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ep.7 『長老のスピーチ』 

 西の空に浮かぶうろこ雲が赤黒く映え、山々の影が足元まで伸びてきた。

ミマール湖の世界樹(マザーツリー)は、若い娘達によって綺麗に装飾が施され、湖の周りには、色とりどりの花が敷き詰められている。


 小鳥たちは、これから始まる悠久の宴を、待ち焦がれているかのように、美声を奏でていた。


 湖を囲う様に並べられた、檜造りの長方形の食卓には、アスガルド大陸の様々な食材が並び、樫の木を堀削って作られた酒杯に麗しの果実酒(ビューティフルワイン)をなみなみ注いで、すでに杯を合わせている、老エルフ達の姿も見受けられた。

 ロハン皇国はもちろん、近隣の小国の王や貴族の賓客も迎えられ、装飾品や贈り物によって宴会場は一段と華やかさを増していた。


ひときわ体格の良い金髪の老エルフが小さな木製の壇上に立つと、その場にいたすべてのエルフが彼の方に目を向けた。


「よいか皆の者! 準備をしている者はそのまま続けろ、ここに集まっている者だけでよい、聞いてくれ」

壇上に立つ、マーテル長老は白と緑の司祭服(カズラ)を纏い、頭には王冠(ミトラ)を載せ正装し、皆を見下ろしていた。そして、左手に持っているワイングラスを高々と上げ、

「これより、全満月(オール)の無事終了を祝って、満夜月祭(ハレルヤ)を開催致す」


 マーテル長老の一言により、ちびちびと隠れながら乾杯していた者たちは、一斉に笑い声と歓喜の雄叫びを上げた。数発の花火が打ち上げられ、赤や緑の鮮やかな火花を、夕映えに咲かせた。

一番に卓に座った小太りの男は大笑いしながら隣の皿から食材をむしり取り、若いエルフ達は走り回って皿の補充に努める。ナイフとフォークの音をかき消すかのように、賑やかな鼓笛隊がテーブルを囲み、踊り廻る。

