第六話 真冬の教室と夏服
ちゅん、ちゅんと雀が鳴き、朝が訪れた。
相変わらずサンタの少女は勉強机で寝ている。どうやらそこが気に入ったらしい。
この厚手のビニールがたまらない、とクロスは言っていたが、僕には到底理解できない。
ちなみに僕は狭いベットの中、毛布で体をぴっちりと包み丸まっている。
結局昨日は僕だけが夕飯を食べた。
もちろんキッチンの掃除と食器の弁償(一ヶ月のお小遣いを百円まで値下げ)を条件として。
言うまでも無く、理不尽は重なり、両親にキッチンの食器についてこっぴどく叱責されたのは僕である。
ここはクリスマスが過ぎ去った日本、十二月二十六日の中井家である。
「いいっ!? クロス、僕が帰って来るまで絶対に部屋からでちゃだめだよ!」
「わかった。ボクがんばるよ」
サンタの少女がにこっと微笑む。けれど不安は消えない。
「本当だねっ? もう僕は学校にいってきますよ? 絶対だよ、絶対に絶対だからね! 」
僕は念には念と念とさらに念を押した。
「いってらっしゃい!」
ジャージ姿のサンタ少女は手を振った。
「うん、いってきます!」
ばたんと自室のドアを閉めて、恐る恐る階段を下りる。
お母さんは日勤のため、多分もう出かけたはず。じっと息を凝らして玄関まで行く。
視力をフル活用し、土間を凝視。Оk、お母さんの靴はもうない。
「いやっほおぉぉぉぉ」
僕は駆け出した。
自由を手に入れた、この喜び! きっとで凡人にはわからないであろうこの達成感!
今から僕は約九時間あのバカサンタと離れていられるんだ。
生きててよかった……じわ、と涙が浮かぶ。さ、寒いっ。
あぁァ冬なのに僕、夏服を着てきちゃったよ。
ってぇぇぇぇぇえ!
きちゃったよじゃねぇよ! 僕! うわ、またあの家に、部屋に、悪魔の住処に戻るのか!?
どうする、どうする、どうするの僕?
できれば続きはwebで――……現実逃避。
こうなったらみんなの冷たい視線と寒い風を覚悟で、夏服登校するしかない!
――――――二時間後
「いやっほーい!」
聞きなれた声と共に、教室のドアが勢いよく開け放たれた。
廊下で右手を挙げたまま立っているのは、ジャージサンタのクロス。
「クロスッ!? 絶対出てきちゃダメって言ったでしょ? 少しでいいから僕に自由をくれぇぇぇえ……」
絶望の悲鳴。
(春日さん)「わぁぁぁぁ! 可愛い!」(池谷)「クソッ斗助にこんな美少女は似合わない!」(黒澤さん)「きゃー」(一瀬)「な、名前は?」
……………みんなどうしたの? 授業は? ねぇ先生!
(先生)「まぁ、意外な侵入者ちゃんっ♪ 一緒にお勉強しましょう♪」
「バカクロスー! くるなっつっただろこの野郎!」
ぴたッ。
みんなの動きが一斉に止まり、僕には冷たい視線が向けられた。
そのいくつかは、夏服野郎めうざい口叩いてんじゃねーよ、と言っている。
たらり、汗が背中を伝う。真冬で夏服なのに、すごく暑い……
どうやらここだけ地球温暖化が進んでしまったようです。
なぜか暑い冬のこと。
今日からクロスがクラスの一員となりました。
同時、僕の居場所がなくなった日でもあります。
どうしてでしょう? 常識しか知らない僕には分かりません。
理不尽dayはまだまだ続くようで、風は一陣、悲しみを深めます。