表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/114

第34話 蟹と蜘蛛

激突する前、俺は斜めに加速しながら飛んでいた。そして横向きにはそのまま、力をやや上方向に向けて下方向の速度を相殺しようとしたのだ。

横向きには加速しっぱなしだったものだからそれはもう低空飛行していた燕がそのまま誤って地面に激突したかのような角度で地面にぶつかった。

とりあえず着地の衝撃には装甲は耐えてくれたが全身を強く打ってしまった。この場合の全身を強く打つとは隠語ではなく文字通りの意味だ。

もし装甲が機能してくれていなかったら地面がおろし金のように俺の体をすり下ろした可能性もあるし、衝撃が分散されない分テレビとかで報道される意味で全身を強く打っていた可能性も高い。助かった。

しかしもちろんそんな角度で着地したら地面は俺が埋まり込んで止まることを許してくれるはずもなく、俺はバウンドしながら吹っ飛ぶ。

車より速い速度な気がする。サラマンダーよりも速いかもしれない。サラマンダーの速さは知らないが。

一体何回弾んだだろうか、俺は木らしき何かに激突し、その木はミシミシ言いながらも俺の体を受け止めてくれた。

2回も全身を打った俺はたまったものではないがまだ装甲は生きている。俺も生きている。。

繊細なんだからもっと優しく受け止めてほしい。と痛む体を回復魔法で即座に直し、立ち上がりながら内心木に文句を言う。


立ち上がるとふと見慣れない物が目に入ったのに気付く。

5mほど先の地面にへたり込んでいる女の子だ。すごく地味、というか質素な服を着ているが美少女だ。


「こ、こんにちは?」


とりあえず挨拶をしてみた。円滑なコミュニケーションは挨拶から始まるんだ。

俺の挨拶を聞いて女の子も口を開いた。


「あ…… あの……」


おびえられてしまったか? 静かさが耳に痛い。なんだろうこのいたたまれない雰囲気。

そりゃそうだよな。いきなり男が飛んできて木に激突したらこんな反応にもなるだろう。

女の子からの次の言葉はなく、ただ口をパクパクとさせている。さっきから聞こえているカチカチという音以外には何も聞こえない。

ところでカチカチってどっから出てきた音だ?俺の背後から聞こえてる気がする。

後ろを振り向こうと思ったとき、俺を衝撃が襲った。

攻撃自体は魔法装甲が全て受け止めてくれたようだが何かによって地面がえぐられた。

振り向くと背の高いカニのようなクモのような生き物がいる。高さは10mほどもあるんじゃなかろうか。

その体から振り下ろされたであろう幅1m以上ありそうなハサミが地面に埋まっている。女の子がおびえてた相手ってこの魔物じゃないの?

