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第102話 ミーリンとテイルブル

翌日。

街にいると待遇がよすぎて微妙に居心地が悪いということで、俺は少し外に出て、狩りでもしてみることにした。

黙って抜け出すと騒ぎになりかねない勢いなので、一応街の正面から、堂々と外に出ようとする。


「カエデ様、どこかへお出かけですか? 護衛を用意いたしますので……」


だが町を出ようとしたところで、衛兵に呼び止められてしまった。

この待遇は、やはりまだ続いているようだ。

俺が誰かを護衛するならともかく、護衛されてどうするというのか。


「カエデ様に護衛を付けても、逆に足手まといなのではないか?」


幸い、俺が言う前に、他の衛兵がツッコミを入れてくれた。


「ですが隊長、カエデ様には、他国の上級貴族に準じる対応をとの指示ですし、護衛も付けずに外へは――」


「確かにそういう指令だが、カエデ様のいらっしゃった理由と、俺達の戦闘力を考えろ。俺達が逆に守られてしまうぞ。足手まといを押しつけてどうする」


ツッコミを入れてくれた人は、どうやら部隊長だったらしい。

っていうか俺の今までの待遇、上級貴族と同じ扱いだったんだな……。

俺は冒険者としてここに来た訳だし、冒険者として扱ってほしいのだが。

あ、宿の飯はとても美味しかったから、そこだけ貴族待遇で頼む。特に、テイルブルの何とかとかいう、煮込み料理はよかった。

――などと言う訳にもいかないので、適当にお茶をにごすことにした。


「ちょっとした様子見です。一人で大丈夫ですよ。自分が守られていては、何のをしに来たのか分かりませんからね」


「承知しました。本当は護衛を付けたいのですが、適任者がおりませんで……申し訳ありません」


そう言って俺を送り出す衛兵は、心配そうな表情だ。

高ランク冒険者の中では若いせいで、頼りなく見えるのだろうか。

もしここがベイシスだったら、俺でなくても、魔物の領域でもない森に出て行くデシバトレ人を心配する衛兵など、一人もいない気がするのだが。

むしろ魔物が片っ端から倒されることによる、生態系への影響が心配になってくるレベルだ。

幸い(?)魔物はいくら倒してもそのうち湧いてくるようだし、この世界には生態系保護なんて概念は存在しないようだが。


今のところ、周囲に大発生の予兆らしき様子は見られない。

大発生の予測にはまだ二日ほどあるし、大発生の予兆など直前にならないと発生しないので、今の時点では予兆がなくて当然なのだが。


「……結構違うな」


しかしソイエルの森は、ベイシスの森とはかなり違った。

パッと見で一番違うのは、雪が積もっている点だ。生えている木も針葉樹が多く、広葉樹主体のベイシスとは風景が大分違う。

しかし最も大きい違いは、魔物の少なさだろう。

ベイシスなら、普通の森でも十数匹、デシバトレやブロケンなら百匹単位の魔物に遭遇していい距離を歩いたにもかかわらず、魔物の一匹も見当たらない。

大発生の予兆に、魔物が逃げ出すなどということは書かれていなかったので、大発生のせいという訳でもないだろう。

飛ぶと目立つので、とりあえず地上から魔物でも探そうと思っていたのだが、やはり空から探したほうが――

と、ここまで考えたところで、ようやく一匹目の魔物に遭遇した。

ガルゴンよりやや小さめの体と、やたらと巨大な尻尾を持った、牛の魔物だ。

尻尾の長さは体の倍近くあり、さらに先端には大きなコブがついている。

振り回すと武器になりそうだが……本体に対して尻尾が大きすぎて、逆に振り回されはしないかと心配になってくるほどだ。

【情報操作解析】によると、名前はテイルブル――あれ? 何か聞いたことのある名前だな。それもかなり最近。

というか、昨日食べた料理の材料だ。


気付いてすぐ、俺はアイテムボックスから魔剣を取り出した。

それから一気にテイルブルへの距離を詰め、首へと振り下ろす。

食材へのダメージを最小限にとどめるためには、鋭い刃物で一気にとどめを刺すことが重要なのだ。


とりあえず、一匹ゲット。

俺はさらに多くの魔物を探すため、少しだけ空を飛んでみることにした。

さらに【情報操作解析】を併用し、周囲一帯のテイルブルの居場所を暴き出す。

この世界の辞書に、生態系保護の五文字は存在しない。

