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第10話 鎧と絶壁

 防具屋に入る。やはりドヴェラーグさんの店に比べると入りやすい雰囲気がある。まあドヴェラーグさんの店は立地からしても方針からしても普通の人に売ろうとは思っていないのだろうからそれで正しいのだろうが。


「すみませーん」


「あ、お客さんだね。新人冒険者さんかな?」


 地味な作業服を着た若い女の店員さんが対応してくれる。16、7歳くらいに見えるな。恐らくは見習いだとか雇われた店員だとかなのだろう。

 触板によって強化された索敵能力でも店内や店の奥にほかの人がいる気はしないが外出中とかだろうか。

 髪は緑っぽい色のセミロング。眼は青だ。胸に関しては……本人の名誉のために黙っておくことにしよう。 ……はっ!?

 殺気を感じた。慌てて返事を返す。


「はい。ドヴェラーグさんの店で防具はどこで買ったらいいかを聞いたらここに来て、ドヴェラーグさんに紹介されたと言えと言われました」


 店員さんはこちらをにらんでいたがドヴェラーグさんに紹介されたというとキョトンとし、それから疑わしそうな目でこちらを見た。


「えっ、新人冒険者なのにドヴェラーグさんの紹介?ええと……、何か証明できるようなものとか持ってるかな?」


「あ、さっきドヴェラーグさんの店でもらった剣があります。この片手剣です」


 そう言って鞘ごと剣をアイテムボックスから取り出す。


「もらった?買ったんじゃなくて?しかもアイテムボックス持ってるのに剣士とかどういうことなの……。でも剣の鞘とか束はドヴェラーグさんのっぽいし……。あー、ちょっと見てみてもいいかな?」


「はい、構いませんよ」


 そう言って鞘ごと剣を渡す。ドヴェラーグさんが焼き入れした剣を作り始めたのはごく最近のことだろうから普段のドヴェラーグさんの物とは違うかもしれない。認められなかったらドヴェラーグさんのところへ行ってどうしたらいいか聞いてみようか。でもあの人怖いし叩きだされそうだなぁ……。


「ふむふむ、ボクが見たことあるドヴェラーグさんの剣とはちょっと違うけど形とかはドヴェラーグさんっぽいね。重心もブレてないしいい剣だね。ちょっと試し切りしてみてもいいかな?ドヴェラーグさんの剣だったらそのくらいじゃ消耗したりはしないと思うけど」


 なんとボクっ娘だった!いや、問題はそこじゃないな。試し切りだがまあ大丈夫だろう。試し切り程度で壊れてしまうような剣は信用できないし。


「はい。構いませんよ」


「わかったよ。ちょっと待っててね」


 そう言うと店員さんは奥から毛皮のようなものを持ってきて剣で切り裂く。そんなこと店員さんが簡単にやってしまっていいのだろうか。

 ん?店員さん?

 この店には恐らく店員さん以外の人はいない、店の物を勝手に切ったりできる、ドヴェラーグさんの剣かどうか判別できる程度の腕を持つ。

 もしかしてこの人、店員さんとか見習いじゃなくてこの店の職人さんなのか!?こんなに若いのに!?


「おおっ、よく切れるね!ボクここまで切れる剣を見たのははじめてだよ!ドヴェラーグさんのものだとは断定はできないけどこれだけの剣を持ってるならいい防具がないと勿体ないね。よし、ボクが良い鎧を作ってあげよう。どんな鎧がいいかな?おすすめはガルゴン革だね」


 どうやら認めてくれたようだ。しかしこんなに若い女の人で大丈夫なのだろうか?もっとドヴェラーグさんみたいに、熟練の職人!って感じの人を想像していた。

 まああのドヴェラーグさんが認めるくらいのものなんだから腕は確かなのだろう。


「どのような素材があるのでしょうか?」


「まずさっき言ったガルゴン革だね。これでキミの体格に合わせて作るとオーダーメイドで1万5000だね。そこそこ分厚いけど金属鎧よりは全然軽いし動きやすいしボクは気に入ってる。それからグリーンウルフ革だけど火に弱いから火を使うような魔物を相手にすると大変なことになるね。それに防御力が弱いし長く使うつもりならあまりお勧めは出来ないかな。メリットは何と言っても安いことだね。加工も簡単でガルゴン革の10分の1くらいの値段で提供できるから初心者用の鎧としてボクの店にもおいてあるんだけどオーダーメイドで作るなら材料をあまり安くしちゃうと意味がないしおすすめはできないね」


 値段的にドヴェラーグさんがおすすめしていたのはそのガルゴン革鎧かな?


「大変なことってどんなことになるんですか?」


 あまり聞きたくない気がするが怖いもの見たさもある。それに知らないのと知っているのでは知っているほうがましだろう。


「鎧全体に炎が延焼して火だるまになるよ。そう長くない時間で燃え尽きるけどそのころには中身は大変なことになってるし仮に生き延びたところで鎧をなくした自分のすぐ近くにはその原因となった魔物がいるわけだからね。グリーンウルフ革の装備を着て火を受けて生きて帰った冒険者の話はボクは聞いたことないな。そもそもそれで生きのこれるだけの実力を持った冒険者はグリーンウルフ革の装備なんてつけてないしね」


