第24話 石炭とアジト
さて、武器製造関係の用事は終わってしまった。ここから先は職人の領分だし手を出す気もない。
ということで冒険者の本分、冒険をやることにしようかと思う。この辺に討伐依頼がでているかはわからないが。
それから宿の確保だ。できれば魔力回復加速ポーションも手に入るだけ調達しておきたい。
一つずつ終わらせていくことにする。まずは宿からだ。
おすすめを聞いたところ、”水理亭”という店をおすすめされたので入ってみる。1泊1000テルと安くもないが高くもない。宿選びにも情報は大事だ。
初めての宿に入るのももう慣れた。自分が考えるほど相手は自分のことを気にしていないとか言う話もあるし気楽に行けばいい。
「いらっしゃいませ、泊まりでしょうか?1泊1000テル、食事は朝昼晩の3食付きですが1食減らすごとに100テル安くなります」
こちらの世界の宿屋にしてはずいぶんと丁寧な態度で出迎えられた。対応してくれたのは若い女の人だ。
この都市にはドワーフが多いと聞いたが接客関係は人族が多い気がする。
まあ宿で客を追い出すような店員は困るだろうし当然と言えば当然か。
「はい、とりあえず7泊お願いします、食事に関しては1食食べてからでもいいですか? もちろんお代は払います」
武器加工の最短ルートでそのくらいだ。足りなければ追加すればいい。朝飯がかなり遅くなってしまったので腹も減っている。
「わかりました、とりあえず1泊と1食、800テルを先払いしていただけますか? 朝食はすぐに食堂で食べられます」
そう言われたので金を渡し、食堂へ行って飯を食った。肉などは若干塩辛い気がするが十分にうまいものだった。あと葉野菜が少ないかわりに山菜らしきものがちょこちょことあるのは山の地形の関係だろうか。
これなら大丈夫だ、ということでさっきの800と併せて7日分の宿代を先払いし、ポーションを売っている場所を聞いてから外に出る。
とは行ってもその店はギルドの隣だった。雑貨屋といった感じだ。
30本ほど置いてあった魔力回復加速ポーション――1本120テルだ――をすべて購入し、ようやくギルドへ向かう。
ランクは前回の件で1つ上がってEだ。手頃そうな駆除依頼を見つけた。
ランク:E
依頼内容:レッドウルフ駆除
報酬:1匹50テル
数量:殺せるだけ
備考:道の付近には恐らくいないため道からある程度山に入る必要がある。
数が決っていない駆除依頼だ。おそらくは周囲の道に魔物が現れないようにする目的だろう。
報酬の額とランクからしてレッドウルフはあまり強くないと思う。名前もグリーンウルフの親戚っぽい。
ということでさっさと依頼を受注してしまう。受付は残念ながら男だった。
ここに来るときに通った道を逆行し、禿げ山が終わって周囲が森になってから少ししたところで左に曲がって森に入る。触板に未だ反応はない。
なので探し回ることにする。探し方は簡単。フルに展開された触板を使って周囲を探しながらひたすら動き回るだけだ。▼は視認していないとでないのであまり使えない。
5分ほど移動したところで20mほど遠くに3匹の狼が現れた。10mほどまで近づいて岩の槍をぶつけると全員一撃で死んだが、若干反応が早かった気がする。槍の位置は体の端のほうになっている。
やはり魔法の速度はもっとあった方がいいな。20mから離れていたら外れていたかも知れない。
そう考えながら道の方向と平行にジグザグに移動して見つけたレッドウルフを狩る。20匹ほど殺したが槍を1本よけられてしまった。
まあ近づいて2本目をぶつけたら普通に死んでくれたが。もちろん死体は回収している。
さらに30分ほど狩りをすると、触板に変な反応があるのを見つける。人間らしい2つのその場から動かない反応だ。
こっそり影から顔を出して鑑定してみる。
盗賊だった。後ろの地面はエインにあった坑道のようなかたちだ。盗賊のねじろだろうか。
一人で相手にする気にもなれないのでいったん帰ることにする。
道の方角を覚えていたので、道に向かってまっすぐに進むとちょうど盗賊が山に入って行くのを見つけた場所に出た。
風景をある程度覚えていたし理にもかなっている。場所を覚えてから街へ向かった。
ギルドまで戻ってきた。盗賊の発見報告はギルドでよかっただろうか。
ギルドに行って盗賊のアジトらしきものを発見したというと、支部長に呼び出された。
「山の中でアジトを見つけたというのは本当かね?」
「はい。穴のようなものがあってそこを2人の盗賊が守っていました」
「ふむ……最近道にもいない盗賊の逃げ足がやけに速いと思ったが山の中にアジトができていたか。報告ご苦労。近く討伐隊を組織する。報酬は確認が取れたら支払う」
「はい」