俺の辞書にはあったはずだが、今は見当たらない。

落丁、乱丁のようだが、お取り替えはいたしません。


――そして、三十分後。

俺はアイテムボックスに大量のテイルブルを収納し、ホクホク顔で他の魔物を探しにかかっていた。

そんな俺の視界の隅に、一匹のテイルブルが映る。テイルブルは狩り尽くしたと思ったのだが……まだいたのだろうか。

一瞬そう思ったが、テイルブルの探知を続けているはずの【情報操作解析】は、その魔物に反応していない。

よく分からないので、少しに近付いてみると、その魔物がテイルブルとは違うことが分かった。

サイズが大きい。体高は周囲の木よりも高く、尻尾についたこぶだけで、普通のテイルブルくらいの重さがありそうだ。

名前は、キングテイルブル。うん。いつも通り安直だな。


いずれにしろ、食べ応えがあるのはいいことだ。

俺は魔剣を手に持って、キングテイルブルへと近付いていく。

途中でキングテイルブルも俺に気がついたようで、尻尾をこちらに向かって振り回してきたが、遅い。

尻尾が俺に届く前に、俺はキングテイルブルの首に、魔剣を突き立てる。

首が太いため、普通のテイルブルのように一撃で首を落とすことはできなかったが、倒すことは倒せたようだ。

俺は倒したキングテイルブルをアイテムボックスに収納すると、次の獲物を探し始めた。

他にも何か、おいしい魔物がいるかもしれない。




魔物を見つけては倒しを繰り返していると、夕方が来た。

倒した魔物は、合計で千七十五匹。悪くない結果だ。

魔物の密度が低いに加えて、食材をあまり痛めないように気をつけていたせいで、ペースはあまり速くならなかったが、森がとても広かったおかげで、長時間の狩りができた。


さて。狩ったはいいが、調理のことを考えなくてはならないな。

セウーユがあるので、自分で試行錯誤してみるのもいいが……せっかく食べ物のおいしい宿に泊まっているのだし、今から宿に帰ると、食事にも丁度いい時間だ。

聞いてみることにしよう。


俺が狩りを切り上げて宿に戻ると、料理はすぐに用意された。

急な戻りだったにも関わらず、ほとんどノータイムでできたてのように見える料理が出てきたあたり、もしかしたら宿には、アイテムボックス持ちの食料保管係がいるのかもしれない。

今日の料理も、やはり美味かった。

食事が終わると料理長が出てきたので、さりげなく聞いてみる。


「今日も素晴らしい料理でした。レシピを聞きたいくらいです」


「お口に合ったようで何よりです。よろしければ、レシピをご用意しましょうか?」


「いいんですか?」


まさか、レシピごともらえてしまうとは。


「もちろんです。向こうで作って、販売していただいても大丈夫ですよ。ベイシスであれば競合する事もありませんし、我々としても、特産品が売れるのはありがたいんですよ」


特産品……ああ。確かに、これらの料理には大体セウーユが使われている気がする。

この宿も、セウーユの生産者と何か関係があるのかもしれない。


「では、お願いします!」




すると二時間ほどの後、俺の泊まっている部屋に、分厚い紙の束が届いた。

まさかこれ、全部レシピなのか……?

俺は恐る恐る、置かれた紙を一枚めくってみる。

そこには使う食材や調味料の量から火力、調理の際のコツに至るまでが、びっしりと細かく書かれていた。

二枚目も、三枚目もそう。

アイテムボックスを使って数えてみると、そんな紙が、およそ七十枚ほど。この世界では、紙って貴重なんじゃなかったっけ……?


俺はそこまで料理が得意というわけではないが、メイプル商会にも料理人はいたはずだ。

食材だけ用意すれば、作ってもらえる気がする。

ちなみに俺が確認した限り、レシピの書かれていた料理の全てにはセウーユと、この地特産の酒(ミーリンという名前らしい)が使われており、さらにはレシピに混じって、『ソイエルに来れば、いつでもお売りしますよー』という旨が書かれていた。

何らかの策略を感じないでもないが……美味しいからいいや。

ただ一つ心残りだったのは、倒した魔物のうち、キングテイルブルにだけ、レシピがなかったことだ。テイルブルと同じでいいのだろうか。

……明日にでも聞いてみるか。

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