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第23話 杖と剣

 了承をとってからメタルリザードメタルを水魔法で冷やしてアイテムボックスに収納し、工房に戻った。――ちなみに急冷してもメタルの形は変わらなかった。

 材料は装甲板一枚でもおつりが来るらしいのだが、そのまま切断したりはできないので一枚預けておいた。

 余ったメタルリザードメタルはどうするかと聞かれたが、管理が難しいらしいので買い取ってもらうことにする。

 一枚まとめて魔力を抜いて余った分は魔力を通さない容器に入れて保管するらしい。

 短期間の保管ならそこまでしなくても人間などの魔力を持つ生物および魔道具、魔石、ほかの金属などの魔力密度が高いものが触れなければ大丈夫だが長期間だと空気中の魔力によって固まってしまうそうだ。

 装備の構造などに関しては魔力抜きが終わってから決めるそうだ。その間に杖を調達したい。

 ……と、いうわけで、すでに起きていたスミサちゃんに希望する杖を話してみることにする。


「こんにちはスミサさん、杖がほしいのですが」


「あなたがカエデね? 記憶にないけど助けてくれたらしいわね。ありがと。 それで杖がほしいってどんなのがほしいの?」


「20cm位の長さで丈夫で普通の杖くらい魔法を加速できる杖がほしい」


「無理よ、長さなしで長い杖くらいの加速とか頭大丈夫? あなた杖の構造わかってる?」


 一蹴されてしまった。一般人がそんなこと知るか。


「わかってないけど……どんなの?」


「一度しか説明しないからよく聞きなさいよ、杖の構造ってのは……」


 説明をまとめるとこうだ。

 まず杖は魔力収集部、加速部、放出部、外殻の4つの部分に分けられる。


 魔力収集部とは読んで字のごとく、魔力を集めるためのパーツだ。

 これは杖の材料となる木材に細い銅の棒などを通して魔力を集めるそうだ。

 集まった魔力は杖の根本付近、加速部の片側のあたりでいったん放出される。

 別に銅でなくてもいいのだが安いので銅が使われる。


 加速部は魔力収集部から放出された魔力を回収して加速させるためのパーツだ。

 直径1cm程度の鉄の棒を銅やら金やらといったほかの金属で覆って作られる。

 この被覆となる金属の材質によって杖の加速力がある程度変化する。

 杖を製造するときに被覆に魔力をためておくとそれによって加速力が生まれるらしい。なぜかはわからないが。

 また違う金属の間では許容量を超えない限り魔力が移動せず、許容量を超えても移動速度は加速よりはるかに遅いので芯を通る魔力にほとんど影響はないそうだ。

 メタルリザードメタルを加工するための工具もこの原理を利用して作られていて、メタルリザードメタルのついでに魔力抜きをされたものが何本かストックされているらしい。

 魔力を貯めすぎても少しの間加速力が上がるだけで余剰分の魔力が散ってしまうだけなので意味がなく、被覆によって加速力が違うのはこの魔力を貯めることが可能な量が違うことによるものとのことだ。

 芯は材質による違いはほとんどないが芯が鉄で作られるのは加工上の問題と強度の問題だという。


 放出部とはそのまま魔力を放出するための部分のことで、芯と同じ金属を粉砕し、粉末にしたものを土に混ぜ込んで焼いた陶器などを使うそうだ。

 それにより放出部に押し込まれた魔力が後ろから来る後続の魔力に押し出され、勢いを持ったまま放出されるらしい。

 ちなみに放出された魔力は何も指示を受けなければ高速のまま術者の周囲を移動するので杖の先端からでなくても加速された魔法を発動できる。


 外殻は主に木だがこれは単純に強度と重さの兼ね合いで、ある程度長く戦ったり行軍したりする場合重いものを持つと速度が鈍ったり、疲れによって集中力が落ちたりするためのようだ。俺の杖の場合とは違い普通の杖は長いためものによっては結構な重量になってしまう。

 かといってあまり大きく曲がると杖の加速部などは機能しなくなってしまうので軽ければそれだけでいいというわけでもない。

 つまり杖の長さが短く、アイテムボックスがあるため戦闘時しか手に持たない俺の杖の場合は頑丈でさえあればいい。


 が、俺の場合は普通とは違うのでそもそもこの原則にこだわる必要はない。魔力も戦闘スタイルもそこらの魔法使いとは全く違う。そう提案してみることにする。


「よし、すごく長い杖くらい魔法を加速できて剣としても使える杖を作ろう!」


「ちょっと何言ってるのかわかんないわね」


 それもそうだろう。俺も同じ状況で同じことを言われたらこいつは頭がどうかしてるんじゃないかと思うことだろう。

 しかし俺は至ってまじめだ。クソまじめだ。


「説明しよう、俺は魔力量が多く、剣で戦いながらでも魔法を発動できる、だから可能だ」


「説明になってないわよ」


 しまった、はしょりすぎた。確かにこれではわからないだろう。


「仕方ない、はじめから説明しよう。まず杖による魔力の加速度というのは被覆にある魔力の量が大きいほど上がるわけだな? もし被覆側の金属の魔力許容量を超えていてもその間は加速度が上がる」


