第26話 盗賊と集団戦
盗賊狩り当日が来た。
集まったメンバーは俺以外にはEランク2人、Dランク2人、Cランク1人、Bランク1人。計6人だ。
装備からいって魔法使いは二人で残りは全員戦士か?
被害の規模などから考えると盗賊の人数は30人~50人程度、といったところだそうだ。
こちらの人数は敵と比較するとかなり少ないがEランクはともかくDランク以上といえば冒険者の中でもそこそこの精鋭だとどこかで小耳に挟んだ気がする。酒場だったか。
しかし冒険者の人数比ってこんな感じだったっけ?元々知らないが依頼数から言っても下位のランクはもっといていい気がする。
とりあえず集合したので2階にある大きな丸テーブルに座って戦力把握のための自己紹介と作戦会議だ。支部長は冒険者に任せる方針らしく、魔法使いの人に「あとは頼んだ」とか言ってどこかへ行ってしまった。
「Dランク片手剣士、リキセだ。リーチが短いが盾を持ってる、よろしく」
そう言って剣を見せる。刃渡り40cmほどの剣、この世界にしては短めだ。
盾は丸盾だが俺の物より一回り大きく頑丈そうに見える。
まあ俺は別に盾がなくても魔法の鎧が使えるだろうし杖の機能付きの剣が完成すればお役御免の可能性も高いしそこまでの防御性能は求めてはいないが。
ともあれ自己紹介はこんな感じだ。
好きな食べ物やらを言ったりはせずに使える魔法やら戦闘における長所、短所を言っていく。
テーブルに座った順に自己紹介をしていく。
Eランク両手剣士、Eランク片手剣士――リキセよりやや武器が大きく盾が小さい――ときてついに俺の番が来た。
「Eランク魔法剣士、カエデです。魔法の連射速度がそこそこ速く弾数が多いので制圧力があると思います。よろしくお願いします」
そう言って剣と盾と手の中の杖を見せる。
と、まだ自己紹介をしていない魔法使いらしき男がツッコミを入れてくる。
身長ほどの杖を持った軽装の男だ。
「ちょっとまて、魔法剣士って何だ、聞いたことないぞ」
「魔法剣士というのは魔法を使う剣士のことです。剣で攻撃したり盾で攻撃をはじいたりしながら魔法を使えますので両方使っています」
「剣を振りながら魔法とか無理な気がするがその武器で戦ってるしそういうことあるのか? 俺なんか走りながらでさえ使えないが……」
普通はそういう物なのか。
制圧力が足りなくてすぐ近付かれてしまう気がするがどうなのだろう。
ランクが高くなればその辺を解消したりできるのか?
失礼かなと思いつつも鑑定してみたところMPは40近くあった。その上属性も火水風と三つあるし魔法の素質もある。結構優秀な魔法使いでもこの程度のようだ。
よく考えてみれば40でも80発の岩の槍を放てる。当たりさえすれば一人で80人倒せるのだ。
いちいち近付いて剣を当てなければならない戦士と比べて射線を通せばいいだけの魔法はそんなに劣ってもいない気がする。
「おっと、自己紹介がまだだったな。Bランク魔法使い、マジスだ。魔法の速度は割と速め、再詠唱時間は岩槍や火球で2秒ちょっとだ。今回は俺がリーダーを務める」
Bランクで風、火を使えるということはメタルリザードはこういう人を20人集めて倒すのか。
再詠唱時間というのは連射速度のことだろうか。普通は3秒とか言われていたしやはり優秀なのだろう。
あとには他の人たちの自己紹介が続く。もう一人の魔法使いはDランクだったようで残りは全員戦士だった。
大小あるが剣ばかりで槍使いなどはいないようだ。鍛冶屋においてあるのは見たから使われていないというわけでも無いと思うが。
自己紹介が終わり、マジスさんが立ち上がった。まだ作戦を聞いていないが出発するのか?
