第29話 新特許と国家
盗賊退治とコークス関連の交渉の翌日だが、今日は特に用事は無いので冒険者らしく狩りをして過ごすことにした。
以前と同じように移動しながらレッドウルフを狩って回ったが、今日は特に盗賊のアジトを発見することもなく、50匹ほどのレッドウルフを狩って終わった。
その足でギルドへ向かう。昨日の報酬も受け取らなければならないし。
「こんにちは、レッドウルフ駆除の報告に来ました、あと盗賊討伐の報酬も受け取れますか?」
受付嬢はギルドカードに目を通し、すぐに顔を上げて言った。
「カエデさんですね、盗賊討伐の件に関して支部長から直接お話があるとのことでしたので、今大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
依頼の内容自体に関しては当日に話したし考えておくと言っていたランクに関しての件だろうか?
この間ランクが上がったばかりなのにまた上がるのか? 考えていても仕方が無いからとりあえず支部長室に行くことにするが。
「カエデか、とりあえず座るといい」
「はい」
「まずは報酬だな、盗賊一人につき500テル、38人で19000テル、それから基本報酬8334テル、戦利品の分配で12666テル、合計40000テルだ」
ずいぶんとキリがいい。
戦利品の分配のところで調整したのだろうか。まあ4万テルもらえるなら上出来だろう。
メタルリザードメタルからしたら端金かもしれないが一般的には大金だ。一度の依頼でこれだしな。
「で、ランクの話だが実力に関してはマジスに聞いた話だけでも軽くDランク程度越える実力を持つと言うことが分かった。しっかりと人を殺せるということもな」
実力に関しては? 何か足りないのだろうか。
3年以上の実務経験が必要だとか言われたら困るぞ。
「だがカエデには一部経験が足りない、Dランク以上となると護衛依頼の経験くらいは必要だ、ということで実力に関してはギルドカードに書いておいた、もちろんギルド関係者にしか見えないようにだがな。これで実力はある程度証明されるからあとは護衛依頼をこなして護衛者として信頼に足ると判断されれば昇格できるはずだ、護衛依頼を5回も問題なく成功させれば大丈夫だろ」
5回か、以前に比べるとランク上昇には時間がかかりそうだ。護衛と言うからには街を移動したりするんだろうし。
ツバイからここまで来るのにも俺が全力で走るならともかく馬車なんかでチンタラ移動してたら何日かかるか分かったモンじゃない。
いっそう荷物とかの護衛でアイテムボックスに荷物全部突っ込んでダッシュで運んだりしていいのならラクなんだが。
それじゃ護衛じゃないな、護衛していない。ただの運び屋だし護衛者としてさえ信用できない奴に任せはしないだろう。
いずれにしろ武器ができてからだな。
「はい、今はちょっとこの街を離れられないので時間があるときにでも護衛をやろうと思います」
「そうするといい、ただ無理に急ぐ必要はないができれば強い冒険者には相応のランクでいてほしいと思っている。ギルドも高ランクは人手不足だからな、話は以上だ」
話が終わったようなので部屋を出る。討伐依頼の精算まではしてくれないようだから再度受付に行かなければならない。
確かに盗賊の討伐依頼を募集してもあの程度の人数、それもB、Cランクは1人しか来なかったところからみてもあまり層が厚いとは言えないのだろう。
エイン同様この町の冒険者のレベルが低いだけの可能性もあるが。
しかしここが武器生産の盛んな都市だとして、それがメタルリザード1匹程度で10年に一度とかの大騒ぎになるようなレベルの都市だとしたらあまり高ランクの冒険者は多くないんじゃないかと思う。
高ランク冒険者はいい武器を使うだろうし高ランクが多ければもっといい素材がもっといっぱい手に入ってもよさそうなものだ。
魔物の方が少なすぎる可能性もあるが、森など魔物がいっぱいいるような状況からして強い魔物が出たときに『ヒャッハー獲物だァー』などという感じになるのは想像できない。
そもそも冒険者の平均的なレベルが高ければレベルが比較的低いであろうエインでもそこそこのがいるだろう。
そうだとしたら焼き入れもしていない剣などが使われるはずもない。耐えきれずにすぐ壊れるだろう。
そんな物が実用されていたということはそんな物でも実用的に使えるレベルの冒険者ばかりだということだ。
つまり、この世界の冒険者は決してそう強くなく、Bランク程度でもかなり珍しい部類にはいるということだろう。
そんなことを考えながら討伐依頼を精算し、帰って寝る。
明日には武器製作が始まっていてもおかしくない。
翌朝、朝の鐘でスミズさんの工房に行き、スミサちゃんに会うと、あの杖の製作は順調だと言われた。この世界の人たちは早起きだ。
スミズさんの方に任せないといけない加工があるためあと3日ほどかかるらしいが。
次は商業ギルド、待ち合わせだ。
「朝の鐘からしばらくしたら」などといってアバウトに待ち合わせをするが、なんとなく、感覚的にわかるのだ。
俺が一番乗りだったようだが、10分もせずに全員が集合した。
「では、行くか」
ガインタさんに先導されて商業ギルドに入る。
細かい内容に関してはまた会議の場で話すらしい。
あの部屋は防音の魔法とやらでよほど大きな音を出したりしなければ外部に情報が漏れないようになっているため商業ギルドが関係しない大事な商談などでも使われるそうだ。利用料はかかるが。
今日は最初からナイアキさんが仲介をしてくれるそうだ。
「新特許に関する許可は取れました、新特許という名前の新制度となります、新制度を作る際に必要な本採決はまだですが仮許可、と言う形ですぐにでも制度が利用可能です、とはいっても今まで仮許可が下りて本採決を通らなかった新制度はありませんし、この制度はギルドマスターに話したところ絶賛したうえなにやら興奮した様子で無理矢理にでも通すと確約してくださったのでまず心配はありません、しかしいくつかこの件に関して特殊な制約がつけられました」
「特殊な制約?」
何割以上とるなとかか?
