第17話 戦闘と装甲
さて、変なのにからまれてしまった。
向こうのほうが早いが速度差はそこまででもない。とりあえず街とは違う方向に逃げて時間を稼ぎながら対応を考える。装備はすべて速度を上げるために外した。
ドヴェラーグさんは何て言ってたっけ。確かこの町とかの強い魔法使いが少ない町だと倒すのが厳しいんだっけ?
この点は俺が多数の魔法使いと同じだけの魔法を使えるってことでクリアできそうだ。それででかくて硬くて重くて力が強いから剣も通らなければ盾も意味がないと。で、魔法使いがいる場合はどうやって倒せばいいんだ?聞いてないぞ。そもそも俺は普通の魔法使いがどんなふうに魔法を使うのかさえほとんど知らん。
じゃあどうするか。
選択肢その1、にげる。街に大きな被害が出るだろうし逃げたところで強い魔法使いがいるわけでもない、生き延びたとして街にこんなもんを引っ張ってきたとなったら殺されてもおかしくはない。却下。
選択肢その2、もちもの。やくにたちそうなものはない。却下。
選択肢その3、たたかう、これしかないな。
さて、戦うとしたらどうやって戦うか。幸いHPは多くないから恐らくあの装甲の中身はそんなに頑丈ではないのだろう。対ガルゴン用岩槍でも一撃通せば勝てる。だが剣士殺しと言われるだけあってそれが難しいのだろうが。
さて、剣士に対する魔法使いの優位性とはなんだろうか。恐らくそのへんに魔法使いなら何とかなる理由があるのだろう。
まず距離。ある程度離れた場所からでも攻撃できるため攻撃を受けにくい。
それから特殊な攻撃や一撃の威力が高い攻撃だ。俺以外がどうかはわからないが少なくとも炎やら水やらは魔法使いの特権だ。
MPは今まででほぼ全回復しているし回復もそこそこ大きい。回復魔法も使えるから致命傷でなければ食らっても復帰できる可能性は高い。
色々試してみるのがいいだろう。他の魔法使いにできることなら何かしらの手段で俺にもできるはずだ。
魔法使いが1000人必要だとか言われたらさすがに無理だがBランクでそこまでってことはないだろう、と思う。
メタルリザードの外見は巨大な銀色のずんぐりしたトカゲといった感じで、正面装甲はごつごつしているが背中のあたりの装甲はつるつるした平らなものに見えた。体高2m半、体長10mといったところか。
戦車などなら正面は装甲が厚かったりするのだが、ドヴェラーグさんは特にどこの装甲が厚いなどとは言っていなかったし、正面以外見えないのだから正面装甲は特に厚くないと信じたい。
まずは走りながら杖だけを取り出し、逃げ続けながら岩の槍を生成する。剣士の剣では無理らしいがMPをふんだんにつぎ込んだ岩の槍ではどうだろうか。
秒間10の魔力をつぎ込み続け、1分ほど走る。はじめ150mほどあったと思われる距離は100m分ほどまでに縮んだ。600ほどもの魔力を吸った岩の槍は長さ2.1m、太さ50㎝ほどにまでなっている。
それが時速100kmほどで飛んでいく。俺とメタルリザード、どちらも一般公道を走る車並みの速さで走っているがトカゲのほうが若干早いので相対速度はもっと上かもしれない。威力には関係なさそうだが。
発射して間もなく岩の槍は着弾した。
が、槍は砕け、メタルリザードはひるみもしなければ減速もしない。だめか。
次は火魔法だ。もしかしたら下の方の装甲が弱い可能性もあるしそれに賭けて今度は若干下に放つ予定だ。それにバランスが崩れてひっくり返るかもしれない。
火の玉をチャージしながらまた1分ほど走る。岩槍の時に振り向いたりして距離を詰められたため距離は残り40mほどだ。
見た目に変化はないが恐らく爆発の半径も10倍近くなるだろう。直径7mほどの爆発か。これ以上チャージして巻き込まれても仕方ないのでさっさと放つ。
火の玉は見事にトカゲの下あごに当たって爆発した。
今までと同じ方向に走りながら後ろを振り向く。後ろの状況は煙で見えなかった。
「ギョアアアアアアァァァァァァァァ……」
森が終わり、草原に移った戦いの舞台に、メタルリザードの咆哮が響く。
……やったか!?