「さて、自己紹介は終わったがカエデがどんな戦い方をするのかまだよく理解できない、ちょっと訓練場で見せてもらえるか?」
「構いませんけど……」
俺の戦い方を見てから決めるらしい。
無駄に目立ちたくはないのだが実力を把握していない仲間と戦って何かあったら問題だ。これは必要な目立ち方だ。
訓練場はギルドのすぐ近くにあった。そこそこ高く、外壁ほどではないが頑丈そうな壁で覆われている。
「とりあえず動けるだけ剣を振りながら魔法を2発連続して放ってくれ。あとに響かないように消費が少なめの魔法でいい」
そう言われたので剣を振り回しながらショットガン魔法を発動させる。魔力消費5、秒間2連射でお手軽だ。
「こんな感じですかね?」
「な、何だ今のは……全く動きを緩めず半秒ほどで2発打ち切ったように見えたが……」
「はい、こんな感じですね。でも初弾を放つのに0.5秒ほどかかるので実質1秒に2発ってとこです」
やっぱり速かったか。まあセーブして戦う気もないし隠す気はない。
「防御面と魔力の持ちはどうなんだ?」
「戦闘開始時には全身に防御魔法を展開、あとは状況に応じて急所だけ守って防御が破られた箇所は攻撃が必要無いときにでも補充します。回復魔法が使えるので多少のけがはなんとかなりますし。あと魔力はこの連射を続けて10分や20分程度なら」
「っ…… すごいのもいたもんだな。あり得ない魔力量な気がするが…… それに防御魔法を張りながら攻撃魔法を使えるのか? 魔法使いとして自信をなくしそうだが戦力になることに間違いは無い。前衛いけるか?」
前衛か。前に立つのは怖いことは怖いが期待されているってことだろう。応えてやろうじゃないか。
……怖いから顔の装甲に魔力多めに突っ込んどこう。ヘッドショットで一撃死とかシャレにならないし。
「はい、前衛いきます」
「よし、作戦は決ったぞ。前衛はカエデと……」
結局、俺はCランク戦士と二人で前衛、その後ろにマジスさんがついてメインパーティーとなった。
残ったDランク二人とEランク2人は事前偵察で発見された、入り口から100mほど離れた裏口を遠くから固めるサブパーティーになった。
具体的な作戦としてはまず俺と剣士が不意打ちで見張りを殺し、同時にマジスさんが裏口の見張りを不意打ち、あとは裏口はサブパーティーが火をたくなどして封鎖し、マジスさん合流後メインパーティー全員で叩きにかかることになった。
速い段階で襲撃がバレる可能性が高いが封鎖しながらなら持久戦が取れるとのことでこれでいくらしい。
ちなみに煙などの問題はないそうだ。以前からそこそこ使われているがそんな問題が起こったことはないらしい。
罠などの可能性も考えて防御魔法がしっかり働いている間は俺が斥候代わりにやや先行し、戦闘になったら戦士の人も追いつくとのこと。
こんなことを話しながら移動していたところアジトの近くについた。
正確な道に関しては昨日マジスさんがギルドの人と下見に行ったらしく探し回る羽目にならずにすんだ。
作戦通り、全員が配置につく。ここまでの段階では気付かれていないようだ。
合図があったので普通の岩の槍を4本生成、二人の見張りの顔面と重心あたりにそれぞれお見舞いする。
槍はしっかりと命中し、あまり大きな音は立てずに見張りが倒れる。
向こうもうまくいったらしくマジスさんが急いで走ってくる。
明らかに走り方の割りに速い。魔法でも使っているのだろう。
あっという間にマジスさんが到着した。俺が先頭となって進入する。
一応初弾用に普段よりやや小さい程度の岩の槍をびっちり大量に生成しておく。
盗賊が出てきたら一人目はこれで蜂の巣にしてやるつもりだ。鎧があろうとこの程度の量と大きさがあれば関係ない。貫通しなかったところで吹き飛ぶだけだ。
時間があるときには強い魔法を用意しておくのは大切だ。武器というのは遭遇した瞬間に確実にキルできるものが最強なのだ。
念のため情報操作解析で盗賊をマーキングしておき岩の槍も5本ほどストックしておく。一般人を巻き込んだらシャレにならない。
マジスさんが目を見開いていた気がしたが今更だ。
突入後30秒ほどで最初の盗賊が現れた。三人ほどで何かを話していたようだ。
用意していた岩の散弾をプレゼントして差し上げたところ全員、全身を強く打って死亡したようだ。
すぐに次の槍を用意し、進んでいく。後ろの二人はちゃんとついてきているようだ。
洞窟はくねくね曲がってはいたがここまで一本道だ。予想人数の割にはここまで人とほとんど出会わないが……
と、ドアがついている。中から笑い声も聞こえる。ここがメインか?
後ろの人たちも息を殺しながらついてきたようだ、10秒後に俺の魔法でドアを破壊して突撃することになった。
巻き込まないように俺が魔法を連射したあとに戦士が突撃だ。マジスさんは後ろで援護。
一般人がいる可能性もあるが基本的に全滅させる方針だ。配慮している余裕はない。
1発1発が直径15cmほどの杭のような岩散弾を200発×4、合計800本用意した。
後ろでマジスさんがさらに目を見開いたような気がしたが何も言っては来なかった。
時間だ。俺は800本の槍のうち200本をドアに向け放った。完全に同時ではなくわずかに時間差をつけながらだが。
轟音とともにドアが吹き飛び、内部に槍が飛んでいった。
そのまま飛び出し、左右にも200本づつ、広い角度で岩の槍を放った。岩の槍が部屋全体に飛んでいく。
残った200本を正面方向に放ち、残りの二人が突撃した。
そのまま武器を構えて攻撃にかかろうとするが、様子がおかしい。静かだ。
周りを観察してみるとたくさん、とはいっても30人ほどのの全身を強く打った盗賊の死体がツキジじみた様相を呈している。
部屋は高校の教室ほどの大きさだが生きている者の気配はしない。全滅したようだ。
やや拍子抜けしたがそのまま進むことになった。たいした波乱もなく残り三人の盗賊を討伐し、火が見えるところまできた。
マジスさんと一端戻り、サブパーティーと合流する。一般人は見つからなかった。
あれ? 終わり? ショットガンを連射する機会も魔法装甲の出番もなかった。まあ装甲の出番なんてないに越したことはないが。