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第0話 ゲーマーと異世界転移

 ネトゲーマーの大学生である俺、涼宮 楓は頭痛をこらえながらひたすらキーボードを操作する。画面に表示されていたボスのHPバーはつい2秒前に消滅した。そして俺のHP (リアルの)もわずかだ。もう4日ほども寝ていない。

「まだ寝ちゃだめだ、分配に参加しないと……。」

 そう考えるが体が言うことを聞かない。俺はキーボードに突っ伏し、意識を手放した。


 どうしてこんなことになったのかといえばそれは3日前の俺のせいだ。

 大学の今年取る予定だった単位を取り終わった俺は解放感と高揚感にまかせてここぞとばかりにハマっていたネトゲの予定を詰め込みまくったのだ。

 その時の俺の浮かれぶりといったら3日間の間に一切の睡眠時間が考慮されていないことに気付かないほどだった。

 最初の2日はよかったのだがそれ以降はさすがにきつくなってきた。ゲームを始める前も含めると3日半は寝ていない。頭も痛いし疲労もピークだ。

 その時にやめておけばよかったのにその時の俺は「よし、次に武器がドロップするまでは続けよう」などと決意したのだが、何の因果か普段なら2時間もすれば1本くらいは出る程度のドロップ率であったはずの武器は10時間ほどもドロップしない。予定は中止してそろそろ寝ようかと思った俺の元に無情にもその連絡は届いた。

「あと15分で固定の時間なんで集合してくださーい」というボス討伐PTの主催者からの連絡。そうだった、今は火曜日の午後10時半。固定の時間だ。

 固定というのは固定パーティーの略でその名の通り決まった時間に固定されたメンバーのパーティーで同じボスを繰り返し討伐し、経験値やドロップアイテムを得るためのパーティーのことだ。これをすっぽかせば自分を除く11名のパーティーメンバー全員に迷惑がかかる。

 いくら頭が痛かろうとやりきるしかない。そう決意して集合場所に移動し、いつも通りに決められた役目をこなし、ボスを討伐した。所要時間もほぼいつも通りの約2時間。

 その結果が冒頭の場面というわけだ。


 目を覚ますと、そこはいつもの見慣れた自宅の天井ではなく、森の中だった。慌てて周囲を見回してみると見える範囲の木は主に広葉樹からなり、太さ1mほどもありそうな木々がある程度の間隔をあけて生えている。地面は黒い腐葉土らしき土で雑草が生い茂っている。もちろんこんな場所に来た覚えはない。わけがわからない。

 ふと違和感を覚え服装を確認してみる。

 着替えた覚えはないのに服装はネトゲをしていた時のジャージ姿ではなく、外出用のチェック柄の服と運動靴が現在の服装だ。明るさと太陽の傾きと気温から判断して午後4時ごろではないだろうか。植生が日本に近いものである以上気候はそこまで変わらないだろうし。

 とりあえずここから移動しようと思い、立ち上がって歩き出すが、ここでまた違和感を覚える。普段よりも歩くペースがかなり早く感じるのだ。もしやと思い垂直に軽くジャンプしてみる。

 そんなに強くジャンプした覚えもないのに俺は1mほども地面から飛び上がる。その上落ちるときにも言いようのない違和感を覚える。それに元々あまり丈夫ではなかったはずの俺の脚は、1mの高さから落下した俺の体を苦も無く受け止めた。

「何だ夢か……。」

 独り言を言い、頬をつねってみる。痛かった。そういえば「夢の中で頬をつねっても脳が勝手に痛みを作り出すため頬をつねっても夢で有るかどうかの判断には不十分である」などという話を聞いたことがある。これは多分それだなと思い、どうしようかと考えるが、どうせ夢なら楽しんでやろうじゃないかと考え直す。しかし楽しもうにもここはただの森だ。とりあえず森から抜けなければ話にならないので森から抜ける方法を考える。遭難した際には尾根に従って移動しろなどと言われるが残念ながらここは平地なのでその方法は使えない。

