第9話 剣と弾幕
俺は離れたところでの魔法のコントロールなんかに気を取られて大切なことを忘れていた。
――弾幕はパワーだぜ。
大威力の魔法を放つと巻き込まれるなら絨毯爆撃すればいいじゃない!
と、いうことで複数火の玉を作れないか試してみる。とりあえず2つだ。あっさりいけた。
まとめて飛ばしてみる。爆発の威力は普段と変わらない。MP消費はきっちり普段の倍だ。
魔力を追加した弾のほうは4倍ほどのMP消費で範囲は1.6倍ほど、面積にして2.56倍だ。こちらのほうが面積当たりのコストも安い。
あれ?1.6倍?1.6×1.6×1.6って4096÷1000だから大体4だよな。MP消費も4倍。
魔法の制御も距離が2倍になってMP消費が8倍。2の3乗だ。魔力消費は3乗に比例するものが多いのか?
特に火の玉。爆発の範囲が1.6倍になるということは中心部の火力は通常の火の玉の4倍近くあるのではないか。
火の玉が当たった地面の焦げ方も激しかったし。あれは範囲のせいだと思っていたが火力が違ったのかもしれない。
とりあえず弾幕の検証を継続する。
試してみたところ7個までは普通にまとめて生成できるようだがそれを超えると生成速度が落ちる。
7個までなら0.5秒の間隔で連射できる。通常の火の玉1個の爆発の直径は70cmほどだから横一列に並べるなら5mほどの距離を焼き払えることになる。
MP消費は放水のようなリニアな消費ではないが最大で秒間10程度の消費であることは変わらない。仮説は正しかったようだ。
今のMPでは最大出力はせいぜい3分ほどしか続かないが今のところ1レベルあがるごとに最大値は500ずつ増えているしまだ伸びるだろう。
そもそもこの火力を3分も放ち続けて死なないような魔物なんて相手になんてしたくもないが。
よし。これで複数相手は何とかなるだろう。あとは周りを巻き込まない岩の槍の強化だな。
岩の槍もMPをつぎ込むと威力が上がるようだし同じように7本まで速度を落とさずに同時生成できた。
ただ岩の槍のほうはMPを増やすほど大きさも上がっていた。形そのまま、相似拡大だ。原理がわからない。そもそも魔法自体質量保存の法則どこ吹く風だから仕方ないが。物理学者が魔法について聞いたら激おこだろう。いや、そこでその原因を探るのが物理学者なのかな?まあいいや。
水もMP消費を増やすと量が増えていたしこれは火が特殊なのだろう。水や土は量依存、炎は火力 (温度?)依存といったところか。
あとは索敵だな。……どうやればいいんだ?
眼を閉じ、周囲の気配を感じることを意識する。集中……見えた!
敵がいると感じた方向に拳を振りぬく。ガツン!と手ごたえがある。
木の手ごたえだった。痛い。あーこれ折れたわー。病院いかないとだめだわー。
慰謝料を請求しようにも周囲には誰もいない。敵なんているわけもない。というかいないからこの場所を選んだんだ。
手が痛い。皮がむけてしまった。そういえばギルドの人が回復魔法がどうとか言ってたっけ。
手が回復する様子を思い浮かべてみる。かさぶたになってそれが時間経過で元に戻るイメージだ。
できた。回復した。でも骨が痛い気がする。ひびでも入っているかもしれない。骨のひびが治るイメージをする。痛みは引いた。
これが回復魔法か。なんか緑色の光が出るようなのが回復魔法ってイメージだったが特にエフェクトはない。
MPは合計で2くらい使った。俺だからいいが普通の魔法使いでは大けがを直そうとしたら一発でMPが切れてしまうのではないだろうか。
だからポーションとかがあるのか。もちろんパーティーに魔法使いがいない場合も必要だろうが。念のため買っておくことにしようかな。
ともあれ索敵だ。気配を感じることは出来ないようだからほかの方法を考えなければならない。
ダメもとで風でできたセンサーが1m先の木をふれるのをイメージしてみるがやっぱりMP消費が一気に増え・・・なかった。感覚はある。
あれ。遠くで操作してるのに大丈夫?そのまま伸ばしていく。伸ばすほど魔力を消費していく感じがするが加速度的に消費する感じはしない。それに消費もすごく小さい気がする。
20mほど延ばしたところで限界がきた。それ以上はのばせないようだ。伸ばすときに魔力を消費するだけのようで感覚を感じ取るだけなら消費はしない。
センサー (触手?)のある直線上に感覚を感じる。もともとない部分に感覚があるからだかはわからないが
木の葉にさわってみるが木の葉が動くこともない。感覚器としてははたらくが物体には干渉できないようだ。
しかしこれでは触れても視覚もないし何がいるのかなどわからない。
今の風の間隔を今度は平面に広げてみる。MP消費は距離が延びるにしたがって加速度的に増えていくが見たところ距離の自乗に比例した感じだ。
元々のMP消費が少ないからあまり気にならない。4mまで伸ばしてやっとMPを1消費した。20mまでのばすと25ほどのMPを消費したが俺にとっては軽い物だ。
