だが」


「そうなんですか、じゃあちょっと切ってきます」


 木の伐採はとても大切らしい。

 日本では、人類と森は共生すべきだ、などと言われていたがこの世界では木は人類の敵らしい。

 エインやエレーラの森は魔物の領域という程でもなかったところを見ると、対魔物前線限定の話かもしれないが。


「ちょっと待とうか、木を切るって言ったって魔物がいっぱいいるんだ、一人でやるようなことじゃないぞ」


「まあ、空飛べますからいざとなったら脱出できます、危なそうなら逃げますんで」


 なんか我ながらすごく死亡フラグっぽいセリフだ。

 しかし今の俺を、不意打ちであっても殺せる魔物なんかがいるなら、それこそ木を切りに行くかどうかなんて関係なく戦闘に参加することになりそうだ。


「そうか、強制することはできないが、気をつけてほしい。輸送能力だけでも前線を押し返す、とまではいかなくとも維持するくらいはできるレベルだ、失うにはあまりに惜しい」


「はい、大丈夫です。アイテムボックスに見合った程度の魔力量はありますので、防御に回せばまず敵の攻撃届きませんから」


 そう言ってギルドを出る。

 空に上ってみてみるが、フォトレン側には木は生えていないらしい。魔物もフォトレン側とその反対では5倍くらいは数の差があるように感じる。

 確かにこれでは伐採もままならないだろう。

 森の側に降下し、すれ違いざまに魔剣で伐採を試みる。

 スパッと切れた。全然硬くないじゃないか。

 勢い余って2本も切ってしまった。

 調子に乗って左手に刃杖を持ち、右手に魔剣を持って手を広げ、まとめての伐採。

 右手の魔剣で3本の木を伐採した後、左側に木が見えたのでそのまま伐採。


 ガキッ。


 痛い。とても痛い。手にヒビが入ったかもしれない。

 切れなかった、それどころか杖を木に持って行かれた。

 停止してみると、刃杖は10cmほど食い込んでいるが、幹の太さは30cmもある。

 これは無理だ。所詮は普通の剣にしては強いレベルの切れ味か。

 魔剣には全く及ばないらしい。

 まあ杖なんだし、強い剣でもあるってだけで役に立つことは役に立つのだが。


 ともあれ、魔剣なら切れる。しかも1本5万テルだ。

 美味しい。さすがに輸送にはかなわないが、輸送は必要なだけ運んでしまえば終わりなのだ。

 いくらでも達成できる伐採とは違う。


 ということで右手に魔剣を持ち、目一杯広げて木の左を通過するように飛行、伐採。

 5万テルが列単位で薙ぎ払われる。途中で何か魔物を巻き込んでしまったが、知ったことではない。

 これは戦闘ではない、収穫だ。

 魔物も木々も、ただ収穫されるべき作物に過ぎない。

 そのまま3時間ほど木を伐採しながら滑空し、ギルドに戻ることにした。

 疲れが無いので忘れていたが、ここに来るまでに8時間は走っているのだ。

 ……そういえば、3時間で木を数えきれないほど切ったが、普通はこんなに切れないんじゃなかろうか。

 1日で何百万も稼げるのは明らかにおかしい気がする。

 報告に行ったらなんと言われるだろうか。


 まあ輸送の地点でいまさらか、デシバトレに常識を求めるほうが間違っているのだ。

デシバトレでも浮いてるとか言ってはいけない、いいね?

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