おてんきおじいさん
どこかにあるかもしれないはなし。
あるところに二つの国がありました。
毎日雨がふっている、あめの国。
あめの国はあめがふりすぎて困っていました。
。
あめの国にすむひなたくんは、あめが好きでした。
あめの中をお気に入りの水玉模様の傘をさして歩くのが大好きなのです。
でもひなたくんは生まれてから一度もお日様を見たことがありませんでした。
窓の外では今日も雨が降っています。
「どうしてはれにならないんだろう…」
それぞれの国の空を見上げ、二人は思いました。
降り注ぐ水のながれぼし。
二人が空を見つめていたそのときでした。
空からシャボン玉に包まれた妖精が現れたのです。
赤い服をまとった妖精は、大きな赤いイヤリングをしていました。
「ぼくをよんだのはあなたですね」
「え?僕が君を?」
「ええ。僕は光の妖精。あなたをお天気の国にご招待します!」
すると妖精は、両手を大きく広げました。
黒いくもの隙間から光がさしこみ、ひなたくんを包み込みました。
「わ~!」
気がつくとひなたくんは、立派なお城のなかにいました。
そこにはかわいい女の子がいました。
「こんにちは。君も妖精?」
「こんにちは。いいえ、私は妖精じゃないわ」
「ここがどこだかわかる?」
「お天気の国のお城だって」
二人は自己紹介をしました。
名前はしずくちゃんというそうです。
雫ちゃんはあめの国のおとなりにある、はれの国の女の子でした。
はれの国は毎日太陽が照っていて、あめが降らなくて困っているそうです。
しずくちゃんはうまれてから一度も雨をみたことがありません。
お母さんとお父さんがつけてくれた「しずく」を見たことがないのです。
「どうしてあめがふらないんだろう…」
と空を見上げたしずくちゃんは、水の妖精に連れてこられたそうです。
ひなたくんはしずくちゃんが花柄の傘をもっていることに気がつきました。
「どうして傘をもってるの?あめ降らないんでしょう?」
「傘ははれたときにさすものでしょ?」
「傘はあめがふるからさすんだよ?」
二人はきょとりと顔を見合わせ、揃って首をかしげ、そして笑いあいました。
「私ね、この日傘が大好きなの。だからお散歩するの大好き。お日様の光がカーテンみたいなのよ。
」
「いいね。僕もね、この水玉の傘が大好きなんだ。水がはねて音楽みたいで楽しいんだ」
「すてきっ。私の国にあめがふったら、私もやってみるわっ」
「僕も、太陽さんが出てきたら光のカーテンを見てみたいっ」
二人はすっかり仲良くなっていました。
そこに派手な服を着たおじいさんがやってきました。
「おや、なんの話をしているのかね」
「夢のおはなしっ」
「いつか太陽の下で傘をさして歩くんだっ」
「私は雨の日に素敵な傘をさして踊るのっ」
「ふぉっふぉっふぉ。それは素敵なことじゃな」
でも…と二人はうつむいてしまいました。
おじいさんがたずねるので、二人は自分達の国のことを話しました。
「どうしたらいいかなあ」
「そうじゃのう…むずかしいもんだいじゃ」
「そうだよね。だからみんなこまってるのよね…」
三人は揃ってはあ、とため息をつきます。
ふと何かを思いついたように、おじいさんが言いました。
「もしも、どちらか一つだけの国の天気が自由になるならば、どうする?」
「え?どっちかだけなの?」
「そうじゃ。かたほうだけなのじゃ」
「そんな~…」
二人は頭を抱えました。
ひなたくんもしずくちゃんも、大変そうにしてるお父さんやお母さん、国の人たちを見ているのです。
なんて意地悪な問題なんだろう、と二人は思いました。
「自分達の国ではないのか?」
おじいさんは不思議そうな顔をしました。
二人は迷わずこういいました。
「そんなのできないよ」「そんなのはだめだわ」
「それはじぶんかってだもん」
おじいさんは驚いた顔をして、優しく微笑んだのです。
「そうか、そうか」
「でもどうしよう…お日様がでないと…」
「てるてる坊主はどう?」
「もううちいっぱいだよ」
一生懸命考える二人をおじいさんはずっと眺めていました。
夕暮れの空にかかる虹のレール。
ひなたくんとしずくちゃんは光の妖精と水の妖精に見送られて、大きなシャボン玉を半分にわったのりものに乗って、レールの上をすべっていきました。
途中の分かれ道で、二人はバイバイをしました。
「また会おうねっ」
「お手紙かくねっ」
交換し合ったお気に入りの傘を手に、それぞれの国へと帰ります。
その翌日のことです。
はれの国には雨が、あめの国にはお日様が姿を現し、みんな大喜びです。
そのはるか上、真っ青な空に広がる海。くものうえにたつ立派なお城があるお天気の国では、王様の格好をしたおじいさんがみんなの笑顔を見ていました。
そばで光の妖精と水の妖精がこっそり笑いあいます。
あめのりゅうせいと光のカーテン。それはまちがいなく、ひなたくんとしずくちゃんを祝福していました。