第九話 銀世界とちくわ
珍しく早起きした僕とクロス。
日曜日から雪が降り、ようやく本格的な冬へと突入した。
「うわぁ……クロス、ベランダを見てごらん? 雪が積もってるよ!」
「えっ? 見る見る!」
小さなベランダに広がっている冬の風物詩、『一面の銀世界』はとても神秘的。
それがあまりに美味しそうで、ぐるるぅとサンタの少女のお腹がなった。
「きれいだねぇ! こんなきれいな雪を見るとついつい、ちくわのチョコレート煮が食べたくなっちゃわない?」
「なっちゃわない」
普通に生活していたら絶対に食べないような珍料理キター! しかも雪関係ないじゃん。
空はもう晴れていて、白い太陽が浮かんでいる。地面は厚く雪に覆われていた。
こんなに積もっていると学校へ行くまでが大変そうだな……
「じゃあクロス、早く着替えて外へ出よっか」
僕は制服に着替えながらクロスに呼びかける。
「そーだね! 制服の下にモビルスーツも着なくちゃいけないもんね♪」
なぜそうなる。
このアホサンタの思考はいつもどこかぶっ飛んでいて、突っ込む気さえ奪っていくのだ。
しかし、一応突っ込んでおく。
「着ねーよそんなもん!! 寒い時用の学校指定セーターがあるでしょっバカ!」
「もうっ斗助ったら、ボクに何を着せる気なのっ!」
「学校指定のセーターだよ? クロスの大好きな羊の毛を使ってるんだよ?」(注意・嘘です。百パーセントポリエチレンです)
「それを早く言ってよ! ボクにはこだわりってものがあるんだからぁっ」
「し、知らないよそんなの!」
僕の叫び声が、また今日も響く。
このサンタがやってきてから僕は毎日叫んでいる。それはそれで悪くないけど。
ど寒い中、暖房器具もなしに着替えた僕らは、用意されている朝食を食べると、二人で並んで歯を磨き、二人で一緒に玄関を出た。
なんだか、二人で一緒に、というだけで幸せだ。
学校へ向かう途中も、クロスのぶっ飛び思考は続いた。
「ねー斗助! あのホテルではお葬式もやるの? あのおばさん黒い着物着てる……」
クロスが指差すのは、超巨大有名ホテル。ではなく、その入り口に立つおばさん。
「し、失礼なこと言わないのっ! あれは結婚式の服装だよアホ!」
「そーなんだ、ふーん。ねーアレは何?」
そう言ってクロスが指差す先には…………何も無い。
クロスは虚空を指差しながら、アレは何? を連呼。
「きっとでそれは君にしか見えない幽霊じゃないの!? いいからもう行くよ?」
「わかったー! 今日はもう外周したくないんだねー斗助は」
「今日は、じゃなくて今日もなの! いつも嫌だよ外周なんて」
「これだから最近の若者は」
「お前何歳だよ! っていうかその古臭い台詞は何?」
どうやら今日も、遅刻をしそうです。
雪の中を走るのも悪くないし、このままゆっくりと雑談を続けていきます。
偶然にも一時間目は数学。
奇しくもクロスと初めて遅刻をした時と同じです。