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第11話 鉄と礫

 とりあえずサリーさんに聞いた精錬所の場所を確認しに行く。とはいっても精錬所は街の草原側の門の前で左折して2軒ほど奥に行った場所だ。

 場所は確認できた。冒険者ギルドより広さは広いが1階建てのレンガ造りの建物だ。ギルドよりさらに実用的というか飾り気のないデザインだ。

 石でできた看板に精錬所とだけ書かれている。門は開いてはいるが入るのは鉄鉱石を持ってきてからでいいだろう。


 ギルドカードを持っているのを確認して門を出る。街のこちら側に来たのは初めてだがいい風景だ。まず日本では見られないだろう。

 草原とのことだったがところどころ緑の丘のようになっていてその丘の頂上から頂上へと伝うように道がつくられている。

 ひたすら緑の絨毯が続いているのは壮観だ。


 でも開拓したら簡単に良い農地になりそうだけどなんでやらないんだろう?魔物とかの関係で何かあるのかな。

 それに日本では丘がある場所に道を通す場合は低い場所を通っていた気がするが魔物の影響なのだろうか?

 パッと見魔物は見当たらないし気配 (触板によるものだ。頭の中に表示するのは気が散るしプライバシーの侵害なのでできるだけ使わないようにしている)も感じないがいざ戦うということになったときは高いところから攻撃したほうが有利だろう。

 高いところにいるということは魔物の側からもこちら側を見やすいということでもあるがこちらからしても不意打ちの心配が小さくて済むし。


 とりあえず景色を眺めていたり考えていたりしても仕方がないので盾を装備して移動を開始する。剣は一度取出し、鞘から抜いてから鞘と別々に放り込んだ。戦闘になったりしたら剣はアイテムボックスから取り出せばいいだろう。虚空抜刀術!的な感じで。まあ鞘が使われていない地点で抜刀術として成立していない気もする。

 薬草採りの帰りくらいのペースなら走っても疲れないということが分かったのでそのくらいのペースで走る。大体時速20㎞くらいな気がする。マラソン選手に勝てるな。

 ランニングをしながら考える。今使っている火の玉が時速40㎞程度だとしたら走るのの倍程度の速度しかないのか?結構遅い。

 杖の使用を検討したほうがいいかもしれない。剣を扱うのは右手だし左腕には盾がついているだけなので杖くらい握れないこともない。

 あまり長い物だと邪魔になるが俺の魔法の速度を補助するだけということは一般的な杖ほどの長さは必要ないだろう。30㎝程度のものがほしいが特注になってしまうかもしれない。明日革鎧を取りに行くときにでもお勧めの店を聞いてみようかな。


 と、杖を使わなくても速度が出そうな魔法のアイデアを1つ思いついた。

 特に準備も必要なさそうなものなので地面から3㎝ほどの小石を1つ拾って実験してみる。

 思いついたものというのは銃だ。いや、銃というよりはパチンコに近いか?別に空気の圧力を使う気もないし爆発させる気もない。

 小石に圧力をかけるイメージで魔法を使ってみたら小石が高速で飛んでいくんじゃないか、という程度の物だ。とりあえずやってみる。

 手を巻き込まれたりしたら絶対に痛いので石を軽く投げあげてからそこに圧力を集中させるイメージで魔法を発動させようとしてみる。

 バスッ、という音が聞こえるが石は飛ばなかった、というか魔法が発動した地点ですでに地面に落ちかけていた。

 今度は魔法を発動するイメージを固めてからそこに向かって石を投げ、魔法を発動させてみる。

 バスッ、という音が聞こえて石が飛んでいく。速度は時速40㎞は超えていそうだが80km/hはないだろう。手間がかかる割には微妙だ。石は小さいし。

 まあ何かの役に立つ可能性はあるのでそのまま手近にあった小石を20個ばかりアイテムボックスに放り込んで再出発する。

 移動しながらステータスを確認するとステータスには「圧力魔法1」と書かれていた。風魔法はどこ行った。

 とりあえず常用するつもりはないので隠蔽しておく。勝手に道でステータス調査した際に持っている人は見当たらなかったし無駄に目立つ必要はない。

 薬草などで十分目立っている気はしないでもないが必要性があって目立つのと無駄に目立つのは違うのだ。


 と、そんなことを考えていると坑道らしきものが見えてくる。大体5㎞程度移動した気がするしあれがそうだろう。

 鉱山と聞いてイメージしていたものとは違い草原の盛り上がった場所に穴が開いていてそのあたりに大量の石が積まれている。男が洞窟から出てきて石が積まれている場所に石をさらに追加している。鉄鉱石だろうか。

