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第36話 魔道具と目的地

巣窟の読みは正しくはそうくつです。

 大量の蜘蛛を収納し終わった俺は再度飛び上がり、エレーラに向かって飛びながらあたりの様子をうかがう。

 街までの距離の三分の一ほど進んだところで撤退する魔物たちの姿が見える。

 やはりボスはこいつらであっていたようだ。

 そのまま報告のためギルドまで移動する。街の入り口からは徒歩だ。空からギルドに着地すると門を通ることができない。密入国で追い回される可能性がないとはいえない。国ではないが。


 門は以前のエインの時のような厳戒態勢というわけではなかった。普通な感じだ。

 ギルドの動きはいまいち速くないのだろうか。それかまだあまり問題無い状況だったとか?

 ギルドで戦果の報告をしたところ支部長室に通された。

 最近は支部長室に呼び出されてばかりな気がする。


「で、ジャイアントスパイダークラブ208匹と聞いたが、本当かね?」


「本当ですよ? 死体を出しましょうか?」


「いや、本当かどうかを疑ってるわけではない。ギルドカードにも書いてあるからな。」


 便利なものだ。


「とりあえず報酬を用意した。働きの割には少ないがこちらにも色々あってな、このくらいで我慢してくれ」


 そう言って大金貨を2枚渡された。メタルリザードの半分も苦戦していないのにメタルリザードの倍以上の報酬。問題はない。


「死体はどうした? ジャイアントスパイダークラブの肉はうまいぞ、割と高級食材だ、1匹くらいなら買い取りもいけるぞ」


 あのクモとカニの中間みたいのを食うのか。確かに身は多いだろうがクモ…… まあズワイガニもクモの仲間だったか。それならなんとか。

 まあテーブル以外何でも食うとか言われる人たちなら地球にもいたが。


「アイテムボックスに全部入れてありますので一匹売っていくことにします。いくらですかね?」


「7万テルでどうだ」


「大丈夫です、ところでこういうことってちょくちょくあるんですか? 最近やたらと弱い魔物が追い立てられるのを見かけている気がするんですが」


 メタルリザードやらクモの群れやら、イレギュラーな魔物とやたら遭遇するのだ。

 どこかのワインみたいに10年に一度が10年の間に何度もあったりその中に100年に一度が含まれていたりという可能性も……ないだろ。


「ああ、珍しくはあるがそれこそ200年以上前からあることはある。徐々に頻度が上がってきていると言う話もあるが偏りの範囲内だと思っている、それに一度起きたらしばらくは起こらないからな」


「そういうものなんですか」


「少なくとも今までは一カ所で連続で起こったことはない、今後もそうだという保証はないがな」


「そうですか、俺はそろそろこの町を出ようと思っているのですがおすすめとかありますか?」


 武器も完成した。商談も一段落ついた。カトリーヌもいるが…… 別にこの街にとどまる理由にはならない。

 あとは防具だけだ。魔道具を作れるようになれば便利かもしれないがいつになるかわからないのに待ってはいられない。


「そうだな、腕に自信があるなら1ヶ所だけで一気にランクを上げられる場所があるぞ、1日だけの短期護衛依頼も多い、その上短期護衛の報酬は通常の一週間近い護衛依頼の倍以上だったりする」


 それなんかヤバい依頼じゃないんだろうか……

『亜龍達の巣窟(すくつ)を荷物を持って走り抜けろ!』とか。


「それ、どんな都市なんですか? 明らかに普通の依頼じゃないですよね?」


「デシバトレ、人と魔物の戦場のど真ん中にある前線都市だ。デシバトレとその後ろにある要塞都市フォトレンの間は狭い半島のような場所でな、魔物のうち強いものをデシバトレでできるだけ減らしておきその後ろにあるフォトレンでブロックするようになっている。性質上デシバトレとフォトレンの間はそこそこの頻度で強い魔物が現れるからな、護衛依頼も相応の危険度、というか一割くらいは帰ってこないな。二割くらいは途中で荷物を置いて撤退、そのくらいの危険度だ」


 超やべえ。なんでそんなとこにいかなきゃならないんだ。


「それはちょっとさすがに…… まだ死にたくはありませんし……」


「お前なら護衛くらいは大丈夫だろう、一割は死ぬというがそれは大体護衛をケチったとか確保できなかったとか、借金が返せなくなった奴が一攫千金を目指して文字通り命がけで運ぼうとした結果だ、大体Cランク以上の実力の奴が三人もいれば撤退くらいは何とかなることが多い」


 ……ことが多い。

 ならないこともあるってことですよねぇ……。


「それ、撤退に失敗することもあるってことですよね?」


「Cランク三人ならな、どこの世界にジャイアントスパイダークラブを200匹単独撃破できる奴がいるんだ。Cランクじゃ一匹でも無理だぞ、Bランクが六人集まって、狭い谷とかで同時に戦う数を限定して、やっと何とかなるかってレベルだな、お前の戦力は明らかにAランクを超えている、群れを相手にすれば世界トップクラスだろう。デシバトレで数が減った魔物ごとき相手にならん」