「それから、この件は内密にな。アジトができるほどでかい盗賊団なら盗賊になっていない人間が金目当てで協力している可能性もあるから一人一人声をかけて集める予定だ」
「はい、です」
「ではこの話は以上だ、明日も朝にギルドへ寄ってくれ。その頃には討伐の日程が決まるだろう」
報告が終わったので支部長室を出て依頼を報告した。合計52匹、2600テルの報酬がもらえた。
やることがなくなってしまったので工房によってみる。
「杖はできそう? どんな感じ?」
「まだメタルリザードメタルの魔力抜きがすんでないから無理よ」
それもそうだ。武器のほぼすべての部分にメタルリザードメタルが使われているくらいなんだから。
「そういえばこの辺の山の木はみんな切られてるけどあれは盗賊対策か何か?」
どこかの軍がゲリラの対策でそんなことをしていた気がする。枯れ葉剤だっけ。
「違うわ。金属の精錬で木炭とかを使うのよ。それで周りの木は大体切ってしまったわ」
「石炭とか使わないの?」
「あれも掘ってるけどあれは寒いところで使うためのものよ。精錬なんかに使ったらロクな金属にならないわ」
「あー……」
地球でも確かそんなことがあったっけ。歴史の授業か何かで聞いた気がするぞ。
どうやって対策したっけ。確か鉄の精錬はコークスを……
あ。コークスだ。石炭からコークスを作ればいいんだ。
コークスの製法なら高校生のころどこかでみた。普通の高校生らしく古武術でも身につけておけば戦闘でも役だったのかも知れないが無駄な知識がこんなところで役立つとは。
まあ幸い武芸の素質のおかげか古武術は必要なかったが。
「コークスを作ればいいんだよ。石炭を炭焼きみたいな感じで焼いて邪魔なものを抜くんだ」
「……よくわからないわ。役立たないとも限らないから燃料関係の人間を紹介してあげるけど多分実験にかかる費用はカエデが負担することになるわよ?」
「それが実際に使えるとなれば、その技術を買い取ってもらうことってできるのかな?」
特許だ何だというのもめんどくさそうだしかといって技術を提供しておいて金まで赤字というのはどうかと思う。
「本当に石炭なんかで金属を精錬できるなら可能でしょうね。ここに行くといいわ、イグニの燃料屋よ」
そう言って地図を書いてくれた。今度はここに行ってみようか。
最近開発ばかりしていてほとんど冒険していない気がする。魔法剣士なんだか技術屋なんだかわからない。
「すみません、イグニさんの燃料屋とはここでいいでしょうか?」
「はい、そうですよ。炭を買いに来たんですか?」
対応してくれたのはやはり人族の男だった。
「いえ、新しい燃料を知っているのですがそれならここへ行けと言われまして」
「新しい燃料?」
「はい、石炭から作る燃料で金属を精錬できるものがあることを昔どこかで聞きまして」
「うーん、うちは木炭屋ですからねぇ……石炭は専門外なんですよ」
「作る方法自体は木炭と似ているのですがどうでしょうか。もちろん実験費用はこちらが出します」
「それなら……一応親方に聞いてみます」
しばらくすると人族のがっちりした男が出てきた。
てっきりドワーフだと思っていたが。
「石炭からまともに精錬用に使える燃料が作れるというのは本当かな?」
「んー、やり方がいまいち完全ではないので確実にとは言えませんが可能性はあると思います」
「そうか、生産力にもやや余裕があるし研究費用を君が出してくれるなら断る理由はないな。どちらにしろこちらは損はしない」
それもそうだな、
「そうですね。もちろん成功し、その技術を使う場合には技術は無料では提供できませんよ?」
「ああ、わかっているさ、じゃあその方法とやらを聞こうか」
「はい、煉瓦などで覆って石炭に空気を入れないようにして周りから加熱すればいいんです。そうするとガスと油のようなものが出てきます。それが不純物です。出てくるガスは燃えますが毒ですので気をつけてください」
「がす……?がすとはなんだね?」
「ガスというのは燃える空気のようなものです。石炭を加熱するための燃料として使います」
「燃える空気という話はどこかで聞いたことがあるな、そういうものだったのか」
「はい、石炭の場合は木よりも高い温度が必要なのでそれを使います。出てくる液体のほうは油みたいに使えますね、食用には向きませんが」
「そうか。よし、やってみよう。どのくらい出資してくれるのかな?」
「とりあえずこれでお願いします」
そう言って大金貨を一枚差し出す。手持ちの金はなくなってしまうがいざとなれば金属も売れるし問題ないだろう。
「大金貨か、豪勢なことだ、今日から実験を始めることにするよ」
技術屋でも冒険者でもなく、資本家か発明家かもしれない。
まあ発明家の場合は過去の偉人とかの実績を横取りしてるだけだけど。別にいいじゃん減るもんでもあるまいし。




