第27話 後処理と炭屋
合流し、マジスさんが次の指示を出した。
「ずいぶんあっけなかった気がするが盗賊は恐らく全滅した。最低30人はいたし単にカエデの実力が想定より強かっただけで罠にかけられたという感じはない。よってこのまま戦利品の回収に移ろうと思う」
「Eランクなのにそんなに強いんスか?」
「ああ、俺もこの目で見てなければ話されたとしても信じなかっただろうな、だが事実だ。魔力量のことも本当ならAランクだとしてもトップクラスの魔法使いになるだろう、というかすでにそのレベルの実力に達している気がするが……」
あの…… 俺魔法使いじゃなくて魔法剣士…… 確かに剣は使っていなかったが。
「そこまでスか…… マジスさんがそういうならそうなんでしょうねぇ…… ランク詐欺じゃないですか……」
「そのことについては後でギルド長に話しておく。ともかくこれからの話だ。バレンが表口を、カエデが裏口を見張り全員で回収、アイテムボックス持ちの俺に渡してくれ。入りきらないようなら適当に分担して持つことになる。カエデ、いけるか?」
「はい、大丈夫ですが私もアイテムボックス持ちです。容量も大きいので使ってもらって構いませんよ?」
俺のアイテムボックスに入りきらないような物はさすがに入ってないだろうし。
「ありがたいことはありがたいがここでもカエデにばかり働かれてしまうと他の冒険者の立場がないからな、休んでてくれないか? 見張るとはいっても実際は襲撃などまずないだろうし休憩のようなものだ。そもそも罠にしてもここまでの被害を出す理由がないからな」
「わかりました、ありがたく休んでおきます」
疲れないから休む必要もないのだが無理に働こうとしても意味が無い。ここはお言葉に甘えておこう。
裏口でぼーっとしていると回収が終わったらしく声をかけられる。
「帰りだが周囲の警戒を怠るなよ、カエデは真ん中で移動してくれ、警戒しなくてもいいが何かあったら援護を頼む」
やたらと頼りにされているのか待遇がいいのか……
警戒しなくても触板の範囲に入りさえすれば分かってしまうけどな。
特に襲撃に遭うこともなくギルドまで到着した。
マジスさんが支部長を呼ぶのを、出発前に集合した部屋で待っているとほどなく支部長が出てくる。
「討伐に成功したようだね。ほとんどカエデがやってしまったと聞いたが本当にEランクなのかね? 一応ギルドカードを見せてもらえるか?」
「はい、どうぞ」
「……一人で38人の盗賊を殺したことになっているが他の連中は何をやっていたのかね? まさか盗賊が100人以上いたというわけでもあるまい?」
すみません、仕事とっちゃって。
「俺とバレン、それからカエデの3人でカエデを前衛にして突入したんですがカエデの岩の槍を大量にぶつける魔法で援護する暇も無く盗賊は全滅しまして。そのうえ連射可能とか何の冗談だって感じですよ」
あの威力のは貯めないと連射できないんだぞ。こっちだって苦労してるんだ。
……別に苦労はしていなかったかも知れない。
「……そうか。ランク昇格も考えておかなければならないな。そちらについては追い追い連絡するがその魔法、強力すぎるような気がするが消費触媒でも使ってるのか?」
「消費触媒って何ですか?」
「魔法を覚えるときに魔石に魔力を込めただろ? あれとかが魔法触媒だ。そのとき使ったのは所詮訓練用だからほとんど実用性はないがあれを大きい魔石に強い魔法を刻むと魔石の魔力を普通より強い魔法が放てる。……その様子だと使っていないようだな」
魔石か、大きい魔石など今まで見たこともない。
メタルリザードの魔石はHPが少ないせいなのか直径3cmほどしかなかったし大きいとは言えないだろう。
「記憶にございません。記憶喪失になっていたところをここの前に滞在していたエインで助けられまして、それ以前の記憶がだいぶ抜け落ちているんです」
本当はどちらかというと助けた側だけどね。
「記憶喪失か……そういうのがあるとは聞いたことがあるが実例を見たのは初めてだな。それだけの能力を持ちながら今まで俺が聞いたこともないというのも変な話だし案外どっか特殊な生まれかもしれん。詮索する気はないがな」
「そういうの知らないでもギルド的には大丈夫なんですか?」
変なのが紛れ込んだりしそうだ。他国のスパイとか。
「ギルドの人間が訳ありなのなんて珍しくもない。下手に詮索してやぶへびになってもいかんからな。探らない、その代わり所属する人間に関してなにかあっても知らぬ存ぜぬを貫き通すのがギルドの慣例だ」
「そういうものなんですか、スパイとか紛れ込んだりしないんですか?」
「紛れ込んでるだろうな。だが犯罪者ではないしギルドが多少閉め出そうとしたところで隠れられるだけだ。わざわざそのために慣例を変えるほどの意味は無い、ということは昔実証されたからな。まあ話は後にしよう、とりあえずは報酬の話だ。カエデがほとんど終わらせてしまったらしいが基本報酬は予定通り山分けで構わないな?」
「はい、もちろんです」
もし断ったらどうなったんだろう。少し興味はあるがわざわざ試すほどのことではない。
「戦利品も含めてこちらで精算するから明日には依頼完了の手続きができるだろう」
「戦利品はギルド側で処分するんですか?」
なんかこういうのって戦利品をメンバーで山分けしそうなイメージがあったんだが。
「普通に盗賊を討伐した際にはそうなんだがな、ギルドからの依頼の場合はギルドで処分することになる。以前はこういう場合も分配してたんだがな、分配の際にもめたり遺族ともめたりで今の方式が採用されることになった、とはいってもギルド依頼の場合だけだがな」
そういう事情があったのか。よく考えてみれば当然だな。
「盗賊があなたの家から盗んだ物ですが僕が盗賊を殺したのでこれは僕の物です」とか言われて納得はしないだろう。
日本とこの世界ではある程度考え方は違うがさすがにそう簡単に割り切れなくてもおかしくはない。
せめて形見だけでもとか言う遺族にふっかける冒険者の姿が目に浮かぶようだ。髪型はモヒカンとかか、この世界でモヒカンを見たことはないが。
「異議はあるか? ないならこれで解散とするが」
異議は出なかったのでそのまま解散となる。
盗賊退治はずいぶん早く終わってしまったようで今は昼過ぎくらいだ。魔力抜きはまだだろうからコークスでも見に行くか。
炭屋に行ったところ今も実験中だというころで実験場まで案内された。
実験場とはいっても炭焼き窯のある付近の一角だが。
「おお、カエデさんか! これはすばらしい燃料だよ! 精錬にも使えそうだし火力が高い!」
いつの間にかさん付けになっていた。
奥の方にはコークス製造装置らしき物があり、見覚えのないドワーフが何か作業をしている。
何をやっているのか気になるが話しかけたら追い出されそうな気がするのでそちらは放っておいて炭屋さんと話す。
「もう実用的なレベルで完成したんですか?」
焼き入れがないくせに妙な部分で技術力が高いなこの世界、発想がないだけで加工技術自体はそこそこ発展してるのか?
