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第41話 距離と弾幕

 俺は前衛の二人に続き、外壁の、薄く開いた門から外に出る。残りもついてきている。

 試験で外に出た時には気付かなかったが、前方には岩で舗装された道の名残らしきものが見える。

 とはいってもすでにところどころ残っているばかりといった感じで、到底道としての役を果たしそうには見えないが、目印くらいにはなるだろう。


「行くぞ」


 むさくるしい男が言ってその道の方向へ走り出す。

 やはり今まで見たことのある冒険者とは加速が明らかに違う。あっという間に、魔法なしの俺ではついていくのが厳しいであろう速度にまで達する。

 まあ、魔法ありで走る俺に比べたら遅いのだが、そこまでを求めるのは酷だろう。魔力の桁が6つか7つほど違うのだ。

 後続も、さほど苦労する様子は見せずについてくる。15時間近く走らなければならないのだから今の段階できついようでは話にならないが。

 俺の後ろが俺と10mほどの間隔を開けている事に気づき、俺も前と10mほどの間隔を開ける。

 あまり固まっているといざというときに逆に動きにくくなるのだろう。

 あたりに木はほとんどなく、背の低い草が生えているばかりなので見通しもいい。距離が多少あったところで不意打ちから各個撃破されることもないだろう。


 10分やそこら走ったところで、魔物と遭遇する。5匹ほどのブラックウルフの群れだ。

 見える範囲にはいっぱいいたが、戦闘になるのはこれがはじめてだ。

 今回の俺は守られる側だから、必要がなさそうなら何もしないことにする。仕事を奪ってしまうことになりかねない。

 必要であれば前から声が掛かるだろう。


 さて、どう対処するのか――

 と、見ている間に戦闘は終わってしまった。戦闘ですらなかった。

 二人の前衛が互いを見て軽く頷き、少し速度を上げてこちらとの距離を広げたと思うと、そのまままとめてブラックウルフ共を両断した。

 左の人が2匹、右の人が3匹だ。

 剣を振るときに速度が落ちたのか、戦闘が終了した頃には距離は元に戻っていた。危なげない。

 さすがはオーバーキルな戦力のパーティーといったところか。


 その後も旅程は順調だった。俺が手を出す必要もないくらいに。

 前方の敵は前衛が蹴散らしてしまうし、そもそも横や後ろからはついてくる魔物がいなかった。

 不運にも正面から俺たちを襲うことになってしまった魔物たちは5,60匹といったところだ。

 残りの人達は仕事がないようだが、多分いいことなのだろう。


「そろそろ飯を食おうか、出してくれ」


 更に追加で20匹ほど魔物が犠牲になったところで前衛の、確かウノンとかいう奴が言った。

 打ち合わせ通り、アイテムを収納するときに飯だと言って渡された物を取り出し、投げ渡す。

 ウノンが食い終わったのを確認し、クアトンに次の飯を投げ渡す。

 飯とはいっても、カ○リーメ○トを素朴にしたような外見のものだ。スティック状のクッキーと言えばいいか。

 喉が渇きそうだが、水は各自で魔道具を用意しているらしく渡す必要はない。まあ食ったことがないから喉が渇くかもわからないが。

 食う順番は、前衛から反時計回りに順番を回し、最後に真ん中にいる者というのが慣例化しているらしい。

 順番自体がどうとか言うより、順番を考えたり覚えたりする必要がないということがメリットになるのかもしれない。


 少しして俺の番が回ってきた。どんな味なのか若干不安を持ちつつも、それを口に入れ、噛み砕く。

 ……硬い。カロ○ーメイ○を食うつもりで噛み砕こうとしたら、全く噛み砕ける気配さえしなかった。

 力を入れて噛んだらようやく噛み砕けたが、これ一般人に食えるものなんだろうか。

 普段の俺は、特に意識せずとも枯れ枝を折れないように持つことができる。

 しかし力を入れれば折れるのだ。つまり特に力を入れようと考えていない場合、俺の力はステータスよりかなり低い、一般人レベルのものであることが推測できる。

 それで噛もうとして、噛めなかったのだ。これはおそらく強化された顎の力、歯の強度が必要だということだろう。

 この程度噛み砕けなければ、デシバトレ人たる資格はない、ということかもしれないが。


 味の方もお世辞にもいいとはいえない。ぼそぼそした感じで甘みはなくしょっぱい。その上、口の中にくっつく。

 ひどいもんだ。

 しかしこの状況で一人だけまともなものを食うわけにも行かないので仕方なく食う。うん、まずい。

 これ3本で栄養補給が終わってしまうあたり、少量でも栄養が補給できる点では優れているのかもしれないが、もうちょっと味はどうにかならなかったのだろうか。

 まあ何とか食いきった。まずくはあるが食えないというわけでもない。


 テンションは落ちたが別に速度は落ちていない、順調にパーティーは進んでいく。

 と、思いきや、1時間ほど走っただろうか。近くで爆発が起こった。半径1mやそこらの爆発だ。


「イクスプロンドルだ! はぐれか!」


 イクスプロンドル……?

