第一話 落下物と僕の日常
翌朝、十二月二十五日。
今日は(あまり楽しくない)クリスマス。
すがすがしい朝、陽光はカーテンによって遮断され、冷たい空気が僕を夢の世界から引きずり出した。
「ふぁ……」
小さな欠伸。
布団を押し上げるように伸びをする。そして涙で潤んだ双眸を数回瞬かせて視界を確保。
そっと寝台を降りた。
と同時に、僕の脳に昨日の悪夢が甦る。
「おっはよう!」
白黒の上着に赤いスカートの少女。昨日とどこか印象が違うが、間違いなく見習いサンタのクロスだった。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ! やっぱり夢じゃなかった……クソッ」
絶叫、そして涙。
これから先、僕がクリスマスと聞いて思い出すのはこの悲劇なんだろう。そう思うと無性に悲しくなった。
誰か、お願いします。
僕の日常を返してくださいっ!
あぁ! 一人、部屋で暇をもてあましていたあの頃が懐かしい。
つい昨日のことなのに、それはどこか遠い記憶に感じられる。
それほど今回の出来事は衝撃的だった。
回想に浸る僕を現実へと押し戻したのは、クロスとか言う見習いサンタの服装だった。
上半身を新聞紙で隠して、下半身はサンタスカート。
どう見てもどこかの浮浪者にしか見えない。
……って、なにゆえ新聞紙!?
「あったかいよーこれ! あっそうだ、全部新聞紙に着替えようっとぉ」
元気に宣言したお馬鹿なサンタは、おもむろに僕の目の前でスカートを脱ぎ始め…………
「ダメー! ダメダメダメー! ほら、そのままのほうが可愛いから、ここで着替えるなぁぁぁぁぁぁー!」
とにかくここでそんな姿になられるのは断固阻止の構えだ。
だってそんなっ! ここで着替えるのはとにかく禁止。
「でもボク、これだと寒いの」
自分の体を抱きしめながら、サンタの少女はそう言った。
だったら最初から、脱げないような服を着てくればいいと思う。
まったくもってコイツはアホサンタだ。
僕は適当にクロゼットからジャージを取り出すと、震えているクロスへ投げつけた。
――べしぃっ!
嫌な音。
「え゛え゛! な、なんでっ? うごがっ……」
僕の視界は、跳ね返って飛んでくる真っ白なジャージによって純白の世界へと変わった。
クロスは条件反射で僕の投げたジャージを本気で打ち返してくれたらしい。
すっごく理不尽なんですが。
「ななな、何するの君はっ! せっかく貸してあげたんだから着ればいいでしょっ!? それをどーして打ち返すかな、君はっ」(倒置法)
しかし見習いサンタは
「ボク、てっきり君が爆弾を投げたと思って……つい」
「爆弾なんてそんな危ないもの持ってません! っていうか打ち返したらその衝撃で爆発しちゃうでしょーが!」
「あ、そうか! なら着ようっと」
「………………」
どうやら僕は疑われていたようです、それもあろうことか『侵入者』にっ!
今日は本当に理不尽なことが続いた。
なので!
僕は今日からクリスマスのことを『理不尽day』と呼ぶことにした。
誰の誕生日だか知らないけど、もう二度とクリスマスは祝わない。これから十二月二十五日は、過去の不幸な自分に黙祷を捧げる日にしよう。
あぁ、こんな嫌なことばかり起こるクリスマスなんてあっていいと思うか? いいや、思わない! (反語表現)
喉を絶望がチクチクと刺激、心臓に後悔が押し寄せる。
「くぅっ! この歳になって生きていることを悔やむ羽目になるとは!」
「何言ってるの! 生きているから人生楽しいんだよっ」
あっけらかんと言ったものだ、と僕は思う。
「黙れ、僕の後悔の元凶……」
しかしクロスは全く気にしていない模様。僕は堪忍袋の緒の耐久性が限界を訴えるのを感じた。
外を見ればまだ、雪は降らないで雲に溜まっているだけで。
どこか薄ら寒い今日。
両親が帰って来る前にこれを片付けようと思います。