地球でも確かにそのままでもタングステンより堅い骨とか金属とかが魔物からとれたりしたらここまで技術が発達したかどうかは分からない。
地球の赤道付近であまり科学が発展しなかったのも、発展していなくても自然の恵みのおかげで割とやっていけてしまう環境だったせいだという話もあるし。
その割には鉄精錬してるが。
「いや、横に並べれば効率が上がるらしいがそっちはまだだよ。だが今のレベルでも十分に採算が合うから君の許可が取れれば製作にはいる予定だったんだ。ああ、紹介するよ、そっちのドワーフが装置の製作をしてくれてる炭鉱会の鍛冶屋でイググさんだ」
「あ、カエデといいます、よろしくお願いします」
無視された、というかはじめからこっちに意識を向けている感じはしなかったが。
炭屋さんも肩をすくめている。追い出されなかっただけましだが。
適当にコークスについて話をしているとついにイググさんが顔を上げた。
「おう、お前がカエデとかいうやつか? これはすげえ技術だがどうするつもりだ?」
「どうする、とは?」
「お前のアイデアでお前が出資してるんだろ、細かいことは人族の経理に任せてるがこれはすげえ金になるはずだ、今の炭鉱会が出せる額じゃないんじゃないか?」
そういえば技術を作ったはいいがどうやって売るのかを考えていなかった。
得体の知れない技術を持ってこられて買えといわれても困るだろうし相当の金を生むであろう技術ならなおさらだ。
一括で替えるような金を持つ組織でもなさそうだし。
「どうしましょう?」
「こんなヤベエもん考えといてそんなことも考えてなかったのかよ! お前いつかだまされんぞ!」
そういうのに一番疎そうなドワーフに諭されてしまった。金に関しては……特許的な感じ?そんな感じで行くか?
「ええと、とりあえず無料で技術を渡しておいて利益が出たらその利益のうちいくらかを俺がもらうって形ではどうでしょうか?」
「アーティファクト技術料みたいな感じか、『とっきょ』とかいったか?最近そんなのができてたな。確かに今そんなに金がないうちにとってはありがたい話だがいいのか? もっと金を持った組織にでも売れば莫大な金になると思うぞ?」
アーティファクト技術料か、アーティファクトのコピー品的な物があるのかな? それに税金的な感じでかかってるとか?
それから発展して特許ができたのかも知れない。地球の特許と同じシステムならの話だが。
っていうかアーティファクトってなんだ、何か強いアイテムくらいのイメージしかない。まあいいか。
この技術を売れば莫大な金になると言っていたが果たしてそうだろうか。
いや、一時的には金になるかも知れない、だが売ってしまえばそれまでだ。
地球でのコークスはコークスと言えば製鉄、製鉄と言えばコークスというほどのものだった。
ただ売ってしまうのではもったいないし買ったところが独占してしまうだろう。
それよりコークスが作られるたび金がもらえるシステムにしておけば俺は常に利益が得られるし技術も広まるのではないだろうか。
そうしよう。それがいい。
「はい、構いません」
「おう、じゃあ経理のやつを呼んでくる、ちょっと待ってろ」
イググさんは身長に似合わない俊敏さでどこかへ行ってしまった。
ふいに今まで黙っていた炭屋さんが話しかけてくる。
「ところで、僕も一枚噛ませてもらえるのかな?」
「ええ、私はいつまでも一カ所にとどまるわけではありませんし設備などに関してもお任せする形になると思います、その際相応の利益が出るようにしていただいてかまいません」
「それはよかった、失業しやしないかと心配だったんだけどね、むしろ人を増やさないといけないかも知れない」
……と、イググさんが帰ってきた。人族の男を連れている。やはり経理とかは人族なのか。
「カエデさんですね、技術については少し前に話が来ていましたが特許型の契約をお望みとのことで。特許料は利益の5割ほどでいいですか?」
5割……だと……