しかし情報がごちゃごちゃしすぎて何が起きているのか全く分からない。ためしに火の玉を1発撃ってみるが衝撃を感じただけでどこから衝撃を受けたかなどわからない。というか頭をフライパンで殴られたかのような衝撃だ。これはひどい。戦いどころではないだろう。
ふと思いつき、情報操作解析にその情報をそのまま突っ込む感じをイメージしてみる。するとこの森が白黒の輪切りにされたような形が頭の中に浮かんだ。さすが情報操作解析先生だ。
だが輪切りの形なんてわかったところで大して役には立たないので生き物だけを探すイメージを情報操作解析のことを思い浮かべながら作る。
頭の中に浮かぶ輪切りが真っ暗な中に俺の位置だけが白く光っているものに変わった。さすが情報操作解析は格が違った。
俺以外が映るかどうかは街に入ってから試せばいいだろう。
魔物には背が低いものや空を飛ぶものもいるので20㎝間隔で縦に10m、合計50枚の板を並べることにした。これは触板とでも呼ぼうか。
触板に随分と魔力を食われてしまった。管理は情報操作解析に任せて常時展開しておこう。もうMPは500もないようだ。そろそろ昼だし飯を食ったら鍛冶屋に行こうか。邪魔だなと思ったら頭の中のレーダーっぽい画面は消えた。
街が近づくとたくさんの人の気配を感じる。触板の画面を出していなくても気配を感じることができるらしい。これは便利かもしれない。
ステータスを見ていて気付いたが触板は風魔法ではなく知覚魔法というらしい。レベルは3だった。知覚以外の魔法もすべて鑑定してみたが皆レベルは3だった。
ただ威力と範囲と弾数を上げただけなのに。
そんなことを考えながら門番に身分証を見せて門を通り、鍛冶屋への道をあるく。焼き入れはちゃんとできているだろうか。
元の世界でも割と早い段階から出てきた技術のはずだからそんなに難しい物ではないと思うけどこの世界でははじめてだ。誰か思いついていてもよさそうなものだが。
鍛冶屋のドアを開ける。相変わらずドヴェラーグさんは何かをガンガンやっている。
「すみませーん!」
「うるせえ!黙って待ってろ!」
相変わらずだ。だが今度は剣を打ち終えたあとに焼き入れをしている。おかげで待ち時間が10分ほどに伸びた。
剣は曲がっていない。うまくいったようだ。
「おう。焼き入れってのはすげえな。最近出てきた炭鉄は堅えが焼き入れするとまた一段違う。ただ安い普通の鉄は焼き入れしようとしてもあんまり硬くなんねえな。まあ俺はどっちにしろ炭鉄しか使わねえから問題ないが」
炭鉄……。鋼のことだろうか。多分普通の鉄ってのは錬鉄のことだろう。塊鉄炉やら反射炉やらで作るやつだ。どうやって作っているのかはわからないが転炉ではないだろう。転炉で作っているとしたら錬鉄は駆逐されていてもおかしくないし。転炉を使っていても鉄鉱石に含まれるリンがどうとかで鋼のほうが高い可能性はあるが。
「剣持ってきてやるからちょっと待ってろ。昨日焼き入れした自信作だ」
そう言ってドヴェラーグさんは奥から1本の剣を持ってくる。鞘付きで刃渡りは80cmほどだ。そこそこ大きい。
「ちょっと振ってみろ」
そう言われたので剣を抜いてまっすぐ縦にふってみる。しっくりくる。
「おお。昔は剣士もやってたのかもしんねえな。振り方はてんでダメだが動き自体はしっかりしてる。素振りでもやりゃあある程度ものになるだろ」
武芸の才能恐るべし。まあ素振りはあとでやっておこうか。
「扱いやすいですね。ありがとうございます」
「礼を言うのはこっちだ。前よりいい剣を安定して打てるようになった。でもいいのか?これ秘伝とかになっててもおかしくねえ技術だと思うがこんなに簡単に教えちまって」
「ええ。むしろ広めてもらっても構いません。技術は使われてこそですから」
良い武器が安く普及すれば戦力増強できて俺が安全に暮らせるしね。とりあえず剣はアイテムボックスにしまっておく。
「若えのによくわかってるじゃねえか。まあこれからもなんか必要だったら言ってくれ。ところでお前鎧つけてねえけどいらねえのか?」
そういえば鎧をつけてなかった。鎧があるのとないのでは防御力が大違いだろう。重さで動けなくなったりしたら本末転倒だが皮鎧なら大丈夫かな?
「軽めの鎧がほしいのですが金がなかったので後でそろえようと思って。動きが阻害されないようなのだとやっぱり皮鎧がいいのでしょうか」
「ああ。それなら革鎧だな。うちは板金鎧しか作ってねえが腕のいい革鎧屋には心当たりがある。多分1万5000くらいかかると思うがその店でいいか?」
剣より鎧のほうが高いのか。まあ俺がもらった剣はタダだが多分普通に買えば1万は軽く超えるだろう。1万ってのは焼き入れしてない剣の話だし。
まあ今の俺にとっては普通に買える価格だ。薬草採取1日分くらいだ。余裕だろう。
「そのお店でお願いします」
「ギルドに向かって2つ左にある防具屋だ。初心者用の安い鎧も売ってるがドヴェラーグからの紹介だと言えばしっかりした鎧を用意してくれるだろ」
「わかりました。それでは行ってきます」
またドヴェラーグさんのような人なのだろうか……。でも初心者用の安い鎧も売ってくれているということは優しい人のなのかもしれない。
とりあえず行ってみるか。