酒樽の前では大男達が早速、飲み比べを始めていた。


 マーテル長老は左手の杯を一呑みで空けると、後に放り投げ目を瞑り悠然と話を始めた。

「そのまま、ゆっくり聞いてくれ――」

長老が皆に云うと、寝転んだり、酒を煽ったり、女のケツを追いかけたり、大きな肉をほお張りながら、壇上の長老に耳を傾けた。


「―――まずは、今から二万年前の今日、全満月の次の夜、祭壇封印の功績を称えて、初代守護代家・紫髪のヴォルテックス家が嫡男・マーサクより始まりしこの宴は、祖代の苦難と勇気のお陰で、わしらは今、これを楽しむことが出来ておる。故に、すべての守護代に感謝を示すべく、口頭で礼を申したい。皆もワシの後に、名を復唱するように。よいか、第一回全満月封印者、マーサク・ヴォルテックス、第二回から第三百四十五回まで守護代を勤めた、緑髪のマカベウス家、嫡男・ゼネラリより始まり、ゼネラド、ミネラド、ザッパ、ザッパル、ザピラリ、ザピラド、ゼピラリ、ゼイラド、ゼイウン、ゼヒラリ、ファイト、イッパツ、オーロナ、ミンシー、ゼナラリ、シメザラ、リリンダ、ヒヤヤッコ、アツカン、キュット、イキマセウ、ゼナリル、リルゼナ、ゼナゴール、バナゴール、バナメシ、ゼングン、トツゲキ、サバカン、サバメシ、サラメシ、モリメシ、ハンメシ、マカナイ、ユウゲ、コボシタ、ハンチョウ、オオハズレ、ハンゼン、ガルゼン、アイゼン、ザイゼン、ゼナリン、ゼナラド、セナラド、パラド、パラセナまでマカベウス家の長男が守護代を勤め、パラセナの代に男子が途絶え、パラセナの子がモモミルク家へ嫁いだ後に、ワシらの中で額にマントラを唯一持つ、第三代守護代家・銀髪のイージョク家に守護権が移ったのは皆も承知であろう。その現在、守護代・イージョク家の嫡男・オレガーノから始まり、フェンネール、オーバ、サクラーバ、ケッパール、クーミン、チンゲン、キュカーンバ、タラゴルン、キャーベジ、ミツーバ、ミズーナ、ペッパー、ナッパー、アンゼリク、セローリ、シュンギック、ハクーサイ、ネーギ、ブロコリ、コマツーナ、レータス、パクチン、チャイーブ、ローリエール、ミーント、ホレンソーン、パーセリ、バージル、第七十九代守護者ケールまで、すべての守護代に感謝を陳べたい。それと、ヴォルテックス家の代より仕えし、代々の家老を勤める金髪のフディワラリヤ家ミッチィールの子、ミッツィール。並びにパンクース家、シャンクスの子、ジャンクス。両家の、森の治安を守り守護代を支え続ける姿勢には誠に感服致す。同じく、ヴォルテックス家の代より仕えし、力の象徴、白髪のバラサンダン家クニキヤの子、マリッチ。森の魔力の象徴、白銀髪のミリタリア家マーリンの子チャボ、そして、その孫、ヒュオラッテ。パラセナ・マカベウスより分家した叡智の象徴、マカベウス家の血を引く紺青髪のモモミルク家、メロンの子、ユーダ。弓技の象徴、斑白髪のテール家ウィリアームの子、キュタール。以上、ジャンクスを除く七名の勇気と知恵のお陰で、今回も無事に何事も無くこうして祭りを迎えることが出来た。改めて感謝致す。ま~、ジャンクスはルピンの出産じゃったからの~、仕方あるまいて。それと、南の裂け谷に移り住んだローリエールの子孫、エル○ンドより今宵の宴の為に贈り物が届いておる。灰色のガン○ルフが届けてくれたそうじゃ。たぶん花火じゃろうて。尚、ロハン皇国の王、ナオッペン二百五十世からも大量の食料と酒が届いておる。皆も感謝するように。無論、この場にいるすべての家族、湖の準備をしてくれた、友情のチョッパー家、疾風のスウィフト家、ラタマニの子孫の静寂のホワイタン家、月影のムーンシャドウ家、水の守護ラビエント家、以上、五家族其々に礼を申す。ロハンに向けて買出しに行った、双頭大陸亀(ベルスクリット)牧場のスクリット家、ストライダー家、ベル家、三家族とも、重い荷物を遠くから運び入れ感謝致す。最後に、遠い所まで足をお運びになられた来賓の皆様、先よりロハン皇国王の弟君であられるシオッペン親皇、シオッペン様のシャラープ妃、御令嬢、シオラ様、ロハン属国ガルド公国 ジョーイ・プシャード三世王子、ここに居られるすべての王族、貴族の皆様。はるばるロードウッドの森へ、ようこそお越し頂きました。ささやかではございますが、心ゆくまで宴をお楽しみ下さい。最後に親愛なるラセルパ教会の司祭より酒樽、食料、布製品、鉄、鋼、ラピスラズーリ石等、様々な贈り物を頂いておる。皆を代表して心から感謝申し上げます。更に、祭り前日に二人も新しい命が生まれるという幸いな出来事が起きたばかり。ジャンクスの女の子、ケールの男の子。あ、そうじゃ、皆はまだ知らんかったの。ケールの子ではなく、ケールが神殿で見つけて来た男の子じゃ。おい、ケールはどこじゃ?まぁ詳しい事は後で個人的に教えるから直接ワシの所に来い。そうしてじゃ、乾杯の音頭の後に、この場を借りて、このふたりの子に名を授けようと思うのじゃが…(中略)お~い、酒をもう少し持って来てくれぬか。(中略)あー皆様申し訳ない。えー、それでは、これから一週間昼夜問わず無礼講と云う事で…(中略)えーコホン。簡単な挨拶で申し訳在りませんが、改めて乾杯の音頭をもう一度……おいっ酒はまだか? ―――ん?」


長老が目を開けると、その場に居た全員、眠っていた。



勢いだけで…すまそ。

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