 まさしく初心者用装備なのだろう。安いとはいっても火だるまになりたくはない。


「うわぁ、それは遠慮したいですね。やめておくことにします。つまり実質ガルゴン革一択ですか?」


「上を見たらキリがないほど素材はあるけどいくら持ってきてるの?」


「2万テルくらいです」


「じゃあやっぱりガルゴン革かな。革鎧タイプだと高いのでお勧めできるのはワイバーン革なんだけど一式そろえようとすると一千万ぐらいはかかるしそこまで高いのはこのお店にもないから素材持ち込みか予算を預けてもらってから材料を買い集めることになるね。ボク、腕に自信はあるけどお金はあんまりないのさ」


 えっへん、と(ぜっぺき)を張る店員さん。胸もあんまりないね。

 そんなことはどうでもいいんだ。ガルゴン革だ。


「じゃあガルゴン革でお願します。」


「それじゃ採寸するね。ちょっと腕のばしてね」


「あ、はい」


 そう言って店員さんは俺の肩から肘までの長さをはかったりウエストをはかったりしている。

 後ろから手を回してウエストをはかっているので胸が当た……らなかった。さすが絶壁だ。でもくすぐったいものはくすぐったい。


「動かないでね」


 なぜかプレッシャーを感じて俺は直立不動になる。逆らってはいけないような気がした。

 普通の口調の裏に何か恐ろしい物が隠れている気がする。


「終わったよ。やっぱり君の体格だと16000テルになるけど大丈夫かな?」


 口調が怖い。やっぱり怒ってる気がする。でも1000テルはそこそこ大金だ。

 プレッシャーなんかに負けたりしない!


「え、でもさっき、いちまんごせ」


「大丈夫かな?」


 圧力が強まる。やっぱり胸のこと気にして……。

 さらにプレッシャーが高まるのを感じる。しかし俺は屈しない!


「いちまんご」


「大丈夫だよね?」


「はい!大丈夫であります!」


 俺は金貨を2枚差し出す。プレッシャーには勝てなかったよ。

 店員さんはそれを受け取って銀貨を4枚返してくれる。アイテムボックスにしまっておいた。


「それじゃ明日の夕方にはできてるから夕の鐘が鳴った後に来てね」


「はっ!そうさせていただきます!それでは自分はこれで失礼します!」


 恐怖を刻みつけられた俺はいそいそとその場を後にする。女性の胸についての無駄な思考、ダメ、ゼッタイ。

 何かあるかなと思いギルドに入ってみる。決して一刻も早く防具屋さんの視界から逃れたかったわけではない。


「あ、カエデさんこんにちは。話があるんですが今大丈夫ですか?」


 今日は珍しくサリーさんが自分から話しかけてくる。そのバストは比較的豊満であった。


「なんでしょうか?」


 何のことだろうか。薬草の乱獲が問題になったとか薬草が値崩れして市場が混乱したからもう持ち込むなとかだろうか。


「ランクアップのことなんですが」


「ええ。薬草ですよね。もう……ん?ランクアップ?」


 どうやら思い違いだったようだ。薬草不足は思いのほか深刻なのだろうか。


「はい。ランクアップです。ズナナ草とグリーンウルフの件であなたのギルド貢献度と実力は十分に昇格に十分だと判断されましたが雑用系の依頼を一度も受けていないことが後々問題を生む可能性があるのでランクアップには最低1回の雑用系依頼の達成が必要なことになっています。ランクアップを希望されるのでしたら考えておいてください」


 ランクアップには雑用依頼を達成する必要があるのか。いくらギルドが冒険者の組織だからって強いだけじゃ務まらないんだな。


「わかりました。見繕っておくことにします」


 そう言ってGランクの依頼板を見に行く。ゴミ掃除やら荷物運びのなかに1つ興味深いものがあった。



 ランク:G

 依頼内容:鉄鉱石運搬

 報酬:1㎏につき2テル

 数量:運べるだけ

 備考:この町から草原側に5㎞行った先にある坑道から精錬所までの運搬となる



 運べるだけ?1㎏につき?俺のアイテムボックスの限界が試されるかもしれない依頼だ。

 これ以外に受けるべき依頼があろうか、いやない(反語)


「この依頼受けます」


 俺はその依頼板(同じ板が5枚重ねになっていた。1番上にあったものだ)を手に取ると、颯爽とサリーさんに手渡す。


「また変な依頼を持ってきましたね……。まあこれも雑用ですから問題はありませんね。アイテムボックスの無駄遣いですが」


「あれ、これって変な依頼なんですか?」


「ズナナ草と並んで人気がない依頼なんですよ。宿代が600テル、1回に50㎏運ぶとして6往復もしなければいけませんからね。それでやっと宿代が稼げるとなれば冒険者はまずやりたがりません」


 ズナナ草と同じく割に合わない系依頼か……。しかし俺のアイテムボックスにかかれば宝の山だ。


「アイテムボックスがあるので大丈夫です。アイテムボックスの限界がまだわかりませんのでそれも試してみたいですし」


「アイテムボックスの容量について詳しくは知りませんが魔力量が関係しているみたいですよ。はじめてアイテムボックスを使った時の魔力が多い人ほど枠が多いようですね。またレベルが上がったら1枠当たりの容量が増えたという話もあります。魔法の素質自体がかなり珍しいうえに情報もあまり公開されていませんので他になにかあるのかもしれませんが」


 枠数は初回起動時のMPってことであってるのかな?初期MPという可能性もあるが。容量に関してはこの依頼で1枠に詰め込めるだけ突っ込んでみればわかるだろう。


「そうですか。貴重な情報ありがとうございます。では行ってきます」


 あれ?今日は仕事しないつもりだったのに結局依頼を受けてしまった。

 まあまだ昼だし買い物以外には午後にやることもなかったから大丈夫かな。

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