第十二話 変わってしまった少女と春
新学期、今日から僕たちは三年生。
僕たち……た・ち……そう、サンタの少女も進学した。
鞄を振り回しながら笑顔で僕の数メートル先を歩いているクロス。
「おいおい、はしゃぎすぎて転ぶなよー」
少し不安なので一応注意をしておく。じゃなきゃ後で『注意してくれなかったからボクは転んじゃったんだからー責任取ってよね!』と言われそうだったから。
「もうっ、わかってますよぅーっだ!」
くるりと振り向くと、べぇっと舌を出してクロスはけらけら笑った。
次の瞬間。
――ゴインッ
クロスは後頭部から電柱にぶつかった。
僕のせいでは、ない? 多分僕のせいじゃない! いや絶対僕に罪は無い! そりゃあ振り向かせるようなことをしたにはしたけど……
それでも僕の、せいじゃない。(元ネタ それでも僕はやってない)悪いのは余所見をしていたクロスのほうだ。
「斗助のば…………きゅえ」
サンタの少女は何か言いかけて、そのまま倒れこんだ。数秒間が経過しても、動く様子は無い。
あぁ、コイツはまったくもってアホサンタだ。
僕はクロスに駆け寄った。そして、頬をぺしぺし(正しくは、ばしばし)と叩く。
「起きてください、アホサンタ! 新学期から外周なんて嫌ですからねッ!? 起きろー!」
パチリ、僕の願いが通じたのか、サンタの少女は目を開けた。
「………………おはようございます、どうやら私、少し眠ってしまったみたいですね」
「はい?」
クロスが目を開けた瞬間に押し寄せたのは、違和感。
言葉遣いや一人称がなんか綺麗になってる? いや、声のトーンが低くなってるし、しおらしさが溢れてる。
これはこれで可愛い。
なんて悠長なこと言っている場合ではない――
「く、ろす? どうしたのさ急に? 変だよ、なんかおかしい! いつも変だけど、今日はそれ以上だよ?」
「そんなことありませんよ? 私は私です、さぁ早くしないと遅刻しますよ? 外周、したいんですか?」
にっこり、悪魔の微笑み。
「……………………」
思わず戦慄する。
どうやら人が変わってしまったようで、残ったのはあどけない笑顔と真っ白な子供らしい犬歯だけ。
ひゅう、と風が僕の頬を撫でる。
それがあまりに冷たくて、ついさっきのサンタの少女が懐かしくなった。
見れば遠く向こう、校門前にサンタの少女が立っている。つまり、僕は置いていかれた。
いつものクロスにはありえない行動に、僕は少なからず動揺した。
「クロス、だよね? 待ってよ、一緒に行こう!」
聞く様子もなく、クロスは先に行ってしまった。
あぁあの馬鹿! どうしたんだろう? 僕の脳にあるのは、疑問だけ。最悪の新学期だ。
しかしここでぼけーっと突っ立ているわけにはいかず、僕は重い体を引きずって後者へと、向かった。
鞄が、いつもよりずっしりと、重い。
教室が、いつもより暗くて、哀しい。
春の始まりから、まだそんなに時間も経っていないというのに、春が終ってしまったようなこの気持ち。
形容できない孤独感が、僕を襲います。
桜が散り、アスファルトを桃色に染めていきました。長い、長い、春の始まり。
余寒の余寒が身に沁みます。