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第12話 薬と杖

 精錬所からギルドへ戻り、報告をする。これでランクアップだ。

「こんにちはサリーさん。依頼を達成してきました」


「はい。ギルドカードを渡していただけますか?」


 いつも通りサリーさんは笑顔で対応してくれる。こちらも笑顔でギルドカードを渡す。

 サリーさんの笑顔が引き攣った気がした。


「突っ込まないぞ…… 突っ込まないんだからねっ…… はい。9972kgなので19944テルになります」


 何やらぶつぶつ言いながら奥へ入って、それから戻ってきたサリーさんが硬貨とギルドカードを手渡してくれる。アイテムボックスにまとめて放り込んだ。ギルドカードにはランクFと書いてあった。

 鉄貨が4枚ある。鉄貨も鋳造されたもののようだが形も少しいびつで鉄自体も不純物が多そうだ。まあ1番安い通貨にそんなに金なんてかけていられないのだろう。

 礼を言ってギルドから出る。またちょっとした小金持ちになってしまった。とはいってもまだ冒険者生活に必要な物を集めなくてはならないからすぐ消えてしまう可能性が高いが。

 とりあえずギルドの隣にある雑貨屋に入る。地球にあったコンビニエンスストアの半分ほどの大きさだ。


「いらっしゃい。何を買いに来たんだい?」


 老婆が話しかけてくる。随分いい立地の店だが店員はこの老婆一人だけのようだ。人は見かけによらないのかもしれない。

 店には棚があり、そこに商品が置いてあるが防犯も考えられたコンビニとはレイアウトが違う。レジもクーラーもないのは当然だが。

 ドリンクの代わりに置いてあるのはポーションたちだ。種類によって容器のキャップの形が違う。容器は木でできたコップ(ただし、大きさはペットボトルのふたの倍ほどだ)に、これまた木でできたふたがしてあり、蓋と容器の間が接着剤のようなもので固めてある。どうやって開けるのだろうか。

 量の割には値段が高いが今は普段より若干安くなっているから買い時だとか書いてある。何かあったのだろうか。老婆がボケて間違って仕入れすぎてしまったとか?


 ポーションの値段と鑑定結果を見比べてみる。やはりというべきかポーションは随分高い。

 1本でHPを2程度回復するらしいポーションが1本で1200テル、2日分の宿代だ。しかし普通の人間の体力の15分の1も回復できるなら安いと言えるのか?単純に体重で15分の1だとしたら体の4㎏分ほどの機能が回復することになる。

 何を以てHPとするのかはわからないが2回復がこれだけ高値で売っているということはこれでもかなり役に立つのだろう。

 回復魔法が使えないような状況に陥ったら困るので一応5本ほど買っておくことにする。

 そんな状況早々陥ることもないだろうしその時に薬が使えるかどうかもわからない。そもそも1本使ったら30分は同系統の薬を使っても効果は出ないと書いてある。足りなくなったら補充すればいいんだ。

 魔力を回復するポーションもやはり高い。MPを7回復するポーションが1000テルだ。MP30程度の魔法使いなら4時間ほどもかかって回復する量の魔力を即座に補充できるのだから役立つのかもしれないが俺には不要だ。7程度のMPなど薬を取り出して飲んでいる間に回復してしまってもおかしくないレベルだ。さすがにそれは言いすぎかもしれないが。

 魔力回復ポーションの連続使用制限は体力回復ポーションよりは緩い。それでも5分は効かないらしいけど。


 と、そんなポーションたちの棚の端のほうにほこりをかぶった容器が20個ほどおいてあるのを見つける。

 値札――ギルドで使われている依頼板のようなものだ。値板? には100テルと書いてある。お安い。

 鑑定してみる。


 魔力回復加速ポーション

 説明:魔力の回復速度を10倍に高める。効果時間は3時間。


 まさに俺のためにあるようなポーションだ。俺ならこれ1本で3000近く回復できる。しかも連続使用制限がない。その上安いときた。

 買うしかない。俺は棚にあった魔力回復加速ポーションをすべてつかみ、手や腕の上にのせてHPポーションとともに器用にバランスを取りながら老婆のところまで運ぶ。


「それは魔力ポーションじゃなくて回復加速ポーションだよ? 本当にそれでいいのかい?」


「はい、むしろこれがいいんです! むしろこんなものがほこりをかぶっていた理由がわかりません!」


 まあ普通の人のMPが少ないせいだろうが。


「そりゃあお前さん、そのポーションは材料が少なくて済むから安いがそれだけさね。即効性がなきゃ冒険者用にも役に立たないし長く使うにしても同じ時間で魔力ポーションを連続で飲んだほうが回復量も多いね。それが利いてる間は魔力ポーションも利きやしねえ。せいぜいが安全な場所で魔法を使って仕事をする連中が使うくらいで戦闘用に使うようなもんじゃないねぇ」


「そうですか。まあ私なら使い道があるのでありがたく全部買わせていただきます。ところでこのふたはどうやって開ければいいのでしょうか?」


「そんなことも知らねえのかえ。生活魔法は当然使えるね? 開封と唱えれば開くよ。よく知らねえなら無理しねえほうがええ。買ってくれるのはいいが死なれたら客が一人減っちまう」