ラッシュシープ達もこいつのせいかもしれない。


とりあえず攻撃を受け止められることはわかった。俺は何とかなるだろう。

問題は女の子だ。戦闘に巻き込まれて無事でいられそうには思えない。

というかもしそれで無事でいられるなら俺が突撃してきてもあんな反応にはならないはずだ。

そう考えている内に魔物がハサミを地面から引き抜いた。


よし、とりあえず気を引こう。女の子の方から離れてしまいさえすればこっちのものだ。

さっきのを見る限り向こうの攻撃はこちらに通らない。俺の攻撃が通らない魔物がいるとも考えにくい。

ということで気を引いてやることにした。魔物の顔らしき場所に岩の槍やら火の玉やらをぶつけてみる。

もしかしたら水に弱かったりするかもしれないと思い放水もしてみたりしながら魔物の後ろ、女の子の反対側に移動する。

気は引けたようだ。魔物はハサミをカチカチ鳴らしながらこちらに合わせて方向転換してきた。

カチカチという音は魔物がハサミを打ち合わせる音だったようだ。威嚇だろうか。


そのまま走って魔物から遠ざかる。カニはついてきているがいささか速度が遅い。これでは引き離してしまう。

わざと速度を落としながらさらに走った。しばらくして追いつかれる。女の子がいたあたりからはもうだいぶ遠ざかったはずだ。

さて、戦闘開始だ。とりあえずここからでもすぐに届く、太さ1mはあるであろう脚の部分に二本の剣で斬りかかってみる。

スパン、という小気味いい音とともに脚が切断された。刃杖のほうは脚に食い込んだだけだが魔剣のほうが切断してくれた。

しかし魔剣を以てしてもそこそこ堅い感じがした。これは魔剣がなければ切断するのに苦労したかもしれない。

とはいえ今俺の手元には魔剣があり、それを支える莫大な魔力があるのだ。

脚が八本あるせいか脚を一本失ってもバランスを崩さなかった魔物の残りの脚を俺は切断しにかかる。


2分ほど経っただろうか。ハサミを振り下ろしたり振り回したりという抵抗むなしく脚を片っ端から切断された魔物は地面に胴体とハサミだけになった姿を晒していた。

でかくて強そうな割には驚くほど弱かった。ハサミを振り回す速度だけは速かったが、それだけだ。

体の下なりに潜り込んでしまえば当たらないし、仮に当たったところでどうということもない気がする。

とどめの差し方はよく分からないから蜘蛛に上って適当に魔剣を突き刺していたら動きが止まった。

鑑定してみるとバッチリ死んでいる。名前はジャイアントスパイダークラブというらしい。でかい蜘蛛のカニ、全くそのまんまの名前だ。

とりあえずそいつを切った脚もろともアイテムボックスに放り込み、女の子の様子を見に行く。


「ええと…… あのカニは俺がぶっ殺したからもう大丈夫だよ?」


そう言ってカニの手を取り出し、女の子に見せる。

女の子は戸惑っていたが、やがて何かを決意したかのようにこちらを見つめ、言葉を放った。


「わ、私の主人になってくださいっ!」


え、主人? いきなり? このタイミングで告白? 吊り橋効果?

吊り橋効果で主人になるのはよくないと思う。こういうのはよく考えてからにすべきだ。


「主人って…… いきなり言われても。こういうのはお互いのことをよく知ってから……」


「あまり役に立たないかもしれませんが頑張ります! 捨てないでください!」


捨てる!? まだ付き合ってさえいないのにもう捨てるって段階なの!? それどころかお互いの名前も知らないのに!?

とりあえず自己紹介だ。


「あー、俺はカエデって名前で冒険者だ。君は?」


「はい、カトリーヌといいます、奴隷です、よろしくお願いします!」


奴隷…… だと……


「ええと、君は奴隷ってことは、つまり…… どういうこと?」


奴隷の主人になれと言われる覚えはない。かといって押し売りにも見えない。


「私は奴隷商に売られてツバイまで運ばれていくところだったのですが近道の途中で馬車があの魔物に襲われて、奴隷商は死にました。そしてあなたがその魔物を殺したので私の所有権はあなたに移ります」


うんうん。なるほどね。盗賊に奪われたものは盗賊を討った者の物になる。魔物でも同じって訳か。

うん。どうしよう。奴隷を使う気もないしどこかに売ってしまおうか。

いや、それは使えるかどうかを見極めてからだな。俺はこの世界の常識にも疎いしこれからも地球の知識を使って商売するなら人手も必要になる。

出来るだけ信頼できる人材は用意しておきたいのだ。金はそこそこあるし問題ない。要は使えるのなら断る理由はないのだ。


「よし、お試し期間だ!」


「お試し期間、ですか?」


「ああ、俺はさっき言っての通り冒険者だ、足手まといを連れて行く気はない。だからとりあえず今日から俺がこの町を出るまでに役立つかどうか見極める、とりあえず君は何ができる?」


「ええと…… 魔道具制作……」


魔道具制作か、冒険者のパートナーとしても役に立ちそうだ。


「に関する、知識を持っています」


……知識?