「そうね、魔力を込めたての杖は加速率が上がるわ。5分もすればほとんど古いのと変わらなくなるけどね、威力もちょっと上がるわ」


 威力は被覆から放出された魔力の一部が加速部に入るせいだろうか。


「つまり、被覆側に込められた魔力はある程度の時間加速に使える。そして被覆の外にほかの金属を使うことで魔力が散るのを遅くできるわけだ」


「まさか毎回魔力を込めてから魔法を使うつもり? 80cm位の杖でも魔力を込めるのに普通の魔法使いの魔力の大体半分くらいは使うのよ? 魔法が20発撃てるわ」


 そうだろう。普通の魔法使いならな。

 だが俺の魔力は今のレベルの地点でも普通の魔法使いの500倍を超える。回復力も500倍、薬を使えば5000倍だ。


「俺の魔力ならそのくらい問題はない。そして被覆の外に金属を使うことで強度が確保できる。メタルリザードメタルとかを使えば剣としても使えるようになるだろう」


「んー……魔法と剣が両方同時に使えるのは信じるとしてもメタルリザードメタルでどうやって被覆を覆うの? あれ溶けないわよ?」


 あっ……

 加工のことを考えていなかった。鋳造して作るものなのか。

 そういえば日本の注射針か何かの製法で金属の板を丸めて中空の針を作るというのがあった気がする。

 あれならなんとかならないだろうか。魔力を抜いたメタルリザードメタルは鍛造できる柔らかさらしいし。


「金属の板を丸めて周囲を覆うってのはどうかな?」


「ちょっと考えてみるわ」


 そう言ってスミサちゃんは板に何かを書いたり消したりしながら考えていたが、10分ほどして顔を上げた。


「金と時間はかかるけどやりようはあるかも知れないわね。でもさっきのやり方だといくつか問題があると思うから修正案をまとめたわ。これなら何とかなるかも知れない」


 そう言ってスミサちゃんが手元の板を見せながら説明をはじめる。


「まず第一に外殻を金属にしてしまうと魔力収集部まで魔力が届かないわ。これは外殻のメタルリザードメタルのうち持ち手の部分を一部区切って魔力収集部とすることで解決できるわね、それから外殻に魔力拡散を防止する役目を持たせようと思ったらやっぱり鋳造でしっかり中を埋めた方がいいわね、そこに魔力収集部を通せば魔力も確保できるし。メタルリザードメタルは最外殻兼魔力収集部として使うことになるわ。あと剣としての強度のために剣の部分は総メタルリザードメタルになるわね。こっちは刃の部分だけ作って後でくっつけることになると思うわ。剣先あたりが放出部になるはずだから強度的に芯もメタルリザードメタルになるわね。それでも混ぜ物して焼くわけだし素のメタルリザードメタルに比べたら強度が落ちるから剣先は魔力放出を妨げない程度に作るわね。薄くなるけどそこそこの強度にはなるはずよ。以上の点と溶ける温度を加味すると材質は芯、魔力収集部、最外殻をメタルリザードメタル、被覆を鉄、外殻を銀で作るのがいいわね」


「お、おう」


 早口でまくし立てられたが言いたいことは何となくしか理解できなかった。

 要するに「作れる、でも金がかかる」ってことか? そんなとこだろう。


「ちなみにどのくらい金がかかるのかな?」


「そうね、メタルリザードメタルは持ち込みとして鉄、銀、加工費用合わせるとメタルリザードの装甲一枚位でいいんじゃないかしら? ただこういう初めてのものを作る場合には失敗はつきものだしそうすると費用はどんどん高くなるわ。値段は多分経理の人とかが決めてくれるだろうからそれを聞いて判断するといいと思う。剣とかのよく作るものなら職人にも判断できるけどこういうものとなると私じゃ無理ね、ほかに応用できるものじゃないから実験にかかる費用も全部カエデ持ちだし」


 つまり一般的に言ってすごく高いけど今なら払えなくはない程度ってことだな。それなら問題ない。

 際限なく失敗して費用が上がったりしたら大変だが。


「よし、それで頼んだ」


「ちょっと待ってね、経理の人を呼んでくるから」


 経理の人曰く、加工費は順調にいけば装甲板一枚でおつりがくるそうだ。

 装甲板を一枚先払いし、武器に使用するメタルリザードメタルは前に預けておいたものを使ってもらうことにした。

 実験費用、材料がすべて先払いされたので明日にでも制作に取りかかるという。まあ1週間はかかるらしいが。

 話がまとまったところでふとスミサちゃんが聞いてくる。


「魔力が多い魔力が多いっていってたけどあんまり無駄遣いするとすぐになくなっちゃうわよ?どのくらい魔力あるのよ?」


「ええと、大体普通の魔法使い換算で500人分くらい?」


 実際はもうちょっと多いが。


「冗談はいいからさっさと本当のことを言いなさい」


「マジだぞ」


「マジで?」


「メタルリザードを倒したのもその魔力で無理矢理押しつぶした感じだからな」


 そう言って穴の開いたメタルリザードの装甲を見せる。


「……はぁ、確かに魔力のあるメタルリザードメタルは普通こうはならないわね。500倍はともかく多いってことは納得してあげるわ」


「この件は内密にな」


「なんでよ」


「変なところに追いかけられたりしそうじゃないか。実験体にされたりとか冷蔵庫みたいな機械に閉じ込められて魔力を産む装置にされたりとか」


 マッドサイエンティストはこの世界にもいるかも知れないし。


「れいぞうこ? よくわからないけどまあ実験体とかはありそうね。私が漏らさなくても他からかぎつける可能性もあるし、気をつけなさいよ」


「そうするよ」


 せいぜい不必要に目立たないようにしよう。

 ん?魔法剣士の時点で目立ってる?知らん、そんなことは俺の管轄外だ。

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