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ep.16 『ルーハント家』

 ナオッペン=ルーハント。


 人族の歴史上、今まで誰も成し得る事が出来無かったアスガルド大陸の統一を、一代で成し遂げた覇者。

ロハン暦、二万八十五年の歴史を誇る、ロハン皇国の創始者である。

 出自はラセルパ公国(後のラセルパ神院国)で、父はラセルパ教会に仕える神職だった。

彼自身も、幼い頃から進んで勉強し、宗教、語学、天文学、魔法識学を独学で学んだ秀才だった。

 父の勧めで教会に仕えるようになると、当時、アスガルド大陸を治めていたダイニポン帝国の圧制により、多くの民が苦しむのを若くして目の当たりにする。

教会は民を説得し抵抗軍を募り専守防衛の為の武装化を計った。

 しかし、ダイニポン帝国はそれを『反旗を翻した民を討つべし』と高らかに宣言すると、全軍を率いてラセルパ公国を無情にも一夜で攻め滅ぼした。

 

その時の戦闘でナオッペンは両親を失う。


 国と家族を失ったラセルパ公国の民は蜂起し、離散した民を集めシャイロック山脈の麓に広がる大平野に砦を建て、ナオッペンは軍を立ち上げた。

そして、のちに三カ国による聖戦に参戦する事となる。


 二万八十五年前、第三次人魔大戦が起こる八十年前、当時アスガルド大陸の覇権を争っていた、フォラス共和国とダイニポン帝国との三巴を制したルーハント家がアスガルド大陸を平定し、フォラス軍を対岸の大陸まで追いやり、東に逃げたダイニポン帝国を消滅させた。

 ナオッペンの父と共にラセルパの教会に仕えていた、コーヤンジ家のルドルフが、崩れ落ちた教会を、元よりも大きな大聖堂へと建て直した。

大聖堂を中心に離散していた民が少しづつ戻って来ると、ルドルフはラセルパ神院国を建国して、法王となった。

 ナオッペンはシャイロックの麓の砦に留まり、東の勢力を見据えながら、その地に留まった民と共に砦を城へと建て替え、城の周りを街が覆い、そしてその街全体を高さ五十メートルを越す城壁で囲んだ。

 その城壁は旧市街地と城壁の外へと作られていった新市街地の境目として今も尚その役目を十分に果たしている。人々はそれを『ウォール』と呼んだ。

そこから街が大都市へと移り変わり、今現在に至る。


 ここ、ロハンとはルーハントの土地と云う意味だ――


「――って書いてあるよ。ニートン意味判った?」

 剣を大きく前に突き出して叫んでいる、大きな銅像の足元に書かれた、人族文字をユーダが読んでくれた。

ロハン国城下街に入り、中央広場の噴水前で人の多さに頭をくらくらさせながらオレは立っていた。

「え? なに? 全然わかんなかった……」

「だよね……」

なんとなく人族の長い歴史があるんだなと……それ以上は興味も無かったのが本音だ。

「遅いね、ケール帰ってくるの」

「うん、とうさん、もしかしたら迷子になってるんじゃないかな?」


 入り口でキートゥーンを厩舎に預けると、一人で用事があるから、街の中央広場で待ち合わせと云われ、ユーダと二人で待っていたが、もうすでに真上にあった太陽は西日が眩しい位置まで沈んで来ていた。


「まさか~、ケールは何度もロハンに来ているはずだから、そんな事は無いと思う――ほら、来た来た!」

振り返るとケールが右手に弓と左手に何か袋に入れられた物を持って帰ってきた。


「ごめん、ごめん。待たせちゃったな。少し話が長引いちゃって」

ケールは申し訳無さそうに頭を掻いていた。

「ううん、色んな人たちを見て楽しんでいたから大丈夫だよ」

相変わらず小動物な目をウルウルさせて……また何か企んでいるのか……。

「ユーダさんがお話いっぱいしてくれたから全然へーきだったよ!」

「そうか、そうか、よかった。じゃあ、早速ナオッペン様に会いに行こうか」

「うん」

「はい」

オレはユーダに手を引かれてケールの後を追った。


***


 壁に飾られている代々の王の絵と比べてみると、格段と大きな骨格を持ち、筋肉は隆々で、堂々たる口髭を蓄え、黄金の装飾で全身を飾られている王。


ナオッペン=ルーハント 二五○世。


 ――銅像の端正な顔立ちの初代とはうって変わって、肉食野獣系のワイルドダンディなおっさんだな……。

 目の前に、身長二メートル近い、閻魔大王様みたいな顔をしたナオッペン王が玉座に座り、膝に抱いた黒猫を撫でながらケールを見下ろしていた。

天井から吊るされた、無数の宝石を散りばめられたシャンデリアのろうそくの灯りが淡く王の間を照らし出していた。


「おもてをあげい」

王様は流暢なエルフ語を低い声で、ゆっくり云った。

「ケール、久しぶりだな。 よく来た」

「ナオッペン様もお変わりなく、ご無沙汰しております」

ケールは肩膝をついたまま最敬礼の形で王様に謁見している。

オレとユーダは少し離れた場所に従者と一緒に立たされていた。


大理石の柱が何本も通路の両脇に並び、その間には赤と黄の絨毯が玉座まで真っ直ぐ伸び、五段程上った場所に大きな鉄の玉座だけが置かれている。

鉄の玉座。

二万年も変わらずそこにある玉座は、王よりもはるかに威厳を放っていた。


「おいっ! シオッペンをここに連れて参れ!」

王がそう云うと、壁に整列していた従者が外へ数人走って行った。


「――それで、いつまで滞在する予定だ?」

王はケールに玉座に鎮座したまま訊いた。

「シオラ様の誕生日会が終われば次の日にここを発ちます」

「おお、そうか! なんだ、シオラの誕生日会の為に来てくれたのか?」

王は猫を放し手を叩いて喜んだ。

「はい、もちろんです! 女の子の七歳の誕生日は大切ですから。それと、ナオッペン様はまだお会いした事が無いと思いますので、森の新しい精鋭と神殿で見つけた例の男の子を連れて参りました」


――ん? 神殿で……なに?……どういうことだ?


