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第106話 情報集めと人力戦車

「意外と苦労したな。この半分くらいの時間で行けると思ったんだが……」


「こういう仕事は久しぶりだからな。暗殺者が、ここまで繊細な生き物だったとは……」


捕縛されて部屋の隅に積まれた暗殺者たちを前に、レイクとマティアスがつぶやいた。

どうやら暗殺者を生きたまま捕縛する際、十秒ほどかかったのが気にくわないらしい。

殺していいなら、その十分の一もかからずに済んだのだろうが。


ちなみに当の暗殺者たちはほとんどが気絶しており、意識のある者も完全に戦意を喪失してしまったようだ。

そのうちの一人、入ってきたときに手柄がどうとか言っていた奴が、何やら口をモゴモゴさせたかと思うと、急に苦しみ始めた。

情報操作解析によると、どうやら毒を飲んだらしい。奥歯にでも仕込んでいたのだろうか。


「よし。こいつから尋問することにしよう」


言いながら、俺は回復魔法を発動し、毒を飲んだ暗殺者を強制的に回復させる。

他の暗殺者に自害を試みる様子はないので、一番情報を持っている可能性が高いのはこいつだろう。

ついでに後で口裏を合わせたりできないよう、魔道具を使って音漏れを防いでおいた。


「……な、何をした!」


「ただの回復魔法だ。死なれちゃ情報が取れないだろ」


「回復魔法!? なぜだ! あの薬を飲んで置いて、なぜ魔法が使える!」


「なぜ、と聞かれても……」


全く効かない薬を盛っておいて、その言いぐさはないと思う。

おかげで、演技をするタイミングを見極めるのが大変だったんだぞ。


「魔力系の薬をカエデに効かせたいなら、原液をジョッキで持ってくることだな。井戸に混ぜたくらいじゃ、俺達ですら倒せんぞ」


「ジョッキ一杯で足りるのか?」


……なんだか好き勝手言われている気がするが、気にせず話を続けることにするか。


「まあ、薬のことはどうでもいいとして、尋問を始めようか」


「デシバトレ流ごうも……質問術の出番か? アレは便利だが、結構時間がかかるぞ? 到着日には間に合わない可能性が高い」


「宿の中で、あまり物騒な方法を使うのは……」


「いや。とても平和的な方法だぞ。ただ質問するだけだからな」


言いながら俺は、アイテムボックスから魔道具のセットを取り出す。

何種類かの魔道具を並べただけなので、地球の物とは構造が全く違うのだが……機能としては地球にあった、嘘発見器を真似たものだ。

まあ、脈拍やら皮膚に流れる電流やらを計って相手の反応を見るものなので、嘘発見器というのは正確な呼び方ではないのだが。

俺も原理を知っているだけで、こんな物を使った経験があるわけではないから、わかりやすく結果が出てくれないと上手くいかないだろうし。

まあ、ダメならデシバトレ術質問術とかを試せばいいだろう。


「お前に指示を出したのは、ゾエマースか?」


とりあえず、適当な名前で質問をしてみる。


少し待ってみるが、暗殺者は答えを返さなかった。

だが、ゾエマースはこの国の人間ではない上、もう処刑されているはずなので、まず不正解だろう。

それでいい。不正解の場合の反応が分かってこそ、正解の場合と見分けがつくのだ。

その後も俺は適当な名前と、この国の貴族、大商会関係者の名前を挙げていく。


魔道具に目立つ反応があったのは、メルシアの予想していた、容疑者の本命候補、ゲンガーの名前が挙がった時だ。

脈拍などを検知する魔道具の反応も少し変わったが、何より大きく反応を示したのが、魔力を検知する装置だ。

イメージで魔法が発動するだけあって、魔力は精神との結びつきが強いのかもしれない。


「カエデさん、一度も質問に答えていませんが……質問をすると、何か分かるんですか?」


「ああ。証拠としては採用できないが、情報収集には役立つと思うぞ」


メルシアの問いに答えながら、俺は暗殺者への質問を続ける。

候補となっていた名前はあらかた挙げた後は、背後にある組織などについて聞いてみた。

魔力検知の反応によると、どうやら依頼主はゲンガーと、ゲンガーの持つ裏組織のようだ。

それと、ここの隣にある町にも、同じような暗殺者連中が潜んでいるらしい。


「貴様、心が読めるのか!?」


俺が分かったことをメルシア達に説明すると、暗殺者が久しぶりに口を開いた。

反応を見る限り、この嘘発見器(実際に見ているのは、ほとんど魔力検知器だけだが)は、ちゃんと仕事をしてくれているようだ。


「さあな。とりあえず確実なのは、お前がこの後で、デシバトレ流拷問術にかけられるってことだ」


「カエデ、拷問術じゃなくて、質問術だぞ」



「さて。どうやらカエデの持ってきた魔道具は、かなり信用できるらしいな」


翌日。

嘘発見器から得た情報の信憑性を信憑性を調べるため、隣町で食事をとった俺たちは、昨日同様に暗殺者たちを撃退し、二チーム目の暗殺者たちが衛兵に連行されていくのを見守っていた。

