第二話 公園と一寸先は悲劇
僕の頭の中では、『捨て猫の術』がシミュレートされていた。
ダンボールの中で泣き叫ぶクロスが、はっきりとイメージできる。恐るべし、復讐思考。
そう、これは『クロスを公園に捨てよう』という作戦である。
やり方は極めて簡単。
まずクロスを公園に誘い、ダンボールに入るという謎の遊びをじっくりと紹介する。
そしてダンボールにクロスを閉じ込め、拾ってください、と書置きを残して撤退。
以上である。この簡潔さっ!
僕はなんて頭がいいのでしょうかぁぁぁぁぁ! ぜ、ぜひみなさんもお試しください!
なぜこんなことをするかと言うとー!
(大量の小さな僕達が涙を湛え)「するかと言うとー!」
このまま平凡な日々を、そして将来を侵入者に渡すわけにはいかないからだー!
(大量の小さな僕達が拳を振り上げ)「うおぉおぉおおおぉ!」
よし、みんな頑張ろうではないかー! 素晴らしい日常を僕に!
(大量の小さな僕達が拍手)「いえぇぇぇぇええい!」
もう後戻りは出来ない、平凡を取り戻さねばッ!
運命の作戦開始ッ――――
から十分後。
現在、僕はとても息苦しい茶色の世界にいます。
どこかって?
この特有の甘ったるい臭い、わずかなでこぼこ、そして完全に外と遮断された空間。
言うまでもなく、イン・ザ・ダンボール。
「こらぁークロス! ここからだしなさぁぁあい! 早く! じゃないと僕不愉快すぎて消えちゃいまスッ」
「えぇっ!? 消えるのっ? イリュージョンだね♪」
「そーいう意味じゃない! このバカサンタ! …………ばごぐぁっ、ぷふぅ」
激痛とともに視界が開け、新鮮な空気が肺を満たす。
数分前に見たものと同じ風景が、いつも以上に素晴らしく見えた。
「どうして君はダンボールの上に飛び乗るかなぁっ? し、死ぬかと思ったでしょ、僕っ!? ねぇ、飛び乗った理由を言いなさい?」
サンタの少女は、にへっと微笑むと
「もぅっ分かってるくせに。ボクは君がとっくにお空の住民になっちゃったと思って……」
お空の住民? ……あぁ! 死ぬってことか。じゃねぇぇぇぇぇぇ!
「く、首が君のせいであまり一般的ではない方向へ折れそうだったんだから!」
叫びは虚しく。
「十二時はご飯の時間ー♪ 三時はおやつの時間ー♪ 五時は夕飯の時間ー♪」
クロスは奇妙な歌を歌いながら、公園の門をダッシュで駆け抜け、(僕の)家に向かって超高速スキップをしていた。
残された僕は、ダンボール片手にそれを見詰めることしかできなかった。
立ちすくむ僕の周りを、哀しく冬の風が通っていきます。
落ち葉ももう無いこの季節。
町はまだ明かりのつかないイルミネーションで飾られ、どこか哀しげな雰囲気に包まれています。