「ユーダ、ニートンおいで」

ケールに呼ばれて、ユーダと共に赤い絨毯の上を歩く。

真ん中まで進むと両壁に大きな鏡が一面に張られているのが見えた。

そこに映し出されていたオレの姿は、髪の毛こそ銀色だが、耳の位置、形、眉毛、口すべてが人族……いや、生前のユキちゃんのリコーダーをテヘペロした時と同じ顔が、その鏡にくっきりと映し出されていた。


「ええっ……な、なに……こっ、これぇ……」

「うん? どうした? あはは、なんだ、鏡が怖いのか? 初めて見るから仕方ないか。 ナオッペン様申し訳在りません。ニートンは昨日初めて森を出たばかりで。外の世界が少し珍しいようです」

「構わん、構わん。どれ、大きくなっとるようだな」

そう云うと王様はこっちへ来いと手を振った。


――なんと! 今まで、ずっとエルフの子だと思ってたよ。どういうことだ? オレは拾われたのか……?


「ふむ、まことに黒い瞳だな。出自は判ったのか?」

王様に抱かれながらまたツバの洗礼を受ける。

「いえ、長老はアキバハーラの民が関係しているのでは、と申しておりました」

「ふ~む。アキバハーラか……。おお、そうじゃ、鍛冶屋に弥彦というアキバハーラ出身の男がいるはずだ。おいっ! 弥彦をここへ連れて来い」

王がそう云うとまた数人が部屋から駆け出していった。


「黒い瞳はダイニポン人の証。いまやアキバハーラ以外にその子孫は残されておらんはずなのだが」

「しかし、アキバハーラ族がリットエンドの神殿に赤子を捨てる理由が……はっ! ナオッペン様! シオラ様の誕生日会はどこで開かれるのですか?」咄嗟にケールがオレの方を見て話題を変えた。

王様もオレに一瞥をくれると、床に下ろし、頭をくしゃくしゃに撫でながら「ワシの宮殿じゃ」と云ってオレの背中を押した。

「おおっとっとと……」殺すきか! まだ五歳の足の長さなんだぞ!と思ったらやっぱり転げた。

「わーはっはっは、滞在中はゆっくりして行け、それでは下がってよいぞ」

「あ、ナオッペン様。まだユーダの紹介が……」

王は聞く耳持たず従者を連れて奥の間に消えた。

ユーダは少し寂しそうだった。


すると、入り口の大きな扉が開き、さっきの王様のミニチュア版とかわいい女の子が現れた。


「シオッペン様! お久しぶりです」ケールが駆け寄って行った。

「なんと! ケール殿! いつロハンへ? 来られるなら、一つ鳩でも飛ばしておいて頂けたら城門までお迎えに上りましたのに」


名前からしてさっきの王様の弟ぽいな。表情はこっちの方が柔らかい。次男はストレスフリーですか、どこの世界も……って、そんな事言ってる場合じゃない。話の流れによるとケールが神殿でオレを拾って育ててくれてたって事になるな。最初に背負われていた日か……。う~ん、転生の趣旨が見えねぇ……。


「いえいえ、久々に城内を少し廻って見たかった物ですから、挨拶が遅くなって申し訳在りません」

「あはは、硬い事は抜きにして、ゆっくりして下され、今晩は長い夜になりますぞ」

シオッペンと呼ばれる男はかわいい女の子を指差してケールと話込んでいた。


オレは一体……ケールの話が本当なら……。


考え込んでいると少女がいきなり

「おい、キモヲタ」

と云いながらオレの肩を後ろから叩いてきた。

 オレはびっくりして勢い良く振り向いた。

そこにはシオラ姫と呼ばれる女の子の細く長い尖った指がオレの頬を突き刺した。


「いっでええええ」

「キャハハハ」

悪魔の様な笑い声と天使の様な笑顔でシオッペンの後ろに隠れていくシオラ。

「こら、シオラ! お客様に何てことをするんだ! 今日は七歳の誕生日だぞ! 少しはおとなしくしたらどうだ。まったく……」

シオッペンは右手で額を押さえていた。

「あはは、元気があっていいじゃないですか、子供同士仲良くやってくれたらそれでいいですよ」

「キャハハハ、ヤダ」

かわいいのに……将来小悪魔確定だな。


「それでは、寝室に案内致しますので」

従者がそう云うとケールの荷物とユーダの荷物を持って歩き始めた。

「それでは、ケール殿、夜までゆっくりなさって下さい」

「ありがとうございます。少し横にならせて頂きます」

ケールは頭を下げるとユーダとオレを連れて従者の後をついていった。



呼び出された鍛冶屋が玉座の間に到着すると、そこには誰一人残って居なかった。


「隻眼の弥彦、只今参上仕りました――っておい! だれもいねーのかよー!」



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