 切り株で方角を推測しようにもあたりに切り株などないし、それどころか人の手の入った跡すらない。水音も聞こえないし、どう進めばいいかなど思い浮かばない。

 切り株を探していて気付いたが、ここは日本に近い植生であるらしい。生えている植物はなんとなく見覚えのある植物ばかりだ。

 まあ自分が知らないものを夢で作り出すほど俺の脳は想像力にあふれてはいないのだろう。

 考えていても仕方がないのでとりあえずカンに従って1方向にまっすぐ進んでみることにする。

 本来は森では木をよけたりするうちに方向感覚が狂ってまっすぐ進めなくなってしまったりするので下策であるが、これは俺の夢だ。俺の夢がひたすら歩き続けても森が続くようなものであるはずがない。よって1方向に歩き続ければそのうち何かがみつかるだろう。たぶん。

 進むうちにおかしなものを発見した。いや、ものと言っていいのかはわからない。パッと見犬に近い生き物だ。

 しかしよく見てみると犬とはさまざまな違いがある。ここからは10mほど離れているのであまり細かくは見えないがそれでもはっきりと違う。耳は見たことがないほど鋭角にとがっているし、体毛は緑だし長い牙が上あごのほうに突き出ている。俺は別に犬に詳しいわけではないしここまでなら俺が知らない犬の品種だと思ったかもしれない。だが犬の品種とするにはあまりにも大きな差があった。

 脚が6本あるのだ。脚が6本とはいうが昆虫のようなものではなく、スレイプニルのように後ろ足が2股に分かれている。その割には別に歩行に不自然さなどは感じないし、あたかもこれが普通の状態であるかのようにゆっくりと歩いている。こんな生物はもちろん地球には存在しないだろうし、俺がやっていたMMOにも登場していない。

 とりあえず呼び方がないと不便なので緑犬とでも名付けておこうか。

 とりあえず決して安全そうな生物とは言えないので、気付かれないように静かにその場を去る。匂いなどで見つからないかと思ったが、幸いここは風下のようで気付かれずに緑犬が見えなくなるまで離れることができた。

 とりあえず周囲を確認し、危険そうなものがないことを確認してからさっきの生物について考えてみる。あれは明らかに日本のものではない。ゲーマーの俺の脳のことだから現実にいる生き物を適当につなぎ合わせてゲームっぽい生物を夢に作り出したのだろう。となればもしかして他の部分もゲーム的になっているのではないだろうか。

 しかしここにはキーボードもマウスもなければグラフィックユーザーインターフェースもない。どう操作すればいいのかわからないからとりあえず思いつく限りのこと口に出してみることにした。

「メニュー」「ステータス」「アイテムショッ・・・おっ!」

 目の前に半透明のウィンドウが表示され、思わず声を上げる。びっくりして上を向いてしまったがウィンドウはついてくるようだ。

「やっぱり夢にまでゲームを持ち込むようなゲーム脳か俺は・・・」

 独り言をいいながらステータスを確認する。


 名前:スズミヤ カエデ

 年齢/種族/性別 : 20/人族/男

 レベル:1

 HP:51/51

 MP:1012/1012

 STR:16

 INT:42

 AGI:22

 DEX:34

 スキル:情報操作解析、異世界言語完全習得、魔法の素質、武芸の素質、異界者、全属性親和


 これは高いのだろうか。見方がわからないがMPは随分と高い気がする。INTとDEXもやや高い。MPをながめつつどんなものなのか知りたいと思った時、ステータス画面に比べるとだいぶ小さいウィンドウが表示された。


 MP 1012.00/1012.00

 説明:魔力量。魔法や一部のスキルを使用する際に消費される。この世界の人族の平均魔力量を10として定められる相対的な数値。左が現在の魔力量、右が最大魔力量を示し、魔力が最大値を下回った時点から1分ごとに最大魔力量の0.1%を回復する。