撃退の流れに関しては、昨日とほとんど同じだ。それはもう、面白みがないほどに、代わり映えがしなかった。

相変わらず薬は効かなかったし、相変わらずメルシアの演技力はゼロだった。

変わったことがあるとすれば、戦闘開始から捕縛完了までのタイムが、二秒ほど縮まったことだろうか。

まあ、これで情報の信憑性は、二重に確かめられたわけだ。


「犯人がゲンガーでほぼ確定したのはいいとして……これから、どうやって潰しましょう?」


「ゲンガーは腐っても貴族だからな。盗賊扱いにならないよう、対策は打っているだろう」


「盗賊になっていれば、石ころ一個で殺せるんだが……」


メルシアとレイク達が相談しているように、確かに盗賊扱いになっていないゲンガーを倒すのは、なかなか面倒そうだ。

しかし、ゲンガーを潰す方法は、本人を殺すことだけではないのだ。


「なあ。ゲンガーって最近、金に困ってるんだよな?」


「ええ。元々ゲンガーの領地は荒れ放題で、ほとんど赤字経営のようなものですから。今は裏取引の仲介などをして、細々と稼いでいるのではないでしょうか」


「じゃあ、その仲介をやってる組織を攻撃すればいいじゃないか。 そっちは多分、盗賊団になってるよな?」


妨害工作というのは、資金と力を持った者がやるからこそ邪魔で面倒くさいのだ。

資金源と下部組織を潰してしまえば、金を持った馬鹿はただの馬鹿に成り下がる。

親切な暗殺者さんたちが教えてくれたおかげで、ゲンガーの裏組織がどこにあるのかも分かったし。


「えげつないこと考えますね……。しかしあまり追い詰めすぎると、向こうが捨て身の攻撃に出てくる可能性があるのでは?」


「そうなれば、返り討ちにするだけだな。今のメイプル商会は、デシバトレ人の護衛だらけだ」


メルシアの疑問に、マティアスが即答した。


「よし。じゃあ、その方針で行くか」


「了解した! ……ところで今日って、王都に到着する予定の日だったよな? そろそろ出発しないと、着くのが遅れないか?」


「確かに、このままだと間に合わないな……」


できるだけ早く襲撃に来てもらえるよう、俺たちは早めに食事(効かない薬入り)を取ったのだが、それでも今はすでに夕方だ。

謁見は明後日のようだが、到着の翌日に謁見というのも、どうなんだろう。


「……まあ、襲撃は誘えたし、情報もつかめた。もう馬車で移動する必要もないだろ」


「そうだな。もう馬はいらん。適当な場所に預けてこよう」


突如クビを宣告された馬たちが、きょとんとした表情のまま、レイクに連れられていく。

少しの後、戻ってきたレイクが、高らかに宣言した。


「ここから王都まで、走るぞ!」


「あの、私はデシバトレ出身じゃありませんし、走るのはそんなに早くないのですが……」


「大丈夫だ。メルシアはその馬車に乗っていればいい。こんな状況にも対応できるよう、馬車は無駄に頑丈に作ってあるからな。しかも、強力なサスペンション付きだ」


「えっ……私はこの馬車の設計にあまり関わっていないのですが、その機能は、何のために……?」


「もちろん、こうやって移動するためだ! それ!」


レイクがかけ声をかけると同時に、俺たち三人は馬車をつかみ、三人で持ち上げる。

いや、これはもう馬車ではない。人力車(デシバトレ人バージョン)だ。


「よし! 行くか!」


「おう!」


息を合わせながら、俺たちはスピードを上げる。

車体はかなり軽量化されているし、デシバトレ移動とちがって道が走るのに向いているので、とても簡単に速度を上げることができる。

魔物たちも、たまに俺達を発見することがあるものの、速度を見て追いつけないと判断したのだろう。追いかけてさえこなかった。

まあ追いかけてきたところで、魔物のほうが交通事故の犠牲者になるだけなのだが。


「ちょっ! 速い! 速いです!」


「大丈夫だ! こいつは俺たちの出す速度に耐えられるよう、メタルリザードメタルをふんだんに使用している!」


「そういう問題じゃ、ないと思うんですけど!」


夕暮れの空にメルシアの叫びがむなしく響くのを聞きながら、俺たちは王都への道を急ぐ。

十二時間を予定されていた王都への道のりが踏破されたのは、それからおよそ二時間後のことだった。

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