「……知識ってことは実用は出来ないってこと?」


「……はい、そうです」


ダメじゃん。


「何で実用できない技術なのに覚えてるの?」


「私の家は魔導具職人の家でして、私ははじめ魔法が使えなかったので使えるようになったら一気に巻き返してやろうと思って知識だけは覚えていました。しかし今まで魔法は使えるようにならずついには奴隷として売られることになってしまいました」


中々に酷い過去だ。なんか役に立ちそうにないというのに逆に売り払いづらくなってしまった。


「魔法が使えないと魔道具は作れないの?」


「はい、正確には魔法自体は発動できなくても構わないのですが魔石に魔力を通す必要がありまして、そのための魔力のコントロールに魔法を使うんです」


「直接魔石で練習するんじゃダメなの?」


「無理です、魔石は他の物体よりはマシとはいえあまり魔力を通しやすくはないので初めから魔石を使っても感覚さえつかめません、私の場合魔力が遅くて弱すぎるのが魔法を使えない原因なのでどうしようもありません。量はあるんですが……」


「ふむ……」


つまり魔力を通しにくいからダメなのか。どうにかする手段がある気がする。何か忘れてる気がするんだ。

アイテムボックスの中身を見てみたところ、何か忘れているものの正体が判明した。

ウィスプコアだ。魔力伝導性がいいとか書かれてたはず。


「ちょっとこれで練習してみてもらえる?」


そう言ってウィスプコアを手渡す。カトリーヌは怪訝な顔をしながらそれを受け取る。


「黒い魔石…… なんですかこれ? 黒い魔石なんてウィスプ魔石しか知りませんよ?」


「そのウィスプ魔石だ」


「そんなのがここにあるわけないじゃないですか。それにウィスプ魔石は魔力がすごく通しやすいんですよ? ウィスプ魔石なら私でも魔力を通せるんじゃないかってくらいです。でもやっぱりこの魔石には魔力は通ら……」


そこまで言ってカトリーヌは固まってしまった。


「……通りました」


「練習に使えそう?」


「多分。ウィスプ魔石だとしたらすごい無駄遣いですが」


ウィスプコアは何回もチャージして使えると聞いている。消費はしないはずだ。


「ならそれで練習するといい、とりあえず街へ戻るが構わないかな?」


「はい、大丈夫です、魔道具が制作できるように頑張りますがこれ持ってるのはすごく不安なんですが…… ジャイアントスパイダークラブを瞬殺といいカエデさんは何者なんですか……」


「俺はただのEランク冒険者だよ? とりあえずそれは俺が持っとくよ」


ただのではないかもしれないが。ウィスプコアを受け取りアイテムボックスに収納する。


「ますます正体が怪しくなった気がします。主人が強いに越したことはありませんが……」


正体とか言わないでほしい。別に偽っちゃいない。

帰りながらカトリーヌを鑑定してみた。


名前:カトリーヌ

年齢/種族/性別 : 18/人族/女

レベル:4

HP:25/25

MP:150/150

STR:7

INT:8

AGI:7

DEX:25

スキル:不活性魔力


MPが多い。DEXも高い。

見覚えのないスキルの不活性魔力を鑑定してみる。


不活性魔力 ユニーク/ランク3

説明:体内の魔力を不活性状態にする。

魔力の活性が著しく低下する代わりに魔力最大値が上がる。


魔法が使えなかったのはこのせいかもしれないな、と思いながらカトリーヌのペースに合わせて森を歩いていく。

かなり時間がかかったが、ようやく街が見えてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍5巻が、7月29日に発売します!

前巻までと同じく、全編書き下ろしです!

それと、新作『失格紋の最強賢者』、2巻まで発売しました!

もちろん、書き下ろしありです!

是非読んでください!

下のバナーから、各作品の公式サイトに飛べます!

★チート魔法剣士特設サイト★

★失格紋2巻公式ページ★

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