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第100話 賞金稼ぎと衛兵

『チート魔法剣士』一巻が重版しました!

これも皆様の応援のおかげです。ありがとうございます!

例の町が出てくる3巻も、鋭意執筆中です!

 部屋の二隅から、二人の護衛が同時に駆けてくる。

 魔法が使えないという誤解は解かない方があとあと役に立つかもしれないので、とりあえずアイテムボックスから適当な石を取り出し、投げつけてみた。

 石は右側の護衛にクリーンヒットし、バキッという音と共に、右側の護衛を沈めた。

 そうしている間に左の護衛が斬りかかってきたので、適当にかわして蹴りを入れる。

 ……なんというか、凄く弱い。デシバトレの魔法使いなら、魔法を使わずに勝てる奴も結構いそうな気がする。あの筋肉は飾りだったようだ。

 剣士とは、比べるのも可哀想になってくるレベルだ。


「で、Eランク冒険者二人を、一瞬で……」


 あいつら、Eランクだったのか。

 Eランクにしても弱かった気がするが……ベイシスとこの国では、ランクの基準が違うのだろうか。

 ……しかし、あの冒険者達は、ある意味役に立ったようだ。


「すげえ音が聞こえたぞ!」


「執務室だ!」


 護衛を倒した時の音で、屋敷にいたらしき衛兵たちが、この部屋に集まってきたのだ。

 十人、二十人……まだ増える。たかが一領主が、屋敷に常駐させるとは思えない数だ。

 もしかしたら、悪事を働き過ぎて暗殺が怖かったのかもしれない。


 などと暢気に考えているのは、集まってくる衛兵達が、ことごとく弱そうだったからだ。

 逃げることはいつでもできるし、領主を殺すのもいつでもできる。

 それに加えて、集まってくる衛兵達が、ことごとく領主を嫌っていそうな雰囲気なのだ。

 領主を守りに来たというよりは、大きな音が聞こえたから集まってきて、領主が襲われていたから仕方なく守るポーズをしている、という雰囲気である。

 その証拠に、誰も俺を攻撃しにこない。というか、協力してくれている。

 窮屈そうな姿勢をとってまで、俺が領主に魔法を打ち込めるよう、射線を開けてくれているのだ。

 まあ俺がそれを利用するかは、まだ保留な訳だが。

 そんな状況なので、とりあえずは交渉という手段を取ることにした。


「その男は領主ではない。横領を行った犯罪者だ!」


 俺はそう言いながら、さっき回収した帳簿を取り出す。

 そこには横領の証拠が、これ以上ないほど明確に表されていた。


「で……でっち上げだ! 偽の帳簿を使って、自分の盗んだものを私のせいにしようとしているんだ! この泥棒め!」


 領主が顔を真っ赤にして反論してくる。

 自分の犯罪を他人に押しつけようとしたのはそっちだろうに。大した面の皮だ。


「なあ。どうする?」


「言ってること、多分本当だよな……」


「縛り上げちまうか?」


 俺達の発言を聞いて、衛兵たちはそんな相談を始めた。

 それは領主にも聞こえていたようで、領主の顔にはさらに血が上り、赤を通り越して黒くなりはじめた。血管が切れそうだ。

 その表情のまま領主は、怒りを込めて衛兵達に怒鳴り散らした。


「さっさとその男を殺せ! 今すぐだ! やらない奴は反逆者だ! 適当な罪をでっち上げて、家族もろとも縛り首にしてやる!」


 ……それって、故意の冤罪を自白してることにならないか?

 色々とダメすぎる宣言な気がしたが、流石に家族を人質に取るのは効果が高かったらしい。

 俺がツッコミも入れる暇もなく、衛兵達が剣を抜いて襲いかかってくる。


「くそ! 悪く思うな!」


「お、俺には妹があああああ!」


 俺は魔法装甲で防御を固め、これを受け止めることにした。これを反撃で斬り捨てるのは、悪役のやる事の気がする。

 というのは理由の半分で、衛兵達は盗賊扱いになっていないので、下手にカウンターを入れると、ベイシスに戻った時に困る可能性があるからだ。

 流石に一度攻撃を受け止めれば、正当防衛が成立するだろう。

 ちなみに、この隙に領主が逃げようとしていたので、再度結界魔法で脚を引っかけておいた。

 俺としてはそれだけのつもりだったのだが、転んだ先には()()()()結界魔法が置いてあり、領主は顔面を強打してしまったようだ。


「ぶべっ!」


「な、なぜだ! 攻撃が届かん!」


「俺もだ! ぎゃぁぁ!」


 正当防衛を成立させた後で、俺は軽めに圧力魔法を周囲に放ち、衛兵達を吹き飛ばした。

 軽い怪我をした者はいるようだが、流石にそこまで面倒を見るつもりはない。


 さて、これからどうしようか。

 そう考えたところで、新たな戦力が現れた。

 執務室の窓が割れ、一人の男が飛び込んでくる。


 一瞬、どこかのまともな領主がクソ領主(名前は知らない。鑑定で見た気がするが、覚える気すら起きなかった)をとらえるために人を送ってくれたのかと思ったが、それにしては流石に早すぎる。とりあえず盗賊でないことは確かだ。