 周囲に魔物の姿はない。何もいないのに突如爆発が起こったのだ。

 周りを見てみると、護衛の人たちは上を向いている。

 見上げてみると巨大な鳥のようなものがいる。高度は1キロくらいに見える。


「数は1匹だ! 間隔開けろ!」


 その指示とともに、個々人の距離が今までの倍ほどに広がる。被害を小さくする作戦か。

 直後、再度の爆発が起こる。俺と前衛の中間あたりだ。

 間は大体10秒ほどしか開かなかった気がする。受け続ければいつかはあたってしまうだろう。


「魔法で撃ち落としてみます!!」


「空からの攻撃は街で対処するもんだ! どうせ届かねえから防御に使え!」


 届かないのか?

 試してみる価値はあるな。

 普通届かないとは言われても、普通は、いや、普通のデシバトレ人でもアイテムボックスにトン単位の物資など積めないのだ。今更普通を語ったところで何の意味もない。

 それに魔法装甲ならすでに張っている。爆発範囲を見る限り耐えられるレベルだろう。


「防御は張りました! 撃ち落としてみます!」


 そう言って上に向かって、イクスプロンドルとやらを狙って爆裂砲弾を一発放ってみる。まずは届くかどうかだ。

 しかし、真上に打ち上げたせいで砲弾のほうが俺達に置いて行かれてしまった。イクスプロンドルも俺たちを追いかけているので当然砲弾はイクスプロンドルのはるか後ろを通り過ぎる。

 しかし距離的には届いたことは届いた。2秒ほどかかったが。


「届いた!? しかも速え!」


 周囲から声が上がった。確かに俺の魔法は元々速いのに加え特殊な杖まで使用している。速いのは当然だろう。

 しかしそれでもやや速度不足な気がする。

 2秒もかかるのだ。イクスプロンドルの、コントロールは良くないとはいえ弾などなく、突如起こる爆発と違って見てから回避が可能だ。

 回避されない可能性もあるので、様子見に撃つことには変わりないのだが。

 ええと、今俺達はだいたい時速40キロやそこらで走っているとして、弾速はおよそその12倍。

 真上から見て12分の1くらいの傾斜で撃てばいいのか。

 その程度で撃ってみると、魔物とそう遠くない場所に到達した。

 そのまま3発目を撃ったところで、轟音とともに一瞬視界が赤く染まった。被弾したらしい。

 しかし予想通り、爆発はほのかに温かみを感じる程度で、俺にダメージはなかった。温かみも気のせいかもしれない。


「魔力は大丈夫か!」


 走りながら声をかけられる。それほど動揺していないようだ。さすがはデシバトレ人といったところか。


「はい、あの程度なら何百発でも耐えてみせますよ。魔力ならいくらでもあります」


 比喩ではない。実際消費より回復のほうが速いのだ。


「アイテムボックスの容量はどんなカラクリかと思ってたが、化け物だっただけかよ!」


 化け物とは心外だ。デシバトレに到着する前からすでに、デシバトレ人の中のデシバトレ人なだけだ。


「俺はただのデシバトレ人だ!」


 そう叫びながら放った爆裂砲弾が、イクスプロンドルに命中しそうな軌道を描いて飛んでいった。

 案の定、寸前でかわされる。

 ……しかし、寸前でかわされるのであれば手はある。

 寸前から避けられる範囲を全て塞いでしまえばいいのだ。弾幕はパワーだ。

 魔力消費がより少ない火の玉を100個ほどまとめて作り、わずかに角度に差をつけて飛ばす。それと同時に近くで爆発が起こる。

 今度は器用に間を抜けられた。忌々しい。

 しかし間を抜けるということは大きくかわすことができない可能性が高いということだ。鳥がよほど自分の回避能力に自信を持っているのなら話は別だが。

 であれば対処法はある。極めて脳筋チックな対処法だ。

 避ける隙間を与えなければいい。見たところ鳥はずいぶん大きいし、可能なはずだ。

 対人用だったショットガン魔法を更に大規模に展開。数は一万を超えるだろう。

これ以上はスペース不足で展開できない。今でも外から見たら俺は岩製のハリネズミのように見えることだろう。

 前と同じように射撃する。


 岩の散弾はまっすぐ飛んでいき――途中で爆発した。半径1mほどの爆発が起き、余波のせいかその倍ほどの範囲の槍が消える。

 視力も強化されているのか鳥の様子も散弾の様子もここから見ることができる。

 俺の目が間違っていないのであれば、鳥はまた器用にその開いた隙間に潜り込み、ほぼ無傷で切り抜けたようだ。驚くべき器用さ。

 と、ここまで観察したところで今の10秒間、新たな爆発が起こっていない事に気づいた。

 となると、あの岩散弾の爆発は実はイクスプロンドルによるものだったということになる。

 思えば今までの爆発は地面で起こっていた。地面に衝突したファイアボールのように。


 ということは、イクスプロンドルの攻撃は実は無弾攻撃ではなく、不可視の有弾攻撃だった?

 再度、同じものを放ってみるが、やはり空中で爆発した。そしてその隙間に潜り込まれる。

 地上での爆発は、起きない。

 どうやら正解のようだ。

 いくら数を増やそうと、範囲ごと薙ぎ払われては仕方がない。有弾魔法を防ぐのに硬さなど関係ないのだ。

 空気や空飛ぶ塵では防げないようだが、それ以外では基本的に止まっている。その地点で物理現象に変化してしまうのだ。

 どうしたものか。

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