第十話 閏年と冬の終わり
冬も終わりの今日この頃。
お正月、豆まき、とハプニング臭漂う行事をどうにか突破した僕達は、春へ向かって一歩前進。
ちなみに初日の出では、興奮しすぎて人ごみを全力疾走するクロスを追いかけて転び、僕のお年玉はクロスに居候してやってる代として不正使用された。
もちろん、全額。
月のお小遣いが百円しかない僕にとって、それはかなりの致命傷だった。
そして豆まきでは、行事自体を根本的に勘違いしている馬鹿サンタに豆を大量に食わされた。そのうえ鬼役までやらさせられて、体中傷だらけになった。
本当に疲れた二ヶ月だったと思う。
そして今日は二月二十九日。
四年に一度だけ体験できる幻の日、今回はサンタの少女と一緒。
「クロスー、テレビつけて」
夕方、六時五十七分の中井家。
食事が終って間もないため、まだ夕飯の残り臭が漂っている。
そんな居間の真ん中で、どかりと置かれた卓袱台を囲み、デザートのプリンを食べながら、クロスと僕はテレビを見ることにした。
「うんッ今日は〜閏年特別番組 本当は誰かが作った怖ーいお話〜がやってるもんね!」
「何その番組? 全ッ然怖く無さそうなんですけど」
「十分怖いよッ!? だってどこの人が作ったか分かんないし? ほら、恐怖」
どこが? と突っ込みたかったが、そんな気力は残っていなかった。
僕はテレビに視線を固定して、聴覚をサンタの声に反応しないように調整。
カチ、と時計の針が動き、テレビの画面がCMから番組へと切り替わった。
そして、チャラリラーチャラチャッラーと、テレビから奇妙な音楽が流れてきた。
『憂い年特別番組 誰かが作った怖ーい話』
「憂い年ッ!?」
「斗助、しっ、だよしー」
サンタの少女は、唇に人差し指を当てて、首をふるふると横に揺らした。
どうやら黙っていてほしいらしい。
突っ込みどころ満載な番組名を見て、けれど見て見ぬふりをするというのは意外と大変だ。
『……は、このあとすぐ…………(三秒間黒い画面)どうも、さーて始まりました! 本当は誰かが作った怖い話、一旦CMでーす♪』
あの沈黙は何? 意味無いだろあれ、っていうかCMになるの早っ! しかもCM長い……
口に出したい言葉を、喉まで持ってきて、また下げる。
約五分ほどCMが流れて、ようやく番組が始まった。CM長いだろ、さすがに。
今の時間で一気に視聴率を落としたと思うよ?
『第一話 落下物と僕の日常』
どこかで聞いたことがあるぞ、この題名!そう、これはあれだ、この物語の第一話だ。
見事なまでに完全一致している。違う意味で恐怖だな、こりゃ。
…………本当は誰かが作った怖ーい話。
僕はふと題名を思い出してしまった。
どうやらこの話はコメディーから一転、ホラーになるようです。
ん? 本当は誰かが作った……ってことは僕の日常は誰かが作ったものっ!?
それは違う意味で真の恐怖だよっ!
僕は慌ててテレビの息の根を止めた。大袈裟に言ってみたが、単に電源を切っただけだ。
「うわっ斗助なにするのっ? っていうか耳からきらきらの変な液体が流れ出てるけど平気ッ!?」
ラメ入りのどろりとした液体が、僕の耳から流れ出る。過度の恐怖により、体が異常をきたした模様。
まもなくご臨じゅっ
「斗助、そんなわけの分からないラメラメ汁をボクに塗らないでっ! えいッ」
ぐぼがぇっ!
僕を現実世界へと引き戻したのは、居候サンタの鋭いローキックだった。激痛は体中にい行き渡り、やがて消えた。
「ありがとうクロス! このままじゃ僕、きっとで死んでたよ!」
涙を堪えて感謝の気持ちを伝える。しかしサンタの少女は。
「えっそんな! だったら助けなければよかった」
どういう意味ですか、それ?
まあ、なにはともあれ元に戻ったのでここは怒りを抑えます。
このあとは結局なにもしないで寝てしまいましたが、それなりの思い出として残りました。
こうして四年に一度の二月二十九日は終わり、明日から三月が始まります。
しかしまだ日は短く、外には月が。
その遠く向こうに、サンタの国があるそうです。
=冬の部 完=