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第20話 喧嘩と爆走

 夕方の鐘で目が覚めてしまった。だがここから先は道中にそこそこ宿があるので昼夜逆転生活をする必要はない。

 このまま寝続けてもいいが腹も減ったし街も見ていきたいので外に出ることにする。

 たまには人に聞かずに適当に目に入った店に入るのもいいだろう。

 ということで宿の近くで目に入った酒場っぽい場所で食事をとることにする。

 今まで入ってきた店とは違い酒場っぽい感じの店だ。

 店主のところに行き真っ先に目についた「エスタード」という料理を注文した。

 エインの料理屋ほどの速さではないがやはり料理はその場で出てくる。喧噪の中ではあるがエインに比べれば静かに食事ができそうだ。なんというか人が2人しかいない室内より満員電車の中だとむしろ落ち着くような感じだ。

 速度の違いはメニューの多さによるものだろうか?


 適当な席に座って良くも悪くもない感じの煮込み料理を食っていると周りが騒がしくなる。

 何かやってしまっただろうかと思って周りを見てみるが騒ぎの中心は俺ではないようだ。

 俺の斜め後ろあたりにいた2人の体格がいい冒険者らしき男が互いをにらみつけている。せっかくの静かな食事を邪魔しないでほしい。

 と、ふいに片方の男がもう1人のほうに殴りかかる。もう片方の男はそれを受け止めたが2人まとめてバランスを崩してこちらに倒れ込んでくる。

 こちらに倒れられてはたまらないので座ったままその男を押し返すべくそちらに手を伸ばし力を込める。さすがに魔法はまずいだろう。

 と、こちらに向けてバランスを崩しかけていた男は両方ともまとめて反対側に吹き飛ぶ。

 とは言っても漫画みたいに水平に吹き飛んだりはせず1mほど遠くに倒れ込んだだけだが。

 俺は立ち上がり、その男たちに向かって言う。


「あの、迷惑なんですけど、喧嘩なら外でやってもらえませんかね?」


「なんだてめえ!」


「俺たちの喧嘩に口出すんじゃねえ!」


 ……おこなの?何で俺に対して怒りをぶつけてくるの?

 ああ、吹き飛ばされたからか。迷惑な話だ。黙って倒れ込んできた男に押しつぶされろとでも?

 酔っ払いにそんなことを言っても仕方がないか……


「あ、喧嘩やるならどうぞ、でも外でお願いしま」


 ここまで言ったところで片方の男が殴りかかってきた。しかし遅い。グリーンウルフにも劣るウジ虫だ。

 殴りかかってきた拳をつかみとって腕をねじり上げる。古武術なんて使えないが酔っ払い鎮圧にはこれで十分だ。

 と思っていたらもう1人まで殴りかかってきた。「敵の敵は味方」 という法則はこの世界に存在しないのか。

 考えてみれば地球でもそれが適用される範囲はあまり広くなかったかもしれない。

 ともあれ腕がふさがっているので仕方なく蹴りを入れることにした。殴られる前にみぞおちに1発。


「ぐ……がっ……」


 男は地面に倒れ伏した。周りからどよめきと歓声が上がる。周りにはいつの間にか人垣ができていた。

 こいつらどうしようかと考えながら少し時間が経過したところでそろそろまばらになってきていた人垣が割れ、衛兵さんと同じ服を着た人が出てきて2人を連れて行く。


「ちょっと詰め所まで同行してもらおうか」


「えっ、正当防衛じゃないんですか」


 巻き込まれた上連行されるとかどんな理不尽だよ。


「正当防衛だとは思うが状況を見ていないのでな、一応ついてきてほしいんだが」


「いや、この客は普通に飯食ってて巻き込まれただけだ。俺はしっかり見てた」


 店主の人が擁護してくれた。周りの人たちもそうだそうだと言っている。


「そうか、なら一応ギルドカードを見せてくれ。盗賊になってないか確認しなきゃならないからな」


 ギルドカード、便利だ。暴れていた冒険者たちは盗賊になってしまうのだろうか。

 衛兵さんはギルドカードを確認すると名前をメモし、俺にギルドカードを返して立ち去った。


「おう、兄ちゃんそんな体格なのに強えな。このあたりでは見ない顔だが冒険者か何かか?」


 店主が話しかけてくる。


「はい、Eランク冒険者です。装備は町中ならいらないと思って宿においてあります」


「Eであの力に速度か、将来有望だな。お礼に1品サービスしてやる。何か希望あるか?」


「ありがとうございます、おすすめとかありますか?」


 おすすめは「ホメド」とか言う料理らしい。向こうの名前の方が単純明快でよかった。

 それを注文したのだがそこそこうまかった。だがエインのガルゴン定食の味付けを若干かえただけといった感じであまり街ごとの違いを感じるものではなかった。

 馬で3日程度の距離だし当然と言えば当然か。

 腹は膨れた、睡眠時間が短かった気もするしさっさと宿に帰ってもう寝ることにする。


 朝の鐘で目を覚ました。昼夜逆転からまともな生活に変えた弊害が何か出るかもしれないと思ったが特に問題はなかった。異世界に来てから俺の体は適応力も高くなっているらしい。

 朝食を食ってから衛兵さんに道を聞くと北門からまっすぐ行って突き当たりを左に行ったところにある門から街の外に出てその道をひたすらまっすぐ行くとエレーラがあるらしい。エレーラは山にあるので物理的にはまっすぐではないだろうが一本道だそうだ。