 生活魔法は持ってないけどまあスキルからして使えないことはないだろう。開封と唱えるだけでいいのかイメージすればいいのかはともかくとして。


「ええ。無理はしないようにします。あとこれもお願いします」


 そう言って銀貨8枚とともにHPポーションも差し出す。足りないかもしれないと思ったが回復加速ポーションは20本ちょうどだった。


「ありがとうよ。また来ておくれ。まあお互い生きていたらだけどねぇ」


 そう言って老婆は笑みを浮かべる。あまり笑えない冗談はやめてほしい。反応に困る。

 老婆の冗談を日本人の固有スキル(あいそわらい)で受け流すと、薬をポケットに突っ込むふりをしながらアイテムボックスに放り込み、店をあとにする。

 一々アイテムボックスに突っ込まれるのはいい加減めんどくさいのだ。しかしいい買い物をしたな。


 次は何を買おう。特にこれと言って必要な物はなかった気がする。あ、杖だ。ドヴェラーグさんの店には杖はなかった。

 周りを見渡してみると杖がおいてある店がある。ドヴェラーグさんに勧められたわけではないがギルドの近くだし変な店ならば淘汰されているだろう。

 とりあえずその店の前まで行ってみる。店には「魔道具屋」と書いてあった。1.2mくらいの長さの木でできた杖が立てかけられている。

 ドアはなく、売っているものは魔道具だが商店街にある古本屋のような感じの店だ。シャッターなどは見当たらないが、盗みをやったら盗賊になってしまうからあまり防犯を気にする必要はないのだろう。それにここはギルドの前だから盗みをやろうとしても見つかりやすい気がする。

 店先には長い杖のほかにも60cmほどの杖や、宿屋にあった明かりを少し小さくした感じの魔道具も置いてある。

 宿屋にあった明かりみたいな感じの魔道具を鑑定してみると、「魔灯」という名前だということがわかる。名前の通り魔法を使う明かりらしい。

 1のMPで8時間程度動作すると書いてある。随分燃費がいいようだ。値段も500テルとそこそこお手ごろだ。


 魔灯を眺めているとふいに店の奥から声が掛けられる。


「魔灯に興味があるんですか?」


 声をかけてきたのはいかにも魔法使い然とした女性だ。

 いかにも魔法使いというのは鷲鼻で山高帽をかぶった老婆という意味ではない。

 ラノベとかでよく見るようなロリ魔法使いのほうだ。青髪ショート、青い瞳、低い身長、防具屋ほどではないが薄い胸部装甲、そして手に持った1m20㎝ほどの杖。

 どれをとっても完璧なロリ魔法使いだ。


「い、いえ。ほしいのは杖なんですが目に入ったので見ていただけです。短い杖です、このくらいの」


 そう言って15~20㎝ほどを手で示す。


「へ? ふふ、おかしなことを言う人ですね。そんな杖あるわけないじゃないですか。その程度の長さの杖なんて使っても魔法の速度がせいぜい2,3倍になるだけです。あなたの魔法が多少早いとしても戦闘用に使うなら最低でも10倍くらいはないと使い物になりませんよ?」


 ロリ魔法使いはキョトンしたかと思うと笑い出す。かわいい。


「あ、私はかなり魔法が早いのでそのくらいでも結構です。今までは剣と盾を持って魔法を使いながら戦ってたのですが盾は腕につけるタイプなので左手があいていまして。邪魔にならないくらいの杖がほしいんですよ」


「今度は剣を使いながら魔法を使うんですか? 冗談も休み休み言ってほしいものです。ですがお金さえあるならお作りしますがどうしますか?そのサイズなら2000テルくらいで済みますね。あとになって役に立たなかったとか言われても返品はできませんが」


 どうやら作ってくれるらしい。でもその辺にある杖を切り詰めるだけでもできそうなものだがわざわざ作るのを待つ必要があるのだろうか。


「そのへんにあるのを切り詰めるんじゃだめなんです?多少高くなっても構いませんよ」


 そう言って置いてある60cmほどの杖――値板には4000テルと書いてある、を指差す。


「切り詰めっ……!? ぷくくくく……、切り詰める……! 杖を……っ。くくく……」


 笑われてしまったようだ。俺はそんなにおかしなことを言っただろうか。


「杖、はっ、くく、部位によっ、ぷぷ、部位によって機能が、くくく、あるので、切り詰めても、ぷぷぷ、意味がありません。ぷくく」(杖は部位によって機能があるので切り詰めても意味がありません、と言っているようだ)


 そうなのか。

 そうなのだった。


「じゃあこれでお願いします」


 俺は笑いのあまり倒れ伏してしまったロリ魔法使いが起き上がるのを待ってから銀貨を2枚手渡し、店を出る。

 ようやく笑いから復帰したらしいロリは「明日の昼にはできると思います」と言っていた。防具も含めて明日の夕方には装備がそろうだろう。

 Fランク依頼には討伐依頼だとか駆除依頼だとかもあったしあさっては狩りに出かけてみようか。薬草採りのほうが儲かる気がしないでもないけど装備代もすべて払ったしそんなに金には困っていない。狩りをやればレベルも上がるしランクも上がりやすいだろう。

 今日は戦ってもいないし疲れてはいないがやることもないのでさっさと宿に帰り、飯屋で飯を食ってからさっさと寝た。

 明日は昼まで薬草採りで暇をつぶしてから装備を受け取りに行こうかな。

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