 小数点以下を切り捨てて表示される。


 どうやら俺の魔力は多いようだ。HPも鑑定してみたがこちらは健康状態や丈夫さを数値化したものであり、自然回復量などは決まっていないらしい。ステータスをさらに鑑定しようと思い、再度ステータス画面に目を移すがそこになんだか見逃してはならないものが見えた気がして二度見する。――異界者、異世界言語完全習得。

 恐る恐るそれを鑑定してみる。


 異界者 ユニーク/ランク10

 説明:違う世界から来たことにより、ステータス、スキル習得率等に幅広く影響が出る。

 元いた世界の位の高さにより効果が変動する。

 この世界を5とし、位が高いほどランクが高くなり、この世界と比べランクが高いほど大きく能力を向上させる方向に働く。この世界より低いランクの世界から来た場合、能力は低下する。


 やたらと高く飛べたのはこのせいだろうか。いや、問題はそこではない。もちろんそれも気にはなるがもっと重要なことがある。異世界?確かに頬をつねったときの痛みやら地形やらが妙に現実的な気はしたがまさかこれは夢ではなく異世界なのか!?

 しかし少なくとも植生は日本のものだし・・・でもあの犬は明らかに日本のものではないし見たこともない。全く知らないものが夢に出てくるだろうか。俺は脳科学やら夢やらは専門外だから詳しいことはわからんがあまり知らないものは出てきそうにない気がする。

 考えていても埒があかない。

 もし夢であればそう長くない時間で覚めるだろう。1日さめなければここは異世界の可能性が高いと判断できる。

 夢であった場合は何の問題もないしとりあえずここが異世界であると仮定して行動することにしよう。

 根拠はないがなぜかここは異世界のような気がする。


 情報操作解析 ユニーク

 説明:視界に入っているものを鑑定することができる。対象に触れる必要はなく、魔力は消費しない。鑑定では分からない隠蔽等が施された情報も解析できる。

 また、本人の了解を得ることにより、鑑定された際に表示されるステータスを隠すことができる。


 さっきから情報が鑑定できるのはこのスキルのせいだろう。書き方からして鑑定の上位スキルなのだろうか。

 情報操作もできるようだ。ユニークとか書いてあるし珍しいスキルだった場合見られると面倒なことになりそうだからこれで自分のステータスを書き換えられるならありがたい。

 この書き方だと自分も書き換えられるのかはわからないが試せばいいのだ。

 さっき特に「鑑定」や「情報操作解析」などと唱えずとも鑑定できたことからおそらく詠唱などはいらないんじゃないかと推測し、「異界者」を隠蔽したいと念じる。

 念じた瞬間、「異界者」の表示が「異界者(隠蔽)」に変わる。どうやらステータスは再度唱えないでもリアルタイムで更新されるらしい。これで見えなくなったのだろうか。

「異界者(隠蔽)」を再度鑑定してみる。


 異界者(隠蔽) ユニーク/ランク10

 説明:違う世界から来たことにより、ステータス、スキル習得率等に幅広く影響が出る。

 元いた世界の位の高さにより効果が変動する。

 この世界を5とし、位が高いほどランクが高くなり、この世界と比べランクが高いほど大きく能力を向上させる方向に働く。この世界より低いランクの世界から来た場合、能力は低下する。

 鑑定では表示されない。


 どうやらこれで大丈夫なようだ。

 この世界に鑑定以外に人の能力を知る方法が普及していない保証などどこにもないが、まあないよりはましだろう。

 ~の素質などは特に珍しいスキルではない可能性もあるが、どれが珍しいかは判断できないのでとりあえずスキル全てに隠蔽を施しておく。

 ステータスも隠蔽できるようだが、隠蔽したところで隠蔽していること自体がばれてしまう。この値が普通なのかはわからないが隠す意味はあまりないだろう。

 MPの表示はさっきから減っていないことから、おそらく隠蔽も魔力を消費しないのだろう。


 他のスキルも鑑定しようと考えた時、さっきのものかはわからないがさっき俺が歩いてきた方向、10mほど先から緑犬がこちらを見ていることに気が付いた。

「グルルルル…」

 威嚇しているようだ。どうやら見逃してくれそうにはない。

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