 とりあえず近付いて話しかけてみる。


「すみません。冒険者ギルドで鉄鉱石運びの依頼を受けた者なのですが」


「すみません」はどんなふうに翻訳されているのだろうかとどうでもいいことを思いついたがそんなことは今関係ない。

 俺が話しかけた男はドヴェラーグさんっぽい外見の人だがなんとなくドヴェラーグさんとは感じが違うし若そうな感じがする。

 服装はジーンズっぽい頑丈そうな生地でオーストラリアとかの炭鉱夫が着ていそうな感じだ。完全に偏見でしかないが。

 日本人には白人の違いが判らないのと同じようにドワーフから見たら全然違うのかもしれないが。


「ああ。じゃあギルドカードを見せろ」


 そう言われたのでギルドカードを見せる。


「よし、問題はねえが随分ひ弱そうじゃねえか、そんなんで大丈夫か?」


「ええ、アイテムボックス持ちですのでアイテムボックスに入るだけ入れて運ぼうと思います」


 炭鉱夫さんが驚いたように見えた。気のせいかもしれないが。


「アイテムボックスがあるのに何で鉱石運びなんてしてんだかは知らねえがそれなら問題はねえな。鉄鉱石はそこにあるから入る分だけ持って行け」


 そう言って先ほど追加された赤っぽい石の山を指差す。近くに来てみると大きさがよりよくわかるが、富士山のような形で高さ5mほどの鉄鉱石でできた山の上傾斜もやや緩やかだ。

 俺はその山に触れると鉄鉱石をガンガン突っ込んでいく。

 200㎏ほど突っ込んだときだろうか。炭鉱夫さんに声をかけられる。


「アイテムボックスってそんなに大量に物運べるもんなのか?せいぜい運べて200㎏程度だって聞いたが」


 そんなもんなのか。まあ異界者のせいとでも思っておこう。


「ええ、なぜか俺のアイテムボックスは容量が大きいみたいですね。今まで限界を見たことがなかったので試してもみたかったんです


「そうか。それなら好きなだけ持ってけ。最近鉄鉱石を運んでた連中がみんなやめちまってな。掘り出したはいいが運べねえ。精錬所のほうの備蓄もそろそろ尽きるし仕方なく高い報酬で人を雇うか奴隷でも買おうと思ってたんだが奴隷は高いし人もすぐには雇えねえ。ダメもとでギルドにも依頼を出したんだがこんだけ運んでくれるならありがてえ。これからもちょくちょく運んでくれねえか?」


「はい、いつまでこの町にいるかどうかはわかりませんが私にとってはこの依頼は割がいいので続けようと思います、……と、容量が埋まったみたいです」


 2トンほどの鉄鉱石を入れたところで鉄鉱石の右下には2011と書かれている。その枠にこれ以上投入しようとしても手ごたえがない。


「おお、埋まったか。随分入ったな、って何してんだ?まだ入ってるじゃねえか」


「え?はい、1枠埋まったのですがまだ枠はありますし」


 他の枠に投入しようと考えたところ普通に入った。継続してガンガン山を切り崩す。


「お前本当に人間か?アイテムボックスの化身とかじゃねえのか?」


「一応人間のつもりですけど……」


 ペースを崩さず岩山を崩していく。アイテムボックスは4枠埋まり、5枠目も残り1を切ったころ、炭鉱夫さんに声をかけられる。


「そのへんでいい。どんだけ入るのかわかんねえがそれ以上運ばれても精錬所に置き場所がねえ。それ運んだら多分しばらくはギルドに依頼する必要はねえな。尽きるまでに人も調達できるだろ。精錬所の中に入って適当な奴に声かければ置き場所を教えてもらえっからさっさと行ってこい。原料が運べないせいでペースが落ちてんだ」


