第五話 久しぶりのクリスマスと文庫本
クロスがお昼寝をしている間なにもしない、というのはあまりにも悲しいので、僕は読書をすることにした。
本棚を探り、とある文庫本を取り出す。表紙にイラストが描かれた華やかな装丁。
パラパラとページを捲っていくと、これも僕のようにいきなり変な女の子が現れて……という話だった。
あまり感じたくない部類の親近感。
どうやらこの本の主人公も僕と同じ十四歳らしい。急に天使の居候が少年の家にやってくるという傑作学園コメディーだ。
ある日、引き出しからいきなり侵入してきた未来の天使は、とげとげ巨大バットを振り回す超クレイジーな少女。
ギャグ満載のハイテンション小説が、今日はとても愛しく感じる。
そして、クロスがある程度普通な少女で本当によかったと安堵感が押し寄せた。
…………しばらく静かな空間で読書をしていたのだが、それは本当にしばらくで終った。
落ちた沈黙を切り裂く、謎の寝言。
「んごぉお、寝ちゃだめだクレオパトラ、もうすぐペリーが黒い馬に乗って助けに来てくれるぞぉぉ」
「なんの夢見てんの、こいつッ!?」
ごろんと寝返りを打ったクロスは、また寝言を続ける。
「ぬぉ、クレオパトラっそっちの道は違う! いまに大名が計画したありの行列が、んごぉ通るからァ! 首がサムラーイ条約で結ばれちゃうぅぅ怖いよー」
「首がサムラーイ条約で結ばれるッ!? サムラーイ条約って何?」
歴史の夢を見ているらしいけど、ぶっ飛びすぎている!
注意・クレオパトラとペリーは生きた時代が思いっきり違います。
・ありの行列なんて計画する大名は存在しません。
・条約で首は結ばれません。
・サムラーイ条約は現実にはありません。
・よい子のみんなは正しい歴史を覚えましょう。
これ以上クロスの変な歴史を聞かされたら、僕の頭脳は幼稚園児レベルまで下がってしまいそうな気がした。
「起きてください、クロス! クリスマス特別番組が始まっちゃいますよ!」(注・嘘です)
勉強机の上で、すやすや眠るサンタの少女、別名・居候。
クリスマスという行事をいつからか飛ばしていた僕は、久しぶりにクリスマスを感じた。
あまり、感じたくない感じ方で。しかしそれも悪くない。
寒い、寒い、僕の部屋。
クリスマスツリーすら飾っていない中井家にも、ようやくクリスマスが訪れました。
明日から学校です。
このアホサンタをどうしたらいいか、僕にはもう分かりません。
隠していたっていつかバレます。
ただ流れに身を任せることが、今の僕に唯一出来ることなのかもしれません。
外は冬。
けれど雀は元気に外を旋回しています。