「えぇ……」


 割と強い方だとは思っていたが世界トップクラスだとは。

 そこまでかはともかく確かに撤退はできるだろう。大体の攻撃は俺に通らないので空を飛んで逃げればいい。

 カトリーヌはフォトレンあたりでお留守番だがそれに縛られるくらいなら売るなりなんなりすればいいのだ。

 人を売買するという感覚は慣れないがそもそもたまたまとはいえ奴隷を所持している地点でそんなことは関係ない。

 ここは異世界だ、日本の常識など通用しない。日本にいる間に集めた偏見のコレクションなどグリーンウルフのエサにでもしてしまえばいい。


「まあ、それなら行ってみましょうか、長く滞在するのもおもしろいかもしれませんね」


 やはり空を飛んでいつでも逃げられるというのはいい。余裕ができる。

 護衛依頼に失敗したらカルマが下がって犯罪者になってしまったりしそうだが、俺は悪事をはたらかずに依頼を達成している。カルマは多分上限の20だ。

 まあ実際は法に触れることをすれば当然一発で犯罪者だが。現実は非情だ。


「そうか、ありがたい。実は少し前に本部からデシバトレ戦況の悪化を伝えられてな、戦力を集めろとのお達しだがうちには武器調達で一時滞在する冒険者はいてもギルドの側で動かせる奴は少なくてな、ちょっと困ってたんだ」


 そういうことか。

 俺の質問は渡りに船だったと。


「戦力を集めろってことは俺は向こうのギルドで何かやらされるんですか?」


「いや、そういうわけではない、ギルドは基本的によほどの緊急事態でない限りは冒険者を縛りはしない、輸送の護衛だけでも助かるしその過程で見た魔物を撃破してくれればもっといい。もちろん前線で討伐依頼をハイペースでこなしてくれるのが一番たすかるが、そこまでは要求しない」


 様子見してみればいいか。


「わかりました、討伐依頼については向こうについてから考えることにします、向こうの魔物がどのくらい強いのか分かりませんし。ところでどうやってそこまで行ったらいいでしょうか?」


「ちょうどいい護衛依頼があるぞ、フォトレンまで2週間ほど、3食付きだ」


 ということで、その提案に甘えることになった。他に受ける人が足りなかったらしくカトリーヌがいても大丈夫なうえ出発は防具が完成するまで待ってくれるそうだ。

 ことごとくギルドから都合よく役目を押しつけられることになってしまったが、利害が一致しているというのはこういうことをいうんだろう。

 クモを預け、金を受け取ったり預けたりしてギルドから宿に帰るともう外は暗くなり始めていた。

 魔道具製作練習の進捗を聞くためカトリーヌの部屋を訪れる。すでに奴隷の扱いではない気がする。

 まあ扱いを悪くするメリットなど特に見つからないのだから問題はない。金ならそこそこあるのだ。


「魔道具の調子はどうだ? 作れそうか?」


「はい、聞いていたよりは簡単そうです。ですが魔道具を作るには材料の魔石が必要ですので今は無理ですね」


 魔石か。あのクモのは使えるか?


「ジャイアントスパイダークラブの死体があるが、それ使えるか?」


「ええと…… 使えることには使えますけど一個1万テルはくだらないと思いますよ、そんなものを使ってしまっていいんですか? 成功するかも分からないんですよ?」


「ああ、大丈夫だぞ、いっぱいあるからな、俺のアイテムボックスはちょっと容量がでかいんだ」


「ちょっと……? まあいいならいいですけど…… どんなのがいいですか? 使い捨てのタイプのほうが性能が高いと思いますけど」


「どんなのがあるんだ?」


「やってみた感覚でできそうなもので、使い捨てで実用されているものといえば結界、爆発、浮遊、加速あたりですね」


「性能を説明してくれるか?」


「はい、結界は素材と同程度のランクの魔物の攻撃を耐える程度の固定結界、サイズは半径5m程度の円形になります。爆発は魔力を込めると爆発するものですが魔導線などを使って起爆します。大体半径10mくらいの人を殺せる程度の威力です、浮遊は一般的に使われるもので高さ10m程度の位置に5分ほど滞空が可能、加速は風魔法と同じくらいの加速で1時間程度維持が可能です」


 ふむ、どれもかなり便利そうだ。

 魔導線とやらがないから爆発はいったん除外しよう。火力は足りている。浮遊も加速も自分で使える。

 一応カトリーヌに使わせるという手もなくはないがそもそもカトリーヌが前線に立つ状況が思い浮かばない。船でも動かすのだろうか。

 消去法で結界だ。

 護衛が楽になるかも知れないし持っていて損はないだろう。


「結界で頼む、他は魔道具なしでもいける、しかしなんでそんな便利なもんが使われてないんだ?」


「わかりました、あまり使われてないのは高価だからです。その割には扱いにくかったり持続時間が短かったりしますので。性能を落とせば再利用可能にもできますがそれにしても寿命は短く、そのうえ魔力が多い人が補充するとさらに寿命が縮みます。補充する人を大勢用意できるような大きい商会の人が野営に使うくらいであとは爆発の魔道具がギルドの一部支部に大量に備蓄されているくらいです」


 結局金か。まあ材料だけで一個10万円と考えれば仕方ないか。簡単に使い捨てにできるものじゃない。

 それこそ軍でもなければそんなものをぽこじゃか使い捨てにしたりはしないだろう。この世界ではギルドだ。


 そんなこんなで防具の受け取りも完了し、出発の日がやってきた。

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