と、思った次の瞬間、煙の中からトカゲが飛び出してくる。全く効いている感じがしない。距離は残り30mほど、打つ手を使い切ってしまった。
もしかしたらと思い一応水を浴びせてみるがやはり効果はない。水に濡れた装甲が太陽の光を浴びてキラキラ光っているくらいだ。
となれば俺が知らない魔法かもしれない。その手があった。
古来より日本では金属に強い属性は電気タイプと決まっている。電気なら装甲関係なくトカゲを貫けるかもしれない。
と、もう距離がないので方向転換して更なる逃走を試みる。右に向かって一気に方向転換して突進を回避する。
成功した。やはりトカゲもあまり方向転換が得意ではないようでUターンしてこちらへ向かってくる。
俺は電気がトカゲに向かっていくイメージで魔法を使う。
MPが消費された感じがし――なかった。
そう言えば昔氷の槍を使おうとした時も使えなかったっけ。
そんなことを考えていると再度トカゲに追いつかれてしまった。もう一度、今度は左に方向転換しての回避を試みるが、運悪くトカゲの左足に服の裾が引っ掛かってしまう。
一気にふっとばされて木に衝突して止まった。ステータスのおかげで致命傷ではないと思うが肋骨や腕が折れている感じがする。
回復魔法を使い、その両方を治療する。5秒ほどかかったが完治した。
が、そのタイムロスのおかげで方向転換が終わってしまったトカゲがまた俺を追いかけてくる。
慌ててトカゲに対して垂直よりややトカゲ向きに方向転換して再度距離をはなす。
しかし攻撃が通らない。このままではジリ貧だ。MPはそこまで消費してはいないしこの体はそう簡単には疲れないようだが精神は別だ。
精神の疲れによって動きがにぶったりすれば轢かれる可能性もある。いくらチートじみた魔力を持った俺の回復魔法でも即死は治らない。
何とかして攻撃が通る手段を思いつかなければならない。何かアイデアはないか。
単純だが1つ思いついた。ひたすら時間を稼ぎ、超巨大な岩の槍を装甲にぶち込むというだけの大鑑巨砲主義的な作戦だ。ゴリ押しとも言う。
単純だがわかりやすく、攻撃力は高い。いくら戦士殺しだとはいえ圧倒的な運動量には対抗できない可能性は低くないと思う。
岩の槍を生成し、魔力を込めはじめる。3000ほど突っ込むつもりだ。
再度トカゲが近づいてきたので右に方向転換してかわす。ひたすら作業のようにかわし続けて時間を稼ぐ。
俺も疲れないがトカゲの方も疲れは見せてくれない。そんなに甘くはないか。
何回方向転換したもを忘れたころ、ついにMPを3000消費した。
岩の槍の長さは3m半、太さは1mほどに達している。もはやこれは柱だ。
岩槍の射出に気を取られていたため右に向かって回避しながらだが、それを放つ。――吹っ飛んで衝撃を殺されたりしないようにやや上から打ち下ろすようにしてだ。と、同時に右肩を蹴られる。
半ば相撃ちみたいな形で槍を放つことになった。
肩に激痛が走り、前に飛んでいく景色の中で「ゴンッ」という鈍い音を聞いた。
そのまま地面で2,3回バウンドし、ようやく止まる。
体を起こそうにも起こすことができないので回復魔法を使用してから体を起こす。
――吹き飛ばされたせいか距離は100mほど離れていたが、メタルリザードは確かにこちらに向かって走ってきていた。
立ち上がって逃げながらも再度メタルリザードを鑑定してみる。
メタルリザード
RANK:B
HP 2797/2800
MP 0/0
STR:1237
INT:4
AGI:163
DEX:6
スキル:金属装甲
あれだけやってたったの1しか喰らってねえのかよ糞トカゲ!
ガルゴンより1個上なだけのBランクのくせに何でそこまで強いんだよ……。
お前みたいな硬くて重いだけのデカブツなんてその糞硬い装甲さえなければ簡単に……
装甲さえなければ?ちょっとまて。あの金属の装甲をぶち抜けばいいんだよな?
確かにあの装甲は糞硬いが金属だ。であればやりようはあるかもしれない。
俺は逃げながら魔法をチャージする。回復魔法によって完璧に治療された体はついさっきまで立ち上がることさえできなかったとは思えないほど調子がいい。今度は魔力を3000だなんてケチなことは言わない。非常用に残す1000の魔力を残して全部使い切ってやる。
残り魔力は回復分を合わせて6000ほどだ。10分ほど逃げれば回復分で残り1000ほどになるだろう。
トカゲの動きにも慣れてきた。おそらく魔法を放つ時にも追いつかれることはないだろう。
疲れないのをいいことにまた時間を稼ぎ続ける。もしこれでダメだったらMPを回復する端からつぎ込んで魔法を作らなければならない。
そうなると精神が持つかどうかが危うい。さすがに1時間や2時間ならともかく10時間だとか鬼ごっこをするとなると集中が続かないだろう。
10分が経過した。俺はメタルリザードを引き付け、全脚力を使って突進を回避する。
方向はもちろん――上だ。重そうな体からして上には攻撃できないと踏んだのだ。
俺の体はメタルリザードの70cmほど上を通過する。下にはメタルリザードのつるつるした背面装甲が見える。
その背面装甲に俺は手を伸ばす。この地点で俺の手とメタルリザードの背面装甲の距離は、30㎝弱。ロスなしで魔法が発動できる距離の限界付近だ。
その状態から俺はチャージしていた魔法を発動する。発動する魔法は、半径3㎝程度の円形に展開された圧力魔法だ。
ドンッ、という音がしてメタルリザードの装甲に、明らかに3㎝より大きい半径で穴が開く。
「ギョアアアアアアアアアァァァァァァァァ……......」
メタルリザードは叫び声を上げるが、その声はやがて小さくなり、聞こえなくなる。
\テッテレー/
ようやく死んだようだ。……勝利だ!
死体はアイテムボックスに収納した。重量はかなりあるはずだがそのまま収納できた。アイテムボックスの収納可能基準は謎だ。
さて、残党狩りでもしながら帰るか。
ちなみに今回俺が使ったのはHEAT弾などの対戦車用の砲弾に使われたりする原理で、金属に一定以上の圧力をかけると硬い金属であってもあたかも流体であるかのような振る舞いを示す、というものだ。本来は専用に加工した火薬を使ってそれ自体もこの現象によって液体のようにふるまう金属を超高速で打ち出したりして起こす現象だが、圧力を直接かけられるならそれでもいいだろうということでやってみたのだが、大成功だ。
とはいっても昔wikipediaか何かで見ただけのものだし確証はなかったが。
異世界の謎金属にもちゃんと|ユゴニオ弾性限界(固体が流体化する圧力)は存在したらしい。