 どうしたものかと考えていたら、向こうが説明をしてくれた。


「れ、レイガー!」


「おいゾエマース。倒す相手ってのはこいつだな? 報酬はちゃんと出るんだろうな?」


「あ、ああ。出すとも! 即金で二千万ライル、こいつの財産からも追加で報酬を出す! だから早く、そいつを倒してくれ!」


 どうやら新しく来たレイガーという男は、領主側の援軍のようだ。話を聞く限り領主の部下ではなく、金で動く賞金稼ぎだろう。

 ちなみにゾエマースというのは、領主のことだったらしい。とても無駄な知識を入手してしまった。


「よーし衛兵共。まずは逃がさないように、窓と出口を固めろ。それと情報だ。何でもいいから、そいつについての情報をよこせ」


 なるほど。高い報酬を取るだけのことはあるようだ。

 他の連中と違って、作戦がしっかりしている。少なくとも領主に比べれば、数十倍は有能だろう。

 例によって相手が盗賊扱いになっていないので、俺はいつでも壁をぶち抜いて脱出できるように準備しつつ、慎重に様子を見る。

 向こうは向こうで、情報交換中のようだ。


「こ、攻撃が届かないんだ!」


「お前らの剣が下手なんじゃないか?」


「そういうんじゃない! まるで見えない壁でもあるみたいに……」


「とにかく、届かないんだ!」


 実際、見えない壁があるわけだからな。


「チッ。要領を得ねえな。……それはもういいから、他の情報をよこせ。出身地とか、戦闘スタイルとかだ」


 スタイルはともかく、ここで出身地を聞くのか。

 俺は対人戦を真面目に調べたことがないので分からないが、出身地によって戦術に差があったりするのかもしれない。

 デシバトレなどの都市であれば、地名だけである程度強さがつかめるだろうし。


「そ、そいつの出身は前線都市だ!」


 衛兵達は質問に答えられなかったようだが、代わりに領主が答えた。

 俺の名前すら覚えていなかったくせに、俺がどこから来たかは知っているらしい。

 まあ俺の出身地は日本なので、正解とは言いがたいのだが。


「前線都市? ガルディアとか、ホーミルとかか? ……少し厄介だな。衛兵共、足手まといだから下がってろ。お前らじゃ話にならん」


 レイガーは衛兵たちを下がらせ、背中に背負っていた二本の剣を構えた。

 そこに領主が、追加の情報を出す。


「いや、この国の前線都市じゃない! そいつはベイシス人だ!」


「ベイシス人? ……前線都市ってまさか、デシバトレじゃねえよな?」


「そうだ! そのデシ何とかだ!」


 その答えを聞いて、レイガーは半笑いになった。

 半笑いのまま、表情がサーッと青ざめていく。


「……おい、衛兵ども」


「……何か?」


「命は大事にしたほうがいいぞ。じゃあな」


 そう言ってレイガーは入ってきた窓に飛び込み、一目散に逃げていった。

 その判断の早さと逃げ足の速さは、驚嘆に値する。あの逃げ足こそ、賞金稼ぎとして生き抜く秘訣なのかも知れない。


「お、おい。あのレイガーが逃げたぞ?」


「やべえんじゃねえのか?」


「お、俺はまだ死にたくねえぞ!」


 レイガーが逃げ出したのを見て、衛兵たちも怖気づいたようだ。

 割れた窓や開いたドアから、先を争って逃げ出していく。

 残ったのは俺と、領主と、横領を手伝っていた部下と、三人の衛兵だけだ。

 しかしその衛兵たちも、領主に忠誠を誓っているという風にはみえない。

 むしろその表情には、領主に対しての嫌悪感がにじみ出ていた。

 それでもこの場に残るとなると……


「なあ。もしかして、本当に人質を取られていたりするのか?」


「……俺が逃げれば、娘が殺される」


 なるほど。娘を人質に取られているのか。それでは残るのも仕方がないな。

 しかし娘を思うあまり、この衛兵は冷静さに欠けているのかもしれない。


「なあ。その娘を殺す命令って、誰が出すんだ?」


「領主……様だ」


 衛兵は領主を呼び捨てにしかけて、それから苦渋の表情で敬称を付け足した。


「なるほど。だが逮捕された犯罪者が命令を出したところで、誰が従うんだ?」


「……あ。」


 衛兵の表情が固まる。

 そのままの表情で衛兵は領主の背後に回り、地面に押さえつけた。

 そして、まだ固まっている二人に対し、宣言する。


「犯罪者を逮捕した。応援を頼む」


「分かった」


 ……ああ。酷い茶番だった。

 こんなオチのために、俺達は戦っていたというのだろうか。

 なんだか、精神的にどっと疲れた気がする。

 ともあれこれで、冤罪事件は最小限の被害で解決されたわけだ。クソ領主がいなくなれば、落ちたセウーユの味も元に戻るかもしれない。

 その点だけが、唯一の救いだろうか。

ついに100話!

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