「はい、この技術を提供する相手に関しての制約です」
よくわからないな、広めるための制度がこの新特許なんじゃないか?
「具体的にはこの技術を販売する相手に関しては国から審査が入り、審査を通った団体にのみ技術提供の許可が下ります。また国外への販売は禁止、これに関して知る仕事に従事する人間も全員国からの審査が入ります」
つまり国内だけで技術を独占するってことか? まあ国からしたら必要なことか。戦争とか。
国家間のバランスとか色々大事な物があるんだろう。
「戦争とかの関係ですか?」
「戦争なんてもう何百年も起こっていません、金属の精錬量が増えれば外国に売ってしまっても構いません、単純に国内で利益を独占しようと言うだけの話です、外貨獲得手段です」
おい。俺のまじめな思考を返せ。結局金かよ。
まあその程度なら問題ないだろう。国と敵対してまで利益追求する気はない。
ミヤスさんたちもうなずいている。
「わかりました、ところで価格はどのくらいがいいでしょうか?」
ガインタさんが答える。
「とりあえずは木炭よりやや安め程度で販売し、そこからある程度名前が広まったら値段を調整、ある程度価格が安定したら固定しようという方向で話がまとまりつつあるが問題ないか?」
「それでは広める相手としては値段が安定するまでは値段を言われるままにころころ変えなければならないのでは?」
「それまでは値段を変えても理解してもらえる、ある程度面識がある連中のみに広めようと思っている、規模が大きくなるのが遅くなるがな」
「それならまあ、大丈夫ですね、急いでもいませんから」
「では、とりあえずは利益の5割で通常の特許契約、安定したら新特許という形で問題ありませんか?」
ここでナイアキさんが口を挟んだ。いよいよまとめにかかるらしい。
2人は賛成したが俺にはちょっとだけまだ変える点がある。
「基本的には大丈夫です、でも生産設備が足りないうちは私の分の特許料も設備投資に回してしまって構いません、金をもらうのは多少遅くなっても問題ありませんから」
「わかりました、ではそういうことで」
契約はまとまったようだ。
あとはナイアキさんが持ってきた魔石のはまった板に契約内容が書かれた物にサインをしただけで契約が成立した。
契約の魔法的な何かだろうか。またアーティファクトだったりして。
「ちょっと待ってくれ」
部屋を出ようとすると、ガインタさんに呼び止められる。
「設備投資の話だがな、ある程度は増やすがまだあまり大量に設備を増やしても石炭の採掘が間に合わない可能性が高い」
「そんなに人がいないんですか? 確かにあまり掘っていなかったようですが」
「それもあるが人は石炭が必要なら用意するアテはある、だがしばらく前の小さな地震から炭鉱で働いてる連中が時々倒れていてな、症状は魔力過多と同じようなものらしいんだが別に魔力が増えている様子もないし原因がわからん、あまり大事にはなっていないし今いる連中は働いてくれるが新しく集めるとなると理解が得られるかどうかが問題だ」
魔力過多か、多すぎても悪影響を及ぼすんだな。
あらかじめ減らしといたらあふれないんじゃなかろうか。
地震が何か他のヤバい物によって起こされたとかなら問題だが。
「そんな問題が…… 魔力を減らしてから入るとか試してみましたか?」
「それは冒険者に依頼して試してみたが症状が出るまでの時間がのびただけで結局は症状がでた、そのとき坑道のうち1本に近付くほど症状の進行が激しくなるらしいと言うことは分かったからその付近への立ち入りを禁止してはいるがその付近は最も石炭がよく取れる場所一帯につながる道でな、生産量がだいぶ落ちる、今は炭鉱の浅い場所でなんとか採掘している感じだ」
のびたのか。
つまり魔力をいっぱい使える奴が偵察に行けばいいのか?
やってみるか、ダメなら逃げ帰ればいい。
「俺がやってみようと思います、俺は魔力が多いのでめいっぱい減らせば長い時間活動できると思いますので」
「構わんが先に偵察に入ったのもかなり優秀で魔力も多い魔法使いだ、何か考えがあるのか?」
「ええ、俺に考えがあります」
まあ考えとはいっても魔力量でごり押しだが。魔力が多い魔法使いとは言っても所詮は3桁とかの話だろう。桁が2つ違う。
自衛用に魔力を残り1000位残して突入、状況次第で魔力をさらに消費すればいいかもしれない。
魔力の違い、見せつけてやる!