 割が良い依頼がなくなってしまった。まあ十分稼げそうだしいいか。

 意気揚々と街へ帰る道を駆ける。10トン以上もの荷物をアイテムボックスに収納しているにもかかわらず全くその速度は衰えないまま15分ほどで街につく。

 ギルドカードを見せて街に入るとそのまま右折して精錬所に入る。

 よくわからないかまどのような道具があってそのまわりで作業をしている人たちがいる、ドワーフのほうが多いが。たたら製鉄に近い何かかな? でもそれにしては小さい気もする。作業をしている人たちはやや暇そうに見える。

 精錬所のドアは開いていたのでそのまま中に入って目に付いた人族に声をかける。1番近くにいたのはドワーフだったがドワーフより人族のほうが話しかけやすい。

「鉄鉱石を持ってきた冒険者なのですがどこに置けばいいのでしょうか?」


「ん?冒険者かい?鉱石を運んできたっていうけど持ってないじゃないか。どこかに置いているのかい?」


 線が細い感じのいかにも理系!って感じの人が返事を返してくれる。作業服を着ているがもしメガネをかけてチェック柄の服を着ていたらまさにそんな感じだろう。

 やはりアイテムボックスを鉄鉱石運びに使うことなんてほとんどないのだろうか。


「アイテムボックスを使えますのでそれで運んでるんですよ。ほら」


 そう言ってアイテムボックスから鉄鉱石を1個取り出して見せる。自重で手に岩が食い込んで痛かったのですぐにしまったが。


「うーん、そんなに報酬出してなかったはずなんだけどまあ使ってもらっても別に問題はないか、ついてきてくれ」


 そう言って案内してくれる。鉱石置場はよくわからない道具の近くのやや高い位置にある傾斜が緩めの穴だ。鉱石置場から製錬装置に鉱石を楽に運ぶためだろうか。

 理系の人は「ここに入れておいてくれ」と言って元いた場所に戻っていった。


 穴の中に鉄鉱石を放出する。1枠分放出しきったところで大事なことを忘れていたのに気が付いた。この鉱石どうやってカウントするんだろう。

 あわててギルドカードを確認する。

 依頼達成履歴のところには「鉄鉱石運搬 2011kg 未精算」と書かれている。一体どんな仕組みになっているんだろう……。

 とりあえずカウントされていたようなので安心して残り4枠も放出する。鉱石置場の容量はギリギリと言った感じだ。職人になるとそこまでわかるのかな。

 ギルドカードには「鉄鉱石運搬 9972kg 未精算」と書かれている。約2万テルだ。ワイバーン鎧を買おうと思ったらこの500倍は運ばなければならないが生活するには十分すぎる。


「随分遅えじゃねえか。一体なにやって……っ!?どっからこんな大量に鉱石持ってきた!」


 ドワーフさんが様子を見に来たと思ったら変な質問をされる。あそこ以外にも坑道があるのかな?


「街から5㎞ほど離れた坑道からです」


「場所を聞いてるんじゃねえ!」


 理不尽だ。場所を聞かれたはずなのに。どっから出したのかってことかな?


「アイテムボックスで運んできました」


「アイテムボックスってそんなにでかかったか……?いや今そんなことは知ったことじゃねえな」


 何やらぶつぶつ言っていたが急に大声を出す。


「てめえら!鉄鉱石がきたぞ!さっさとフル稼働の準備しやがれ!もたもたすんな!」


「親方!でも鉄鉱石はもう運んでこねえとねえって言って…痛っ!」


 若い感じがするドワーフが返事を返すが親方に頭をはたいて黙らせられる。


「黙れ!あるもんはあるんだから仕方ねえ!10トンくらいあるからさっさと動かせ!」


 声を聴いてさっきまでだらけていた人たちがあわただしく動き出す。


「冒険者、ちゃんと報酬は出るからもう帰っていいぞ。どうなってるのかはわからんがよくやった」


 そう言って追い返される。ドワーフってのはせっかちな生き物なんだろうか。それともやたらと人を追い出したがる習性でもあるのか?

 まあ無理に居座る理由もないしお言葉に甘えてギルドに戻ることにする。これでランクアップか。

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