第七話 数学と外周
波乱の学校生活が始まってから、三日が経った。
なぜかクロスの存在を両親が認め、家族として結構高い地位に定着している。
ちなみに今の家族構成はこうだ。
『母>父>クロス>僕=ゴキブリ』
この図を見た限りでは、両親は実の息子より居候のほうが好きらしいと推測できる。
しかも僕には家族はゴキブリも入っている。なんて寛大なんだろう。
そして、僕の価値はゴキブリとイコールで結ばれてしまうくらい、低いものなんだ。
自嘲が漏れ、哀しくなる。
気を取り直し、僕は時計をちらと見た。七時二十五分、いつもならもう出発している時間。
「クロスー起きなさい! 起きてください! 学校に遅刻しますよ、っていうかもう遅刻したようなもんです! ほらっ」
僕は寝ぼすけサンタの布団を引っぺがしてやった。ふわっと生暖かい風が部屋に広がる。
しかし、起きる気配は一切なし。
サンタの少女は布団を自分で掛け直し、勉強机の上で寝返りを打つ。
「むにゃ、あと五分……」
「ダメだよそんなにっ」
「と、三時間…………むにゃ」
「増やしてどーするボケっ! いいからさっさと起きろぉぉぉぉぉ」
――どか。
必殺、勉強机からその体を蹴って落下させてやるの術。
ようするに、ベットから蹴り落とす…………だけの術だ。いや、術と言わないだろう。
技だ、技。
しかし意外や意外!
この技はすごい能力を持っていて、一瞬でサンタを起こすことが出来るんだ!
「おはよう斗助! ボク起きちゃった」
「うん、起きていいんだよ? っていうか起きてほしかったんですよもっと早く!」
時計を見れば、もう七時半を過ぎていた。
「遅刻するうぅぅ、ほらクロスは昨日届いた制服を着て、それで鞄を持って学校へ行こう」
「了解だよっ!」
僕とクロスはひたすら走り、けれど遅刻した。
そしてなぜか、僕だけが廊下に立たされている。
「斗助。隠していた事実があるんだ……実はな、一時間目はお前だけ外周だって」
親友の口から告げられた、衝撃の事実。
いや、事実とかあんまり関係ないでしょ、っと突っ込みたかったが、突っ込みいれたところで外周が消えるわけでなし、聞いて聞かぬふりとした。
ところで。
一時間目って確か数学だった気が!?
唖然とする僕に親友が哀れみを含んだ声で、次の授業を教えてくれた。
「じゃ、そういうわけで。俺達は仲良く一次関数を勉強するよ」
「うえええっ!? やっぱ一時間目は数学? じゃあなんで僕は外周を!?」
「早く行ったほうがいいよ、わが友よ」
それだけ言うと、わが友池谷は教室へ入っていった。
遅刻したのはクロスのせいなのに、それなのにどうして僕だけ…………
クロスは、そうだクロスはどうなったんだ! 僕はそっと教室を覗いた。
「くそぉぉぉぉ人垣のせいでクロスが見えな……べぐごっ」
最後の奇声は、数学の先生に教科書の角で叩かれたときのもの。
「ベーカリー・ストアが折り返し地点だ。はよ行け」
意外と、痛かった。
どうやらクリスマスが明けて三日が経っても、理不尽dayは終らないそうです。
今にも雪が降り出しそうな空の下。
僕は悲しみをアスファルトに打ちつけながら走ります。
それは、寒さが積もる十二月のこと。
「うわぁぁぁぁぁん」
哀れな少年の声が、冷たい空間に響いて消えました。