第14話 ランクと大群
今日は鐘の音で目が覚めた。いつも通りハイテンションに耐えながらうまい飯を食いギルドへ行く。
Fランクの討伐依頼、駆除依頼を見てみる。
ん?討伐依頼と駆除依頼ってどう違うんだ?
サリーさんは今日は見当たらなかったので近くにいた適当な受付嬢に聞いてみる。適当と言っては失礼だが。
「すみません、聞きたいことがあるのですが」
「はい、なんでしょうか?」
「討伐依頼と駆除依頼はどこが違うのでしょうか。どちらも魔物を倒す依頼ですよね?」
どうやって区別しているのだろうか。魔物の強さか?しかし特に依頼のランクによってどちらばかりということはなかった。
「はい、それはですね、基本的に討伐依頼は受注する必要がありません。どこで倒した魔物でもいいですし多少倒してから時間がたっていても構いません。これは主に数が増えると被害が出やすくなったりする魔物などにつけられているものです」
確かに討伐依頼は受注の必要なしと書かれていた気がする。そこは盲点だったな。
「駆除依頼というのはモンスターを倒す依頼の中でも受注する必要がある依頼のことで、どこにいる魔物を倒すかも決まっていますし以前に倒したものでもだめです。討伐依頼が出されている魔物の中でも特に緊急性を要するものやギルド以外からの依頼などは大体こちらになります。当然制約がある分同等のモンスターを対象とした討伐依頼より報酬は高いです」
駆除依頼があれば駆除依頼を、なければ仕方なく討伐依頼をやるといった感じだろうか。
「駆除依頼の対象になっている場所で魔物を倒したとしても駆除依頼は達成できないんですか?」
要するにそこから魔物がいなくなればいいわけだしそれでもよさそうな気がする。
「はい、達成できません。それが真実であるかどうかを確かめる術がありませんので。受注してさえいればギルドカードが依頼を達成したかどうかを判断してくれますが受注していないとモンスターをいつ倒したかしかわかりませんから。ギルドカードのオリジナルとなった大昔の魔道具はどこで倒したか分かったようなのですが残念ながらギルドカードではそこまでは再現できていませんので」
つまり駆除依頼に受注が必須なのは不完全なギルドカードの機能では以前に倒した魔物が依頼対象かどうかを判断できないからだということか。
この機能を応用したら尋問なんかにも使えそうだがどうなのだろうか。
たとえば「自分が思っている通りのことを言え」という依頼を受注させたうえでギルドカードを観察しながら質問を浴びせかけるとか。
口を割らせるのには使えないだろうが口を割った場合の真偽判定には使えそうだ。まあそんなことは俺には関係ないな。尋問される気もないし。
「わかりました。では依頼を見てきます」
「はい。いってらっしゃいませ」
再度依頼を見て回る。とはいってもFランクの駆除依頼は存在しなかった。緊急の依頼をFランクごときに任せるわけにはいかないということなのだろうか。
かわりにグリーンウルフとビッグマウスの討伐依頼があった。Gランクの時に達成して報酬がもらえたがランクは関係ないのだろうか。
受注できる依頼は自分のランク以内ということだから受注の必要がない依頼は問題ないのかもしれない。
Cランクの討伐依頼やらに載っている魔物をぶっ殺してきて報告してみるのも面白そうだが無駄に危険を冒す必要はない。
それにそう言った手段で仮にランクを駆け上がったとしてもそれがいいことだとは限らない。
俺が魔力やらで高いスペックを誇っているとしても冒険者歴は浅いし経験もない。そう言ったものが要求される依頼もあるだろう。
地道に行こう…………!
と、いうことで討伐依頼しかやらないので依頼は受けずに森に入ることにする。
魔法弾幕の力を見せてやる!
