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第35話 奴隷と砲撃

 森から帰ってきてギルドカードを見せるところで止められるかと思ったが素通りだった。

 カトリーヌはギルドカードなど持っていないが他に何か確認手段があるのだろうか。

 そのまま宿に帰りもう一部屋取った。


「宿をもう一部屋取ったからそこで魔道具製作を練習するといい、その結果次第で今後どうするかも決るからな」


 役に立つなら大歓迎だが役に立たないなら売るなりなんなりすることになるだろう。

 余裕があるからと言って足手まといを連れて行く気はないのだ。


「あの、奴隷に一人で一部屋って、いいのでしょうか」


 ん? 奴隷は普通部屋を与えないものなのか?

 確かに宿とはいっても旅館みたいなものだ、奴隷には雑魚寝の宿だとかがあるのかもしれない。

 しかし俺にはそこそこ金もある、特にコストを削る必要性もない。


「問題ない、じゃあ俺は用事があるからちょっと出てくるぞ」


 そうだ。用事だ。

 俺たちはジャイアントスパイダークラブを見た場所からここに向かって帰ってきたわけだが、その間帰ってくる魔物と遭遇などしていない。

 メタルリザードのときの撤退ぶりをみるとまだボスがいるのではないかと思えてしまう。

 ジャイアントスパイダークラブは確かにそこそこは強かった。だが俺は強くなったとは言えメタルリザードに比べると数段劣るのだ。

 念のためギルドにも報告しておくことにする。俺一人で攻め込んだところでボスは倒せるかもしれないが逃げる魔物によって街に被害が出るのはよくない。

 ギルドの中に入ると中の雰囲気はやや慌ただしかった。受付には一人しかいない。その受付に話しかける。


「すみません、魔物について報告があるのですが」


「ラッシュシープやレッドウルフが突撃してきたと言う話ならもう聞いています、それ以外で何かありますか?」


 すでに到達していたようだ。門のところは問題無かったことから考えるとまだ突撃から時間がたっていなかったか、ガルゴンのような外壁に有効なダメージを与える魔物がいないからだろう。

 それにしてもラッシュシープ共。せっかく見逃してやったというのに恩を仇で返しやがって。

 ともあれ異変だ。クモだ。


「はい、二時間ほど前にジャイアントスパイダークラブを発見、俺はこれを直ちに討伐しました」


「二時間前、ジャイアントスパイダークラブですね。森のどの当たりの位置ですか?」


「ここからツバイ側の門を出て左折、そこから女性の脚で徒歩一時間半といったところです」


「了解しました、報告してきます。カエデさんはこれからどうしますか? Eランクとはいえランク詐欺と言われるカエデさんが防衛に参加してくれるととても有り難いのですが」


 防衛か。しかし防衛といっても出てきた有象無象の雑魚共をいくら処理しようがボス級は止まらないだろう。

 逆にボス級を処理すれば雑魚共は撤退する可能性が高いのだ。ここはボスをさっさとつぶしてしまった方が結果的に安全かもしれない。

 その過程で出てきた魔物は大物狩りに支障が出ない程度に殺すが。


「俺はでかいのを探してつぶしてきます。前いた街でも似たようなことがありまして、でかいのをつぶしたら攻撃が止まったんですよ」


「わかりました。トラブルに巻き込まれやすい体質か何かなんですね、強いそうですが死なないように頑張ってください」


「もちろんです」


 ギルドを出て、門の外まで走る。メタルリザードと出会ったときには幸か不幸か適当に走っていたら出会ってしまった。

 今回はそううまくいくとは限らない。もっと便利な索敵手段が必要だ。

 ということでこんな状況ではあるがさっき失敗した飛行魔法の練習を開始する。

 魔法での索敵も便利だがやはり目視での偵察は基本だ。魔力は遠くに届かなくても光は届くのだから。

 ということで今度は浮くことだけを意識してみる。前使ったときの感覚ではこの魔法は体の一部をまっすぐ押すような感じで働くようなイメージだ。

 ならば脚を持ち上げたらまっすぐ浮くのではないか。とりあえず試してみる。


 足をすくわれた。半回転して地面に頭をぶつける。

 どうやらこれではよくないらしい。重心と力の方向を合わせなければならないのだろうか。

 今度は前に向かってジャンプし、体を地面と平行にして体の前側に力をかける。うまく浮けた。

 これなら偵察もしやすい。着地はしにくいが…… 最悪、墜落してもなんとかなるのだ。痛いからできればやめておきたいが。

 そのまま10mほど上がってみた。周囲がよく見える。前への推力は足の側を使うことで用意できた。

 とりあえず何か無いかと高度を上げてみる。斜め右前の遠くの方の森が少し様子がおかしい。

 かなり遠いためあまりよくは見えないが色が違う、茶色っぽい。あとなんか動いてるように見える。

 森の他の部分は青々とした森だ。明らかにあそこは違う。


 そこまで飛んで行ってみると正体が判明した。あのでかいジャイアントスパイダークラブの群れだ。あいつらあのでかさで群れるのか。他には特に様子がおかしい箇所は見当たらない。恐らく他に大きな異変はないだろう。