 エインからツバイまでは軽く流す感じで走っていたがここからはメタルリザードと戦ったときのようにほぼ全力疾走、いや、あのときより速く、地球だったら体力をすぐに使い切るレベルの速度で走ってみようと思う。

 俺の戦闘では魔力消費の限界から時間を稼ぐことが必要になることが多いだろう。もちろん戦闘しながら魔法をためる時間を稼いでもいいのだが走って逃げられるならそちらの方が安全に時間を稼げる。今までこちらで息を切らしたことはないが自分がどの程度走れるかを把握しておくことは大切だ。

 いざというとき体力が切れましたでは困るし、必要以上に体力を温存した結果稼げる時間が短くなるのももったいない。

 幸いそこそこ大事な道だけあって付近の危険度が高い魔物はだいたい処理されているとのことなので道中には危険な魔物はあまり出ない (商人その他の一般人にとってはもちろん危険だが)と思われる。その上道の周りは高さ30cmほどの草原なので視界がいい。なので息が切れるまでひたすら走り、息が切れたらいったん休憩をいうのを繰り返すことにした。


 俺は走り続けた。景色がものすごい速度で飛んでいってジェットコースターに乗っているかのような視界になったが気にせず走った。途中で商人とその護衛らしき馬車に乗った人間が目をむいているのが見えたが気にせずに走った。馬はおろか高速道路を走っても大丈夫なのではないかと言うほどの速度で昼まで走り続けた結果、驚くべき事実が発覚した。


 俺、疲れないわ。

 見渡す限りの草原の中昼飯を食い終わった俺は、「もしかしたら荷物とか背負ったりしたら疲れるんじゃね?」 と思い今度は鎧を装備し剣を持ち、こんがり焼けた、ちょっとばかしウェルダンすぎるグリーンウルフを抱えて走ってみた。

 速度は落ちたが夕方になってもやはり疲れはしなかった。無駄に速度を落としても仕方がないのでそれらはみんなしまうことにする。


 そろそろ暗くなってきたので走り続けて30分ほど後に見つけた宿で宿泊することにした。この宿は道中で見かけたものと同じような外見で木造2階建てのあまり大きくない建物だ。チェーン店みたいなものかもしれない。

 建物の横には宿自体の大きさの割にはやたらと大きい柵で囲われた空間があり、馬車が1台おいてある。

 宿の入り口には「ツバイエレーラ9号店」と書かれている。まんまこの道の両端だし番号付きなことからしてもチェーンなのだろう。個人個人が道中で宿をやるよりずっと効率的だものな。

 中に入ると店主らしき老人が話しかけてきた。


「いらっしゃいませ。部屋はどうしますか?」


「どの部屋、とは?料金はいくらですか?」


 対して大きい宿でもないのにでかい部屋があったりするのだろうか。老人が料金表を指さす。



 料金表

 個室 1泊2000テル、2食付き

 雑魚寝部屋 1泊400テル、食事なし

 食事 1食150テル

 駐車場 1台1泊500テル



 ああ、別に宿である必要はないもんな。警備だけしてくれればいいのか。

 このくらいの料金なら夜間の警備をするために冒険者を追加で雇うよりは安いのかもしれない。

 昼に、全員が起きている前提でメンバーを編成できるのはありがたいことだろう。

 別にそんなに金に困ってもいないし個室を選んだ。

 飯は硬いパンのようなものと肉の燻製だった。

 この世界では夜やることもない。1日走って健全な生活だなと改めて思いながら眠りに落ちた。車を超える速度で半日走り、炭化した6本足の狼の死体を抱えてさらに継続して走るのが健全かはわからないが。


 普段のものよりだいぶ高い鐘の音で目が覚めた。

 朝どうやって起きればいいのかは考えていなかったが宿の方で鐘を用意しているらしい。

 朝食――夕食と同じメニューだ――を食い、宿から出てまた走り始める。

 道はだんだんと木が増え始め、またわずかに上り坂になってきた。

 まだまだ山というわけではないが。

 遠くの方にうっすらと山の輪郭が見える気もする。

 昼食を食う頃にはもうはっきりとそびえ立つ山が見えるほどになっていた。


 飯を食い終わって走り始め、数時間がたつと今までの草原が森にかわった。森とは言っても木々の密度はあまり高くはないが草原とは全然違う。

 その中でこの道だけは植物が刈られて道になっている。特に石などが敷き詰められているというわけではないが。

 傾斜もきつくなってきた。登坂と言っていいくらいだ。

 さらに行くと道が曲がった。斜面に対して斜めになるように道が作られている。俺のように徒歩ならいいが馬車などで輸送を行うために作られた道であるはずなので、斜度を下げなければならないのだろう。

 道を外れればショートカットできそうだがわざわざ危険を冒してまで時間を短縮する必要もない。

 暗くなってきたので宿を探しながら1時間ほど坂を上ると宿が見つかった。ツバイエレーラ20号店だ。

 飯は9号店で2回食べたものと全く同じだった。まさか馬車で移動する人はあれを10日間食い続けるのだろうか。


 そんなことを考えながら寝て起きて、今日も走り出す。

 が、30分ほど走ったところで触板が変な反応を察知する。

 おそらく人だ。7人いるが、なぜか道ではなく森の中を道から離れるように移動している。移動速度からして冒険者らしくもない。

 パーティー構成もおかしい。触板に集中するとさらに情報が得られたが大人6人に少年か少女が1人、少年か少女の方は自分で移動しているわけではなく、運ばれているようだ。


 もしかしなくても→盗賊

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