まああんまり弾幕が活躍するような場面には出くわしたくはないが。
今日は薬草採りせずに一気に森の奥に突き進む。レベルアップで向上した速度を生かして走り続けること10分、ようやく1匹目に遭遇する。緑犬だ。
俺はアイテムボックスから装備をまとめて装着し、とりあえず岩の槍をわざと急所を外して放ってみる。レベルアップしたことだし余裕があるうちに威力を確認しておくべきだろう。
胴体に適当に放った岩の槍は高速で緑犬に以前より深く刺さり、やはり砕けた。だが緑犬はすでに致命傷を負ったようで、足をぴくぴくと動かすだけだ。
見ている間に緑犬は絶命したようなのでアイテムボックスに収納して先へ進む。
緑犬も含めて魔物の体の中には魔石があるようなのだが俺はまだ魔石を見たことはない。緑犬にしても普通は魔石だけを取り出したりするのだが俺の場合はまとめてアイテムボックスに放り込むだけだ。
また魔石はあまりそのままの状態では一般の店には流通しておらず、小さい物は砕いて乾電池のようにして魔道具に使ったり、大きい物はそのまま加工されたりするらしい。まあわざわざそれを見るためだけに緑犬を解体する気は起きない。まだこの剣を使う機会は来ないようだ。使ってみたいんだけど無駄に使うのもどうかと思うしな。
と、考えながら森の奥へ進んでいくと緑犬がまとめて5匹現れる。5発の岩の槍を放って即座に仕留めた。INTは割合からすれば大して増えていないが面白いように緑犬が死んでいく。杖のおかげで狙いがつけやすくなったのもあるのだろうがこれは便利だ。おかげで剣の出番が全くない。
剥ぎ取りに向かおうとしたところで触板の左の方に大量の反応があるのに気付く。とっさに左を向くと緑犬たちが目に入る。何匹かって?知らん。数える気も起きない。どうやって逃げようか……。火の玉でこの数を焼き払おうものなら山火事になってもおかしくないしな……。
ものすごくいっぱいいるがスポーンブロックか何かからいくらでも湧いてくるのでもない限りは有限だ。とりあえずは数を減らすのがいいだろう。
ということでとりあえずアイテムボックスから魔力回復加速ポーションを取り出し、封を開けて一気飲みする。開封はイメージで行けた。
そのまま全力で魔力を使っての岩槍射出を開始する。緑犬の群れはバタバタと倒れていくがそれを踏み越えてどんどん迫ってくる。
\テッテレー/ \テッテレー/ \テッテレー/ と、連続で頭の中にレベルアップのファンファーレが響く。
ひたすら打ちながら触板を最大限に生かして障害物を発見し、後退する。しかし数の暴力というものは恐ろしいもので岩の槍を免れた緑犬が2,3匹現れる。そしてそいつらを処理している間に距離を詰められる。この繰り返しで大分距離は詰まっている。
緑犬の密度も落ちている気がするが相変わらず数は多い。距離は残り2mほどだ。最初はこの5倍はあったはずなのに。
ふいに緑犬の中の1匹が顔をめがけて飛び出してくる。とっさに右手の剣を突き刺した。
ずぶり、という感触があって緑犬の首に剣が刺さる。剣を使うのははじめてだったがなぜだろうか、剣は思いのほか簡単に刺さった。そのまま剣を躊躇なくまっすぐ引き抜き、上段に構える。
岩の槍は今も全力で放ち続けられている。勢いが衰える様子もない。
――行ける、若干ペースが落ちてきたファンファーレと緑犬の吠え声が奏でるBGMの中で、なぜかそう思った。
俺は後退をやめ、その場に踏みとどまる。岩の槍を近づいてくる敵を倒すのに使うのをやめ、できる限り群れの中にまっすぐ突っ込ませて数を減らすことにする。
近付いてきた緑犬を2匹まとめて斬り伏せる。レベルが上がることによる岩の槍の威力の上昇はその貫通力をも向上させ、今や岩の槍は一撃で緑犬を2匹まとめて串刺しにするほどになっていた。