 あいつらが哀れで愚かなラッシュシープたちを追い立てていたのか。

 俺に殺されたラッシュシープの恨みを晴らしてやる。皆殺しだ。

 とりあえず真上まで来てみた。うじゃうじゃいる。キモイ。

 さっき倒したときには足を切り落としてから本体をつぶしたが、飛べるなら最初から胴体をやってしまえばいいんじゃなかろうか。

 メタルリザードも上空から魔法で攻撃するらしいし。と言うことで試してみる。

 お馴染み岩の槍だ、とりあえず10秒で作れるくらいのサイズの岩の槍だ。

 そのキレイな頭をフッ飛ばしてやる! というかけ声と共に放たれた岩の槍はクモに10cmくらい食い込み、砕けた。蜘蛛の頭のサイズからするとあまり効果はなさそうだ。実際蜘蛛は元気だ。

 同じくらいの魔力で火の玉だとか放水だとかやってみるけど効果はない。もっと時間をかければ何とかなるかも知れないが敵はいっぱいいるのだ。200匹はいる。どっから出てきたんだ。一面蜘蛛の海だぞ。


 さて、どうしよう。とりあえず剣か。魔剣なら頭を切れることは確認している。急降下斬撃でもやるか。

 前進の速度を上げ、高度を下げながら頭を斬る。そしてそのまま俺は地面に突撃する。

 あわてて高度を上げようと上向きの推力を全力で上げ、地面すれすれから立て直すことに成功する。

 やはりこの飛行魔法は難しい。急降下とかはあまり向いてなさそうだ。

 そもそも急降下攻撃って飛行機の機動であって推力を直接上向きに使って飛ぶ、どちらかといえばヘリコプターみたいなこの魔法とは相性がよくないかもしれない。

 ではヘリコプターと相性がいい攻撃的な機動とは何か。


 そんなものはない。そもそもヘリコプターってそういう乗り物じゃねえから。

 一応曲芸とかで変な飛び方をしないこともないが実戦向けではない。

 じゃあどうしよう。ヘルファイアでも撃つのか?

 ヘルファイアとはいかずとも本物の砲弾みたいな感じのならいけるかもしれない。

 そもそも岩の槍は推力などなくともまっすぐ飛ぶし、火の玉は爆発するのだ。刺さってから爆発すれば内部を爆破できる。

 火の玉が太めの岩の槍の内部にあるような感じだ。試してみたら作れたことは作れた。

 手近なクモにぶつけてみたところ食い込んでから爆発した。しかし爆発がしょぼい。

 そのうえ大して貫通せずに爆発したため表面で爆発するのとほとんど変わらない。

 どうすればいいだろうか。

 まず貫通力か。こちらはなんとかなるかもしれない。基本的に魔法の威力は消費魔力に比例する。そして当然太さが太くなれば威力は上がる。

 ということは長細い岩の槍を作ればいい。消費魔力は増えるし断面積も小さい。それが弾本体だ。

 爆薬部分は温度をとにかく上げる。なぜか火の玉は着弾してから爆発するからこれで大丈夫なはずだ。

 近くにあっても熱くないし、実際火の玉の魔法は爆薬を飛ばしているようなものな気がする。


 完成した。長さ2m、直径5cmほどの岩の槍の先端付近に炎魔法を封入したものだ。2秒くらいで作れる。

 これをクモの頭にぶち込んで差し上げる。

 岩の砲弾は命中し、先端から砕けた。

 砕けたのは前半部分だけだ。しかし後半部分もまもなく蜘蛛の頭にぶつかり、同じように砕ける。

 爆発は最初の槍が砕けたときに起こったが、表面での爆発だ。意味が全くない。

 どうやら長さと太さの比を極端にしすぎたらしい。

 仕方なく効率が落ちるのを承知で何本か太さを変えて撃ってみたところ、折れない太さが判明した。

 長さ2m、幅8cmほどの太さの岩の槍はクモにしっかりと食い込み、内部からしめやかに爆発四散させた。

 生成にかかる時間は3秒といったところか。実用圏内だ。

 おまけに岩の槍の効果で破片手榴弾みたいな効果も見込めるかも知れない。


 この魔法ははじめてまともに開発した魔法だ。名前がないのはもったいない。この魔法は爆裂砲弾とでも呼ぶことにしよう。

 爆裂砲弾をまとめて10本生成しながら飛行魔法のほうの練習をかねて急降下斬撃を再度試す。

 と言うか別に爆弾を落とすわけではないから急降下する必要はないのだ。まっすぐ飛びながら斬ればいい。

 問題はクモすれすれのいちを通過しなければうまく斬れないという点だが、微調整は飛び回るうちにこつがつかめた。急降下は無理でもこれなら実用レベルだ。移動するクモの群れについていきながら、ひたすら切り裂き、爆裂砲弾を撃つ。

 しばらくして周囲に魔物の影はなくなった。クモどもは空中に対する攻撃手段を持っていなかったらしい。

 むしろアイテムボックスに死体を収納する方が時間がかかった気がする。

 グリーンウルフの群れに岩の槍を突っ込むときとちがって重複はないし速度も銃弾レベルだ。ノーブ(しょしんしゃ)だったあのころとは違うのだ。

 ワンヒットワンキルだ。倒された魔物は恐らくリスボンはしない、されたら困るが周囲を見回しても魔物が復活する様子はない。ここはポルトガルの首都ではないが。

 クモは208匹いたようだがアイテムボックス一枠に全て収まった。謎の基準だ。

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