剣の方も同様に戦闘開始時とは比べ物にならないほどのものとなっている。スキルと筋力、素早さ上昇により最初は緑犬を1匹殺すだけでも勢いをかなり殺がれていた剣は、今や3匹まとめて切り裂いた上でまだ勢いを失わない。威力の上がった容赦ない岩の槍の連射と剣により、最初は絶望的に見えた緑犬との戦いは若干の余裕を感じるまでになっていた。
死体が積もって上から攻撃を受けやすくなるので少しずつ後退しながらひたすら緑犬を切りつける。左からきた緑犬を盾で叩き落として剣を左に振って止めを刺し、そのまま剣を右に振って2匹まとめてかかってきた緑犬の上半身をまとめて真っ二つにすると、ふいに襲撃が途切れる。
群れが来ていた側を見るが、緑犬の死体がひたすら続いているだけだ。触板にももう生物の反応は自分以外に残っていない。
俺は勝ったのだ、緑犬の群れに。
さて、戦いの後は片付けだ。こいつらを回収しなくてはならない。別に手で触る必要がないことはわかったので緑犬の死体を軽く踏み、アイテムボックスに収納する。収納しながら、自分のステータスを見てみる。無我夢中であったしただのBGMでしかなかったファンファーレの回数など覚えてはいない。
名前:スズミヤ カエデ
年齢/種族/性別 : 21/人族/男
レベル:17
HP:631/631
MP:755/9112
STR:90
INT:148
AGI:112
DEX:124
スキル:情報操作解析 (隠蔽)、異世界言語完全習得 (隠蔽)、魔法の素質 (隠蔽)、武芸の素質 (隠蔽)、異界者 (隠蔽)、全属性親和 (隠蔽)、火魔法3 土魔法3 水魔法3 圧力魔法1 知覚魔法4 回復魔法2 剣術2
スキルのレベルは上昇していないがレベルの上昇にともなってステータスは上昇が著しい。俺の魔法のレベルは開発次第で上がるので別にレベルに伴って上がらなくても困ることはないだろう。多分。
MPはそこそこ危なかったようだが永遠にも思えたあの戦いは実のところ3分程度だったらしい。もし気付かずにMPが切れていたら危なかったかもしれない。
しかし実りある3分だったのは確かだ。
回収が終わった。緑犬は513匹いたようだ。
戦闘時間が3分程度であることを考えると1分に200匹弱、秒間3.5匹くらい殺していたことになる。
1秒間に放たれる岩の槍の数は14本程度のはずだから斬撃のことを考えなくても4本で1匹を殺した程度だったようだ。
すでに死んでいる者に槍を無駄打ちしてしまっていたのかもしれない。この辺は課題として残るな。
さすがに疲労感が酷いのでこれ以上奥に進むことはせずに帰ることにする。
と、手を見て気付く。俺、血みどろだ。
いくら服が簡単には汚れないからといって返り血をモロに浴びたりしたら当然だが。
さすがにこのままで帰るわけにはいかない。川でも探して服ごと水浴びをしてしまおうか。
と、ここまで考えて気付いた。水魔法かぶればいいじゃん。
とりあえず装備は軽く水で流してアイテムボックスに収納する。時間がたたないアイテムボックスがあるのだから素人が下手に手入れするより専門家に任せた方がいい。杖は別に手入れが必要そうな感じはしないからそのままの予定だが。
ということでホースのような水の魔法を頭からかぶる。頭上30㎝から出るシャワーのようなものだ。
そのまま体にも服ごと水を浴びせる。この世界の服はなぜかこれだけできれいに洗濯できてしまうのだ。しかもすぐに乾く。
シャワーを浴び終わった。まだ服は濡れているが帰るうちに乾くだろう。
街への帰り道を走るがやはりというべきか、速度がずいぶんと上がっている。明らかに以前より早い速度で景色が後ろへ飛んでいくのだ。
10分ほどで門へついた。ギルドカードを確認する門番も特におかしな顔はしていなかったので恐らく今の俺はそんな変な恰好になってはいないだろう。
エインよ!私は帰ってきた!